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山の楽しみをひろげてくれるソロハイクが熱い
ここ数年続いていた登山ブームも徐々に定着しつつあり、一人で登山を楽しむ人、いわゆるソロハイカーがかなり増えてきている印象です。昔から「単独行」という、ちょっとアウトローなイメージの言葉で存在していた気がするのですが、最近では「ソロハイク・ソロハイキング」や「ひとり登山」など、新しいネーミングでポジティブに語る書籍もちらほら本屋さんなどで見かけます。かくいうぼくも社会人になってはじめは自分の好きなペースで写真を撮りたいとか、仲間と時間を合わせるのが難しくなったりという理由からひとりで山に行く機会が増え、いつしかその魅力にとりつかれ、気がついたら「ソロハイク沼」から抜けられなくなっていました。そんなソロハイクの愉しみについてはまた別の機会にお話しするとして、ただそうなってきてはじめて、考え方や携行する装備などいろいろと見直そうと思ったことがたびたびありました。そこで今回はぼくが感じた、ソロハイキングだからこそ外せない必携装備についてご紹介しようと思います。
ひとりだからこそ気をつけたい、ソロハイクの心構え
ソロハイクの醍醐味はやはり「自由」であること。それを満喫するため、ソロハイカーはついついなるべく人の少ない、静かなルートを志向してしまうのではないでしょうか。そんなぼくが秩父の熊倉山にいったときの話。登山口にでかでかと掲げられた貼り紙が(タイトル写真)目に飛び込んできました。恥を忍んで告白すると、そこでぼくはスズメバチに刺されたとき具体的にどう対処すべきかを知らなかったことに気づいたのです。こりゃヤバイってことで慌ててネットが繋がるところまで戻り、とりあえず応急処置の確認を。応急処置に有効なアウトドア用のポイズンリムーバーなどはもちろん持っていなかったので、もう少しでもブンブン来たら帰ろうと心に決め、かなりびくびくしながらこの山行をやり過ごしたことを覚えています。ちなみに結局のところスズメバチは現れず、山自体は素晴らしく良い森があって最高だったんですが。
他にもこれに近いことは思い出したらキリがないくらい出てくるんですが、それほどにひとりで山に入ると、いかに日々暮らしている日常が危険と隣り合わせであるかということに気づかされます。つまり、ソロハイクを愉しむうえで絶対に忘れてはならないのは、とにかくアウトドアではだれも安全を保証してくれないという当たり前のことに尽きます。自分ではどんなに万全を期していたとしても、ソロハイクで万が一事故を起こしてしまったら誰からも理解してもらえないと思った方がいい。ひとりで山に行くことは簡単ですが、実際のところはそこで起こるあらゆる出来事に対してすべて自分で対処できるという実力、言い換えるとあらゆる状況を切り抜ける(引き返すことも含めて)ための的確な判断力が必要だということを念頭に置いておかなければなりません。もちろん誰もがそんな完璧な実力を備えているわけではないので、ぼくが日々心がけているのは、少しでも危険を感じたら諦めるという割り切りです。ぼくにとってはかけがえのない自然であっても、どこまでいっても「所詮は山登り」。それくらいでいいんだと思っています。
”万が一のための備え”こそソロハイカーの必携ギア
そんなわけで、ぼくがソロハイク初心者にお伝えしたい必携装備といえば、もちろん緊急用のギアになるわけで。複数人での登山では共同装備として持っていたりするので、ついつい家に置いていきがちなのですが、本質的に登山は自己責任ですべて自分で対処できる備えをしているべきであって、とりわけソロハイクでは抜かりなく揃えておきたいもの。そうはいってももちすぎは無駄に重量を増やし危険を増加させるだけなので、このバランスが毎回悩ましいところですが、以下、ぼくが日帰りなどの軽い登山でも最低限持っていく緊急用の装備10点をご紹介します。
1.ファーストエイドキット(救急医療品)
山で想定される怪我や病気に対する備え、いわゆる救急医療品をまとめたものです。山の装備リストには必ずと言ってよいほど書いてありますので、ここで必要性を言及する必要はないと思いますが、一番いけないのが山用品店で売っているセットを買ってそのままもっていくパターン。いざ使う機会が来たときに思っていたものがなかったり、使い方を知らなかったりしては意味がありませんので、自分が使う・使えるものを必要最小限だけもっていくように心がけたいものです。
ぼくの場合、最低限の日帰り登山では特に怪我や急な痛みに対する応急処置対応を中心に、省略できるものは極力省略します。ご参考までに現時点で落ち着いているぼくの救急医療品リストが以下(これが完璧、とはまったく思っていないですが)。
- 絆創膏(大きさを何種類か)
- 綿棒
- 滅菌ガーゼ、ティッシュ
- 消毒薬
- 鎮痛薬
- 胃腸薬
- 下痢止め薬
- 風邪薬
- ポイズンリムーバー
- テーピング
- 抗ヒスタミン軟膏(虫刺され)
- ハサミ
- 安全ピン
三角巾や包帯はバンダナやタオルその他あらゆる布で代用するつもり。その他0.1gでも軽量化したければ風邪薬や胃腸薬など、その辺は季節と体調と相談しながらもっと取捨選択できると思います。
2.補修用道具
もしも山の中を歩いていて靴のソールが剥がれ出したら?といった不測の事態にあると安心なのがこの補修用道具ですが、具体的にこれがあれば万全というのが難しい。ポイントとしては完璧に修理するための道具ではなく、万が一の破損に対しての応急処置ができるものがあれば良いということです。ぼくの場合それは、ガムテープ・針金・細引きの3点セット(ナイフやプライヤーもセット)。靴が大破すればガムテープや針金で巻き付ける、ウェアの穴にはガムテープを、靴紐が切れたり何か結びつける必要があれば細引きをと、とにかく下山までもてばよいと割り切れば大抵の破損に対して一時的にごまかすことができます。もちろんこれは泊りや冬の装備となればアイゼンやテント類など、もっとシビアな想定が必要な事は言うまでもありません。
3.ヘッドランプ(予備バッテリー・電球含む)
予定では明るい内に下山するつもりでも、万が一遅くなれば道は真っ暗に。そうなると一気に山は行動不能、もうアウトです。また万が一ビバークして一夜を明かさなければならなくなったら、明かりがあるかないかで生死を分けることも十分に考えられます。
4.火器(コンロ・カートリッジ・ライター)
どんな山に行くときでもコンロとガスカートリッジとライター、火にかけられるクッカーは必ずもっていきます。万が一のビバークで心細くなっても暖かいものが飲めるだけで肉体的にも精神的にも強くいられるからです。
5.非常食
ぼくの場合どうしても昼飯を多く持って行ってしまうタイプなので、非常食は本当にどうしようも無くなった時にギリギリ1日もつだろう量として、カロリーメイト1箱持って行ってます。
6.ガムテープ
再びガムテープです。素材はもちろん布です。先ほど紹介した修理道具として紹介しましたが、それ以外でもガムテープはさまざまな便利な使い道があります。例えばちょっとカメラなどを固定したい時に使う。あるいは万が一の時の絆創膏代わりに。食材などの袋ものを開けた後の蓋として。そしてぼくが感動した最も意外な使い方としては焚火の着火剤として。たくさんもっていく必要は無いので、水筒やポールなどの筒状の道具に必要な量だけ巻き付けて携行します。
7.携帯ラジオ(予備バッテリー含む)
突然の天候悪化、予期せぬビバーク、このまま数日閉じ込められてしまうのかも・・・例えばそんな時、情報収集ツールとしてラジオはまだまだ現役です。今では携帯やワンセグなど、情報収集の選択肢は増えているのでラジオにこだわる必要は無いのかもしれませんが、ラジオの方がまだ携帯の電波よりは繋がりやすく、バッテリーのもちも全然よいので安心です。
8.水
もちろん行動用の水はみんな必ず持っていると思いますが、ここでいう水とは、万が一の際に洗浄用として常にいくらか余裕を持たせてある水という意味です。ぼくはそれをいつも気にしておくのが面倒なので、500ml程度のペットボトルか水筒を行動用飲料とは別に放り込んでおきます。
9.笛
普段山で笛を使うケースは、遠くのメンバーへの合図、クマ避け、落石など危険を警告するときなどさまざま。要するにできる限り遠くに緊急の大きな合図を送りたいときに使うものですが、ソロハイクではその必要性はさらに増します。もしソロハイクで滑落や道に迷ったりして道からはずれてしまったとき、こちらから合図を送ったりできなければ誰も気づいてはくれません。
10.ビバーク道具
もちろん日帰りの山行にテントを持っていけとは言いません。ただもし山の中で一夜を明かさなければならなくなったとき、何らかの方法で雨風を防いで寝られる環境を確保できることが重要です。そのために作られた代表的なギアはツェルトですが、それだけが答えではありません。保温性の軽量素材で身体をすっぽりかぶれるようなサバイバルシート、限りなくテントに近いシュラフであるビビィサック、風雨を防ぐ程度で十分な季節であればタープでも良いかもしれません。自分の場合、特にオススメするわけではありませんが、防寒具を多めにする代わりにビバーク道具は大きめのシュラフカバー(防水透湿素材)しか持っていきません。寝るときに寒ければシュラフカバーの中にありったけの服・手袋・ネックウォーマーを着込み、エマージェンシーシートで身体をくるんでしのぐ。当然万が一の際の快適性は皆無なのであくまでも緊急用と割り切ります。もし使う可能性が日中に分ればすぐに諦めて撤退する構えで毎回臨むことにしています。
まとめ
以上、ソロハイクするうえで、あまり考えたくないけど絶対に忘れてはいけないギアについてぼくの考えと事例を紹介しました。蛇足ですが、道具はもっているだけでは無意味であり、本や講習など、さまざまな手段で使い方を身につけてこそ、ということはいうまでもありません。と、こんなえらそうなこと書いておきながら、一方でよくここまで無事でいられるなと思っている自分もいます。先日の御嶽山を引き合いに出すまでもなく、どんなに準備をしようといつ誰に何があってもおかしくないのがアウトドアであり、その最も本質的な部分を体験できるのがソロハイク。そんな危険と充実感が表裏一体となって、ソロハイクの魅力なんだとあらためて思います。誰もがはじめからできているわけはない、自分のペースで少しずつ知識と経験をつけていけばいい。ここで書いた内容はその1歩でしかないですが、ソロハイク初心者だけでなく、いつかはソロハイクにチャレンジしようと思っている人にも参考になれば幸いです。