比較レビュー:おすすめハードシェルジャケット3着を着比べてみた

最強のハードシェルジャケットが知りたいのです

数ある山道具のなかでも最も高価な部類に入るこのアイテムは、いざ購入を検討しはじめると、素材の違いや厚み(重量)の違い、アルパイン系・バックカントリー系などの用途による形状や機能の違いで、同じハードシェルカテゴリの中でもラインナップがやたらとあって正直つらい。一度買ったら数年は使い込むという人がほとんどであろうものなので、それだけに何がベストなのかを慎重に決めたいところです。先日アップした記事ではハードシェルの定義とその選び方、代表的な製品について簡単にまとめてみましたが、今回はその中から、編集部が独自の視点でセレクトした、どれも特徴的でなおかつ「おすすめ」3着をピックアップして、さまざまな角度から比較対決を行ないました。そのなかで特に確認したかったのは、

期待の新素材 NeoShell は GORE-TEX Pro に取って代われるのか?

ということ。数年前からじわじわと人気上昇中の新素材 Polartec NeoShell の実力を、ぜひともこの目で確かめたい。誰もが知っているであろう防水透湿素材の王様 GORE-TEX の実力は疑いのないところではありますが、難点もいくつかあることは確かです。その点、NeoShell は透湿性や、生地のしなやかさ、そして軽量といった部分で GORE-TEX を凌駕し、さらにより手頃な価格で提供してくれます。即座にゴアテックスに渡り合えるとは正直思ってはいませんが、現時点での実力・ポテンシャルを確かめてみたいと思います。

かなり長文のレポートが続きますので、一気に結論をご覧になりたい方はこちらからまとめにジャンプできます。

ハードシェルに求められる特性

ここで今回のテストの基準として、ハードシェルに求められる性能について書いておきます。雪や風・雨・寒さといったあらゆる気象変化のなかで、スキーや登攀などのハードな活動に対応しなければならないハードシェルにまず第一に求められるのは、雨・雪・風・冷気を遮断する対天候性(weather protection)でしょう。そしてスキーのストックワーク、登攀時アックスの打ち込み、ラッセル時の雪かきなど、冬のアウトドアは意外とアクティブに動くため、激しい動きにも十分対応できる形・着心地が求められます。そういった意味での機動性は重要な要素です。さらに激しい動きに発汗はつきもの。全身から発せられる汗を外に排出し、衣服の濡れを防ぐ透湿性は、命の危険と隣り合わせの冬山ではより重要となってきます。また、過酷な状況でさまざまな道具を使用・着用することが多いとなれば、生地の摩耗や裂開に耐えうる耐久性も求められます。

それから忘れてはならないのが軽さ。ハードシェルの常識的に考えれば、分厚い素材であればあるほど、外気を防ぎやすいのは確かなのですが、技術の進歩により同じ性能でもより薄く、軽い素材も出現してきていることから、重量も評価ポイントのひとつです。そして素材と縫製以外では、フードの形・調整し易さやポケットの数・位置・大きさなどの使い易さ、その他さまざまなかゆいところに手が届いているかどうかという機能性や、さらにデザイン・価格もギアを購入する際には重要になってくるでしょう。

今回比較したハードシェルジャケットについて

比較アイテム

  • HAGLOFS ROC HIGH JACKET

(ホグロフス)HAGLOFS ROC HIGH JACKET 602094 2C2 GALE BLUE M HAGLOFS(ホグロフス)は100年以上の歴史を誇る、スウェーデン生まれの北欧No.1アウトドアメーカー。余計な装飾を排し、ムダの無い機能を追求する開発姿勢が生んだ ROC HIGH JACKET は、受賞歴のあるスピッツジャケットのアップデートニューバージョンということで実力と信頼性は折り紙付。厚みの違う2種類の Gore-Tex Pro Shell 素材を適材適所にパターニングし、動きやすさと堅牢性・軽量さを併せ持った完成度の高い作品であるとの期待からまずエントリーです。

 

  • Arc’teryx Alpha SV Jacket

(アークテリクス)ARC\'TERYX ALPHA SV JACKET 【並行輸入品】 12700 / FALL2014 BLACK M 製品の性能においては妥協という言葉を知らないカナダのアウトドアメーカーは、ハードシェルという分野においてもまったく手を抜かない。いやむしろこここそがアークの真骨頂であるとさえ言えます。最高に丈夫な防水透湿素材である Gore-Tex Pro Shell(80デニール)生地を、解剖学に基づいた立体的な裁断で、なおかつ必要最低限の縫製で仕上げるという、口で言うのは簡単だけど、誰も実現できないところまでたどり着いたと言えるのがこのアイテム。はたして今回その実力を存分に堪能できるのか?

 

  • Westcomb SWITCH LT HOODY

(ウエストコム)westcomb SWITCH LT HOODY 11MHA11 212 HARVEST S今回のある意味目玉アイテムであるこの製品は、上の2つと違って Polartec NeoShell という素材を使用しています。この素材の特徴を端的に表すと「ゴアテックスよりも薄くて軽くてしなやかで動きやすい、そして抜群の透湿性能」を誇る次世代素材。昨今の「ファスト&ライト」ニーズの高まりから生まれたといえるこの素材はゴアテックス・プロシェルのあの「ゴワゴワして嵩張る感じ」を克服した、快適軽快ウィンターシェルとして日に日に存在感を増しています。一方 Westcomb はアークテリクスからスピンアウトしたメンバーが立ち上げた同じくカナダの新興メーカーで、メイド・イン・カナダにこだわり、e-Vent をはじめとした新素材の採用にも積極的。そんな面白いメーカーが出した最新素材ハードシェルはきっと面白い結果を出してくれるでしょうということで、NeoShell 代表としてエントリーです。

 

テスト環境

2014年11月~2015年2月初旬にかけて、八ヶ岳・奥秩父・谷川周辺その他下界において、晴・曇・雪・雨と一通りの環境で着用しました。中にはメリノウールのベースレイヤーと、ダウンもしくは化繊インサレーションで常に直接寒さを感じない状況を作った上で行動しています。

HardShell_scene

実地テストによる詳細評価

総合評価 2位 1位 3位
アイテム HAGLOFS ROC HIGH JACKET Arc’teryx Alpha SV Jacket Westcomb SWITCH LT HOODY
ここが◎
  • 対天候性・耐久性・通気性・重量のバランス
  • 優れた温度調節機能
  • 通気性の高いインナープラケット
  • シンプルでスタイリッシュなデザイン
  • 並外れた耐久性
  • 究極の防風性・防水性
  • 人間工学に基づいたフィット
  • 口元の防風・防寒・通気の完成度
  • 最軽量クラスのNeoshellジャケット
  • 高い透湿性とストレッチ力
  • シンプルでスタイリッシュなデザイン
ここが△
  • 胸のジッパーが構造上引っかかりやすい
  • 価格
  • 価格
  • 生地のゴワゴワ、音が大きい
  • 防風・防寒力
  • 耐久性
対天候性
(25点)
22 25 18
機動性
(20点)
16 19 19
透湿性
(15点)
13 12 14
耐久性
(10点)
9 10 8
重量
(10点)
7 7 10
機能性
(10点)
9 8 6
価格
(5点)
2 1 3
デザイン
(5点)
5 4 4
総合点(100点満点) 83 86 82
スペック
重量 463g(Sサイズ実測) 478g(Sサイズ実測) 386g(Sサイズ実測)
生地素材
  • GORE-TEX Pro 3-layer 40D
  • GORE-TEX Pro 3-layer 70D
  • N80p-X GORE-TEX Pro
  • 340 NRS Polartec NeoShell
  • 360 NP Polartec NeoShell
ピットジップ あり あり あり
ポケット ジッパー付チェストポケット2個(さらにポケット内部のポケット1個)、内ポケット1個、肩ポケット1個 ジッパー付チェストポケット2個、ジッパー付内ポケット2個 ジッパー付チェストポケット2個、内ポケット1個、肩ポケット1個
フード ヘルメット着用可能・調節ドローコード2個 ヘルメット着用可能・調節ドローコード2個 ヘルメット着用可能・調節ドローコード2個
2wayジッパー × ×

対天候性・・・Alpha SVの圧勝

Alpha SV>ROC HIGH>SWITCH LT

予想はしていましたが、Alpha SV の安心感には脱帽です。特筆すべきは耐風性・冷気に対する遮断性の高さ。別に中綿があるわけでもない薄い生地にもかかわらず、どれだけ寒風が吹き荒れようがまったくびくともしないというレベル。対する他の2つも悪くはないんですが、Alpha SV と比べてしまうと、特に SWITCH LT はやはり生地の薄さが若干気になり、強風下ではどうしても微妙に冷気が浸透してくる感じがあります。一方、防水・撥水性能はどのアイテムも十分使用に耐えるレベルでした(ポーラテック社は公式に、他の素材で実現されているような 10,000mm 以上の耐水圧は不要と言い切っており、その意味で防水能力が GORE-TEX より低いのは確かです)。

機動性・・・Alpha SV の e3D デザインか、SWITCH LT の立体裁断&ストレッチ性か

SWITCH LT=Alpha SV>ROC HIGH

試着するまでの想定では、着やすくて動きやすいのは当然、薄くてしなやか、適度なストレッチ素材である SWITCH LT であると思っていたし、実際にこれを着て山を歩いたときの軽い衝撃は今でも覚えています。とにかくウィンドシェルかと思うくらいにしなやかで、動きを妨げない、それでいて低山の雪山ではまったく不安を感じさせない防御力は驚きです。ただ一方でさらに驚いたのが Alpha SV。普通に作ったらガチガチのゴワゴワで動きやすくはないはずのプロシェルが、独自の立体裁断技術である 「e3D パターニング」によって驚くほど快適に行動できたのです。例えば下の比較写真をみてください。Alpha SV の肘部分は非常に複雑な裁断によって、動かしても決して突っ張ったりしないように細心の工夫がなされていることが分ります。もちろん、他の2つも基本的に立体裁断やストレッチ素材を駆使しているので動きにくいということはないのですが、着比べてみてはじめて、この微妙な着心地の違いが大きな差を生んでいることに気づかされました。

elbow

【肘部分の縫製比較】左から Alpha SV、SWITCH LT、ROC HIGH。


透湿性・・・SWITCH LT

SWITCH LT>ROC HIGH>Alpha SV

たとえ極寒の雪山であれ、長時間斜面を登り続ければハードシェルの中はかなりの発汗があります。身体から排出された汗はベースレイヤー→ミドルレイヤーへと、水蒸気となってハードシェルの裏地に溜まっていきます。そんなときでも、SWITCH LT の裏地はまったくといって良いほど濡れませんでしたが、ROC HIGH や Alpha SV の方は、どうしてもうっすらと湿り気が残ってしまいました。その意味で Neoshell の透湿性能はカタログで謳っているとおり GORE-TEX 以上の実力を見せてくれたと言えます。とはいえ GORE-TEX の方も失格というようなレベルではありません。

耐久性・・・Alpha SV の圧勝だが・・・

Alpha SV>ROC HIGH>SWITCH LT

ここでも Alpha SV の強さが目立ちましたが、正直にいうと、アマチュアレベルのアウトドア愛好家がここまでの耐久性を必要とするかどうかは疑問です。確かに80Dの強い生地としっかりとした縫製の Alpha SV の堅牢性は間違いないのですが、SWITCH LT で不安かというと、雪上で多少無理な動きをした限りではまったく差は感じないレベルではあります。また、wenstcomb の優れた縫製技術により、表面はまったくといって良いほど縫い目が現れず、ほつれなどもまだ一切ありません。

重量・・・SWITCH LT の軽さはレインウェア並

SWITCH LT>ROC HIGH=Alpha SV

3つとも500g を切っている時点(S サイズ)で相当十分軽いのですが、何よりも NeoShell の300g 台(ほぼレインウェアといって良いくらい)には驚きです。

その他、各製品の「ここがスゴイ!」

どのアイテムにもニクい工夫がたくさんありました。まず Alpha SV のお気に入り部分は、立体裁断によるあごから口元にかけての空間の作り方が絶妙(写真)。顔周りの防寒にもなり、何よりゴーグルが曇りにくいのが素晴らしい。そしてヘムロックと呼ばれる、動いてもズレ上がらないようにデザインされた裾部分。

chin

【口元ガード部分の形状比較】左からROC HIGH、Alpha SV、SWITCH LT。Alpha SV の立体的な裁断が空間を作ってくれるためかなり快適。

一方?ROC HIGH の大きく開閉できるピットジップ(ベンチレーション)と、2way ジッパーは、柔軟な温度調整を可能にしてくれるので素敵です(写真)。

pitzip&zipper

襟部分にある、空気孔付きのインナープラケット(写真)はゴーグルを曇りにくくする工夫のひとつですが、ある程度の効果は見られるものの、Alpha SV ほどの快適さは得られませんでした。

DSC03774

またカフ部分の作りは ROC HIGH が一番扱いやすく、丈夫でほつれにくい仕組みになっています(写真)。

cuff

【袖の形状比較】左からROC HIGH、Alpha SV、SWITCH LT。

そしてこれも細かい部分ですが、右胸のポケット in ポケット(写真)。ここには切符とか鍵とかスマホとかを入れられるので微妙に便利。

DSC03900

まとめ

どこまでも最強を求めるのであれば Arc’teryx Alpha SV Jacket

まさに冬の「鎧」でした。まったく品質に妥協しないという彼らのコンセプトは恐れ入ります。確かに最強であることは存分に分りました。ただし価格も含めて考えると、他の2つが十分に「使える」だけに、今回はさすがにやり過ぎと言えなくもないです。購入して損することは絶対にないと断言できますが、特に防御力こだわらなければ予算の一部を他のギアに回すと言うことも。。。

素晴らしい完成度とさまざまな工夫が盛り込まれた HAGLOFS ROC HIGH JACKET

結論としては、こいつが今回の「ベスト・バイ」です。確かに、何かが抜きんでているわけではないのですが、細かいところまで妥協しない、隙が無い丁寧な作りが素晴らしい。唯一機動性部分についてだけが、他の2つが飛び抜けてよいだけに残念なところ(気になる程では決してない)。 ※2015年モデルではHAGLOFS ROC HIGH II JACKET

冬を感じさせないライト&シンプル感覚を求めるなら Westcomb SWITCH LT HOODY

確かに厳しい環境への対応力という意味では、Neoshell は物足りないかもしれません。でもその条件を理解した上で、万が一の備えさえあれば、これだけ「軽さ」と「機動性」を手に入れられるということは代えがたいメリットでもあります。

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