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比較レビュー:本気で撥水力を回復したい人のための、撥水剤ガチ比較 専門の試験場でテストしてきた【協力:MILLET】

防水性は「水を通さない」機能、撥水性は「水を弾く」機能――。

両者は似て非なる機能だということは、山の道具についてかじったことがある方ならば何となくご存知なのではないでしょうか。簡単にいうと、防水機能は一定の圧力まで生地の間を水が通り抜けさせないようにする機能であり、一方撥水機能とは水が表面生地に留まりにくくする機能です。

つまり撥水機能だけしかない生地では、生地を少し押しつければ水は比較的簡単に通り抜けてしまいますので、直接的に衣類の防水性能を高めるものではありません。ただ、水が生地表面に染み込みにくくすることでウェアの濡れた感覚を防いだり、透湿性(群れにくさ)を保ったりすることで、ウェア全体的な快適性を高めるために必要とされています。

快適なレインウェアに不可欠な撥水性能は時間とともに劣化する

レインウェアには、一般的にDWRと呼ばれる耐久撥水加工がなされています。耐久撥水加工は「耐久」と名のつくとおり、何回か着用したり洗濯したとしてもある程度撥水力を保ってくれるのですが、それでも限度があります。どれくらい撥水性が長持ちするかは、撥水剤や加工の質にもよりますし、生地によっても撥水剤の乗りやすさに違いがあるとも言われています。また撥水にとって一番の敵は「汚れ」であり、使用することで汚れが付着すると、表面の撥水性能が損なわれていってしまいます。このためレインウェアは使用と洗濯を繰り返すことで、多かれ少なかれ徐々に撥水性能は失われていってしまうものです。ちなみに、撥水性が落ちて表面生地に染み込んだとしても、それはレインウェアの防水性が無くなったわけではありません。

使い続けることで低下してしまった撥水力を回復させるのが、さまざまなメーカーから市販されている撥水剤。なかでもアウトドアウェアでは防水透湿生地にも使用できるタイプの製品が主流です。

この撥水剤のなかでまず手軽なのはスプレータイプの「撥水スプレー」ですが、経験上、手軽な分だけ効果が長持ちしないことが多い印象。何度かトライしてみたことはありますが、最初こそ撥水力が回復するものの、数回ですぐにまた撥水性が落ちてしまいます。均一に散布するのも結構難しくムラができやすいなど取り扱いは思ったよりも手軽ではないのが難点。そこでやはりしっかりと撥水性を回復させるためには「洗濯式(液体)タイプ」が有効なのですが、どのメーカーの製品が一番なのか、あまりしっかりと試したという情報が少ないのが現状です。

スプレーなんかじゃ物足りない。専門的な試験設備で撥水剤のベスト・オブ・ベストを徹底比較

しかしこの撥水力比較を客観的な実験によって測定・比較するのは、一般的な設備ではなかなか難しく、それが障壁となって、この疑問を解決することができずにいました。

そんな話を隙あらばいろいろな人に話していたところ、つい先日、アウトドアブランドのMILLETさんより「うちのレインウェアで、然るべき施設を使って実験してみませんか」という誘いが。ミレーとしてもお客様からの問い合わせ対応のために、事実として把握しておきたいというニーズがあるとか。渡りに船とはこのこと、そこで今回はMILLET協力のもと、本格的な試験設備を利用して、巷に流通する主要な撥水剤のベストを探ってみることにしました。

実験結果をご覧になる前に ~実験結果についてのお詫びとご注意~

今回の試験方法については、当サイトとしてより家庭での使用状況を踏まえつつできる限り正式な撥水試験と同様の条件に揃えられるように努めておりますが、試験機関で責任をもって行われる正式な試験方法と比較すると、物理的な限界から一部厳密さに欠ける部分があります。この点につきまして、当初一部正式な試験による比較と誤解を与えるような書き方になってしまっていたことにつきましてはお詫びいたします。今回の試験方法と評価方法では、各社製品の正確な機能評価はできないことをご留意ください。特に下記の点については正式な試験方法と具体的に異なるとの指摘をいただいており、このためここでの実験結果はあくまでもこの記事で明記された条件・方法に基づく参考結果としてご判断いただくよう、なにとぞご留意ください。

  1. 今回の実験ではのサンプル数は2件であり、正式な試験でのサンプル数よりは少ない件数です。
  2. 撥水テストの評価は専門の試験官による評価ではなく、記事のライター(レビュアー)による目視での相対評価です。
  3. 通常、洗濯耐久性試験をするときにはJIS指定洗剤や一般的な洗濯洗剤等を使用しますが、今回は中性洗剤(エマール(花王株式会社))を使用しております。エマールはシリコーン(繊維潤滑剤)が入っており、繊維に洗剤成分の残留が起こりやすいため、再現性のある実験結果が出ない可能性がございます。

実験に使用する試料(アイテム)の紹介

まずこの実験では、純粋に「市販の撥水剤によってどれだけ生地に撥水加工が施されたか」という効果を測定することが必要です。

このとき、製品となってしまっているレインウェアなどはすでに製造の過程で何らかの撥水加工が施されてしまっており、純粋な撥水剤の効果を測定することはできません。

そこでまず用意したのは、ミレーの「ティフォン 50000 ストレッチ ジャケット」に採用されているのと同じナイロン100%の生地(幅約150㎝ × 長さ30㎝)です。もちろん撥水しない状態で、裏加工もなし。

比較した撥水剤の紹介

次に用意したのはもちろん今回比較する、防水透湿素材に使用可能なアウトドアウェア用 の撥水剤です。以下、撥水剤といえばおなじみの代表的なブランド4製品をピックアップしました。

テストでは、各4ブランド毎2つの試料(4×2)と、撥水剤を何も付けていない試料2つ、合計10点の試料で試験しました。

  1. mont-bell O.D. MT S.R.ウォッシュイン※
  2. NIKWAX TX.DIRECT WASH-IN
  3. Grangers CLOTHING REPEL 防水・撥水ウェア用撥水剤
  4. Finetrack WATER REPEL

※「mont-bell O.D.メンテナンス S.R.ウォッシュイン」は2020年3月30日現在、非フッ素系の原料を使用した撥水剤としてモデルチェンジしていました。テストは2020年1月に実施したため、mont-bellのみ旧モデルでのテストとなってしまっております。このため今回のテスト結果はあくまでも参考値として捉えてください。

前処理

実験に入る前の下準備です。

各撥水剤メーカーの指示する取り扱い方法に準拠しながら、それぞれの方法で生地に撥水剤を添付し試料を作成します。

撥水力比較(1)撥水テスト

やってきたのは都内のとある品質試験場。

テストは「JIS L 1092 繊維製品の防水性試験方法 はっ水度試験(スプレー試験)」に使われる試験装置で行われました。その試験とは、ごく簡単に言うと以下のような手順を踏みます。

 

撥水テスト結果:全体的に優秀(ややモンベルが優位?)

お待ちかねの撥水テストの結果を下の写真に並べてみました。正直写真で見る限りではかなり微妙な差異に見えてしまっているかもしれませんが、表面の水滴以外の染み込み方なども含めて現場で観察してみると、モンベルがやや頭一つ抜け出ている印象。ついでグランジャーズ、ファイントラックと続き、NIKWAXは相対的には水滴が少し多めに残っていました。ただ、一番左の撥水剤なしと比べてみれば、きちんと説明書どおりにケアした場合、最初の使用ではどの撥水剤でも満足のいく撥水力は得られることは一目瞭然です。

撥水力比較(2)ランダオメーター処理 + 撥水テスト

撥水剤を漬け込んだ直後は調子が良かったとしても、少し使ったり洗濯したらすぐに撥水力が落ちてしまったなんてことがあれば、それでは製品として不十分と言わざるを得ません。

そこで次に行ったのは、「洗濯堅ろう度 JIS L 0844 ランダオメーター」を用いて、試料をグルグルと洗濯したあとに再度はっ水テストを行い、撥水力の長持ち度も比較してみました。

【ランダオメーター処理の条件】

【試験方法】

ランダオメーター処理 + 撥水テスト結果:モンベルの強さがより顕著に

下の写真がランダオメーター処理 + 撥水テストの結果です(左端は最初のテストと同じです)。するとここに来てモンベルの撥水剤と他のメーカーとの差異が比較的はっきりと見られるようになりました。モンベル以外のメーカーの撥水剤は微妙な差ですが、グランジャーズがほんの少し優位で、NIKWAXとファイントラックは撥水力がかなり落ちてきている印象でした。

扱いやすさ比較

さて、撥水力を見てきましたが、その他の要素も比較してみます。もちろん撥水剤にとって最も重要なのは撥水力の高さですが、製品によってはケアに手間がかかるものや、洗濯中強い匂いを放ってきたりと、どれもそれなりに手間がかかるため、そこも比較項目として完投してみます。

撥水剤 mont-bell
O.D. MT S.R.ウォッシュイン
NIKWAX
TX.DIRECT WASH-IN
Grangers CLOTHING REPEL
防水・撥水ウェア用撥水剤
Finetrack
WATER REPEL
製品量 1枚当たり 1-2枚当たり 1枚当たり 1枚当たり
撥水剤量 32ml 300ml全量 100ml 150ml
水量 15L 35L 25-35L 1350ml
取り扱い 推奨の別売り洗剤等で事前洗濯。その脱水前の状態で当撥水剤を投入した洗濯を実施。 別売りの指定洗剤(必須)で事前洗濯を実施し、濡れた状態で当撥水剤を投入し洗濯を実施。 別売りの指定洗剤で事前洗濯したうえで、当撥水剤を投入した洗濯を実施。 1時間の漬け置き洗い。やさしく押して当撥水剤を全体にいきわたらせる必要がある。
洗濯機を使用できるか できる できる できる できない
熱処理(乾燥機やアイロン)が必要(推奨)か パッケージ内で推奨 特には推奨せず ガイドブック内で推奨 HP上で「弱いと感じる人には」推奨
臭い ×
評価 ×

コストパフォーマンス比較

同じ価格ならばたくさん処理できたほうがいいことは言わずもがな。以下、メーカーの公称数値によるコストパフォーマンス比較です。

撥水剤 mont-bell
O.D. MT S.R.ウォッシュイン
NIKWAX
TX.DIRECT WASH-IN
Grangers CLOTHING REPEL
防水・撥水ウェア用撥水剤
Finetrack
WATER REPEL
推定着数 9着分 1-2着分 3-4着分 3着分
税抜単価 1,500円 1,700円 1,800円 2,000円
一着当たり 167円 850-1,700円 450-600円 667円

環境対応比較

撥水剤は一種の薬品です。効果だけを考えていて良い時代はもう終わりました。もちろんこの点を評価に含めるか含めないかは個人の自由ですが、自然に楽しませてもらっている人間の一人として、これからは環境への影響ということをできる限り考えていかなければなりません。

撥水剤 mont-bell
O.D. MT S.R.ウォッシュイン
NIKWAX
TX.DIRECT WASH-IN
Grangers CLOTHING REPEL
防水・撥水ウェア用撥水剤
Finetrack
WATER REPEL
撥水剤タイプ フッ素系※ 「TX.10i」(NIKWAX特許成分) アクリル素材 非フッ素系
環境 ×※

※「mont-bell O.D.メンテナンス S.R.ウォッシュイン」は2020年3月30日現在、非フッ素系の原料を使用した撥水剤としてモデルチェンジしていました。テストは2020年1月に実施したため、mont-bellのみ旧モデルでのテストとなってしまっております。このため今回のテスト結果はあくまでも参考値として捉えてください。

まとめと結論

以上、すべての要素をまとめてみますと、以下のようなことがいえるかと思われます。筆者としては、モンベルの撥水剤としての優秀さは捨てがたいものの、気持ちとしてはやはりこのまま環境に悪影響があるといわれているフッ素系の撥水剤を使い続けたいとは思えません※。そうなると最もバランスがよかったグランジャーズが最善という結論に達しました。もちろん、今回のテストとて現実の利用状況をシミュレートしているに過ぎず、特に長時間利用したあとの撥水性という点については実際に山で長時間使用した後の状況など、試すことができていないことも否めません。ここまでやったとはいえ、あくまでも参考としての情報でしかないことは山道具の情報に触れる上では注意しておく必要があります。そうしたことを踏まえたうえで、読者の皆さんはそれぞれの項目を多角的に検討しながら、自分の目的や用途に合わせて適切な製品を選ぶことをおすすめします。

撥水剤 mont-bell
O.D. MT S.R.ウォッシュイン
NIKWAX
TX.DIRECT WASH-IN
Grangers CLOTHING REPEL
防水・撥水ウェア用撥水剤
Finetrack
WATER REPEL
総合評価 ★★★★☆ ★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★☆☆
撥水力 ★★★★★ ★★★★☆ ★★★★★ ★★★★★
耐久撥水力 ★★★★☆ ★★☆☆☆ ★★★☆☆ ★★☆☆☆
取り扱いやすさ ★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★☆☆ ★★☆☆☆
コストパフォーマンス ★★★★★ ★★☆☆☆ ★★★☆☆ ★★★☆☆
環境対応 ★★☆☆☆※ ★★★★☆ ★★★★★ ★★★★☆

※「mont-bell O.D.メンテナンス S.R.ウォッシュイン」は2020年3月30日現在、非フッ素系の原料を使用した撥水剤としてモデルチェンジしていました。テストは2020年1月に実施したため、mont-bellのみ旧モデルでのテストとなってしまっております。このため今回のテスト結果はあくまでも参考値として捉えてください。

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