Outdoor Gearzine "アウトドアギアジン"

比較レビュー:ハセツネ攻略のためのおすすめトレランシューズは?【目指せサブ10】

今年もハセツネの季節がやってきた!~ハセツネって何?~

山が色づき始めるには少し早いこの時期、東京奥多摩の山道ではトレイルランナーの姿をよく目にするようになります。毎年10月中旬に開催される日本山岳耐久レース(通称:ハセツネCUP)に出場する選手たちが試走をしているのです。

ヒマラヤでファイナルキャンプからアタックするときを想定したトレーニングの一環と位置づけられるハセツネCUP。制限時間24時間、総距離71㎞、累積標高差4,800m、さらに道中のエイドステーションは1カ所で1.5Lの水分補給のみというトレイルレースの中でも過酷な部類に入る山岳耐久レースで、選手たちは奥多摩の山を夜通し走り続けてゴールを目指します。

昨年このレースに初めて参加しましたが、老若男女2,500人が山を一昼夜走るというのはまさにトレイルランの祭典。レースは昼の1時にスタートし、第一関門を通過するころには辺りが暗くなってきます。自分が目を開いているのか閉じているのかすらわからなくなるような真の闇に包まれたトレイルをヘッドライトの明かりだけを頼りに走り続ける。時に獣の目が光ることもあれば、道の端に突如現れる疲労で動けなくなったランナー。ここはホントに東京か!?と思わずにはいられない異次元の世界を駆け抜け、ライトアップされた中ゴールテープを切る瞬間の達成感はハンパじゃない。

そしてゴール後に知った驚愕の事実。多くのランナーが山で一夜を過ごす中、このハセツネを終電で帰宅するランナーがいるということ。いつしか僕もハセツネに出る多くのランナーの憧れ「サブ10(10時間以内での完走)」を夢見るようになりました。

ハセツネランナーの憧れ”サブ10″達成のためのシューズ選び

サブ10達成に向けて自身のトレーニングは不可欠ですが、それと同じくらい重要なのが装備です。なかでもシューズは間違いなく最重要アイテム。そこで今回10月の本番に向けて最強のトレイルランニングシューズ候補3足をピックアップ。それぞれを日々のトレーニングのなかで徹底的に走り込み比較し、過酷なレースに最適な1足を選んでみました。

目次

今回比較したシューズについて(傾向と選定基準)

まだトレイルランという言葉が一般的ではなかった時代から続くハセツネは今年で24回目。当時9時間だった優勝タイムは年々短縮され、現在ではトップ選手は7時間弱で走り切ります。背景にはトレイルランニングのメジャー化による各種ギアの飛躍的な進化が見逃せません。

安定性重視だったりグリップ性能を高めたりと、毎年各社からさまざまなトレイルランニングシューズが登場しています。ハセツネに限らずトレイルレース全般が近年スピード化の流れにあることから、サポート力を備えつつ軽量で走れるモデルが主力になりつつあります。例えばHokaのように見るからに重そうな踵の分厚いシューズも、ソールを中空にすることで驚くほどの軽さを実現しています。

マラソンなどの舗装路を走るレースと違い、トレイルレースはコースによって距離も路面状況もまちまち。半分以上が舗装路のこともあれば、鎖場やガレ場が多くてほとんどで走れないといったレースも存在します。ハセツネの場合、累積標高差4,800mというのはダテじゃなく、とにかく急な登りと下りを繰り返します。また尾根道ではかなりスピードが出るので走れるシューズが求められる。そのためにはシューズの快適性や軽快さが欠かせません。これらは狙ったライン(着地ポイント)をトレースする際にも大いに役立ちます。今回はこのハセツネを10時間で走り切ることを目標に、以下の点に着目してシューズを選定しました。

テスト環境

テストは9月上旬にハセツネコース(今熊神社~浅間峠)で日中に行いました。前日に降った雨の影響で路面はところどころウェットコンディションの中、ザックに入れた3足を履き替えながら一人で行っています。なお、路面はすべてトレイルなので舗装路は試していません。参考までに僕の現在の走力は、ハセツネベストタイム:11時間35分、フルマラソン:3時間。

テスト結果&スペック比較表

総合順位 1位 2位 3位
アイテム inov-8 TERRACLAW 250 MS montrail メンズ フリューイッドフレックスF.K.T. LA SPORTIVA AKASHA
総合スコア(100点満点) 84 76 72
参考価格 17,280円 13,500円 18,144円
ここが◎ 高いグリップ力と抜群の履き心地でトレイルを自由自在に走ることができる フレキシブルさが生み出す軽快さはロードシューズ感覚 走破性の高さと保護能力がランナーに安心感を与える
ここが△ 保護能力の低さ グリップ力の弱さ 重さ

快適性

(25点)

24 19 15

重量

(25点)

23 23 12

グリップ

(20点)

19 13 17

プロテクション

(15点)

8 11 14

安定性

(15点)

10 10 14
スペック
サイズ 26cm 26cm 26cm
重量 284g 283g 321g
アッパー生地 合成繊維/人工皮革/合成樹脂 サーモプラスティック溶着によるミッドフットのケージ設計 エアメッシュ+PU レザー+ダイナミックプロテクション
アウトソール ゴム底 ヒールと前足部のトラクションゾーンに3ポイントラグのグリプトナイト。前足部のトレイルシールド。 FriXion XT + トレイルロッカーシステム

評価結果:各シューズを試走してみて分ったこと

inov8 TERRACLAW 250

どんな悪路でも狙い通りにトレースできる、サブ10を獲るための最強の一足

アッパーだけ見るとロードシューズかと思うほど余計なものを削ぎ落としたシンプルな見た目に対して、CLAW(爪)というネーミングがしっくりくる鋭く尖った突起を持つアウターソール。この爪が生み出す強力なグリップ力は荒れたガレ場から滑りやすい岩場まで安定して走ることができます。薄くて柔らかいアッパー素材は甲全体を包み込むようにフィットするので足とシューズの一体感が最高に心地いい。ただ、着地時の突き上げは相応にあるのでプロテクション能力はそれほど高くはないでしょう。捻り耐性も弱いのでムリな体制からの着地は禁物です。

inov8のシューズは前足部分がやや広めに作られているので蹴り出しから踏ん張りまで自然に行える、靴とシューズの一体感もあいまって感覚的には裸足に近いです。

この250をさらに軽量にした225(重量がモデル名)という上位モデルもあるのですが、より薄いソールはハセツネの距離だと少々不安が残ります。250でも後述のフリューイッドフレックスと比べると地面からの突き上げは強いです。試走では登りや下りでしっかりグリップするのはもちろんのこと、崖側に傾斜している狭いトレイルでも横滑りせずスピードに乗ったまま走ることができました。

コース全般で活かせる反面、プロテクションの弱さを考慮して岩や木の枝などに注意する必要があります。また、突き上げは後述の2足よりも上なのでそこそこ足ができている人でないと、後半走れなくなるかもしれません。

ゴール手前10kmから始まるハセツネのハイライト金毘羅尾根。ここまで足を残しておくことができれば、テラクローは異次元の早さでゴールまで運んでくれる可能性を秘めた一足です。

montrail メンズ フリューイッドフレックスF.K.T.

フレキシブルな軽快感はロード出身者にピッタリ!

靴紐を締めて一歩踏み出した瞬間からわかるシューズの柔らかさ。フリューイッドフレックスの特徴であるこの柔らかさが走る時には最大の武器となります。尾根道ではまるでロードを走るような感覚で軽快にスピードを出すことでき、下りで右に左に小枝や石をかわすような場面では狙ったポイントにしっかり着地してすぐに次の動作に移ることができる。スピードが出るほど次の動作を瞬時に判断しなければならないので、自分の意思通りに足を運べるかというのはとても大事な要素です。両サイドを滑りにくいウレタン加工したインナーソールは足裏を包み込むようにピタリと吸いつきます。アッパーに補強パーツはほとんどないので、プロテクション能力は高くないでしょう。この辺は同社のバハダと比較してもフリューイッドフレックスが走ることに重きを置いていると感じる点。

アウターソールを見てみると、ブロックパターンが前足部分と踵部分にしかありません。木の根や突起を越える際に土踏まずの部分で着地すると、途端にグリップ力が下がるので要注意。このシューズは足裏全体でフラットに着地するのがベストです。

グリップ性能はそこまで高くないのですが、そこそこグリップして適度に横滑りするあたりは慣れてしまえば気にならなくなります。これはトレイルだけでなく、ロードでも使えるとプラスに考えることもできます。ハセツネではスタートして4㎞ほど舗装区間があるのですが、ここで遅れてしまうとその後の山道で渋滞に巻き込まれて大幅にタイムロス。たったの4㎞ですがあなどれず、走れるシューズは確実に有利です。

フリューイッドフレックスは軽量で柔らかいシューズにもかかわらず、思ったよりも地面からの突き上げが少ないことも特徴の一つ。ミッドソールに硬質EVA、中足部分には異なる密度のEVAを配置することで、昨今の傾向にある軽さとサポート性を併せ持つバランスのとれた一足に仕上がっています。

LA SPORTIVA アカシャ

高い走破性とサポート力は完走目標のランナーにも最適

このシューズの特徴はとにかく高い走破性。アッパー側面はつま先から踵まで硬質なゴムに囲まれていて、ちょっとやそっと岩や枝に打ちつけたぐらいではものともしません。また、厚くて固いアウターソールが地面からの突き上げをかなり緩和してくれるのでプロテクション能力はピカイチ。足首周りもしっかり固定されているので捻りに対するサポート力も万全でしょう。もともと登山靴を作っていたメーカーだけにこの辺りのノウハウが惜しみなく投入された一足です。

アウターソールは深く尖った突起が地面にしっかり食い込むので、どんな路面でも安心して体を任せることできます。試走中に何度か無理な体勢で着地する場面があったのですが、しっかりグリップして横滑りするようなことは皆無でした。

今回履いてみて意外と使えるなと感じたのがソールの前部と後部に設けられた溝(トレイルロッカーシステム)。つま先と踵の先がよりグリップしやすい爪のようになっていて、踵を浮かしてつま先で登るような場面でもしっかり地面を噛むのでグイグイと体を運ぶことができます。

アカシャのグリップ性能の高さは急坂を下る時にも重宝します。ハセツネでは地面に足を踏ん張って減速しながら下る急坂がよくあるのですが、強力なグリップがそのままブレーキ性能の高さとなって有効活用できます。

こうした装備の代償としてそこそこ重量があるので、軽快な足運びをしたい場面では若干ストレスを感じるかもしれません。素早く駆け下りる場面ではワンテンポ遅れる感じがあり、登りではシューズの重さを意識させられます。ただ、走破性の高さゆえにちょっとやそっとの悪路をものともせずに駆け抜けることができるので、ロングレースの場合は結果的に楽かもしれません。

まとめ

ハセツネを10時間で走るためには絶対的なスピードが求められます。では軽いシューズを選べばいいかというとそんなに単純ではありません。トレイルではレース中に転倒しているランナーを目にするのは珍しいことではなく、70kmという距離を一度もよろけずに走りきるランナーは稀でしょう。また、ハセツネはレースの大部分がナイトセクション。ヘッドライトを頼りに闇夜の山道でどこまで攻めた走りができるかと考えた場合、シューズのプロテクション能力が無視できなくなってきます。

トレイルランには登り、平坦、下りの3要素があります。タフな心肺で登りを走り続けられる人、ロード出身で平坦路がずば抜けて早い人、恐怖心を抱かず果敢に下りで攻められる人。これに距離やトレイル比率、自身の走力を加味すると最適なシューズが絞られてきます。自分が得意としているパートを知り、コースのどこで攻めるか。得意分野をさらに伸ばすもよし、苦手分野をシューズで補うもよし。そうして選んだ一足が、トレイルランをより楽しませてくれることでしょう。

津島浩平

旅と自然をこよなく愛するランナー。あちこちの山を登るうちにエヴェレストを見ようとチベットまで足を伸ばした学生時代。社会人になり運動不足解消を目的に始めたランニングにハマり、フルマラソンでは飽き足らずにウルトラマラソン(100㎞)、ウルトラトレイル(100mile)を走るまでに。市民ランナーのグランドスラム(マラソンサブ3、ウルトラマラソンサブ10、富士登山競走山頂完走)を果たし、さらなる高み目指して国内外のレースに挑戦中!走ったレースやギアレビューを発信しています。
Blog:Because it is there

レビュアー募集中

Outdoor Gearzineではアウトドアが大好きで、アウトドア道具についてレビューを書いてみたいというメンバーを常時募集しています。詳しくはこちらのREVIEWERSページから!

モバイルバージョンを終了