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約30年ぶりにミシンを触るアウトドア好きがオリジナル筒型スタッフサックを作ってみた【コロナ禍でもできるアウトドア】

山に行けないもどかしい日々が続きます。そんなときはひとつ、アウトドア道具を自作してみてはいかがでしょう?

山道具は今でこそ、相当ニッチな分野ですら、それ専用の道具がどこかしらのメーカーの手によって開発され、販売されるようになっています。ところが数十年前のアウトドアは、そこそこ知られたアクティビティであっても、自分の用途やスタイル適した道具がよりどりに選べて手軽に手に入るなんてことはまずありませんでした。無いものは自分で作る、もしくはどこか別のもので代用する以外に方法はありません。

例えば毎度沢登りの話で恐縮ですが、野営する際に使用するタープも、当時は軽くて丈夫でコンパクトな沢用(ハイキング用)タープなんてものは存在していませんでした。このためガイドブックには堂々と工事用のブルーシートを好きな大きさに切り、ハトメ穴を開けて使う方法が載っていたものです。今では考えにくい荒っぽさではありましたが、もちろんこれも立派なアウトドア道具です。

あるいは十年ほど前のウルトラライト・ハイキングのブームとともに訪れた「Make Your Own Gear(MYOG)」の世界。超軽量バックパッキングギアを手作りで製作するガレージブランドの出現とともに、一般のハイカーの間でも、荷物の軽量化を合言葉に、自分たちの創意工夫でさまざまな自作アイデアが発表され、議論されてきました。

ひるがえって2020年、大小さまざまなブランドから多種多様なニーズに合わせた山道具があふれるこの時代に山道具を自作する必要性は、ともすると減ったといえるかもしれません。ただそれでも「自分だけの唯一無二の道具を持つ」ということについての魅力や価値は、今でも決して色褪せることはありません。

あの時気になっていた、スタッフサック作りからはじめてみる

そこで今回は、こんなときだからこそ、これまでやろうやろうと思いながら諦めていた「自作道具」に初めてトライしてみようと思います。

何を作るかというと、初めてでも手軽に取り組め、さらに世の中になぜかありそうでないもの。ちょっと変わった「両開き・超ロングサイズ」のスタッフサックです。

このアイテムを思い立ったきっかけは、今を遡ること実に3年半前のオフラインイベント「Outdoor Gearzine Trailhead」での荒井裕介さんとのトークイベントで、荒井さんが見せてくれたお手製スタッフサックでした。何がどう便利なのかはこちらの過去記事を参照いただくか、下記のイベントの模様を収めた動画を御覧いただくとして、今回トライするのは、そこで紹介されていたやや小ぶりの衣類収納用(中サイズ)ではなく、同じコンセプトでテントやフライ・タープ・ハンモックも仕舞えるようなロングサイズを作ってみようと思います。。

 

実際のところスタッフサック自体は簡単に作れて、最初の自作道具プロジェクトとしては最適だと思います。サコッシュや、ポーチ、バックパックといったより高度な自作に挑戦する前に、まずはここから縫製スキルを磨いていくのがいいでしょう。

ちなみに初めにお断りしておくと、自分は道具の自作というものは正直一度もやったことありません。ミシンに触れるのも小学校以来。なのでこれはチュートリアルというよりも、体験記に近いです。ぶっちゃけいくつかの点で今回の道具作りはまったくの失敗でした…。

このため、今回紹介するのはあくまでも筆者が調べた限りで最も簡単だと思う方法を見様見真似でやってみたレポートです。これ以外にもさまざまな方法でスタッフサックを作成することができますし、ネット上には探せば日本語に限らずチュートリアルは無数にありますので、あくまでもひとつの参考として気軽に読んでみてください。そうした失敗やつまづきも含めてお伝えすることで、皆さんが道具の自作というものに抱いているハードルを下げるきっかけや参考になれば幸いです。

超ロング&両開きのスタッフサックを作ってみた

開始するために揃えたものは次のとおりです(もっと最適なものがあるかもしれません)。

ステップ1:生地の裁断

まずはスタッフサックの生地を切り出します。上の図のように、両開きスタッフサックを作るためには実際に作りたい大きさの横幅の2倍+2 cm、縦幅+6 cmの長方形を切り出します。実は今回、とにかく細長いスタッフサックが作ってみたかったため横幅18 cm、縦幅150 cmという極端なサイズで作ってみたのですが、これは正直いくらなんでも長すぎました。そのやらかしについては後述。

生地の種類について、基本的には耐水性のあるリップストップナイロンで作ろうと考えていましたが、今回は初めてということもあり、単純に縫いやすそうだったので、ごくごく軽い気持ちでPUコーティングのリップストップナイロン生地を選択。ただしこれも後々のやらかしの原因となります。

カットした布(折りたたんだ図)、後で分かったけどこれは長すぎた。。

この際、普通に手で持って切るだけでは生地が滑るしたわむしで、とにかく生地がまっすぐに切れません。切るときにはテーブルにクランプ(大きな洗濯バサミなど?)でできる限り生地を固定して、張った状態で切ると直線に切りやすかったです。まぁ、厳密に真っ直ぐ切れなくてもスタッフサックならある程度何とかなりますので、思い切りよくハサミを入れていきます。

真っ直ぐに切っているつもりでも知らないうちに間違いなくズレていく。切るときにはなるべく生地を張って、最後に帳尻を合わせるつもりで思い切りよく行くしかない。

ステップ2:紐通し孔の入り口

生地の縦上下端(スタッフサックの入り口になる部分)から5 cm の部分の左右に1 cm の切り込みを入れます(下写真)。
※今回は上下に入口があるので、これは上下両方で行います。

生地の縦側端より5cm下のところに、1cmの切込みを入れる。

アイロンを準備し、先ほど入れた切り込み部分を内側に折って、アイロンを当てておきます(下写真)。後ほど縫っていく部分なので、型がつく程度で大丈夫です。なおPUコーティングの部分は熱で溶けないよう、アイロンの温度を上げすぎないように。

裏地はアイロンで溶けやすいので、低温でそっと当てていく。

ステップ3:紐通し孔のしつけ

先程の上下端を、1 cm 折り返してアイロンを当てます(下写真)。

さらに切り込みのところまで折り返してアイロンを当てていきます(下写真)。この折返しと縫い目位置のイメージは冒頭で示したイメージ図を参考にしてください。

ステップ4:紐通し孔を縫う

一通りしつけをしたところで、いよいよ実際に紐通し孔を縫っていきます。はじめに切込みを入れたところを縫っていきます(下写真)。

最初に書きましたが、裁縫は小学校以来30年ほどぶりなので、基本的に説明書以上のことは何も分かりません。昔どこかのブログで読んだ限りでは、どうもアウトドア道具の裁縫では、生地が薄いのでなるべく細いミシン針を使うこと、そして糸はなるべく強い(太い)方がよいということらしいので、今回は9号のミシン針と50番のポリエステル糸というものを新たに用意し、セットしてみました。ただ作ってみてからの実感としては、スタッフサック程度ならば実際のところはそこまで神経質になる必要はなさそうです。

縫い方は普通に直線縫いで、最初と最後に返し縫いを入れる。

次に折り返した部分をガーッと縫っていきます(下写真)。先程の部分と違って縫う距離が長くなりますので、まっすぐ縫っていくのが少し困難になってきました。

そこまでシビアな場所ではなかったので、運良く何とか縫っていくことができました(このあたりから「何か、行けそうな気がする !?」という油断がはじまる)。

ステップ5:筒状に縫っていく(挫折)

紐通し孔ができたところで、次は筒状の収納部分を作っていきます。生地を裏返しの状態で半分に折り、切込みを入れたギリギリの部分(1 cm)を縦に縫っていきます(下写真)。

ここで問題発生。先程までのノーマル装備で縫いはじめたところ、生地に激しくシワがよってくるわ、PUコーティングが滑らずまっすぐ縫えないわで、とんでもないことになってしまいました(下写真)。結構縫い進めてしまったため糸を外すのは一苦労だし、薄手のナイロン生地の場合、一度縫った場所は針によって穴も空いてしまいます(本来縫うべきラインよりも誤って外側を縫ってしまっていたのは不幸中の幸いでした…)。

コーティングした薄手のナイロン生地は下手に縫うとよれる・ずれる。ここで教訓、どこかで試し縫いすること、ゼッタイ!

あわてて調べてみたところ、原因はどうも以下の3つくらいあるようです(普通に裁縫できる人であれば「そんなの基本中の基本」ってところでしょうけど…)。

かくして急遽、手芸愛好家の聖地であるユザワヤへ。ミシンの機種に合わせた「テフロン押さえ」は無事GET。仮止めのための方法はいくつかあるらしいのですが、より簡単で確実そうな「しつけテープ」による両面テープ方式を採用。最後に水で消える白インクの「チャコペン」を購入してきました。

早速しつけテープで折り重ねた端を丁寧に留め、定規とチャコペンでまっすぐ縫い代をつけていきます。

ステップ6:筒状に縫っていく(リベンジ)

完璧に準備を整え、あらためて再度縦の筒状部分を縫っていきます。さすが、テフロン押さえにしてしつけテープを貼った生地は、先程とは打って変わって何事もなかったかのようにスムーズに縫い進めることができました(下写真)。

紐通し孔のすぐ下は、数cm余裕をもたせた位置から縫い始めると入り口にゆとりを作ることができます。余裕をもたせた部分は適当に折り畳んで縫っておきました。

紐通し孔の直下にゆとりをもたせる。この部分、もっといい方法があるはずですが、今回は分からなかったためほんと適当にやってしまってます。

端から端まで縫い上がると、上下に入り口がある筒型のスタッフサックが出来上がります。縫い終わったらしつけテープをはがします。

ステップ7:紐通し

上下両端にある紐通し孔にドローコード(細引き)を通します。この時、裁縫用の紐通しがあると便利です。ドローコードを通したら、末端をライターなどで焼き、更にコードロックを通します。

ステップ8:完成!

最後に全体を裏返すと、上下入り口の筒型スタッフサックの完成です。

縫い目を見てみるとしっかりと縫えています涙。

実際に使ってみた

あれこれ予想外の事態に対応していたため数日かかってしまいましたが、制作時間は実質的には1~2時間といったところ。終わってみれば非常に手軽に作ることができました。

早速周りにあっためぼしいものを入れたりしてテストしてみると、予想だにしなかったことがいくつか判明してしましました。このスタッフサックの期待通りの点と、予想に反してダメダメだった点を上げてみます。

いいところ

両方から出し入れ可能

目定期としては、テントやシュラフ系の「大きくかさばるクシャクシャのアイテム」を気持ちよくパッキングするために作ったもなので、底がしっかり閉じられていなくてもOK。むしろ左右どちらかからも出し入れできる方が、上からインナーテント、下からフライやグランドシートなどを出し入れするなどできて使い勝手はよいのです。

また上下が空いているため、タープやハンモックなどをセッティングした後に、張り綱にこのスタッフサックを通しておけばなくすようなこともなく、収納もラクだったりします。

ザックの隙間にしっくりとハマる

個人的にはこの超ロングスタッフバッグの一番のウリは、このパッキングしやすさではないかと思ってます。長くてギュウギュウに圧縮しないスタッフサックは下の写真のようにバックパックの底部の形にしっくりとハマってくれます。もちろんその他の隙間にも柔軟に収まってくれるため、非常にパッキング上手なわけです。

ダメダメだったところ

摩擦が大きすぎて出し入れしにくい!

1.4mの長さはいくらなんでもやりすぎた。さらにPUコーティングのリップストップナイロンは想像以上に滑りが悪く、細い筒の中に荷物を詰めていくとすぐに摩擦で押し込みにくくなてしまいました。何という誤算。はっきりいってこの素材と筒の幅であれば、奥行きは50cmくらいが限度です。

紐通し孔のドローコードも滑りが悪く、いちいちしごかないと締められません。

まとめ:まだまだ改善の余地ありだけど、失敗も含めて自作道具は楽しい。

道具と準備さえ整っていれば、作業自体は至って簡単、それが初めての自作道具の印象です。一方でただ作るだけならば簡単だけど、自分が思い描いた通りに使いやすい道具を作るのは思った以上に一筋縄ではいかないぞ、と、あらためて道具作りの奥の深さも実感しました。

もし完成品として見ていたらすぐに気がつくような粗なのに、いざ自分で作るとなると、大きな部分でも作っている時点で気づくことは容易ではないということもよく分かりました。

具体的には、特に材質とサイズ感によって予想以上に滑りにくくなってしまったことから、使い勝手が悪すぎる点をクリアする必要がありました。分かったのは、細長いスタッフサックを作るのであれば、材質はシルナイロンなどの滑りの良いなめらかな素材で作ること、できる限り直径も大きく、そして長さを短く(今回の半分程度の70cm程度に)することで改善できるのではないかと思います。

ともあれ、ついに自作動画の扉を開けてしまいました。思った以上にのめり込みそうです。はじめた以上はこのままでは終わるつもりはないし、恐ろしいことに、新たに作りたいものがあれこれ浮かんできてしまっています。今はまだ言えませんが、今後も随時このサイトで発表していけたらと思ってますので、乞うご期待ください!

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