「最軽量」という言葉に、人は弱いもの。
ただ、より軽いものが過度にもてはやされ気味な昨今「軽さは正義」とあおる言葉には、いったん立ち止まってみた方がいいときがあります。特にテント。厳しい自然のなかで僕たちが生きていくために欠かせない休息をくれる道具であることを忘れてはいけません。
プロモンテの軽量オールシーズンテントVLシリーズは、そんな軽さばかりをアピールしがちな最近の山道具に対し、安全性という一貫した原則を貫きながら、時代のニーズを取り入れつつ進化し続ける、気難しくも一徹なヤツです。
70年代に世界を席巻した日本発の山岳テントをルーツとし(編集長も学生ワンゲル時代に大いにお世話になりました)、国産の生地を使い国内で生産し続け、何十年にもわたって日本のユーザーからのフィードバックをもとに改良され続けています。
今回はそんな日本が誇る山岳テントの”最軽量”モデル、VL-16を使ってみたインプレッションをまとめていきたいと思います。
目次
VLシリーズの成り立ちと大まかな特徴
ダンロップ製テントとProMonte の誕生
ProMonte (プロモンテ)は、2005年にHSC社によって生まれた日本の山岳用品ブランド。プロモンテ自身の歴史はまだまだ浅いですが、その源流はおよそ50年ほども遡ります。
1970年代、日本が国を挙げて国際的な初登争いをしていた時代、遠征隊がこぞって使用していたテントが、ダンロップ製の世界初、吊り下げドームテントでした。今でこそテントの一般的な形態として定着していますが、当時は非常に画期的であり、堅牢かつ軽量なこのモデルは世界の登山界をリードしていきました。
そのダンロップブランドのテントを現在まで受け継いでいるのがHSC社であり、なかでも現代日本のアクティビティ環境に合わせたモノづくりを意識したブランドがプロモンテです。軽量山岳テントを筆頭に、スリーピングバッグ、スリーピングパッド、レインジャケットなどの山岳用品から、沢登り用品まで揃えています。
VLシリーズの大まかな特徴
そんなプロモンテのテント、VL-16は、ルーツを遡ると最初のリリースは1989年です。ユーザーからのフィードバックや修理歴を参考に、日本の山岳地帯で年間通して使用するテントとして十分な耐久性を保ちながら軽量化するという明確なコンセプトをもち、他メーカーに見られるような軽量化のための過度な犠牲が殆ど見られません。
軽量テントでは一般的なフックによる吊り下げ式ドーム型の構造で、シンプルなパーツと軽くて薄い素材の採用により軽量化を推し進めています。
一方で、グランド部には30Dポリエステルリップストップの生地を使用したり、吊り下げ式の弱点であるテンションを負荷分散する吊り橋状のメッシュパネルや、突風時に破損する前に外れてくれるフックなど、軽量化を実現しつつも長い実績によって証明された最低限かつ十分な安全性を確保する、安全かつ軽量なオールシーズン対応テントです。
おすすめポイント
- オールシーズン対応の耐久性と万が一でも崩壊しにくい安全性
- 耐久性を確保したうえでの軽さ
- 修理時も安心の国内生産
気になったポイント
- 入口を閉めた状態での通気(換気)性
- 快適に住まうための仕組み・パーツ類
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
就寝人数 | 1名 |
カラー | サックスブルー |
公式最小重量 | 1210g(ペグ・収納袋含めて1400g) |
実測重量 | 1265g(ペグ・収納袋含めて1435g) |
フライ素材 | 20Dポリエステルリップストップ |
インナー素材 | 10Dナイロンリップストップ |
インナーボトム素材 | 30Dポリエステルリップストップ |
ポール素材 | DAC-7001S(アルミ合金) |
サイズ | 間口205×奥行90×高さ100cm |
収納サイズ | 本体:25×14cm、ポール37×5.4cm |
フロア面積 | 1.84㎡ |
前室 | 0.6m |
付属品 |
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オプション |
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居住快適性 | ★★☆☆☆ |
設営・撤収の容易さ | ★★★☆☆ |
耐候性 | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★☆☆ |
携帯性 | ★★★☆☆ |
汎用性 | ★★★★★ |
総合評価 | ★★★☆☆ |
詳細レビュー
小分けにできるパッキング
収納はインナーテント・フライ・ポール・ペグと、4つに分けて収納できます。インナーテントとフライを分けて収納できるモデルは少ないので、パッキングのときは便利です。
収納性という点では、いわゆる3シーズン向けの軽量テントと比べると意外にかさばります。その点を考慮して本体とフライの収納を分けているのかもしれません。
試しにインナーテント用収納袋にインナーとフライを両方収納してみました。ギリギリイケるので、このやり方で圧縮して持ち歩くこともできます。
ポールはDAC社のDAC-7001Sを使用。積雪期での使用を考えるとこのクラスの太さ、強度は致し方ないところでしょう。先端が丸く生地を傷つけないような仕様になっているところは気が利いています。ペグもDAC社のジュラルミン製のものが12本付属しています。
設営:シンプルな構造のなかに工夫の利いたパーツ類
軽量山岳テントでは定番の、自立式ドームテントです。ポールは軽量テントでは定番の吊り下げ式を採用していますが、ポール先端をインナーに固定する部分はスリーブ式を採用し、軽さと強度を両立させています。ポールをコーナー4点のスリーブにはめ込めば、テントは自立します。
ポール先端はボール状になっており、スリーブに通す時に傷つきにくいよう工夫されています。
2本のポールはセンターハブによって接続され、バラつきを抑えられています。またそのセンターハブとインナーテントの頂点を接続するのには見慣れない、DAC社製のswivelH9783という樹脂パーツが使われています。
頂点を点で固定するためテントがよりズレにくくなり、横風などに対しても安定性が高まるという仕組み。素晴らしい一方で、設営時に注意していないとこのパーツが上下裏返しになっていたりするので、やや注意と慣れが必要です。
各辺に3つあるフックもポールに引っ掛けるだけですが、スクリューフックという特殊なフックを使用。ただ引っ掛けるのではなく、90度にひねったあと引っ掛けるようになっているので、やや使いにくいですが、想定外の力が加わった際に外れるよう設計されているため、テントの崩壊を防ぎます。
通常の吊り下げ式テントは、3点ほどのフックをかければよいので設営は楽ですが、それぞれのフックに点でかなりの負荷がかかります。しかしこのVLシリーズは、なるべく1点にテンションがかからないようにフックとフックの間を吊り橋状のメッシュパネルでつなぐ工夫がなされ、強風時の安定感・耐久性を向上させています。まさに吊り下げ式とスリーブ式のいいところ取りというわけです。
フライの設営は、インナーテントとバックルで留めれば設営は完了です。やはりバックル式だと設営が楽でいいですね。
基本的には、直感的に設営ができる様になっていますが、慣れないうちはフックの固定方法や、ポールの上下など少し戸惑うこともあります。しかし何度か設営して仕組みを理解すれば、難なくできるようになるでしょう。
実際に使ってみたインプレッション
居住性は必要最低限。多くを望むべからず
インナーには10Dのナイロンリップストップを使用し、軽量化に寄与しています。ボトム部分には重量は増しますが、30Dのポリエステルリップストップを使用し、耐久性を向上させています。フライには20Dのポリウレタン防水加工を施したポリエステルリップストップを使用しています。フライはブルー1色ですが、鮮やかで気持ちよいですね。
室内の底面積は205cm×90cm。1人用とあって、正直広くはありません。ただ長辺側半分が開く入口のため、よっぽどの高身長でなければ(入り口を開けている限り)窮屈には感じないでしょう。マットを敷いて荷物を置く余裕はしっかりあります。
天井は一番高い部分まで100cmあり、起き上がったりするくらいであれば問題なさそうです。隅4箇所と頭頂部にループが付いているので、見難いですが下写真のように紐を通せば荷物を吊り下げられます。
このほか床にはメッシュの小物入れが2つ。iPhoneが一つ入るか入らないか程度の大きさで、もう少し大きさが欲しいところ。
前室も必要十分なサイズが確保されているので、荷物をおいたり料理をするには十分でしょう。
大きく開く長辺側入り口を開ければ風抜けは良いが……
入り口は長辺側にあり、全開させると長辺面の1/2が開きます。入り口はナイロンとメッシュの2重構造で、入り口全体の1/3程がメッシュになり、通気性を上げられます。
他にも換気用のベンチレーターとして機能するのは、入り口左側のフライに下向きに開いているベンチレーション(下写真)。
入り口反対側にある吹き流しの2箇所(下写真)。大昔からほぼ変わらないこのベンチレーションは雨や雪などの重みでしっかりと張れないなど使い勝手が良いとはいえず、換気に関しては正直もう少し工夫が欲しいところです。
また入り口を閉めてしまうと、いくらメッシュにしていても空気が通っている感じはしません。やはり入り口部分のメッシュだけでは物足りません。せめて通気口が対向していてほしいものです。
やっぱり、長いです……
その他入口部分のパネルと、フライを留める紐が何故かかなり長いです…あれこれいじって見たのですが、この長さである意味を解明できませんでした…切るなり、コードロックを使うなりすれば解決できます。ここは実際に使用する前に確認して対策して下さい。結構ストレスになります。
インナーテントのボトムは30Dの丈夫な生地を使っているので、尖った岩などがない限り破れたりすることはなさそうです。グランドシートを持っていけば心配はありませんが、軽量山岳テントといえどすごく軽いわけでもないので、できれば使いたくないことろ。設営時にテント下をチェックすれば問題ないでしょう。
まとめ:こんな人におすすめ
ここまでみて分かるように、思い切った軽さもない、飛び抜けた快適性もない、その意味では3シーズンの軽量テントとしてみると、確かに今ひとつ感は否めないかもしれません。
ただ一方で、ダンロップ時代から積み重ねてきた安全性への高い信頼性は間違いなく実感できました。オールシーズン対応のテントという意味では、これだけの軽さと安全性能は、積雪期にこそ生きてくるものじゃないかと感じました。その意味で今回厳しい環境下でテストできなかったことはこのテントにとって不幸だったかもしれません。
もちろん、無雪期でもそれなりに十分快適なテント生活がおくれることは確かですし、トレッキングや縦走から、沢登り、積雪期などハードなアクティビティまで幅広い環境やフィールドで安心して使用できるテントを探している人には、コストパフォーマンスも高くピッタリのテントです。
山岳テントとして長い歴史を誇るテントで、日本の山岳史に想いを馳せながら眠るのもロマンがあるのではないでしょうか。