達人のU.L.パッキングってどんな感じ?03 スリーピングバッグ&スリーピングパッド活用術
軽量と効率を極めたウルトラライトの達人はどんな寝袋を、どう使うのか?
「Outdoor Gearzine Trailheadプレゼンツ 荒井裕介パッキング講座2016」まとめ動画シリーズ第3回のテーマは「スリーピングバッグ&スリーピングパッド」。荒井さんの現在のおすすめシュラフやマットについて紹介してもらいながら、さらにいろいろなシーンで荒井流の使い方など、実践的なノウハウについて語ってもらいました。それでは早速どうぞ。
あくまでも個人の経験に基づくオピニオンですので、それぞれの結論を鵜呑みにするのではなく、個々人の賢明な判断力と広い心というフィルターを通して楽しんでください。
Outdoor Gearzine Trailheadとは?
「Outdoor Gearzineとはじめる秋の山登り」というテーマで2016年11月、2週間にわたって代々木公園近くのギャラリーにて行われたOutdoor Gearzine主催のリアル展示イベント。秋のおすすめ山道具の展示あり、道具の購入アドバイスコーナーあり、貴重なアウトドアギアの物販あり、テスト終了後の中古山道具のフリマあり、山岳写真家の荒井裕介さんのトークイベントありと、これから山に登りたい、最近山に登りはじめた人たちにも楽しめるさまざまな企画を実施、このサイトの読者の方にも、ふらっと訪れた山好きの方にも大好評のイベントとなりました。詳しい企画などはこちらの過去の告知ページをご覧ください。
荒井裕介さん プロフィール
山岳写真家。SHARA PROJECT主宰。父親の知人がマタギであったこともあり幼少より濃密な自然に触れながら育つ。トラディショナルなトレッキングからU.L.ハイキング、スキー、MTB、ハンティングやサバイバル技術、アウトドアギアなど幅広いフィールドについて造詣が深く、刃物にも精通。毎年、秋冬にはハンティングのため山にこもり、解体処理から調理を山中で行うブッシュクラフターでもある。
「達人のU.L.パッキングってどんな感じ?」連載一覧
目次
ウルトラライトハイキングのパッキング術 ~スリーピングバッグ&パッド活用術~
例によって動画の登場人物は、左が荒井さん、右の聞き手がぼく(久冨)です。
動画音声書き起こし
荒井さんが春秋のハイキングに使っているスリーピングバッグは?
荒井裕介:これ寝袋です。ちっちゃいですね。どう考えてももおかしいサイズですね(後ろの冬用シュラフと比較して)。でもこれ(厳密には)寝袋じゃないんです。ダウンマルチブランケットって書いてあります。モンベルのカタログとかウェブサイトにはきちんと載ってるんですけど、誰も興味示さないんですよね。これ普段はブランケット状になってるんですね。で、両端にスナップボタンがついてます。「山なのに封筒型のシュラフ?」って思っているかもしれないんですが、(ボタンを留めると)背中の部分が開いた筒型になるんですね。
久冨:ウルトラライト界隈の人達にはおなじみなんですが、頭部分も省略されていて、下半身部分も必要があれば締められるというタイプです。
荒井裕介:なぜ背中の部分がなくていいのかと思うかもしれないんですけど、寝ている間は(背中の)ロフトが潰れちゃっているので、その部分の保温性は下がります。なのでマミー型シュラフのように背中にダウンが入ってる必要がなくて、背中は空いてマットが入っているだけという方が使いやすい。さらにマットとシュラフが一体になって動くので、マットの上で(身体が)ズレちゃうというということもないんですね。
まずこうやって両端同士くっつけてあげると、シュラフ状になります。寒かったらつま先部分を絞ります。これで夏はもう十分ですよね。中にダウン着ちゃえば分厚いシュラフに入っているのと変わらないので。
もう一つの使い方ですが、この中にテント泊やってるという人います?はい。何人かいますね。テント泊たくさんやったことある人は分かってもらえるんですけど、「おしっこ行きたいけど寒いから出たくない」っていうときあるんですよ。どうしようかなーっていう時にギリギリまで我慢して、いざシュラフから出るってなると寒い思いするんですね。でもこのシュラフならつま先が開くので、こうやって(足を出せば)歩けます笑。
久冨:タイトスカート的な感じですか笑。
荒井裕介:そうですね。このままシュラフを穿いた状態でお外に行ける。男の人なら開いている背中側を前に回してくると、用を足せる。すげぇずぼらなんですけど、まぁ別にそのために薦めているわけじゃないですが。
例えば今、ダウンパンツ持ってないですよね。そういう場合、男の人でも巻きスカートってあると便利なんですよ。こうやって二つに折って止めてあげると腰に巻いておけるんで、巻きスカートになります。で、絞る気になれちゃえばこう(足首を)絞れちゃう。そうするとこのままでダウンパンツの代わりにできちゃうところがすごくあると便利なんですよね。
もちろん夏暑くてシュラフの中に入りたくないってときはブランケット状になるのでブランケットとして使えます。
久冨:平べったい1枚の布状だからこそいろいろな使い方ができるという。
荒井裕介:そうですね、あと緊急時にビバークする時に、靴履いたまま寝袋に入らなきゃいけないという時も出てくると思うんですけど、これ被るだけで行けるんで。やさしい使い方でいろいろと使えるというのではありだと思います。
久冨:ちなみにこれ厚さの種類はあるんでしょうか?
荒井裕介:ないですねこれは。#5番しかないんで。夏用だけ。
久冨:そうですね。#5番って大体3シーズンぎりぎりかな。
荒井裕介:ハンモックを使うよっていう人います?ハンモック、いない。ヘネシーハンモックとかキャンプ用のハンモックがあるんですけども、アミアミじゃないやつ。アミアミのやつは山もっていっちゃダメですけども。これ外から巻いてあげるとハンモックシュラフとしても使えるので。ハンモックで寝るとだいたいこの辺(背中から腰にかけて)全部ロフトが潰れちゃうんですね。だからハンモックの外側に巻いてあげるんですけども。これは両端にフックがついてたりボタンが付いてたりするので、これで止めてあげるとハンモックシュラフとしても使えます。
それから、シュラフ使ったことないという人が最初買うと、しまうときに綺麗に一生懸命畳んでから入れる人が多いんですけど、ダウン製品はみんなこうやってぐちゃぐちゃにして入れれば入るので、絶対にシュラフはたたまないでくださいね。
久冨:逆にたたむとするとどんどん広がっていっちゃうんですよね。
荒井裕介:中身どんどん出てきちゃってね。巻いた中身がどろどろどろどろ出入りしちゃうんですよね。
久冨:せっかく巻いて入れたと思ったら、入り口から上が飛び出ちゃってるってのがよくある。
荒井裕介:最終的に結局押し込んでるとかね。さてこれだけ色々な使い方があるのに、寝袋なのにこのサイズ(収納した状態を見せて)。
久冨:ちなみに今話してるこの装備は季節的には?
荒井裕介:春から秋口ですね。秋口だと低山かな?
で今これスタッフバックありますよね。スタッフバッグがあるのはシュラフぐらいまでにしましょうと思ってて。(ダウンジャケットの袋を出して)これはスタッフバッグじゃなくてパッカブルタイプのダウンジャケット。なぜパッカブルがいいかっていうと、着てザックにスタッフバックを入れると、今度しまうときに探すのが大変なんですよ。まぁずぼらなだけなんですけど。
久冨:ちなみにこれはそういう(ポケットに収納する)機能が付いているジャケットですよね。
荒井裕介:そうです。さすがに無理矢理ポケットに押し込むは無理。これは撥水ダウンなのでとても使い勝手がいいです。ブランドはL.L.Bean。L.L.Beanって元々アメリカではアルパインメーカーなので、アルパイン用のものも扱っています。
シュラフカバーは必要か?
久冨:シュラフカバーみたいなものは持って行きますか?
荒井裕介:シュラフカバーは持っても持たなくてもいいですあれは。濡らさない自信があれば。
久冨:シェルターで上は被せるけど下はマットだけですよね。シュラフはキルトですよね?それで本当に大丈夫?
荒井裕介:シェルターの根本的な考え方として、バスタブがあるからシュラフが濡れるんですね。結露した水滴が下に伝わってきて垂れたり、床に溜まったりするから。雨の跳ね返りさえ入らないようにしっかり塞いであげる、もしくは傾斜をうまく利用して高台にテントを張るなどの形にすると、テントの中はドライに保てます。例えば唐沢のテン場だと岩がいっぱい落ちてますよね。その岩で内側からこうやって下の空いてる部分を塞いじゃうんです。そうすると雨の跳ね返りがないのと、その岩を伝って(シェルターからの)水が全部流れていくので、唐沢でシュラフカバー使わないで濡れたということはないです。ただ、雪の季節に関しては一番軽いシュラフカバーをつけるますね。
スリーピングマットを選ぶ時に気をつけていることや、おすすめは?
荒井裕介:平らなところ、もしくは低山で使うんだったらこういうエア注入式がおすすめ。あとは雪山とか整地ができる場合。クローズドセルは潰せないから不利っていうんですけど、実際には畳んだ時に「かさ」が増えるだけで、重量はそんなに変わらないんですよね。たぶん変わっても20グラムぐらい。どちらが自分に適してるかっていうことはよく考えて選びましょう。
上半身だけでいいよっていう人は、このインフレータブル(エア注入式)マットは切れない(半分ムダになる)。クローズドセルはつなぎ目で切れるので、1枚買ったら半分のサイズを2回分使えるという考え方。ぼくのも180cmを買って半分にしています。そうすればロールしてパックの中に入れて、下半身はザックを引くとか、残ったウェアで対応しています。さらに肩のある部分を切り落としちゃってていうのもありますね。そうすることで軽量化とフレームがないザックにすんなり入る。
さっきも言ってたんですが、エア注入式で山岳系のテン場は行かない方がいいですね。滑ってきちゃうんで、自分が。傾斜があってこの上で何回か寝返りしているといつの間にかマットの下にいるんですよ。以前これあったかいだろうと思ってたら乗れないんですよ、その上に。傾斜がきつすぎて。すげー寂しい思いをしましたね。あと、この前試したのがダウン入ってるやつがありましたね。あれはやばい。クローズドセル使えなくなっちゃいますね。
ただクローズドセルをもっと有効に使う方法として「アストロフォイル」ってのがあります。宇宙船の断熱材に使われてたりする素材ですけど、今は家の断熱材とかにも使われてます。それをマットの下に引いてあげると、高純度のアルミ材で梱包用のプチプチが挟んであるので空気の層があります。それが下からの地熱を跳ね返し、自分の熱も上に跳ね返してくれるので温かさがすごいですね。エア注入式の下にアストロフォイル敷いてそこにホッカイロを等間隔に並べる。そうするとすごいあったかいです。ウィンターキャンプを初めてやるとか、寒いのは彼氏大丈夫だけど彼女ダメという場合に使ってあげるとスゴイ温かいです。
久冨:どこに売ってるんですか?
荒井裕介:アストロフォイルですか?売っているところ限定されてて。こんないやらしい話して良いか分かんないですけどSHARAプロジェクトとハイカーズデポでしか取り扱ってないですね。
動画解説
キルト型スリーピングバッグについて
前半では以前Outdoor Gearzineでも特集をしたことがありました、キルト型スリーピングバッグについての紹介だけでなく、さらに突っ込んださまざまな使い方を披露してくれました。ぼくも昨年本格的に使っていますが、全身を顔までスッポリ覆うことができるマミー型シュラフは密封性こそ高いものの、キルト型に比べると「なるべく熱を逃がさずに寝る」以外の汎用性では劣ります。
荒井さんの話ではシンプルにくるまって寝る以外に「暑い日のブランケット」「ダウンパンツ・巻きスカート」「ハンモック用シュラフ」「緊急時のビバーク用」などのさまざまな使い方ができるということでしたが、ウルトラライトのように軽量で多機能な使い方が求められるアクティビティにはキルト型が圧倒的に便利です。
ただしマミー型と比較するとどうしても作っているメーカーが少ないため、選択肢が限られてしまいます。そんななか編集部が辿り着いたベストモデルは、アメリカのENLIGHTENED EQUIPMENT。メーカーサイト(英語)からの直接購入とハードルは高いですが、生地・素材・保温力・サイズ・色などほぼすべての項目をカスタマイズできるという至れり尽くせりの、まさに最強キルト型スリーピングバッグです(詳しくはこちらの紹介ページで)。
編集部で調べた限り、日本で比較的容易に入手可能なモデルだとSEA TO SUMMITのMicroシリーズやエンバーシリーズ、ハイカーズデポのTOP QUILT、LOCUS GEARのニィクス・化繊キルト、Sky High Mountain WorksのSky HighDown Quilt 120、Cumulus QUILT 350などがあるようですが、こんなに調べたのに国内メーカーで、あのモンベルも作っていたという事実をぼくもこのときまで知りませんでした汗。現状ではお店で試すのが難しく、扱い量も少ないためすぐに売り切れになってしまうモデルが多いなかで、モンベルのような在庫豊富で全国に店舗のあるメーカーが出しているというのはかなりありがたい。欲をいえばもっと保温性のバリエーションを増やして欲しいですが、それにしてもこんなニッチなラインナップまで取揃えているモンベルは相変わらずヤバいですわ。今年はいつか試してみようと思います。
スリーピングパッド選びのコツ
クローズドセル(独立気泡)のスリーピングパッドは、エア注入式(インフレータブル)に比べると収納サイズ・クッション性・保温性の高さでは確かにとうてい適いません。ただそれを除けば使い勝手のよさと、何よりも価格の安さで非常に魅力的。荒井さんも話していたように、値段が高いからといってエア注入式がどんな場合でも優れているわけではなく、自分の優先順位を決めて選ぶことがパッド選びにとっては重要です。その辺、詳しくはこちらのページで解説していますので興味のある方は参考にしてみてください。
アストロフォイルのススメ
その際、パッキングしやすさと寝心地の良さに関しては何とかガマンすればよいのですが、保温性は命に直結するので、ここを何とかしたいところ。そこで荒井さんがおすすめしていたのがアストロフォイルです。
宇宙服や航空機などの研究を経て生まれ、現在では住宅の遮熱材として使用されているこの新しい素材はエアキャップを高純度のアルミで挟んだ構造になっています。両面のアルミが内外の輻射熱を反射し、エアキャップの持つ空気層が熱伝導を抑えることで熱をより効果的に遮断することが可能だといいます(参考サイト)。
調べてみると厚みは4mmと、ロール式のマットよりはずいぶん薄いですが、いわゆる折りたたみ式の銀マットよりは少し厚く、そこまでコンパクトというわけでもなさそうなので、これによってどれくらい保温性がアップするかというサイズ(重量)対効果次第、といったところでしょうか。なお、荒井さんも言っていましたが建築用の業務用素材のため基本的に小売はしておらず、入手するのは非常に困難のようです。
それでは今回はこの辺で。また次回をお楽しみに!