達人のU.L.パッキングってどんな感じ?02 パッキングの極意はスタッフサックの使い方にあり
先日からはじまりました「Outdoor Gearzine Trailheadプレゼンツ 荒井裕介パッキング講座2016」のまとめ動画シリーズは早くも第2回目。今回は雑多な荷物を整理しすき間なくパッキングするために不可欠のギア、スタッフバッグ(スタッフサック)についてお伝えします。
荒井さんのこだわっているスタッフサックについて、おすすめの形や大きさ、そして使い方のコツなどを、相変わらずの歯に衣着せぬ物言いでぶった切ってくれました笑。教科書的な知識ではおさまらない実践的なノウハウは、U.L.派でなくともきっと参考になるでしょう!
当然ですがあくまでも個人の経験に基づくオピニオンですので、それぞれの内容を鵜呑みにするのではなく、個々人の賢明な判断力と広い心というフィルターを通して楽しんでください。
Outdoor Gearzine Trailheadとは?
「Outdoor Gearzineとはじめる秋の山登り」というテーマで2016年11月、2週間にわたって代々木公園近くのギャラリーにて行われたOutdoor Gearzine主催のリアル展示イベント。秋のおすすめ山道具の展示あり、道具の購入アドバイスコーナーあり、貴重なアウトドアギアの物販あり、テスト終了後の中古山道具のフリマあり、山岳写真家の荒井裕介さんのトークイベントありと、これから山に登りたい、最近山に登りはじめた人たちにも楽しめるさまざまな企画を実施、このサイトの読者の方にも、ふらっと訪れた山好きの方にも大好評のイベントとなりました。詳しい企画などはこちらの過去の告知ページをご覧ください。
荒井裕介さん プロフィール
山岳写真家。SHARA PROJECT主宰。父親の知人がマタギであったこともあり幼少より濃密な自然に触れながら育つ。トラディショナルなトレッキングからU.L.ハイキング、スキー、MTB、ハンティングやサバイバル技術、アウトドアギアなど幅広いフィールドについて造詣が深く、刃物にも精通。毎年、秋冬にはハンティングのため山にこもり、解体処理から調理を山中で行うブッシュクラフターでもある。
「達人のU.L.パッキングってどんな感じ?」連載一覧
目次
ウルトラライトハイキングのパッキング術 ~パッキングしやすいスタッフサックのコツ~
例によって動画の登場人物は、左が荒井さん、右の聞き手がぼく(久冨)です。
動画音声書き起こし
荒井さんが今おすすめするスタッフサックは?
荒井裕介:今これ自作なんですけど、このスタッフバッグ、両側から入るんですね。ビニール袋に入れてもらった汚れ物をこっち(左)から入れる。で綺麗なものはこっち(右)から出すっていう風にすると、真ん中に仕切りのあるものより便利。真ん中で仕切りがあると、(使った物を入れていって)反対側に新しい物が1枚残ってたらそこには入れにくいんですよ。ということは延々と左から入ってって(右側から出ていき)また同じ大きさに戻るという状態にしてあげるのが一番良くて。
さらに、左右の紐の色は変えてあるんで、どちらに汚れ物が入っているか、どちらからキレイな物が出せるか分かるようになってます。
スタッフサックへのパッキングで気をつけていることは?
荒井裕介:今これ、くしゃくしゃに入れているんですけど、ウェアはきちんと畳むなっていうのがパッキングのセオリー。きちんと畳んで巻いて入れていくと、全部苔巻き状になっちゃうんですね。そうすると(全体が固くなって)入れにくくなってしまうので、畳まず適当に詰めてもらうのが一番良くて。そうするとつなぎ目がボコボコともならない。 だから入れやすい。
詰め込みすぎないのが上手なパッキングへの近道?
荒井裕介:アメリカ製品(の付属スタッフサック)はざっくり適当に詰めれば入る大きさが多いのですけど。これ、メーカー名出して愛用者がいたら申し訳ないんですけど、ファイントラックのツェルトとか(ギリギリのサイズすぎてきっちり畳まないと)入らないんですよ※。ぐーっと入れてぐっと巾着絞ると「ポスっ」て出てきちゃうんで。そういうパツパツの状態で小ささをアピールするよりも、ざっくり詰められて、ザックの中で形が変われるものっていうのが(パッキングでは)綺麗に入ります。
久冨:つまり(ギリギリサイズの)既製のスタッフバッグは使わない方がいい?
荒井裕介:そうですね。既製のスタッフバッグでもコレ(モンベルのバーサライト)は意外と頭がよくできてます。これはくしゃくしゃのまましっかり入るので。
※ちなみに、ファイントラックのツェルト自体は荒井さんも動画の他の部分では1枚目のツェルトとしておすすめするくらいにおすすめです。念のため。
動画解説
さて今回も相変わらずかなりエクストリームな話でしたが、ぼくたちでも使えそうなエッセンスがいくつも隠されていました。その辺をなるべく丁寧に補足していきます。
自作のスタッフサックについて
荒井さんのおすすめしている「両開き・筒型・仕切りなし」スタッフサックの利点はまとめると以下のようなものです。
- 左右両開き(ペアー型)でキレイな物と汚れ物をまとめて整理しやすい。
- 細長い筒型のため形が柔軟でパッキングが楽。
- 仕切りがない分空間的なロスがない。さらに軽量・コンパクト。
1.ペアー型スタッフサックの利便性
動画でも触れていましたが、左右両方向に口が付いているモデルは現時点でもいくつかあります。代表的なのはグラナイトギアのエアペアーというモデル。ただ仕切りが真ん中に固定されています。荒井さんの指摘していたように、ペアのアイテムをまとめられることはできても、使用前・使用後といった使い方は確かにしにくい構造です。
一方、日本のパーゴワークスから出ているビフォーアフターは、その辺も上手く解決しています。このモデルは仕切りがある程度余裕のある可動式となっているため、両側で同じ量入れることも、荒井さんの言うような「はじめは片方の袋に衣類を入れて、着終わったら片方の袋に放り込んでいく」といった便利な使い分けもできます。ぼくらのような一般人ならこれくらいでも十分に満足できるでしょう。
2&3.細めの筒型、仕切りなしという形状
常人であればここで満足ですが、達人のこだわりはここからが面白い。
このビフォーアフターもそうですが、市販されているスタッフサックのほとんどはどうしてもわりと太めの円柱形か、もしくはいわゆる巾着型の長方形が多いですね。これらは大型のバックパックで使う分にはある程度使いやすいものの、中型以下のバックパックではどうしても底面積が広いため中身が少量だと全体が平べったくなりまとめにくいということが確かにあります。
対して荒井さん自作モデルはどうかというと、細すぎず、太すぎずの長い筒型。これは横にしてパックの内壁に添うように配置するも良し、縦にして入れるのも良しと、いびつなすき間でも柔軟に収納できるという形。もちろん、すべてこの形の袋だけで上手くいくわけではありません。ただ、今売っている同じような形のサイズ違いだけでは必ず埋められないすき間が出てきてしまう。それに加えてこのような「すき間を埋められる」柔軟な形状のスタッフサックがあることでパッキングの効率は飛躍的に高まるはず。そのかゆいところに手の届く工夫にグッときたわけです。
しかも仕切りをなくしてしまうという、袋としての基本的な機能すら失いかねない思い切った削ぎ落としも市販モデルではなかなかできることではありません。ただ一見大胆すぎる仕組みも、経験と試行錯誤に基づいて必要な機能を厳選しているだけに、そのこだわりにはぼくらにも通じるような普遍性が確かにあります。こういった自分なりの割り切りによってどんどん極めていけるのがウルトラライトの楽しさであり、DIYの醍醐味といえるのでしょう。とにかくここまでの思い切った仕様は市販品では見当たりませんので、自作しかありません。かくいうぼくも近いうちにやってみようと思いますが、もし読者の方でもやってみたという人がいればぜひ教えてください。
ちなみに、現状市販されているスタッフサックの中でパッキングしやすい形状としてわりと好んで使っているおすすめは、以下のオスプレーのULドライサックです。お弁当型というか、直方体型のスタッフサック。3・6・12・20・30Lのサイズバリエーションがあります。一般的にバックパックの底面は角丸の長方形ですから、この形であることによって思ったよりもパックの内壁にマッチしてくれます。防水仕様しかないのがやや余計に感じることもありますが、現状ではこの形の使いやすさに免じてガマンしています。
細かいひと工夫によってパッキングのしやすさはかなり変わってきます。普段こんなもんかなと思っていた人も、今一度スタッフサックを見直してみてはいかがでしょう?それでは今回はこの辺で。また次回をお楽しみに!