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SOTO「TrekMaster(トレックマスター)ST-331」レビュー:CB缶なのに山岳でも大活躍。火力安定、低温にも強い軽量コンパクトな「液出し分離型」ストーブ

山岳用のガスストーブといえば、これまで通称「OD缶」と呼ばれるタイプのガスカートリッジを使用するモデルが主流でした。もう一つのタイプである「CB缶」は、コストパフォーマンスこそ優れているものの、構造的に厳しい山岳環境で使用することを想定した作りにはなっていないため、どちらかというと家庭用やキャンプ用として利用されることが多かったといえます。総じて本格的に登山をする人間にとってCB缶タイプのガスストーブは、どうしても縁遠いものであったということは否めません。

左がCB缶、右がOD缶

そんなガスストーブの世界で、数年前から新しい動きが起こりつつあります。それが国産燃焼器具ブランドの雄、SOTO(新富士バーナー)による「山岳環境にも耐えられる新しいタイプのCB缶と、それに対応する山岳向けガスストーブ」の登場です。

今回はそのCB缶タイプのガスストーブのなかでも山岳地帯や低温環境でもしっかりと対応する2025年最新作、トレックマスターをフィールドで試してきたので、さっそくレビューしていきます。

SOTO TrekMaster(トレックマスター)ST-331の主な特徴

トレックマスターはCB缶を使用した分離型のストーブ。ジェネレーターを有する液出し燃焼構造を採用することでドロップダウンによる火力低下が生じにくく、低温環境での使用でも安定した火力を発揮。低重心の分離型構造は不整地での使用時の安定感を高め、耐荷重が2kgあり、大きめに設計された約16cmのゴトクは数人用の大きいクッカーも対応可能と、火力の調整や調理がしやすい設計になっています。最小限のパーツと細部まで突き詰められた設計によって450mlのマグに収まるほどの優れた携帯性と、分離型のストーブでありながら約195gという重量を実現。ライトなアウトドアから過酷なアドベンチャーまで、シーンに合わせて重量とコストパフォーマンスを最適化し、常に最大限の使いやすさを実現できる新しいタイプのガスストーブが誕生しました。

お気に入りポイント

  • 分離式で低重心のため、高い安定感
  • 短時間で湯沸かしが可能な出力
  • ジェネレーター搭載で低温環境に強い
  • 耐風性の高いバーナーヘッドの形状
  • コンパクトに収納可能
  • より経済的なCB缶、さらにシーンによってタフ・ノーマルと使い分けられる柔軟性

気になるポイント

  • 点火時に予熱が必要など若干クセのある操作
  • 火力調節の幅が狭い
  • 操作してからの反応にタイムラグがあるため、慣れないと慌てる

主なスペックと評価

アイテム名TrekMaster(トレックマスター)
タイプ分離型
出力(kcal/h)
  • 3.0kW (2,600kcal/h) (ST-711・ST-712使用時)
  • 2.8kW (2,400kcal/h) (ST-760使用時)
  • 2.3kW (2,000kcal/h) (ST-700使用時)
重量 (g)192.7g(実測値)
素材
  • バーナー/器具栓つまみ/ゴトク:ステンレス
  • ボンベホルダー:樹脂
  • 収納ポーチ:タイベック
ゴトクサイズ(Φ mm)約160mm(実測値)
耐荷重2kg
サイズ幅500 ✕ 奥行140 ✕ 高さ105 mm(使用時・ホース含む)
収納サイズ幅90 ✕ 奥行70 ✕ 高さ105 mm(収納時・ホース含む)
着火装置なし
300ml沸騰タイム125秒(ST-711・ST-712使用時)
Outdoor Gearzine評価
燃焼力★★★★☆
タフさ(寒冷・長時間・強風耐性)★★★★★
燃焼効率★★★★☆
収納性★★★★☆
使いやすさ★★★☆☆
汎用性★★★★★
重量★★★☆☆

詳細レビュー

CB缶”なのに”山岳使用を可能にしてくれたカセットボンベ「CB TOUGH」シリーズ

CB TOUGHシリーズ。大きいのがCB TOUGH 220(ST-712)、小さいのが CB TOUGH 125(ST-711)

冒頭でもお伝えした通り、一般的には家庭使用を目的として作られている「CB缶」。今回はそのCB缶を使用するストーブを本格的な山用として使えるのかが筆者が最も確かめたいところでした。

SOTOからはCB缶のラインナップも豊富な選択肢があり、環境に応じてチョイスが可能になっています。中でも今回注目したいのはフィールドテストで使用した「CB TOUGHシリーズ」です。標高の高い山岳での使用が想定され、低温にも対応できるよう(山岳使用を想定した)OD缶と同じイソブタン、ノルマルブタン、プロパンの3種が混合されています。従来のCB缶であればそれは不可能でしたが、より耐圧性の高い容器(ボンベ)を採用することでこのガス配合を実現しているといいます。驚きなのは、それにも関わらず、OD缶よりもリーズナブルな価格を実現していること。

さらに一般的なCB缶のサイズよりも一回り小さいサイズもラインナップすることで携帯性を高めるためのチョイスも可能に。そもそもOD缶に比べて収納しやすい円柱形状なので、バックパックの隙間に差し込むようにパッキングが可能なこともありがたい。

携帯することを前提としているため、キャップは紛失を防げるよう底部に取り付けておける。

寒冷地に対応できるカセットボンベの登場によりCB缶ガスストーブの使用域は一段階レベルが引き上げられていますが、トレックマスターが山でも使える理由はそれだけではありません。厳しい環境の中でもしっかりと使えるよう、テクノロジーが詰め込まれているため、本体に備わる機能もみていきましょう。

耐風性の高いバーナーヘッドの形状

筆者がガスストーブを選ぶ際、必ず気にしているのが耐候性の高さです。特に風に対する対策がされているかをよくチェックします。風を受けた際、バーナーヘッドに風がダイレクトに当たってしまう形状だと、わずかな風でもクッカーへの加熱効率が下がってしまい、湯沸かしまでの時間がかかってしまったり、燃料を余分に使うことになってしまうことになりかねません。トレックマスターのバーナーヘッドの周りには風をさえぎるための風防が備わっているため、風がある中でもバーナーヘッドに直接風が当たることがなく、パフォーマンスが変わらずに使用することが可能です。

300mlの水が沸騰するまでの時間を計測したところ、無風でのテストで125秒だったのに対し、風速が3〜5mほどの環境では135秒と、さほど変わらない時間でお湯を沸かせることができました。風があることで若干の影響を受けてしまうことは確かですが、10秒ほどの差であれば誤差の範囲内ではないでしょうか。

低重心で高い安定感、大きめのゴトクで大型クッカーにも対応

ガスストーブにはカートリッジを直接本体に取り付ける「直結型」と、ホースを介し離れた場所にガスを取り付ける「分離型」があり、分離型であるトレックマスターはゴトクの位置が低くなることで低重心になり、クッカーを載せた時の安定性が高くなります。自然界では必ずしも整地された場所を確保できるとは限りませんから、低重心で安定感の高いストーブの方が調理しやすさは格段に向上します。

直径160mmあり、大きめのクッカーにも対応

さらにトレックマスターは対荷重が2kgあり、ゴトクが160mmあるため大型のクッカーにも対応できます。ゴトクの形状から直径が約10cmほどの一人用の小さいクッカーから、20cmを超えるような複数人対応のクッカーまで幅広く使うことができるため、使用するシーンを選ばずに持ち出すことができます。

気をつけたいこととして、バーナヘッドと中心に約8cmの間隔が空いており、経の大きさが極端に小さいクッカーはゴトクに載らないため、クッカーとの相性は前もって確かめておきましょう。

短時間で湯沸かしが可能な出力

最大で3.0kW (2,600kcal/h)の出力を発揮するトレックマスター、無風状態で300mlのお湯が沸くまでの時間を計測したところ、125秒(2分5秒)で完全沸騰させることができました。300mlという水の量は、カップヌードルに必要な水の量だったり、アルファ米とフリーズドライスープが同時に用意できる量になるため、登山で一食分のお湯を用意する際にはよく使う分量です。

アウトドアでの使用を想定し設計されたガスストーブにはトレックマスターよりも早い時間でお湯を沸かすことのできるストーブは存在しますが、家庭用としても用いられるCB缶を使用するストーブとしては合格点どころか、かなりハイスペックと言えるでしょう。現在SOTOからは6つのCB缶対応のストーブがラインナップされている中で、トレックマスターはレギュレーターストーブ「レンジ」に次ぐ高出力を誇ります。

ジェネレーター搭載で低温環境に強い

ただ単に出力が高いだけであればそれほど驚くことはないのですが、トレックマスターは「ジェネレーター機構」が搭載され、液出し燃焼構造が採用されていることで低温環境であってもドロップダウンによる火力低下を防ぎ、安定した出力を維持させることができます。

ジェネレーター機構こそが、CB TOUGHシリーズのカセットボンベと相まって山用として使えるストーブにしてくれています。

矢印の部分が加熱されることで気化されるため、低温環境でも安定した燃料供給を可能にしている

「液出し燃焼構造」とは、燃料であるガスを液体の状態でバーナー本体へと送り、ジェネレーターで加熱し気化させ燃焼させる構造で、ガスが気化された状態で本体へと供給される「気化出し燃焼構造」に比べて低温環境に強いというメリットがあります。

また液出し燃焼構造のもうひとつのメリットとしては、ドロップダウンの影響を受けにくくなることが挙げられます。ガスストーブは連続して使用し続けると、気化熱によってガスカートリッジが冷やされ、燃料が気化されにくくなって出力が低下してしまうことがあり、このことを「ドロップダウン現象」といいます。トレックマスターはジェネレーターで加熱し気化させながら燃焼するため、このドロップダウンによる火力低下を最低限にすることができます。

液出し式のため本燃焼まで予熱が必要、すぐに消火できない

気になった点としては、本燃焼させるために約30秒の「予熱」が必要になること。バルブを開き、点火させた時は気化が不十分な状態で供給されるため、点火直後は(説明書によると30秒)はカセットガスを直立にし、炎が安定したらバルブのスタビライサーがついている方を下にし、カセットガスを横にします。

カセットガスを立てた状態で予熱を行い、本燃焼になったことを確認して横にする

低温に強く、環境を選ばずに使えるトレックマスターですが予熱が必要になるためエントリーモデルとは言い難く、経験者向け。初めて使うガスストーブとしてはおすすめできません。

また液体の状態で本体側に燃料を供給し、気化しながら燃焼をするため、バルブを閉じてもホース内に残った燃料が燃焼を続けるためすぐに消火ができないため、扱いには慣れと経験が必要であることに留意しましょう。

火力調整がシビアで難しい

もう一点気になった点としては火力調節が難しいところ。ジェネレーターにより加熱されて気化する構造では火力調節のバルブの開閉と、実際に火力が変化するまでにタイムラグが生じます。そのため、火力を弱めるためにバルブを調整してもすぐには反応してくれません。そして火力調節のためのバルブ開閉はかなりシビア。ちょっと解放しただけでも最大火力になってしまうし、ギリギリまで閉じると消火してしまうため、火力調節は可能ですが、バルブ調整がシビアで湯沸かし程度ならストレスなく使えますが、頻繁に火力調節を行うような調理はしにくさを感じました。

環境に応じたCB缶のチョイスで経済的にもGood

「CB TOUGH」シリーズの他にもプロパンを混入されたパワーガスや、流通量の多いレギュラーガスなど経済面で優しいカセットボンベがラインナップされていることで平地でのキャンプではレギュラーガス、高地や山岳地帯、寒冷地ではCB TOUGHシリーズを使い分けることでランニングコストもセーブすることができます。

左が厳しい環境の使用に適したCB TOUGHシリーズ、右がコスパに優れるレギュラーガス

小カートリッジではOD缶の方が軽いが、中カートリッジ比較ではOD缶と比べて軽い

実際の重さを比べてみると、CB TOUGHシリーズの最小モデル「ST-711」の重量は220g(うちガス量125g)、一方でOD缶の最小モデル「SOD-710T」は192g(うちガス量105g)と、若干OD缶の方が軽いのが気になるかもしれません。

例えば「トレックマスター + ST-711」の合計重量は415g、対する「マイクロレギュレーターストーブ FUSION Trek + SOD-710T」の合計重量は374gと、「最小重量を目指した場合」はOD缶タイプのモデルの方がわずかですが軽いのは確かです。

ただ公式サイトによると、「CB TOUGH」シリーズの大容量モデル「ST-712」で比べるた場合、ほぼ同容量のガスが封入されたOD缶モデルと比較して約50gほど軽量になっており、そこではCB缶の方に分があります。

このように重量については単純に「どちらが軽いか?」という問題は、実際には甲乙つけがたいところです。ただ、これまで小さなCB缶がなかったことを考えると、「ST-711」があることで、日数や山行形態、ストーブ本体との組み合わせによってはOD缶に勝るとも劣らない軽量コンパクトを実現することができるようになったことは間違いなく、CB缶による他のメリットを考えれば、10グラムを気にする軽量スタイルのハイカーならいざ知らず、通常の登山では重さに関してさほど問題視するほどのことは無いという印象です。

最軽量とは言えないまでもコンパクトに収納可能

750mlサイズのクッカーにすっぽりと収まる

トレックマスターの本体重量は実測値で192.7g。コンパクトなCB TOUGHシリーズ(ST-711)と合わせると約412.7gとなります。山岳向けに作られたマイクロレギュレーターストーブウインドマスターは本体重量が約67gで、ガスカートリッジと合わせても259gと、コンパクトなタイプに比べ決して軽いとは言えません。

山用としても十分に使える機能を持つトレックマスターですが、何日もかけて縦走するような山行においてはやはりOD缶使用のコンパクトストーブに軍配が上がるのは事実。ですが、日帰り〜1泊程度の山行の場合なら装備の重量も軽くなり、また縦走の時ほどシビアになる必要がなければトレックマスターが活躍します。

本体とカセットガスの形状から一つのクッカーにオールインすることは難しいですが、ゴトクを折りたたむことでコンパクトになり、日帰り登山やハイキングではメインのストーブとして使ってもいいし、キャンプではサブストーブとして使うのにも適しています。

まとめ:キャンプも登山もこれ一台でOK!年間を通して使えるガスストーブだった

一台で登山やキャンプ、バーベキューなど幅広いアウトドアアクティビティを楽しむためのガスストーブとして活躍してくれること間違いなしのSOTO トレックマスターを紹介しました。

かつては山岳でのガスストーブといえばOD缶一択。CB缶を使うガスストーブで登山用として十分なパフォーマンスを発揮してくれるトレックマスターの登場はある意味革命的なことかもしれません。ガスストーブ界で群雄割拠のきっかけとなるストーブとなるのか。今後のガスストーブの発展が楽しみです。

Yosuke(ヨウスケ)

不便にならない程度に「できるだけ軽く」をモットーにバックパックひとつで行動する人。

春から秋にかけては山奥のイワナを追いかけて渓流へ釣りに。 地上からは見ることのできない絶景を求めて山を歩き。 焚火に癒されたくてキャンプ。 白銀の山で浮遊感を味わいにスノーボード。

20年以上アウトドアを嗜み、一年中アウトドアを自分流に楽しむフリーランスのライター。数十以上のアウトドア系WEB媒体での記事執筆経験をもとに、自身の経験や使ってみて良かった道具を発信していきます。

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