雪山歩きに最適なピッケル(アイスアックス)選びについてあらためて考えてみる

ポイント3:重さと強度 ~目的によって選ぶ~

軽ければ軽いほどいい? ~重量について~

「軽さは正義」という登山界の一般論は、ことピッケル選びに関しては若干の注意が必要です。シャフトだけでなくヘッドまでもアルミで作られたような軽量なピッケルは当然携帯性に優れ、バックカントリーや雪渓の歩行などスピードが安全性に繋がるアクティビティにとっては最適です。ただその代わり、軽量なピッケルは強度が低く、硬く締まった氷雪には勢いよく打ち込んだとしてもまるで刃が立たない可能性があります。このため積極的にピックを打ち込んでいこうとするのであれば軽いモデルは危険です。一般的な縦走からテクニカルなルートを視野に入れた場合はある程度の重さのある耐久性の高いモデルを選ぶのがよいでしょう。

Tタイプ?Bタイプ? ~強度について~

命を預ける登攀用具の多くは安全性(耐久性)についての世界的な規格が存在しており、その認証によって均一で信頼性の高い製品であることが保証されています。ピッケルについても例外ではなく、それらはCEN(欧州標準化委員会)規格やUIAA(国際山岳連盟)規格の基準に従って一定以上の強度がテストによって保証されています。

なかでもCEN規格では強度の違いによってピッケルを以下の2つの強度に分類しています。※ペツルマニュアルより引用

  • Tタイプ:強度が高い方はテクニカルアックスで、「T」マークが付いています。 50 cmのシャフトで 3.5 kNの荷重に耐えなければなりません。ペツルシャルレのテクニカルアックスは4 kNまで耐えるようにデザインされています。
  • Bタイプ:「B」マークが付いたアックスはベーシックアックスで、テクニカルアックスと比較して強度が劣ります。 50 cmのシャフトで 2.5 kNの荷重に耐えなければなりません。

要するに、Bタイプは主に歩行時のバランス保持や斜面での滑落停止、Tタイプは自分の全体重をかけるような負荷からそれ以上の衝撃を想定した登攀時のアンカーやビレイとしても十分な強度を備えているというわけです。

強度は高い越したことはありませんが、一般的な雪山登山であればそれほど高い負荷がかかるシーンは想定しにくいためBタイプで十分といえます。最低限CEN規格などの認証を通っているかどうかということを押さえておけばいいでしょう。それよりもむしろムダに強度が高くなることで重たいモデルを選んでしまい、操作性が悪くなることの危険を心配するべきでしょう。もちろん本格的な冬山を志すならばはじめからTタイプを選ぶのも十分ありです。

メジャーなブランドのモデルならばほぼすべてどこかしらにこのような認証マークや「B」「T」いずれかのマークが明記されている。

選ぶときのポイント:

  • 将来的に登攀要素の強いルートも視野に入れている場合には極端な軽量モデルに手を出すべきではない。
  • ピッケルの強度はCEN等の国際規格認証が通っていれば基本(B)レベルで十分。

ポイント4:扱いやすさ ~軽く考えてはいけない~

細かいことかもしれませんが、案外忘れてはならないのがピッケルの操作性です。特に常に握っているヘッド・シャフト部分は、持ち方を変える際いかに素早く安全に扱うことができるかという意味では重要なポイント。さらに万が一の滑落停止はとにかくスピードが命ですので、ほんの少しでも扱いやすいことが生死を分けるなんてこともないとはいえません。

これらは手の大きさが普通もしくは大きなサイズの人にはあまり気にならないことかもしれませんが、人より手の小さな人や女性などにとっては思いのほか大きく違いが出てくるのではないでしょうか。ちなみに経験上、握る部分が大きすぎて指を圧迫する感じがしている場合には、後々血行も悪くなり、手が冷えやすい気がします。

ヘッドが細く握りやすくなっているBlack Diamond レイブン(左)、手の冷えを防ぐヘッドプロテクター付きのGrivel G Zero。

選ぶときのポイント:

  • ヘッド部分の握りやすさ、適度な滑り、冷えにくさなど、実際のシーンでの操作性、扱いやすさについて購入時にも意識しておきたい。

ポイント5:その他 ~用意した方がいい付属品~

カバー

ピック・ブレード・シュピッツェは想像以上に鋭く、むき出しで下界をぶらつくのは極めて危険で、人に対して立派な武器になります。また不用意にカバーしないで扱っていると、ザックの上げ下ろしなどのふとした瞬間に大事なウェアをざくっといってしまったなどの経験がある人は少なからずいるのではないでしょうか。市販のカバーを購入するもよし、自分で筒状のカバーを作ったり、ガムテープを巻き付けてカバーとするもよし。どんな方法でもいいのでカバーは必ず付けましょう。

リーシュ(ピッケルバンド)

リーシュとはピッケルと自分を繋ぐバンドのこと。いつ転げ落ちるか分からないような斜面はもちろん、あらゆる場面で油断して落とさないようにピッケルと自分を常に繋いでおくためにあります。さらに斜面で休憩するときにシャフトを雪に埋め込んでアンカーとするなどの安全確保にも使えます。極度に熟練したプロのガイドレベルでない限りは必ず装着するのが賢明です。

リーシュには肩掛け型・リスト型の2パターンありますが、どちらも一長一短があり、ここでは講師に教えてもらった第3の方法(複合型)を紹介しておきます。

複合型は60cm程度のテープスリングを肩掛けしカラビナをかけ、そこにリスト型リーシュを連結して使う方法。普段は肩掛け型として、登攀時にはカラビナから切り離しリスト型として、どちらの使い方もできるというすぐれモノです。

リーシュの種類 肩掛け型 リスト型 複合型
利点
  • 左右の持ち替えが楽
  • バックパックを下ろす時にいちいちバンドを外さなくていい
  • シャフトをもって打ち込む際にリストループを補助に使うと握力が軽減されて楽
  • 前方が邪魔にならない
  • 左右の持ち替えが楽
  • バックパックを下ろす時にいちいちバンドを外さなくていい
  • シャフトをもって打ち込む際にリストループを補助に使うと握力が軽減されて楽
  • 前方が邪魔にならない
欠点
  • 前方が煩わしい
  • 左右の持ち替えの度にリーシュも外さなければならない
  • バックパックを下ろす時にリーシュも外さなければならない
 

まとめ

ここまで長々と書いてきて最後に身も蓋もないことをいうと、ピッケルに関しては今回取り上げた範囲であれば、やれ真っ直ぐか曲がっているかとか、やれ長さが数センチ長い(短い)とかはそこまで致命的な問題にはならないというのが自分の経験上の実感です。それよりもっと大切なのは与えられた(選んだ)道具をどれだけ自在に扱えるか。つまりこれと決めたらまずはそのモデルを自分の身体の一部のごとく扱えるように使い方を習熟することが何よりも重要です。ここに書いてあることを踏まえて、正直あまり細かいことは気にせずまずは手頃なもの、使いやすいなと思ったものを手にとってみるのがいいでしょう。後ほどおすすめモデルもまとめていきたいと思います。

最後に念のためですが、そこまでしても山道具の基本的な性質上、ここで書いてある結論は万人にとってすべてのシチュエーションで当てはまるとは限りません。なるべく考え方を中心に述べたつもりですが、決して書いてある結論だけを鵜呑みにするようなことはないようにお願いします。特に雪山は生半可な知識と技術で登ると生死にかかわる危険なアクティビティですので、実際に冬山をはじめてみようという人は必ず山岳会などの実績のある団体や、経験者の同行・指導を受けることをおすすめします。

【参考文献】

  • 『山と渓谷 5月号』山と渓谷社、1965
  • 高橋和之『登山用具の研究 選び方・買い方・使い方の全知識』ユニ出版、1979
  • 橋谷晃『失敗しない山道具選び』山と渓谷社、1989
  • 堀田弘司『山への挑戦―登山用具は語る』岩波新書、1990
  • 『山と渓谷 4月号』山と渓谷社、1990
  • 『雪山登山 (ヤマケイ・テクニカルブック―登山技術全書) 』山と渓谷社、2006
  • 『山岳装備大全』山と渓谷社、2010
  • 笠原芳樹『体験的山道具考』ヤマケイ新書、2014
  • 『別冊PEAKS 最新雪山ギアガイド』エイ出版、2015
  • 『トランピン vol.25 雪山入門 (CHIKYU-MARU MOOK)』地球丸、2015
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