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ジョン・ミューア・トレイル 北向き縦走 (2025 NOBO) の記録 【第16章】ライエル・キャニオンか らトゥアルムへ

【第16章】ライエル・キャニオンか らトゥアルムへ

ライエル・フォーク上流部には二つの小さな湖がある。ドノヒュー・パスから二番目の湖を徒渉した所が広いキャンプ・サイトである。再び、急こう配のスイッチバックで高度を落とし、ライエル・フォークの橋を渡ると、キャンプ・サイトが点在する。その後、トレイルはライエル・フォーク添いに下る。

ライエル・フォークの支流との合流点近くにキャンプ・サイトが多い。ドノヒュー越えのパーミットがなくても入れるので、人も多くなる。ドノヒュー・パスを越えてもレンジャーがパーミットのチェックに現れる。

メドウが広がるので野生動物も多い。よく見るのは野生のシカである、熊もいて、夜にキャンプ・サイトに現れて食料を探す。筆者は一度熊にあったが、すぐ逃げられた。食料管理をきちんとして置けば何の問題もない。

トゥアルムにはランバート・ドームやソーダ・スプリングなどの名所がある。一日滞在するのなら、デイ・ハイキングも良いだろう。

トゥアルムからはヨセミテにいくが、今回はスケジュールの関係で、ハイキングを終了して、ビショップに移動した。ビショップはなんでも揃っている綺麗な町である。筆者のお気に入りである。

図 16.1: ライエル・キャニオンからトゥアルム。

図 16.2: マウント・ライエル。

ライエル・フォーク上流部

ドノヒュー・パスから岩稜帯を直線的に高度を落とし、パイン・ツリーが現れはじめた場所がドノヒュー・ピークへのクロスカントリーの開始地点だった。トレイルは西に転じて高度を落とし、ライエル・フォークの方へ向かう。

しばらくすると、マウント・ライエルが正面に見える。図 16.2 である。登山家は積雪時にこの山に登る。雪がある方が登りやすいからである。傾斜が緩くなると、草も生えてくる。図 16.3 はこの辺りにいるシカである。この時は珍しく筆者から逃げなかった。

図 16.3: ライエル・フォーク最上流部のシカ。2017 年撮影。

坂を下ると、最上流に小さな池がある。下流部を渡るのだが、その前にバックパックを下ろしてランチとした。時刻は 11 時で、少しは早いが悪くはない。例の如く、水を汲みあけて、重力式に浄水器をセットしてJMTパンとコーヒーである。ハイカーが一人通り過ぎて行った。

ゆっくりとして 12 時ごろに腰を上げた。少し回り込むと、穏やかなメドウになり、小川を渡って、斜面についたトレイルを下る。図 16.4 のような二番目の湖が見えてくる。徒渉は写真の左端に置き石があり、それを使って対岸に渡る。水量の多い時は濡れずには渡れないので、写真の破線のような迂回ルートを歩けばよいだろう。

図 16.4: ライエル・フォーク上流部。破線は徒渉困難な場合の迂回ルート。

ライエル・フォークを徒渉すると、その傍にキャンプ・サイトがある。川に近すぎるので、本当は違法サイトだろう。ここに 2009 年と2016 年にテントを張った。2011 年は川を離れた丘に張った。図 16.5 である。ここは広くてキャンプ・サイトが多くある。

図 16.5: ライエル・フォーク上流部のキャンプ・サイト。2011 年撮影。

川幅の広い場所は浅いと言われているが、ここは違う。2011 年、南向き JMT の時にここに来て、水嵩が高いので、テントを張って模様眺めをしていた。あるハイカーが川幅の広い場所の徒渉を試みた。すると、まもなく腰まで水に沈んだ。

このハイカーと後で会って話をした。すると、カメラがダメになった、ビショップに売っているだろうかと言っていた。たぶん、どこにも売っていないだろう。ロサンゼルスかサンフランシスコのような大都市でないと難しい。

筆者は翌朝何時もの渡渉場所を歩いたが、水嵩が 30cm ほど下がり、岩伝いに徒渉できた。日中は雪解け水が流れて増水するが、夜には凍結し、朝に水嵩がもっとも低いことを留意しておきたい。

2016 年に川の傍にテントを張っていて、パーミットをチェックされた。川に近いので、違法なはずだが、何も言われなかった。この時は、ホースシュー・メドウから入り、ズルズルとヨセミテまで足を伸ばし、バスでトゥアルムまで戻って、ハイキングを再開し、ソノラ・パスまで行った。

実は、ヨセミテ近くまで行くのは合法だが、ヨセミテの谷を下りて宿泊してバスでトゥアルムに戻るのは違法である。ヨセミテ渓谷に下りると、パーミットは終了する。また、バスでトゥアルムまで戻るとハイキングの連続性が絶たれる。パーミットは一つの連続したハイキングに与えられるので、トゥアルムから北に歩くには、改めてパーミットを取らないといけない。ところが、PCT ハイカーなどは、よくヨセミテに立ち寄っている。巨大観光地であるし、食料調達も容易だからである。それで、なし崩し法でヨセミテに泊まった。

トゥアルムから一泊二日目の 20~30km 先のリターン・クリークで同じレンジャーと会った。そこで記念撮影させてもらった。それが図 16.6 である。この人は筆者と同じように、ドノヒュー・パスからトゥアルムの北まで移動していた訳だ。このようにレンジャーは国立公園内を広く巡回している。

図 16.6: レンジャー、リターン・クリークにて。2016 年撮影。

2009 年、初めて JMT を歩いた後、ヨセミテに移動しても 1 週間ほど日程が余ってしまった。当時は代理店に航空券をお任せで、日程をどうして変更すればよいか知らなかった。面倒なので、カレー・ヴィリッジに行き、 1 週間空いていないかと聞いた。すると、ちょうど、一番離れた場所だが空いているという。そこで 1 週間滞在して、ヨセミテのあちこちを歩くことにした。

二日目にテント・キャビンに戻ると、張り紙があり、フロントに来てほしいという。何か悪いことをしたのかと、恐る恐るフロントに行くと、レンジャーが疲れ切って、一番静かなキャビンで宿泊したいと言っている。悪いけど、他のキャビンに移ってくれないか。お礼として、レストランの朝食券をプレゼントするという。

当時はレストランはビュッフェ方式だった。無料でいくらでも食べられるので快諾したのだが、レンジャーは見回りで死ぬほど疲れ切るらしい。当時からレンジャーは楽な仕事ではなかった。今はトランプ政権下でさらに過酷になっているはずだ。

ライエル・フォークの上流のキャンプ・サイトを過ぎると、スイッチバックの下りがあり、キャンプできる場所は少ない。30 分ほど下りると、傾斜が緩くなり、西側に小川がある場所があり、空き地を見つければキャンプ可能である。

キャンプ・サイトが多い場所は下り切ってライエル・フォークを渡る場所近くである。立派な橋がかかっているので、徒渉の必要はない。

2019 年、南向き JMT だったので、橋を渡り林の奥でテントを張った。それが図 16.7 である。この時の夕食が図 16.8 のみりん干し定食である。みりん干しを焼くと、辺り一面によい匂いが立ち込める。たまには動物を引き寄せる危険もある。この時は図 16.9 のレンジャーだった。

「むむ、なんだこれは。」

「みりん干しだよ。」

「むー、とりあえず、パーミットを見せろ。うん、良し。しかし、テントが川から近い。」

レンジャーはこう言って川岸に行き、大声で数えながら歩いてきた。

「イチ、ニイ、サン…. ジュウク、… ニジュウ、ニジュウイチ、… ニジュウク、サンジュウ。ほら近いだろう。遠くへ引っ越せ。」

「そんなこと言ってもサイトになっているじゃないか。テント禁止の印くらい付けとけよ。」

「うん、まだ、ちょっと手が回らなくて。とりあえず、引っ越せ。」

「今、食事中だからな。食べたら引っ越すよ。」

翌日、このレンジャーとドノヒュー・パスで会った。パーミットのチェックというお仕事中だった。よく見ると、服装が整っていて、ピストルを所持している。詳しくは知らないが、レンジャーにもいろいろランクがあり、この人は身分の高い人である。ただ、みりん干しの匂いには敏感のようだ。

図 16.7: レンジャーに難癖を付けられ、ちょっと奥に引っ越した場所

ライエル・フォーク上流には立派な橋がかかっている。それが図 16.10である。この橋前後にキャンプ・サイトはあるが、2019 年のレンジャーの件で分かるように、川から 30m 以上は離れないといけない。

下流に行くと、キャンプ禁止の立て札が所々に立ててあった。それが図 16.11 である。レンジャーに文句を言った成果かもしれない。5~6 年前にはなにもなかった。トレイルは川から離れているが、下りて行けばキャンプ可能な場所がいろいろあるからである。

最後のスイッチバックを下りている時、休んでいる人がいた。名前はスコット。目立つバックパックだった。これはエクソス・プロで、オスプレイの大型パックの軽量化バージョンである。撮影させて貰った (図 16.12)。時刻は 12 時半だった。

図 16.8: みりん干し定食。2019 年撮影。

図 16.9: ピストル保持のレンジャー。2019 年撮影。

図 16.10: ライエル・フォーク上流の橋

図 16.11: キャンプ禁止のサイン。

図 16.12: スコット。エクソス・プロを使っていた。

図 16.13: ライエル・フォークの広がった所。

平な場所になると、歩きやすい。3 時、対岸に滝が見える場所に来た。クーナ・クリークであるが、今年は涸れていて、岩だけが見えた。空には少し雲が増えてきた。枯草が目立つ場所もあり、今年のメドウはあまり綺麗ではなかった。そろそろ疲れてきた。テントはアイランド・クリークとの合流点あたりを目指すことにした。

5 時過ぎになった。昨年、キャンプした所は通り過ぎた。スマホでガーミンの地図を見ると、テント・マークがあり、少し先だった。サイトはトレイルから右手に入った岩陰だった。例年だと、流水があるのに涸れていた。水は本流から調達すればよい。そこで、ここを最終キャンプとした。図 16.14 である。最後の夕食は図 16.15 のみりん干し定食となった。

図 16.14: ライエル・フォークでの最終キャンプ

図 16.15: トレイルでの最後の夕食。

トゥアルム・メドウからビショップ

朝早く起きて 6 時に出発した。トゥアルムのバスは 1 時 40 分の はずである。少し歩くとアイランド・クリークとの合流点があった。徒渉はバカバカしく簡単で、岩の上を普通に歩けた。渡ると、少し丘に登る。この場所は覚えていて、テントを張ろうかと思っていた場所である。

トレイルは少し円を描くように北向きに進路を変えて、丘状になる。川からは離れる。この辺りにテントがぽつりぽつりと3 張りあった。ここがみんながよく使うキャンプ・サイトである。

9 時半過ぎにラフリー・クリークを渡った。立派な橋だが、枯れ川になっていた。しばらく行くと、岩の場所があり、可愛い獣がこちらを見ていた。図 16.16 である。この辺りでは初めてみた。

図 16.16: オコジョがちょっと顔をだしていた。

あるハイカーとすれ違った。なんとなく気になって立ち止まって振り返ると、そのハイカーも立ち止まってこちらを見た。

「日本人ですか。」と日本語で聞かれた。

「日本人だよ。日本語上手だね。」と答えた。半年間、日本の大学に留学していたという。日本人か否かの判断は全自動で瞬時に行われる。このアメリカ人に日本人の雰囲気を感じたのかもしれない。シンクロナイズして、振り返ったのは同時だった。ちょっとびっくりの瞬間だった。この後は英語で話した。

トゥアルム・メドウのストアに着いたのは 11 時だった。バス停がない。張り紙を見ると西に移動している。しかも時刻が 1 時 10 分に変更されていた。時々、アメリカではこんなことがある。とりあえず、ストアで何か食べようと入った。昼でないので、朝のメニューしかない。ワンパタンでブリトーとコーヒーを頼んだ。それが図 16.17 である。

図 16.17: トゥアルム・ストアのブリトー

バス停は 50m ほど西の駐車場に移動していた。暇なので、ビショップまでヒッチハイクの試みでもと行先を紙に書いたが、止まる車はなかった。どうせ、バスに乗ればよいので、諦めて待つことにした。同じ頃にバス待ちをしていたのはハイカーが一人、もう一人は図 16.18 のフィリップさん。不動産会社をやっている人で山が好きという。暇だからよもやま話をした。同時に写真を撮ってもらった。それが図 16.19 である。

図 16.18: フィリップ、不動産会社

バスは予定通りに1 時過ぎに来て、マンモス・レイクスに2 時に着いた。ビショップへのバスは 5 時過ぎしかない。電話の SIM カードは 1ヵ月を過ぎたので、使えなくなった。messenger plus で千恵子に「VONS で果物でも食べて時間待ちする」と連絡した。

図 16.19: スルー・ハイク終了。400km ほど歩いた。

ぶらぶらと4 時半ごろバス停に戻り、バス待ちをした。遠くの雷がすぐそばに近づいて、土砂降りになった。ビックリして木の陰に隠れた。アメリカの雨はすぐに止むのになかなか止まなかった。そういえば、千恵子か晴天はお仕舞とinReach メールで書いていた。まさしく、完全に天気が悪くなった。

暗い空の下、6 時 20 分にビショップ着、千恵子が予約してくれたモーテル 6 にチェックイン、すぐそばのヴォンスで買い物をした。夕食は図 16.21ステーキ定食とした。ステーキを焼くのは簡単で、塩コショウをして弱火で片面 5 分ほど焼けばよいだけだから。

ビショップの地図を図 16.20 に示す。筆者のお気に入りはスーパーマーケットの Vons で、ここで何でも手に入る。続いて、Aaron Schat’s のレストラン、ここは図 16.22 のハンバーガーなどが美味しい。後は図の下の Great Basin Bakery で、サンドイッチが美味しい。ここは一番のお気に入りで、パンが塩分少な目で、テイクアウトの人が多い。店の隅っこでのんびりしていられる。なお、有名なパン屋さんは図中央の Erick Schat’s Bakery で多種類のパンがあり、サンドイッチも多い。ただ、塩分が多いパンが多く、騒がしいので、苦手である。

図 16.20: ビショップの地図

図 16.21: VONS の肉でステーキ。

ジェイムズさんからの連絡が途絶えた。マウント・ウィットニーへのアプローチのはずだが、天候が悪化してきた。かといって、逃げ道はない。天候の良い時を狙って登って下りるほかない。丈夫な息子が一緒のはずだから大丈夫だろうが、疲れ果てたのかもしれない。この数日後にロスを離れたが、その時はマウント・ウィットニーは雷雲に包まれていた。

ジェイムズさんのフェイスブックは半年ほど更新されなかった。マウント・ウィットニーの頂上の写真もない。おそらく、疲れ果てて途中で引き返してウィットニー・ポータルに下山したのだろう。

図 16.22: アーロン・シャッツのハンバーガー。安定した美味しさ。

図 16.23: お気に入りのグレイト・ベイズン・ベイカリー、居心地のよい店。

図 16.24: グレイト・ベイズン・ベイカリーのサンドイッチ

振り返ってみると、北向き JMT は天候の安定した 7 月末から 8 月上旬にマウント・ウィットニーを経由するので、大きな利点の一つだろう。ハイシェラの夏でも 8 月下旬は天候が悪化する。

ランバート・ドーム

トゥアルム・メドウに一日滞在するなら、サイドトリップの一つとしてランバート・ドーム (図 16.25) に登るのもよいだろう。トレイルヘッドはウィルダネス・オフィスの傍の駐車場の近くにある。少し分かりにくいが、トレイルヘッドからは 1 時間以内に山頂に着く。岩山で、ロープも何もないので、落ちるとお仕舞である。筆者は一度で懲りた。高い所が好きな人には良いだろう。

図 16.25: ランバート・ドーム。2009 年撮影。

ランバート・ドームの北側にはドッグ・レイクがあり、ぐるっと回ってトゥアルム・メドウに戻れる。もう少しハイキングを楽しみたければ、川沿いの PCT を歩いてソーダ・スプリングなどを見学すればよい。

<最終章(第17章)へ続く>

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村上 宣寛

1950年生まれ。元富山大学名誉教授。専門は教育心理学、教育測定学。アウトドア関連の著作は『野宿大全』(三一書房)、『アウトドア道具考 バックパッキングの世界』(春秋社)、『ハイキングハンドブック』(新曜社)など。心理学関係では『心理テストはウソでした』(日経BP社)、『心理学で何が分かるか』、『あざむかれる知性』(筑摩書房)など。近著に、グレイシャー、ジョン・ミューア・トレイル、ウィンズといった数々のアメリカのロングトレイルを毎年長期にわたりハイキングしてきた著者のノウハウ等をまとめた『アメリカハイキング入門』『ハイキングの科学』(アマゾン)がある。

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