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達人のU.L.パッキングってどんな感じ?05 上手なパッキングのコツと賢いバックパックの選び方

ハイキングや登山でパッキングというと、何も大量の荷物をキレイに詰める方法ということに止まりません。正しいパッキングは重心が安定するため疲れにくくなり、ふらつきによる転倒などの事故も少なくしてくれます。登山においてパッキングは舐めてはいけないと同時に、じゃあどうすればいいのか、はじめての人にとっては戸惑いも多いと思われます。

それじゃあということで、初心者にとって正解が見いだしにくいパッキングのコツを達人に聞こうと企画されたのが「Outdoor Gearzine Trailheadプレゼンツ 荒井裕介パッキング講座2016」だったわけです。そんなわけで、まとめ動画シリーズ第5回は「パッキング」と「バックパック」についてお送りします。

はじめにお断りしておくと、実際のところ今回の話はパッキングの教科書的な体系的知識というよりは、U.L.ハイキングでの超実践的な方法です。これはこれで普段耳にすることのない、貴重なノウハウの数々だったわけですが。

毎度ながらあくまでも荒井さんの経験に基づくオピニオンですので、それぞれの結論を鵜呑みにするのではなく、個々人の賢明な判断力と広い心というフィルターを通して楽しんでください。

「達人のU.L.パッキングってどんな感じ?」連載一覧

目次

ウルトラライトハイキングのパッキング術 ~上手なパッキングのコツと賢いバックパックの選び方~

例によって動画の登場人物は、左が荒井さん、右の聞き手がぼく(久冨)です。

動画音声書き起こし(補足アリ)

どういう順番でパッキングするのがベスト?

荒井裕介:さあ、じゃあこれをどうパッキングしようかという話なんですけど。

久冨:ちなみにそのバックパックのメーカーは……?

荒井裕介:これはGOLITEという、もうないメーカーなんです。元々ここもガレージブランドなんですけど。山と道さんとかって知ってます?(そういう名前の日本の)ガレージメーカーがあるんですけど、いわゆる個人で作っていたのが量産化されるようになってできたメーカーです。ただ去年つぶれちゃいました。

久冨:惜しまれつつ。でも(ウルトラライト・ブームの)先駆けみたいなメーカーですね。

荒井裕介:これフレームが入っていないただの袋なんですけど、(まずスリーピングパッドを丸めた中空状態にして入れて)これを入れることでフレームの代わりになると。

で、ここにどういう順番でパッキングしますかということですが、まず(最も奥底には)行動中に必要ない物、着替えですね※1。でこれは縦に入れないで横に入れてくださいね。

※1 パッキングの基本的な鉄則である「重い荷物はなるべく上方に(軽い物を底部に)」というセオリーにも適っています。

久冨:ここで柔軟に曲げたり潰したりできるように、あまり圧縮し過ぎて硬くなっていないスタッフサックがいいんですね。

荒井裕介:はい、で、このスリーピングバッグもまだ柔らかい。よくコンプレッションバッグでギュウギュウに引っ張る人いますね。あれは逆にパンパンに硬くなってしまい、その結果丸い状態の物が重なるとすき間ができちゃう※2。なのでこれ(スリーピングバッグ)も柔らかい状態で横にして奥に適当に詰めます。(続けて防寒着のダウンジャケットを詰めながら)結構適当にという発言が多いんですが、(詰め方は)ホントに適当だったりします笑。

※2 大きさにゆとりのあるスタッフサックが便利な理由について詳しくは「02 パッキングの極意はスタッフサックの使い方にあり」を参照

久冨:まぁ経験を踏まえた上での適当ってことですよね。

荒井裕介:で、この次に入れるのは何かというと、みんな多分テントかと思うんですが、入れない※3。その代わりこういう(クッカー・ストーブ・燃料・ゴトク・カトラリー・その他小物類)硬い物入れちゃいます。これらも出番が炊事をする時なので。その後にテント入れます。テントまで入れてこのサイズで、ここから食糧(と水)が入るのかというと、まだ全然入りますね。

※3 テントは比較的かさばるギアなのでバックパックの底部に収納するのが一般的ですが、荒井さんの場合は違いました。理由は後々テント・シェルターについての動画で詳しく取り上げますが、端的にいうと「順番的にテントを畳むのはすべての荷物を片付けた後となるため、パッキングの順番も最後の方にするのが合理的」だから。なるほど。

それから(トレッキングポールの収納については)やっぱり自作アイテムにはなっちゃうんですけど、バックパックを背負いますよね。背負って、移動中にバックパックの脇にポールを刺してここに引っ掛けると、こう上手く収納できる

久冨:これあの、こういった機能が既についているバックパックもありますよね。

荒井裕介:ありますね、オスプレーでは使っている※4。普通のバックパックだと後ろに刺さなきゃいけないんですけど、後ろに刺すのはザックを下ろさなければならず面倒いので。ではこれちょっと回すので持ってみてください。これプラス食糧とあと水ですよね。これで約1週間くらい、山の中に居られます。

※4 詳しくは「OSPREY ケストレル 38」レビューを参照

久冨:そう言えば、ウォーターボトル、ないですよね?

荒井裕介:ウォーターボトルはハイドレーションのプラティパスとか、もしくはこういうペットボトルで構わないですね。

お客さん:ハイドレーションはマットの手前に?中に?入れるのです?

荒井裕介:ハイドレーションはこの手前(バックパックとマットの間)に入れて。パックの孔からホースが出てくる。

ウォーターボトルをどこに入れるのか悩む人って結構いると思うのですが、例えば大きいビルの上にプールがあることってありますよね。あれは耐震という目的もあって、(上部に水を張ることで)ビル全体がゆっくり揺れるように作られている場合が多い。だからお水はこういう風に(バックパックのなるべく上部に横にして)入れてあげるのが一番よいです。

久冨:上の部分に。

荒井裕介:上の部分に。重量物が上に来るのと、お水で揺れが止まるんです。

バックパックを選ぶ時にやって欲しいこと

荒井裕介:ザックの選び方としては、今このフレームレスのタイプを背負ってみて背負いにくいと思った方もいると思うんですけど(その場合はまだこのタイプは早い)、初心者向けの一般的なバックパックは3点(肩と腰)で支えるようなタイプ。このとき自分の背中と筋肉量に合ったモデルを選ぶ必要があり、背負ってから一番やらなきゃいけないことは「ああ、いいザックっすね」っていう(背負ってじっとする)人がいるんですけど、そうではなくて、(左右に身体をスウィングして)ここまでやって欲しいんです。背負った状態で身体を左右に振ってパックのお尻がグラグラ動くってのは自分の体型に合っていないです。「振られる」ってのが一番事故に繋がることで、こう振ってみてロールするようなザックは自分の体型に合っていないです。だから横風を受けやすかったり、鎖場で引っかかって転倒したりっていうことになります。

ぼくらは遭対協に入っているので、救助活動とかに出るんですけど、大抵は一般的なポケットがたくさんついたタイプのザックからいろんな物がはみ出ているんです、(事故で)落っこちてる人って。外側のポケットに物を入れるのはいいですけど、ここまで(スッポリとギアがポケットに完全におさまっている状態)にしてくださいね。(道具が飛び出て)びろーんって、こういう人いるんですよ。はみ出た道具の一部が引っかかることで「ワッ」てなってバランスを崩し、ザックのベルトが引っかかるんです、鎖とかに。その結果宙吊りになって、意外とベルトが切れないで人間だけ落っこちる。ザックだけ上に残して人がいないっていう状態になってしまう。

バックパックとウェアの特徴が被らないように選ぶ

あとは、ちょっと考えて欲しいのは、(背面に通気性を持たせるようなモデルは)フレームが入っているのでカーブしているんです。カーブしているってことは、このカーブに合った物は入るけど、カーブに合っていない物は入らなくて、(フレームがストレートなモデルもカーブしているモデルも数値的には)同じ容量だとしても、入る量が違ってくることがあります。同じ20L同士だったとしたら、実際にはストレートの方が入ったりするんです。

フレームレスの方なんてただの袋なんで。さらに(フレームレスの場合)寒いときには、このままズボって(下半身が)入れられるんです。(環境によっては)足がやっぱり凍傷になってくるんで。急激に放射冷却とかが起きるような秋から初冬にかけて、装備が薄すぎて末端だけ凍傷になる人もいるんです。0°以下になると凍傷なる可能性は絶対出てくるんで。例えば北軽井沢とか浅間山とかその時期に遊びに行って、1日で凍傷になっちゃう人も結構います。そういう人がいる場合はフレームレスのモデルをシュラフカバーや寝袋のなかに1枚入れるだけで相当保温性って変わるんです。「実際そんなんで変わらないでしょう」とか思うかもしれないんですけど、意外と抜けないんです、水分も熱も。例えば真夏にザックを背負っててもパックの中身を触ると奥底が(朝の冷気のまま)冷たかったりするんですが、実際はそれくらい断熱されるのです。履くのと履かないのでは相当違います。

久冨:(確かに)冬に上から下りてきて、下山後に周りは温かくなっているのにザックの中だけえらく冷たいとかありますよね。

荒井裕介:それくらい保温性があるので、効果があるモノだと思って(フレームレスも)使ってもらうといいかもしれないですね。

あと、さきほどもいいましたけど、フレームが取り外せるタイプっていうのもあったりして、フレームが外せる、天蓋が外せるなど自分なりにアレンジができるモデルも多くあります。なので、そういうのを使ってもらってもいいかも。

(さらに、最近では)背面メッシュのバックパックが主流だと思うのですけど、例えばウェアで対応できている機能はザックに付加する必要がないというのもひとつ(の有効な考え方)なんです。こういうウェア(前面には中綿が詰まったインサレーション、背面は薄手のフリースで通気性が高いといったウェア。例えばOUTDOOR RESEARCH DEVIATOR HOODY)を選ぶのだったらこういう(背面の通気性を高めた背面メッシュのバックパック)は要らない、こういうウェアを選ばないんだったらこういうのをつけるっていう形にしてあげると、機能の重複がないので。さっきもいいましたけど、機能の兼用が大事なんです。

自分がどのウェアを選ぶのか、(ウェアとザック)どっちの方が頻繁に買い替えるのかなってなると、ウェアの方が頻繁に買い替えたりはすると思うので、(長持ちする)ザックを基準にウェアを選んだ方がいいとは思うんですよね。(ただ)どっちを先に買うかにもよっては来ると思うのですけど、いろいろ求めてくると多分(最も無駄がないのは)このザック(背面がストレートのモデル)にこのウェア(ウェア自体に背面通気性向上の工夫があるモデル)ってことになってくると思いますね。

とにかく、多くを知ったうえで何で後ろに(中綿が)ないのかとか、自分の背負いやすいタイプがこっち(背面メッシュ)じゃなくてこっち(ストレート)だったら、これに合うウェアを探してあげるってのがすごく大事かなと。

(書き起こし終わり)

荒井裕介さん プロフィール

山岳写真家。SHARA PROJECT主宰。父親の知人がマタギであったこともあり幼少より濃密な自然に触れながら育つ。トラディショナルなトレッキングからU.L.ハイキング、スキー、MTB、ハンティングやサバイバル技術、アウトドアギアなど幅広いフィールドについて造詣が深く、刃物にも精通。毎年、秋冬にはハンティングのため山にこもり、解体処理から調理を山中で行うブッシュクラフターでもある。

Outdoor Gearzine Trailheadとは?

「Outdoor Gearzineとはじめる秋の山登り」というテーマで2016年11月、2週間にわたって代々木公園近くのギャラリーにて行われたOutdoor Gearzine主催のリアル展示イベント。秋のおすすめ山道具の展示あり、道具の購入アドバイスコーナーあり、貴重なアウトドアギアの物販あり、テスト終了後の中古山道具のフリマあり、山岳写真家の荒井裕介さんのトークイベントありと、これから山に登りたい、最近山に登りはじめた人たちにも楽しめるさまざまな企画を実施、このサイトの読者の方にも、ふらっと訪れた山好きの方にも大好評のイベントとなりました。詳しい企画などはこちらの過去の告知ページをご覧ください