先週末はかねてよりアナウンスしておりましたOutdoor Gearzineの雪山ハイク&ギア体験イベント。場所は谷川岳天神尾根。6名の参加者とともに行ってきました。
前日、一気に本格冬山へと仕上がった谷川岳
このイベント、もちろん雪が降らないことには始まらないわけで、しかも雪が深すぎてハードルが高いルートも初めての人には厳しすぎる。ということで、気象状況サイトや天気予報、各所のライブカメラ等とのにらめっこを3週間前から続けていました。
ところが蓋を開けてみれば、ちょうどイベント前に訪れた寒波が日本海側の山々に潤沢な積雪をもたらし、しかも6日の当日にはその前線はすっかりと通り過ぎ、高気圧に覆われて無風快晴の予報。結果候補に考えていたコースはどこでも楽しめそうという嬉しい誤算でした。
そんなわけで、いろいろある候補の中から、行先は谷川岳天神尾根に決定。やはり深雪ラッセルから稜線のアイゼン歩行といった雪山の醍醐味を短いコースの中にぎゅっと凝縮したこのエリアは、雪さえしっかりと付いていれば入門ルートとしてこれ以上適しているものはないでしょう。
朝は3時出発。予定通り、ロープウェイの始発8時30分までに準備を終えて乗り場に並んで準備万端・・・といいたところでしたが、運転手(筆者)のやらかしと、みんなで着替えやパッキングの準備にてこずり、まさかの10時スタンバイ。
アイスアックス、クランポン、スノーシューといった雪山ギアのサイズ合わせからバックパックへの収納方法など、慣れない準備はやはり時間がかかるものです。
本格ブランドの雪山ギアが選び放題ってすごくないか?
ところでこのイベントですが、元々はオフラインイベントの参加者さんからの「雪山も登ってみたい」というひと言から始まったものでした。いざ雪山を始めるとなるとどうしても物理的にも経済的にもハードルが高い。そんな、熱意はあるけどあと一歩を踏み出せなかったソロハイカーの皆さんの背中を、Outdoor Gearzineが一押ししてあげようというのがこの企画で、ありがたいことに、今回以下の錚々たるメーカーさんたちが協力してくれました(順不同)。
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Black Diamond(ブラックダイヤモンド)
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PETZL(ペツル)
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BLUE ICE(ブルーアイス)
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MSR(エムエスアール)
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CAMP(カンプ)
メーカーが主体のイベントではここまで複数のブランドを横並びで使えることはないし、また大きなイベントでは実際の山に登ったりするまでみんなで一緒にできることも少ない。
今考えてみると、こんなに贅沢な機会ってそうそう無くないか(しかも参加費もお得!)。
何にせよ、こんな勢いだけの企画に協力いただいたメーカーのみなさまには感謝しかありません!
・・・ともあれようやく天神平駅に降り立ち、いよいよ初めての雪山登山をスタート。
天気は雲一つない青空。風もまったく無し。最高過ぎる。
実際この日は前日までロープウェイ整備で人がまったく入っていないことはあらかじめ分かっていたため、オープン直後に歩き出していたら間違いなくラッセル天国(地獄?)が始まることは予想されていました。スタートが出遅れたことで一番乗りは逃したとはいえ、足慣らしとしてトレースをお借りすることができるはず。
正直、この天気ならサクッとピーク踏んで帰って来て、余った時間で歩行練習なんかもできるっしょ、とか考えていました。それがまさかあんな事になるなんて、この時の我々は当然まだ知る由もありませんでした。
呑気にみんなでやらせ写真などを撮っていたこのころの自分にもし一言声を掛けられるなら「お前さん、甘ェ…天津甘栗より甘ェよ」と言ってやりたい。
雪と斜面の作り出す多様な地形が楽しめるルート天神尾根
尾根への取り付きは緩斜面から始まります。トレースもばっちりついているので、まずは何もつけずにツボ足で歩いて、どれくらいなら歩けるか、また逆にどれくらいから「歩きにくく」なるかを感じてもらいます。
ほどなくすると締まった雪のやや急な傾斜が表れてきたところでクランポン装着。
何度やっても雪山の現場でクランポンを装着するのは一苦労です。不安定な足場に広げたクランポンの上に足を乗せたり、その足の裏にはびっしりと雪玉が着いていたり、グローブを付けた手でストラップを締めたり、その億劫さは初めての人ならなおさらです。それでも皆さん平地での直前練習の成果をしっかりと発揮し、こちらの心配をよそに意外にもすんなり装着することができました。
ほぼ全員がはじめてのクランポン歩行でしたが、その雪上での歩きやすさ、滑らないという安心感の違いに感動。これが本格メーカーの12本爪クランポンの威力よ。
風もなく、気温も寒すぎず、何よりも雪がキレイ。春山にはない降雪直後の雪山の気持ちよさにみんなニッコニコ。
そしてしばらく歩いてくると、12月の冬山とて暑くて上着を脱ぎたくなってきます。こうして想像でしかなかった雪山登山も、実際にフィールドを歩いてみることで、決してむやみに恐れる必要のないもの、あるいは逆にこんなところに難しさがあるものなんだ、といったことが実感をもって分かってくるものです。
予想外の急ブレーキ…!
快調に歩みを進め、熊穴沢避難小屋まで目と鼻の先というところでなにやら前が詰まり始めました。さすが天神尾根、こんな天気の良い日だもの、登山者もいっぱいなんだね、学生さんもたくさんいたしね、と余裕で構えていたら、なんと先頭がラッセルしているというではないですか。え、今もう11時だよ?なんかおかしい…?
普段ならもう下山している人がたくさん出てき始めている時間。いくらラッセルが必要だといったって、11時になって避難小屋までたどり着けていないなんてそんなことあるかい?先頭は単にトレースを辿り間違えているのか、それとも…?気がついた時には数十人を超える長蛇の列に、そして状況の分からない後続からはやや苛立ちが見える不穏な空気に…ゴクリ。
で、いろいろと周囲からの情報を収集してみると、どうやら本当にまだトレースが付いていないらしく、しかも先頭はワカンすら履かずにラッセルしているとか。そして先行者の後ろに列をなしている他の登山者はずっと後ろについているだけで、まったく交代もしていないらしい。なんじゃそりゃ!?
ツボ足でラッセルというのも前代未聞ですが、交代もせず、ワカンやスノーシュー自体持っていない、そもそも持っていたとしても疲れる前に交代しながら進むという一般的なやり方を知らない(知る知らないの問題でもないと思うが)、さらに列のあちらこちらに言葉が通じない人が混じっていたりしてコミュニケーションが取れていない・・・と、いろいろと突っ込みどころがあり過ぎる状況。こんなことはじめてですし、最近ではよくあることなのかどうかは定かではありませんが、今の谷川岳はこんなことになっているんだなぁと、ちょっと驚きでした。
とにもかくにも状況が分かったところで、ワカンを持っている自分をはじめ数名は先頭までいき、ラッセルをお手伝いすることに。分かる人達でとにかく避難小屋までラッセルを回していくことになりました。そしてついに熊穴沢避難小屋に到着し、ここで大休止。ここまでてこずるとは思っていなかったのですが、雪山シーズンインからいきなり湿雪腿ラッセルするとは思ってもいませんでした。
この先もトレースが満足についているとも限らないので、ここからはスノーシューに履き替えることにしました。いつもは逆にここら辺からスノーシュー→クランポンだけどね。
これからまだラッセルの可能性もあるとなると、ちょっとピークまでは厳しくなってきたので、ここからは見晴らしの良くて切りの良い天狗の留まり場あたりまで、とにかく行けるところまで行こうということにします。
疲れも吹き飛ぶ白と青の大展望
クランポンからスノーシューへと足回りを変えると、それはそれで歩き方がまた変わってくる。初めはぎこちなく、足元がふらふらしながら、時にすっころびながらですが、ほどなく慣れてくれました。何より、履いているMSRのスノーシューが最強だからという説もありますが。
天神尾根が楽しくなってくるのはここから。樹林帯を抜けて展望の開けた雪稜歩きは冗談抜きに最高過ぎて疲れなんて忘れてしまうほど。
冬山だからこそ、くっきりと澄んだ空気で遮るもののない大パノラマに、皆さんシャッターを切る指が忙しい。
そして折り返し予定地点の天狗の留まり場に到達。時間的にはやはりここから先は難しいため、ここでまた一休みして折り返すことになりました。
結果的にはピークは踏めずでしたが、それでも本格的な雪道を状況に合わせてさまざまな道具を駆使して歩いてみるという、初めての雪山体験としては十分に堪能できるものだった気がします。
そしてこの日常では決して味わうことのできない壮大な光景の素晴らしさ、また今回期せずしてちょっとしたことでいちいち時間がかかったり、ちょっと天気が外れたり、予定が狂ったりすること、そしてそれだけでとたんに命に黄色信号がともりかねないという冬山の危険と隣り合わせの怖さなんかも少しずつ感じ取っていただけたのではなかろうか。
いずれにせよ、撤退を機にこのパーティには次への目標ができたわけで、その意味でも素晴らしい山行でした。
最後にいつかこのメンバーでまた雪山行くことを誓い下山。下山後はみんなで沼田のとんかつ屋さんにいき、減った分のカロリーを十分に補給して締めとしました!
最後にあらためて、お試しギアを貸していただいたBlack Diamond、PETZL、BLUE ICE、MSR、CAMPの各メーカー代理店様、ご協力ありがとうございました!
参加者の皆さんも本当におつかれさまでした。
まだまだスノーシーズンは始まったばかり。次回のイベントにご期待ください!


