達人のU.L.パッキングってどんな感じ?01 荒井裕介さんの厳選されたバックパックの中身とは?

昨年11月某日、当サイト主催で大好評のうちに幕を閉じた「Outdoor Gearzine Trailheadプレゼンツ 荒井裕介パッキング講座2016」。講師をお願いした荒井さんには「なんか『パッキングが上手くできない』くらいのビギナーにとって面白くなるようなお話をください!」というユルい依頼をしたのが良かったのか悪かったのか、蓋を開けてみると第一・二部ともに2時間を超えるマシンガントーク。話しはパッキングに止まらずおすすめ装備から本当に役立つ登山スキルまで、達人ならではの大技小技が満載の充実したイベントとなりました。

Outdoor Gearzine Trailheadとは?

「Outdoor Gearzineとはじめる秋の山登り」というテーマで2016年11月、2週間にわたって代々木公園近くのギャラリーにて行われたOutdoor Gearzine主催のリアル展示イベント。秋のおすすめ山道具の展示あり、道具の購入アドバイスコーナーあり、貴重なアウトドアギアの物販あり、テスト終了後の中古山道具のフリマあり、山岳写真家の荒井裕介さんのトークイベントありと、これから山に登りたい、最近山に登りはじめた人たちにも楽しめるさまざまな企画を実施、このサイトの読者の方にも、ふらっと訪れた山好きの方にも大好評のイベントとなりました。詳しい企画などはこちらの過去の告知ページをご覧ください

トークを動画で公開する予定をお伝えしていたのですが、とにかくライブ特有のその場の勢いで飛びまくる話題を整理するのに思いのほか時間がかかってしまいました。Youtubeチャンネルも遂に開設したし。

ようやくまとまりましたので、いよいよこれからテーマごと何回かに分けてイベントの模様を解説付きでお送りしたいと思います。念のため前もってご注意ですが、ここで紹介している話題のなかにはあくまでも経験と体力に基づいた人間だからこそ実践できることが含まれており、万人が無条件に真似できるものばかりではありません。それを前提とすれば非常に有益な面白い話しばかりなので、くれぐれもその辺は各々で熟慮したうえで参考にしてみてください!

荒井裕介さん プロフィール

山岳写真家。SHARA PROJECT主宰。父親の知人がマタギであったこともあり幼少より濃密な自然に触れながら育つ。トラディショナルなトレッキングからU.L.ハイキング、スキー、MTB、ハンティングやサバイバル技術、アウトドアギアなど幅広いフィールドについて造詣が深く、刃物にも精通。毎年、秋冬にはハンティングのため山にこもり、解体処理から調理を山中で行うブッシュクラフターでもある。

目次

ウルトラライトハイキングのパッキング術 ~経験と計算によって削ぎ落とされたバックパックの中身とは?~ 

トークの前半、まずは荒井さんの最近のバックパックの中身を見せてもらいました。ちなみに動画中、左にいるのが荒井さん、右の聞き手が僕(久冨)です。

動画音声書き起こし

荒井裕介:普段は山岳の写真家をやっています。山岳写真家になったきっかけもかなり偏っていて、ポスターとかカタログとかプロモーション写真を撮ったりするなかで、エクストリームスポーツ系の写真を撮るようになって。それでアウトドアの方に入ってきたんです※1。でも今は雑誌の写真が多いんですけど、それは前にヨセミテで撮影をやっていて20メートル滑落して。家族も増えた時期だったので家族会議が開かれて「お前年に何回落っこちてんだって」みたいになって笑。で、雑誌に移行しました。

カメラ機材は一眼レフ2台と、中判カメラという大きいカメラを3台ぐらい持って、レンズ6本ぐらい持って、三脚、バッテリーなど持っていくとだいたい総重量が60キロ越えとかになるので、(必然的に荷物は)ウルトラライトという方向に進んでいったんです。ただウルトラライトも極端になりすぎて、ウルトラライトの下のサブウルトラライトっていう、服とか食事、水、燃料を抜いたものの重量(ベースウェイト)が4.5キロ以下というところまで一時期いっちゃって。それだとやりすぎだという話になってきて、今はウルトラライトに落ち着いてます。

1週間4日から1週間、多分皆が山に入ると(壁の40Lパックを指して)あれぐらい。あ、足りない?じゃあもうちょい多かったとして、だいたい僕の場合、一週間は20リットルのGOLITEです。今シェルターが2個入っちゃっててちょっと蓋が閉まらないんですけども。通常(タオル・小物類・細引きを置いて)はまず雨具ですね、でこれが1個目のテント 。それからカップ、2個目のテント、ダウン(ジャケット)、寝袋、着替え。これで食料と水が入って、だいたいこれくらいです。マットを抜くとこんな感じ(ザックをくしゃくしゃに丸めて)。フレームも何も入っていないのでフレームの代わりにマット。ちなみにスリーピングマットはこれ(上半身)だけ。

久冨:(自分で)切ったんですかそれは?

荒井裕介:そうですね、切りました。元は倍の長さがあったんですけど。寝る時ってここ(上半身)しか使わないんですよ。下半身は別のものをかかとからひざ下あたりまであれば十分です。

久冨:(雪がない場所でのハイキングは)1年を通じてそんな感じですか?

荒井裕介:そうですね、1年通じて。今「ブッシュクラフト」っていう遊びをやってるんですけど、冬の間は散弾銃を持って、シカとかクマ狩りながらご飯の代わりにしています。じゃぁ食料もたなきゃ軽いでしょうと思うかもしれないですが、まず銃一本が5キロぐらいあるんですね。さらに獲物が取れたら取れたで100キロぐらのクマでどんだけ捌いたとしても35キロぐらいなんですね。それ背負って下りなきゃいけないという。全然ウルトラライトじゃないんですけでも笑。

で(2個あるテントのうち1個目の)テントこっちに置いときますね。でもうひとつはポンチョタイプのテント。ケープみたいになるやつですね。これがあるって事は雨具はいらないですね(雨具を横に除ける)。というとこれだけ。僕の装備が全部これで一週間ぐらいです。

久冨:水筒がないじゃないとかそういうツッコミもあると思いますが。

荒井裕介:水筒はこんな(ペットボトル)でいいですね。あとはハイドレーション。ホース引っ張ってくるやつですね。 あとここにある着替えの中身がウールのシャツと、ウールのタイツと、フリースジャケットだけです。1週間で1回しか着替えない。何でかというと、まずウールはバクテリアが増えにくい素材なので匂いがしない(衛生的)ということ。それから濡れてても汗冷えしないから快適だということ。そういう素材のレイヤリングをしていけば何とかなります。速乾性がある方がいいよという人は化繊がいい。ただ、乾くのが早いってことはその分冷えるってことなので、気化熱で体温が奪われてしまう。その場合は(ベースにウールを着て)ミドルレイヤーに化繊のフリースを入れることで、こいつ(ウール)の水分をこいつ(フリース)が発散するようにレイヤリングします。上に着るものはまあ多少臭ってもしょうがないとして、下に着るもの、行動中に着るもの、春から秋にかけてはTシャツが一番多いと思いますが、それはウールがおすすめです。

ただウールのデメリットというのがあって。(生地を伸ばすと)うっすら手が透けるんですけども、すぐに穴が空いちゃいます。重いものずっと背負っていると、肩の部分だけ薄くなってきちゃうんです。それだけがネック。あとは化繊よりも金額が高いです。 

※1 父親の知人がマタギであったこともあり、小学生のころからマタギ流のサバイバル術を自然と身につけていたそうです。アウトドア系の仕事への移行はそうしたバックボーンがあればこそ。

動画解説

みなさんもきっとすぐに感じたかと思いますが、聞いていて冒頭からヤバいニオイがプンプンと漂ってきましたね。アウトドア系のエクストリームスポーツというといわゆるフリークライミングなんてのはほんの入口、えげつない高さと難易度の氷壁スピード登攀やムササビのようなウィングスーツで高所から飛び降りるベースジャンプなど、エンターテイメントを超えたある意味心身共にイカれてないとできない競技ばかり。それを重たいカメラを担いで撮影する仕事となれば、アスリートと同レベルの身体能力とスキルをもち合わせていないと無理だと考えていい。おまけに狩猟のプロフェッショナルでもある荒井さんの話しのスケール感は明らかに我々一般人とは違います。まずはそうした人のケースであるということを肝に銘じておいてください。

荒井さんのバックパックの中身一覧

その荒井さんの1週間・無雪期(主に秋)・テント泊ハイキングでのパッキングの中身をあらためてまとめてみると、以下のような感じ。
※細かいアイテムについては確認中ですので、この先微調整が入るかもしれません。

それぞれのアイテムについては分かる範囲で商品リンクを付けましたが、これらひとつひとつについても明確な理由とためになる話しがたくさんがあります。またトークを聞いている限りでは市販品をそのまま使用している可能性はかなり低く、所々改造が入っているようですので、それらについてはこの先公開予定の個別トピックで分かる範囲で紹介していきます。

これに身につけている衣服、水、食糧、燃料(アルコール・固形燃料)が入ってなんと5~6泊のハイキング行けてしまうと。個人的な経験では2泊も5泊もそこまで変わらないとはいえ、ソロのテント泊で20Lってのはどう考えてもあり得ませんねー笑。倍以上の容量でもまったくおかしくないレベル。

もちろん楽しみ方や考え方は千差万別、十人十色ですので、このようなスタイルがえらいわけでも何でもありませんし、真似したくてもできるわけありませんが、行くところまで行った人の生きた経験とその裏にある哲学を知るのはいつも刺激的です。

”兼用”はU.L.だけでなくパッキングビギナー脱却の第一歩

僕の考える荒井さんのギアリストがスゴイ点は大きくいって3つなんだと思います。

ひとつはもちろんあらゆる装備がシンプルかつ軽量モデルで一貫していること。ぼくのように「軽いだけで快適じゃない道具はガマンできない」人間にはまったく理解できない部分ではありますが、単なる主義主張の問題だけでなく、ちょっとした不快感ごときでは揺るがない体力と忍耐力があればこそという側面は否めません。その意味で、U.L.を極めるためには体力と経験が不可欠であることは間違いないです。

もうひとつは「あったら便利かも」といった道具はもちろん、知識と技術を習得することで省ける道具を思い切ってそぎ落としていること。シェルターの設営方法と弱点を熟知することでテントはツェルトのみで、シュラフカバーなども持っていかないケースが多かったり、山岳救助活動などにも従事し救急医療の知識についても豊富なため救急医療的なものも必用最低限に抑えることができる。またトークの別の部分で荒井さんは「3回持っていって使わなかった物は持っていかない」とも言うように、何度も山に入ることでさまざまなケースの引き出しが増えていくことで、これから行く旅で自分がどの道具を使うか、使わないかの判断がより研ぎ澄まされ、必用最低限の道具に厳選することができていきます。

最後は個人的にかなり参考になったのですが「兼ねられる道具はまとめる」というアイデアの数々。フレームとマットを兼ねるのは基本としても、シェルターと雨具を兼ねる、ストーブはマルチに使えてかつ風防にもなるものをチョイス。タオルは1枚。キルト型のダウンシュラフはダウンパンツにもなる。シェルターの張り綱も予備の靴ひもも緊急用の三角巾も兼ねられるような超ロングサイズの細引きやテープスリングを持つなどなど。ちょっとした工夫次第であれこれ煩雑な道具をシンプルにまとめることができるところはたくさんあります。思えば細かい部分ですが、行動中のタオルと下山後の銭湯タオルとか、着替えと防寒具とか、エマージェンシーシートとツェルトとか、兼ねようと努力すればできる部分は自分にもまだたくさんありますね。

以上、荒井さんの1週間ハイキングでのバックパックの中身紹介でした。

まだまだトークは序盤中の序盤です。次回からは上に挙げたリストで話しが膨らんだトピックを小分けにご紹介していきたいと思いますのでどうぞご期待ください!

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