
パタゴニア「トレイル・クラフト・ベスト」&「ダート・クラフト・パンツ」レビュー:体のコアを風から守ってくれる軽量ベスト&動くほどに涼しい軽快ロングパンツ
登山をするときには登山用ウェアを着る――。当然といえば当然の事実ですが、実は身体全体を使ってさまざまな動きが求められる登山では、ジャンルの枠を飛び越えて登山以外の用途やアクティビティ向けに作られたウェアでも、登山やハイキングに見事にハマったりするることがまれにあったりします。
例えば今回紹介するパタゴニアのマウンテンバイク・コレクションに属する「トレイル・クラフト・ベスト」と「ダート・クラフト・パンツ」がまさにそれ。スペックや外観から「これは!?」と思いフィールドで試させてもらったところ、それぞれが持つユニークな機能はそれ自体非常によくできているし、なにより登山やハイキングでも期待以上によく機能してくれました。早速どこがどうハマったのか、レビューしていきます。
目次
トレイル・クラフト・ベスト:主な特徴
トレイル・クラフト・ベストは多用途に使える防風性を備えたベストです。フロントパネルの素材は透湿性と伸縮性に優れたリサイクル・ナイロンのリップストップで風を遮断し、吸湿発散性を備えたニットの裏打ちが柔らかい質感。バックパネル、サイドパネルは超軽量なリサイクル・ポリエステルのストレッチ織りリップストップで動きやすく、耐風性と速乾性も提供。PFASを意図的に使用せずに製造されたDWR(耐久性撥水)加工済み。素材は全て100%リサイクルのナイロンとポリエステルが採用されています。
ジッパー式ポケットは前に2つ、左背面に1つ配備され、後部のポケットは角度がつくように設計されていることで中央に荷重を配分されるようになっています。重量は104.1g(Mサイズの実測値)で、着用していても全く重さを感じず、また左前ポケットに収納可能なパッカブル使用でコンパクトになり携帯性に優れます。フルジップ使用になっていることで脱ぎ着が容易で、トレイルでのレイヤリングをストレスなく行うことができるベストです。
お気に入りポイント
- 着用していて全く重さを感じず、さらっとした着心地
- 軽く、コンパクトに収納可能
- 体の「コア」な部分を風から守ってくれる
- ベストという抜けの良さと防風のバランス
- バックパックを背負うことで汗濡れしやすい背面の速乾性
気になるポイント
- 風のプロテクト力を優先させるならロングスリーブ
主なスペックと評価
項目 | メンズ・トレイル・クラフト・ベスト |
---|---|
公式重量 | 108g |
素材 | 1.2オンス・リサイクル・ポリエステル100%のストレッチ織りリップストップ。PFASを意図的に使用せずに製造されたDWR(耐久性撥水)加工済み |
ポケット |
|
カラー | Bundle Green、Black |
フィット | レギュラーフィット |
参考価格 (2025年7月現在) | ¥17,050 (税込) |
Outdoor Gearzine 評価 | |
快適性 | ★★★★☆ |
機動性 | ★★★★★ |
耐久性 | ★★★★☆ |
通気・速乾性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★★☆ |
機能性 | ★★★★☆ |
レイヤリングしやすさ | ★★★★☆ |
トレイル・クラフト・ベスト:詳細レビュー
着用していて全く重さを感じず、さらっとした着心地で動きやすい
トレイル・クラフト・ベストの重量は104.1g(Mサイズの実測値)。実際に着用してみると全く重さを感じることはありません。生地の質感はさらっとしており、着心地はまずまず。と、いうのも山でのレイヤリングを組み立てる際、ベストというチョイスをしてこなかった筆者としては新鮮な感覚でした。ベストということもあり腕を上げてみたり体の動きに対してウェアがツッパたりすることもなく、胴部を包み込んでくれ、実際にフィールドで行動中に着用してみると「動き」に対してのストレスは皆無。ベストがこんなに着心地がいいことを初めて体感した瞬間でした。
長時間行動する登山やハイキングでは下半身の運動がメインになるわけですが、歩行サポートのためトレッキングポールを使用する際など腕振りによる上半身(腕)の動きもあります。ロングスリーブのウェアに対し、「動きにくい」というストレスを抱いたことはないし、使いにくいと感じたこともありませんが、ベストはとにかく動きやすく使いやすかった。これが素直な感想です。テストのために訪れたのは標高が3,000mを超える南アルプスエリアの稜線。途中、両手を使い、よじ登るような箇所もあったのですが、トレイル・クラフト・ベストは腕を上げた際も引っかかるものがないため非常にスムーズ。フルジップ構造で脱ぎ着は容易で、行動中のレイヤリングもしやすかったです。
ポケットは前面にジッパー付きのオーソドックスなポケットが2つと、背面に1つ。左側からアクセスする背面ポケットは角度がついているため、中に物を入れた時に中央に重心がくるようになっていることで偏りを感じることなく使うことができます。大きめのバックパックを背負った際は背面のポケットは使えませんが、ライトウエイトなバックパックを背負った時などにはマップや手拭いなどよく使う物を入れておけばすぐに取り出すことができ便利です。

前面に2つ、背面に1つ配置されたジッパー付きポケット
軽く、コンパクトに収納可能
着用していて全く重さを感じないトレイル・クラフト・ベストは左前ポケットに収納可能なパッカブル仕様。収納するポケットはゆとりのある大きさで収納しやすく、瞬時に収容可能。収納した状態でも小さいですが、さらに圧縮も可能でかさばらないため、バックパックに忍ばせておきやすいです。
軽量で、コンパクトなトレイル・クラフト・ベストは夏山のメインのミッドレイヤーとして組み込むのもいいですが、メインで組んだレイヤリングではやや不安がある時にお守りのように携帯するのもおすすめで、レインウェアをウィンドシェルとして代用する人にとってはかなり使い勝手のいい組み合わせにできると感じました。
体の「コア」な部分を風から守ってくれ、抜けとプロテクトのバランスの良さ
体の胴部をプロテクトしてくれるトレイル・クラフト・ベスト。その本領を感じられたのは強風の稜線を歩いた時です。樹林帯ではアンダーウェア1枚でもじんわりと汗をかくような環境から森林限界を超えて稜線へでると状況は一変。風を受け続ける稜線ではアンダーウェアのみではあっという間に汗は乾き、その際に体の熱も奪われ運動能力を低下させていきますが、その際にトレイル・クラフト・ベストを着用していたため、体の胴部は体温を奪われることなく行動することができました。
トレイル・クラフト・ベストはフロントパネルとサイド、バックパネルに異なった素材が使用されており、フロントパネルには透湿性と伸縮性にを備えたリップストップ構造になっていることで前から受ける風を遮断し、またDWR(耐久性撥水)加工がされていることにより軽度の水も問題なし。バックパネルとサイドパネルは超軽量なストレッチ織りリップストップが採用されていることで耐風性に加え、速乾性が高められています。バックパックを背負うことで熱と汗が溜まりやすいサイドから背面の速乾性が高められた構造は登山やハイキングで大いに活躍してくれました。
マウンテンバイクでは基本的に進行方向、つまり前から風を受けながら進むため、前面は耐風性、耐久性が高められ、サイド、背面は速乾性が優先される構造は理にかなっています。その構造が稜線歩きにピタッとマッチしてくれました。
ベストの使いやすさに感動してしまった筆者。胴部を守るだけでこんなに風の影響が受けずに行動できるとは思ってもいませんでした。ベストであることで脇などから風が入ってきやすいのではと思っていましたが、フィット感も高いため全くそんなことはなく、むしろ腕が出ていることによる抜け感が程よくて快適。体のコアな部分をプロテクトするだけで体の体温を奪われることを防ぎ、肩から腕にかけては抜けの良さを維持することで非常にバランスが良く、快適に行動することができました。襟が立った構造になっていることでジッパーを上げることで首周りもブロック。襟は首の半分ほどの高さですが、ジッパーガレージも備わっているため、違和感は感じず、さらっとしなやかな質感で不快感はありません。

フロントパネルには耐風性・の高い素材が採用されていて、DWR(耐久性撥水)加工により多少の水なら弾いてくれる
風のプロテクト力を優先させるならロングスリーブ
筆者が南アルプスへ訪れた際、トレイル・クラフト・ベストが活躍してくれたのはレインウェア(透湿性が高いモデル)との併用をしていたためです。体の胴部を守ってくれることで防風と抜けのバランンスがいいのは間違いないですが、それは風速が5〜10mくらいでのはなし(気温は大体10℃)。より低温で、強風の環境ではやはりロングスリーブタイプのシェルジャケットの出番です。そのため、標高が高く、強風に見舞われやすい稜線エリアエリアにおいてトレイル・クラフト・ベストだけに任せるのはNG。ロングスリーブのウィンドシェルジャケットとの切り替えや、併用を前提としたレイヤリングにすることで幅広く対応することができます。
ダート・クラフト・パンツ:主な特徴

身長185cm、普通体型で33インチを着用
マウンテンバイクに乗った際にギアにパンツが引っかかるこのないすっきりとしたデザインながら、大きく足を上下運動する際も全く引っかかることがない4方向に伸縮する平織りのXLANCE素材と4.4オンス・リサイクル・ポリエステルが使用されている抜群の伸縮性を備え、しっかりとした耐久性のあるライディングパンツ。
内ももと膝の裏にレーザー加工で通気孔が設けられていることでパンツ内の蒸れを逃してくれると共に、動くたびに通気孔から新鮮な空気が取り入れられることで通気性が高く、長時間の行動を快適にし、DWR(耐久性撥水)加工された生地は雨や泥水などを弾いてくれます。
腰に沿ってカーブを描くように立体的に設計されたウエスト部は体にフィットし、余計なものが一切ついていないため、バックパックを背負った時にウエストベルトを装着しても違和感がありません。両ももの外側に設けられたジッパー式ポケットは中身が落ちにくい封筒型で、ももの外側に配置されていることで足の上下運動を行なっても邪魔になりません。ポケット内側にはベンチレーションになる穴が空いており開放することで通気性をたかめる効果もあります。機能性の高さとデザイン性から、さまざまなアウトドアアクティビティにおいて多用途に使用することのできるパンツです。
お気に入りポイント
- すっきりとしたシルエットで圧迫感のないフィット感
- 伸縮性の高さとひざ回りのほどよいゆとり
- レーザー加工により通気孔があることで動くほど涼しい
- ももの外側に配置されたポケットは上下運動の邪魔にならない
気になるポイント
- 通気孔が空いているものの、ショートパンツに比べれば暑い
- ウエストのフィット感の調節ができない
主なスペックと評価
アイテム名 | メンズ・ダート・クラフト・パンツ |
---|---|
公式重量 | 255g |
素材 | 4.4オンス・リサイクル・ポリエステル82%/4方向に伸縮する平織りのXLANCE素材18%。PFASを意図的に使用せずに製造されたDWR(耐久性撥水)加工済み |
ポケット | ももに2つのジッパー式封筒型ポケット |
カラー | Rock Wash: Forge Grey、Black、Raptor Brown |
フィット | レギュラーフィット |
参考価格 (2025年7月現在) | ¥20,900 (税込) |
Outdoor Gearzine 評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
機動性 | ★★★★☆ |
通気速乾性 | ★★★★☆ |
保温性 | ★★☆☆☆ |
重量 | ★★★★☆ |
機能性 | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ |
ダート・クラフト・パンツ:詳細レビュー
すっきりとしたシルエットながら圧迫感のないフィット感・伸縮性の高さとひざ回りのほどよいゆとり
着用してみてまず驚いたのは見た目のシルエットに対してのフィット感とゆとり。基本的にゆとりのあるパンツが好きな筆者としては体型にフィットしすぎるパンツはやや苦手で、それは圧迫感や窮屈さを感じてしまうためです。ダート・クラフト・パンツは体型にフィットするスリムなシルエットながらも圧迫感や窮屈さがなく、履いていて快適。履いた直後はなぜこんなに履き心地がいいのか分からなかったのですが、膝から腿にかけてはゆとりのあるデザインになっており、圧迫感がない立体縫製で、ウエスト周りは腰の形状に沿ってゆっくりとカーブを描くような構造になっていてフィット感は高め。膝から裾にかけてはバイクのギアなどが干渉することがないようスリムなカッティングに。それに加えどんな動きにも抵抗を感じない4方向への高い伸縮性を備えた平織りのXLANCE素材が着心地を最大まで高めてくれています。
ももの外側に配置されたポケットは上下運動の邪魔にならない
脚の激しい上下運動を想定し設計されているダート・クラフト・パンツはポケットの位置と形状も通常のパンツとは異なります。ポケットの位置は太ももの外側に配置され、通常のポケットの位置よりもやや下方に位置することで上下運動による動きの妨げになるのを防いでくれています。
ジッパー付きで、封筒型のポケットは中身の落下を防いでくれ、またポケット内の上部にはパンツ内に繋がる穴が設けられていることで開放した状態にすると、通気性を高めることもできます。見た目はシンプルですっきりとしたシルエットですが、快適性を高めるための機能を備えたパンツだということを実感しました。
ウエストの調節ができない
ウエスト部には平ゴムが配置されていることでベルトなどを使わなくてもパンツが落ちてきてしまう心配はありません。ゴムの程よい伸縮性でお腹に圧迫感を感じることなく、バックパックのウエストベルトを装着した際も干渉することがなく快適ですが、フィット感の調節ができないためサイズ選びは慎重に。購入の前に必ずフィッティングを確かめましょう。
レーザー加工により通気孔があることで動くほど涼しい
ダート・クラフト・パンツはレーザー加工により内ももと膝裏に小さい「穴」がたくさん空いています。穴が空いていることで動きと共に新鮮な空気が取り入れられ非常に涼しかったです。
マウンテンバイクでは進行方向からの風を受けますから、前面は風や雨、または地面から跳ねる泥水、小石などに備えて耐久性が高められていて、影響の少ない内側や裏には穴あけ加工がされていることで快適性を高められています。
実際にフィールドでテストをした時には何とも言えない感覚でした。ショートパンツでもないのに動くとスーっと空気が取り入れられる感覚は初めての体験。止まっている時にはそこまで通気性は感じませんが、動くほどに空気が取り込まれてくるため、歩行中は熱を逃し続けてくれます。
ショートパンツに比べれば暑いが耐久性の高さと通気性のよさは秀逸
穴あけ加工が施されていることで通気性が高いのは事実ですが、ショートパンツには敵いません。膝から下が全く覆われていないショートパンツの方が気温の高い環境では涼しく快適なのは間違いありませんが、登山において安全面の観点から「長袖・長ズボン」が基本とされ、ショートパンツをチョイスするにはシーンを選ぶ必要があります。ショートパンツは圧倒的な開放感で、通気性が高く、今では短パンで登山をしている人も多く見かけます。しかし、ショートパンツでどこでも行けるかというとそんなことはありません。危険の少ないトレイルを長く歩く際にはショートパンツに問題がなくとも、クサリ場や岩稜帯が連続するような急峻な山ではロングパンツを選択するのがマストでしょう。
危ないのは分かっているけど、本音は快適さも犠牲にしたくない。そんな人にとってダート・クラフト・パンツはおすすめです。進行方向の前面は耐久性の高い素材が使用されているため岩稜帯などを歩く時でも安心で、ショートパンツほどではないにしても通気性は高く、行動中の熱を放出してくれるため快適。安全面と快適さのいい所取りをしたようなパンツです。
穴が空いていることで冬季の登山には適さず、使用時期は限定的にはなってしまいますが、今回南アルプスの稜線を歩いてみて(風速5〜10m、気温約10℃)、単体の使用は夏季がメイン、アンダーをプラスすることで残雪期から晩秋まで3シーズン着用できる手応えがありました。生地はしっかりとしているため、雪の降らない低山であれば冬も快適に使用することができそうです。
まとめ:カテゴリーの枠の外にはまだまだ新しい発想や便利な機能がころがっている
パタゴニアのマウンテンバイクカテゴリーの「トレイル・クラフト・ベスト」「ダート・クラフト・パンツ」を紹介しました。
マウンテンバイクを使ったアクティビティに特化し作られたアイテムはカテゴリーの枠を越えて登山やハイキングでも活躍してくれました。現在の登山やハイキング用のアイテムにはない斬新でユニークな機能を持ったアイテムは可能性を広げてくれるワクワクするような機能が満載です。山で愛用しているウェアに対して、「こんな機能があったらいいのに」は、意外とカテゴリーの外にあるかもしれません。しかもそれは少しではなくたくさん。これからもOutdoorGearzineでは機能的でユニーク、快適性が高い製品を紹介していきたいと思います。
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Yosuke.C(ヨウスケ)
不便にならない程度に「できるだけ軽く」をモットーにバックパックひとつで行動する人。春から秋にかけては山奥のイワナを追いかけて渓流へ釣りに。 地上からは見ることのできない絶景を求めて山を歩き。 焚火に癒されたくてキャンプ。 白銀の山で浮遊感を味わいにスノーボード。一年中アウトドアを楽しんでいるフリーのライター。 自身の経験や使ってみて良かった道具を発信しています。