比較レビュー:スノーシュー4大メーカー MSR・ATLAS・TSL・TUBBS 履き比べ!

その斜面、そのスノーシューで本当に大丈夫?

ここ日本では、昔から使われているワカンは当然として、北米・ヨーロッパといったさまざまなメーカーのスノーシューが手に入るのは、以前のスノーシューの選び方で解説したとおり。それ自体は素晴らしいことなのですが、一方でそれぞれの製品は、用途や目的はもちろんのこと、想定する地形・フィールドによって得意不得意があるという、実はあまり知られていない事実があることを見落としがちです。つまり極端にいうと、高いからといってものが良いということに必ずしもならないのです。今回は具体的にそうした特徴の違う代表的なメーカーのスノーシューを同じ状況で履き比べ実際に比較テストしてみることで、各スノーシューの特徴の違いを明らかにし、少しでもベスト・スノーシュー選びのお役に立てばと思います。

今回比較したスノーシューについて

まず前提として、今回比較するスノーシューはすべて山岳、もしくはバックカントリー向けのモデルを選定しています。ただしそのなかでもあまり用途の絞られたモデルではなくオールマイティなシーンに対応できるモデルをチョイスしました。そしてどのサイズを選ぶかに関しては、22~25インチのなかで小さいサイズを選択しました。理由は、日本のような急峻で湿雪の多い雪質ですと、北米のように28インチ以上のドデカいサイズはやり過ぎで、逆に使いづらいため。また、61kgのぼくが日本で何泊かする程度を想定する場合は重量的に22インチサイズ(MSR LIGHTNING ASCENT)程度がちょうどよく、仮に万が一心配だったとしても踵に追加して浮力を上げることができる「フローテーションテイル」が別売りされているため、総合的に見ると22インチが最も使い勝手がよくお買い得だからです。

今回の比較アイテム

  • MSR LIGHTNING ASCENT (22インチ) 41,040円

現場ですれ違う登山客をウォッチしている限り日本で最も普及しているのではないかと思われる、MSR の最高級スノーシュー。優れたグリップ力と、さまざまな地形・雪質に対応できる柔軟性など、価格を除けば非常に完成度の高い製品、というのが実際に比較する前の印象。果たしてその実力は他と比較してもホンモノか。

 

  • ATLAS 1225 28,500円 + 税

北米のスノーシューメーカー ATLAS のハイエンドマウンテンハイキング向けスノーシュー。ATLAS のスノーシューはモンベルが取り扱っていることから日本でも MSR と肩を並べるほどに普及している気がします(特に山小屋がレンタルするスノーシューに多めな印象)。中でもハイエンドモデルであるこいつの一番のウリは「足を入れてバンドを引っ張るだけ」で即座に履けるバインディングの使い易さと、今回の比較テストに関しては最も長い25インチというサイズ。新雪歩きでのNo.1候補でしょう。

 

  • TSL SYMBIOZ EXPERT 38,000円 + 税

今回唯一のヨーロッパ(フランス)製スノーシューです。北米に比べて起伏が激しく、斜面によってパウダー・湿雪・凍結とさまざまな状況に対応しなければならないといわれているヨーロッパの山岳は、実は日本の環境により近いといえます。TSL のスノーシューが必要以上に大きくなく、よりグリップ力のあるプラスチックのフレームであることはこのような必要によるものです。さらにこの最上級モデルについては、フレーム全体とバインディングがしなやかにしなる「ハイパーフレキシビリティ」構造により、最高に歩きやすいといわれています。

 

  • TUBBS FLEX VRT 26,000円+税

北米メーカーらしいヒップなデザインと、ダイヤル式のバインディングという山のメーカーからは出てこないような意外性のある仕組みがおもしろい、アメリカの(実は老舗)スノーシューメーカー TUBBS のバックカントリー向けモデル。バックカントリー向けというからには、24インチの広いフレームによるパウダーでの浮力の高さと、急斜面でも耐えうるようなグリップ力は期待できそうです。

 

実地テストによる詳細評価

2014年12月~2015年3月初旬にかけて、主に八ヶ岳・那須・上越において、さまざまな斜面、雪質、天候のなかで複数アイテムを同時に履き比べを行いました。

総合順位 1位 4位 2位 3位
アイテム MSR LIGHTNING ASCENT 22 ATLAS 1225 TSL SYMBIOZ EXPERT(M) TUBBS FLEX VRT 24
ここが◎
  • あらゆる斜面での高いグリップ力
  • 持ち運びの容易さ
  • 履き易さ
  • 新雪での浮力の高さ
  • あらゆる状況での歩き易さ
  • トラバースでのグリップ力
  • 履き易さと固定力
  • 調整のし易さ
ここが△
  • 取り付けが面倒
  • 締めすぎに注意が必要
  • 価格
  • 重量による歩きにくさ
  • グリップ力の低さ
  • 持ち運びにくさ
  • 新雪での浮力
  • 持ち運びにくさ
  • 価格
  • 重量による歩きにくさ
  • 持ち運びにくさ
履き易さ
(15点)
12 14 13 14
固定力
(10点)
8 8 7 9
歩き易さ
(15点)
14 10 15 11
浮力
(15点)
13 14 12 13
グリップ力
(15点)
15 11 14 12
重量
(10点)
8 7 9 6
収納性
(10点)
9 7 7 7
価格
(10点)
5 7 6 7
総合点(100点満点) 84 78 83 79
スペック
重量 1.76kg(22インチ) 1.82kg(25インチ) 1.72kg(Mサイズ) 2.04kg(24インチ)
サイズ種類 22/25インチ 25/30インチ S(20.5)/M(23.5)/L(27)インチ 24/28インチ
大きさ 20×56cm 22×64cm 21×57cm 22×61cm
フレーム アルミ合金 アルミ合金 特殊プラスチック プラスチック
クランポン パウダー塗装スチール ステンレススチール ステンレススチール カーボンスチール
バインディング ポジロックATバインディング ラッププロ バインディング ラチェットバックル DynamicFitバインディング
フローテーションテイル × × ×
女性モデル

バインディング(履き易さ&固定力)・・・FLEX VRT & 1225

FLEX VRT>1225>LIGHTNING ASCENT=SYMBIOZ EXPERT

スノーシューの装着のし易さは使い勝手に大きく影響する大事な要素。また固定力が弱く、歩き始めてからすぐに緩んでしまうようでは転倒のリスクは増すわ、いちいち締め直したりすることで行動が遅れるわと、良いことはまったくありません。大抵のなんちゃってスノーシューはその部分がいい加減なことが多く、厳しい冬山には到底連れて行けるものではありません。その履き易さと固定力の善し悪しはひとえにバイディングの性能によるものが大きいのですが、今回4つすべて試した結果、最も履きやすかったのは FLEX VRT の Boaクロージャーシステムと 1225 のラッププロ バインディングでした。どちらも迷いなく足を突っ込んで、ダイヤルを回すか、バンドを引くだけという、片手で、かつグローブを着けたままでも驚くほどの簡単さ。なかでも FLEX VRT のバインディングは足の甲全体を均一に圧迫して固定されるため、ずれにくく、締めすぎにならないため非常に快適でした。TSL や MSR も決して悪くはないのですが、TSL はつま先の固定力が弱く、MSR はしっかり固定できるものの、足の位置やバンドの締め具合などをピッタリ合わせるためには微調整が必要で、毎回安定した位置と強さで留めにくいという使いづらさがありました。

Snowshoes_binding

歩き易さ・・・SYMBIOZ EXPERT

SYMBIOZ EXPERT>LIGHTNING ASCENT>FLEX VRT>1225

この項目では主にスノーシューを比較的積雪の浅く起伏の穏やかな地形で歩いた場合での歩き易さについての比較をしています。スノーシューは足の幅が広がり、さらに踵が動きますので、自然に歩くためには多少の気遣いと慣れが必要です。その違和感はどのスノーシューにも多かれ少なかれあるのですが、そのなかでは SYMBIOZ がダントツに足の運びが楽で、軽快に雪山を歩くことができます。その大きな要因は大きく曲がる(反る)ことのできる特殊プラスチックのフレーム(下写真)。これによって歩くときに踵を引きずるようなことなく自然な足運びが可能となり、さらに踵側のフレームがスリムで足を引っかけにくい、重量が軽いなど、さまざまな面で他のスノーシューよりも優れています。

DSC04511

このしなりがつま先で蹴り出すときも、踵が地面につくときも自然な足の運びを可能にしてくれます。

浮力・・・1225

1225>FLEX VRT=LIGHTNING ASCENT>SYMBIOZ EXPERT

浮力に関しては、広いフレーム面積をもつスノーシューが物理法則通りに快適に歩くことができたという結果になりました。その浮力に加え、1225 のV字状のテールやアルミフレームが深い新雪での歩行をさらに容易にしてくれます。とはいえそれほど大きな差が出たわけではなかったというのが正直な感想で、最も浮力が弱い SYMBIOZ でもパウダーで埋まりまくるということはないでしょう。

DSC04525

暖かい日、TUBBSだけ裏に雪がべったりと。

ただ1点厳密に言うと浮力ではないのですが、湿雪の新雪を歩いた際、FLEX VRT の足裏だけは雪が団子状にくっついてしまい、とんでもなく歩きにくくなってしまいました。北米ではあまりない環境なのかもしれませんが、日本で、特に低山や残雪期などで使用する場合には注意が必要です。

 

グリップ力・・・LIGHTNING ASCENT

LIGHTNING ASCENT>SYMBIOZ EXPERT>FLEX VRT>1225

ここでいうグリップ力とは、急斜面の直登やトラバース、さらには凍った大地の歩行など、何かしらエッジを効かせなくてはならない状況での歩き易さをまとめて比較しています。その意味で、総合的にどんな状況でもグリップが効いていたのは LIGHTNING ASCENT と SYMBIOZ でした。この2つで比較すると、急斜面の直登では LIGHTNING ASCENT が有利。下の写真を見ていただけると分ると思うのですが、フレーム全体を使った広範で鋭いエッジと高いヒールリフトが効いて、ワカンの人が苦労している横でスイスイと登れてしまいました。一方で斜面のトラバースでは、足首とスノーシューをなるべく斜面に平行にできた方が安全で歩きやすいため、スパイク状のエッジが万遍なく足裏に効いて、適度なフレームのしなりとのバランスがよい SYMBIOZ の方に分があります。

Snowshoes_crampon

クランポンの比較。MSR はフレーム全体がクランポンなので、他と比較してエッジの効く範囲が広く、多角的。

扱い易さ(重量&収納性)・・・LIGHTNING ASCENT

LIGHTNING ASCENT>SYMBIOZ EXPERT>1225>FLEX VRT

履きやすく固定力のあるバインディングはどうしても構造的に複雑でかさばるのが難点ですが、その点 LIGHTNING ASCENT はバインディング構造がシンプルな分、脱いだ状態ではペシャンコになり、バックパックに容易に取り付けることができます。軽さも手伝って、4つの中では最も収納性が高いのでこの項目では頭ひとつ抜け出しました。一方で他の3つはどうしてもバインディングが出っ張り、パックに着けるのに一苦労、持ち運びもバッグに入れるなどする必要があり面倒なので、こんなことなら浮力がいくらあろうがいっそのことコンパクトなワカンの方がいいと思えてしまう瞬間もしばしば。

まとめ

見てきたようにどれも基本的な性能は高いものの、一長一短があり、どれかが端的に優れているとは言い難いことが分っていただけると思います。このため自分がフィールドとする分野で評価は分かれると思われますので、最後にOG編集部のオススメをお伝えして締めたいと思います。

オススメ1:万能ベストスノーシュー MSR LIGHTNING ASCENT

高いグリップ力と合格点の浮力・歩き易さは他のと比べて冬の登山に使用するうえで安心感が違いました。持ち運びの比較的楽ですし、これ1足あれば日本の積雪期は大抵の地形を乗り切れると太鼓判を押せます。ただし高い価格と、鋭いエッジによる歩行時の引っ掛けには注意を。せっかっくよい製品なので、これを安全かつコンパクトに運べる、パックに取り付け可能な専用カバーが欲しいと少し思いました。

オススメ2:テクニカルな地形で本領発揮 TSL SYMBIOZ EXPERT

日本で利用するにはこちらもほぼベストな選択肢だと思えました。ただ(あくまでも相対的にだが)ヒールリフトが小さいことによる登攀性能、よくしなる分、新雪での浮力といった細かい部分など僅差でベストは譲りましたが、あれだけ拡張した足幅にもかかわらずまったく意識しないですむ軽快な歩行感覚は試した人にしか分りません。身体とスノーシューの絶妙な一体感と細かいエッジングを可能としたクランポンは、深々とした新雪のラッセルよりもよりテクニカルな地形をスピーディに駆け抜けるような登山に最大の威力を発揮するでしょう。実売価格もかなり下がっているみたいですし、その意味でこちらも MSR とは別の満足感が得られるに違いありません。

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