ハードな自然環境に耐えうる堅牢性を備え、コンパスや高度計、気圧計といった各種センサーを登載したカシオの腕時計ブランド「PRO TREK」は、登山家をはじめとした多くのアウトドア愛好家にとって信頼のブランド。その名を冠した同社のスマートウォッチPRO TREK Smartは、タフなボディにオフライン地図とAndroid Wearによる多彩な機能を詰め込み、何より良心的な価格設定で多くのアウトドア好きにおすすめできる本格アウトドア・スマートウォッチとしてこのサイトでも発売当初から取り上げてきました。
2017年11月、そのラインナップに冬仕様バージョンの新モデルWSD-F20X(以下F20X)が加わりました。このサイトでは早速試用させてもらうことができましたので、今回はこの新モデルの紹介を中心に、PRO TREK Smart(WSD-F20・F20X)を冬のアウトドア・アクティビティで実際に使ってみての使い心地をレポートしていこうと思います。
目次
目次
- PRO TREK Smartは何ができるの? ~これまでのレビューのおさらい~
- 新しいPRO TREK Smartは何が変わった?
- 冬のPRO TREK Smartの実力は?早速実戦で使ってみた
- まとめ
PRO TREK Smartは何ができるの? ~これまでのレビューのおさらい~
冬山での使用感をチェックする前に、カシオの「スマート・アウトドア・ウォッチ」PRO TREK Smartとはどんな腕時計なのか、あらためて以前のレビューを簡単に振り返りながら説明したいと思います。
特長1:タフなボディと外観
落下や振動などタフな状況に耐えうるMIL-STD-810G (米国防総省が制定した米軍の物資調達規格)準拠。さらに5気圧防水、そして耐低温仕様(-10℃)と、登山などの山岳系アウトドアに使用する限りにおいては十分な耐久性を備えています。視認性の高いカラー・モノクロ二層構造液晶ディスプレイやグラフィカルで操作しやすい1.32インチタッチパネルなど、スマートウォッチとしても見やすく使いやすく、日常からフィールドまでストレスのない操作感を実現しています。
特長2:ボタンひとつでアクセス可能な各種センサー情報
一般的なアウトドアウォッチには欠かせないコンパス・気圧計・高度計はもちろん、日の出日の入り・タイドグラフ・活動(カロリー)グラフにボタン操作で簡単にアクセス可能です。
特長3:電波が届かなくても使えるオフライン地図
従来のPRO TREKにはなかった最大の機能のひとつが、ワンボタンで地図を表示してGPSによる現在地表示が可能なこと。さらにあらかじめダウンロードしておくことで、電波が通じない場所でもフルカラーのアウトドアマップが表示できます。
特長4:文字盤のデザインをはじめ多彩な機能を自分好みにカスタマイズできる拡張性
Android WearデバイスであるPRO TREK Smartでは時計の画面のデザイン(ウォッチフェイス)を選ぶことができます。フェイスの種類はかなり多彩で、日常生活や旅行、登山と、用途や気分に応じた多様なバリエーションが用意されています。さらに無数のサードパーティからリリースされている(あるいは今後リリースされる)各種アプリを追加していくことで、自分の好みに合わせて機能をどんどんカスタマイズし、進化させていけるというのも大きな魅力といえます。
新しいPRO TREK Smart WSD-F20Xは何が変わった?
バンド部分の取り外しが可能に。新バンドの「装着感」は?
基本的な特長を押えたところで早速最新モデルF20Xを見ていきます。基本的には中身の機能こそ前モデルWSD-F20(以下F20)変わらないものの、F20Xで大きく変わったのはバンドが簡単に取り外し可能になり、服の上から装着可能なクロスバンドが標準装備されたこと。これにより多様なアウトドアシーンでの快適性がぐっと広がりました。バンドは標準で二種類、従来のソフトウレタンバンドと、新たに追加のナイロン製クロスバンドがついています。
バンド接続部分が写真のように取り外し可能なジョイントパーツに変更されています。
クロスバンドは重ね着したウェアの上からでも巻けるようなロングタイプで、主にスキーウェアなどのアウターやグローブの上から装着することを想定しています。
これまで冬山では時計を腕に直接巻いていましたが、何かを確認しようとする度にいちいちグローブを外して袖を何枚もまくる必要があり、何かと手間がかかっていました。現在地を確認することが多いPRO TREK Smartでは時計へのアクセスがより頻繁になりますので、このような仕様は願ったり叶ったり。というわけで期待に胸を膨らませながら早速装着してみました。
二重構造で柔軟性のあるナイロンバンドが硬めのハードシェルが激しく動いてもしっくりとフィットし、装着感は上々です。長さも手首の細い自分にとっては少し長すぎるくらい(余分な部分は自分でカットもできます)で、かなり厚手の衣服の上からでも余裕があります。
ただこれはぼくだけかもしれないのですが、手首に装着するまでがやけに難しく、ある程度慣れが必要です。正確に言うと、内側にあるベルクロが片手ではしっかりと締めにくいのです。試行錯誤してみた結果、どうも自分の場合、両端のバンドをカシオの説明書にあるのとは逆順に取り付けた方が上手く締めやすいということが分かりました(下写真)。
それからもうひとつ気になったのが外側のベルクロをカバーするベルトループ(下写真)。これがどこにも固定されていないためすぐにどこかへいってしまいそうです。普段なら注意しておけばいいかと割り切れるのですが、極寒でなおかつ手もとがおぼつかない状況では紛失しないでいる自信がまったくありません。どうせ留めているのはベルクロの短い部分だけなので、最終的には外して箱の中に戻しておきました(解決してない)。新仕様のクロスバンドは付けてしまえば快適なだけに、ややクセのある調節・装着方法だけはちょっと気になってしまいました。
オリジナルウォッチフェイス「プレイス」が追加
11月に公開された最新のオリジナルウォッチフェイス「プレイス」は、文字盤上に自分でチョイスした計器やアプリボタンなどを最大3つまで配置できる、おそらく自分史上最高にムダのない、絶妙なレイアウトのフェイス。一つ一つの操作が重い冬山では、必要な情報にストレスフリーでアクセスできるこのような仕組みは文句なしにありがたいです。さらに背景にはGoogleカレンダーに登録された予定の場所や現在地の地図がうっすらと表示されています。正直地図は見づらくて使えるのかどうか判断できませんでしたが、デザインとしては非常にアリ。こちらはF20XでなくてもPRO TREK Smartユーザーなら誰もが利用可能です。
冬のPRO TREK Smartの実力は?早速実戦で使ってみた
今回のレビューにあたっては冬山でのアクティビティにどうかということを見るため、12月下旬~1月上旬にかけて、スキー場でのゲレンデスキー、短い距離ですがスノーシューでのハイキング、冬山テント泊、バックカントリーといったシーンで使用してみました。
低温には強い?防水性能は?
公式でこのモデルの耐寒性能は-10℃までとなっています。今回実際に使用していた環境は年末の大寒波のおかげで限界よりもさらに低温の-15℃あたり、テント泊の深夜では-20℃程にまでなっていました。そんな低温下ではありましたがPRO TREK Smartは急に機能停止するなどの問題もなく、いつもと同じように動作していました。もちろん5気圧防水のボディは雪の中に埋もれた程度ではビクともしません。
雪上での画面の見やすさや操作性は?
直射日光の厳しい晴れた雪山では一般的に液晶画面が見にくくなったりもしますが、バックライト式二層液晶ディスプレイは視認性についても心配無用でした。照り返しが最もきつい晴れた正午でもバックライトの明るさを最大にすることで、無雪期同様非常にクリアな表示が可能です。なお電池消耗が気になる場合には明るさを下げたとしても読めなくなるほどではありません。
またグローブをはめたままの操作になることが多い雪山では時計の操作も極力少なくしたいものですが、その点ボタンが大きく3つしかないPRO TREK Smartは操作感も良好です。ただタッチスクリーンが前提になっているため、地図の移動などタッチが必要な操作については(当たり前ですが)どうしてもストレスになります。最近のAndroidスマホにある「手袋モード」ではないですが、ボタンの操作でスクリーン操作を代替できるモードなどがあればいいのに。
冬のアクティビティではどんなアプリが使える?
Android Wearならではの大きな利点のひとつは、市販を含めてさまざまなAndroid Wearアプリをインストールすることで、目的に合わせて便利な機能を追加できるという点です。自分の場合、無雪期には登山とトレイルランで使用するのに「YAMAP」と「Strava」が欠かせません。そこで今回は雪の季節に便利なアプリにはどんなものがあるのかについてもざっと確かめてみました。
アクティビティアプリ「スノー」でゲレンデでの滑りをチェック
まずは特にあらためて追加しなくても使える標準アクティビティアプリの「スノー」です。
ゲレンデでスキーを楽しんでいる間にアプリを起動させるていると、自分の滑走をずっと記録していてくれ、下の写真のように滑走距離・滑走時間・トップスピード・高低差が滑走毎に滑走ルートと共にお手軽に確認できます。自分がどれくらいのスピードで滑っているのかを可視化したのは初めての経験で、ちょっと感心してしまいました。ただ現状ではそれ以上でもそれ以下でもなく、もう一歩踏み込んだ情報が見たいと思ってしまったのも事実。今後は速度に限らずさらに詳細なデータ(もっというとアドバイス)などが取得できれば、スキー上達のモチベーションアップに繋がったりとより使えるアプリに化けてくれる気がします。
「Ski Tracks」で多様な冬のアクティビティを詳細に記録・保存・共有
次に試してみたのは、世界中に多くのユーザーを抱えるウィンタースポーツに特化したアクティビティ・トラッキングアプリ「Ski Track」です。
最大の特徴は操作がハンパなく簡単なことでしょう。アカウント作成やログインといった面倒な作業は一切無し、やることはアプリを立ち上げ「記録」ボタンをタップするだけという超シンプル設計。記録中は、アプリが自動的に位置・速度・高度・距離・滑走数・斜度などを詳細に記録してくれます。リフトに乗ったことも自動的に感知して、滑走結果を自動で振り分けてくれます。記録された情報は「スキー」や「スノーボード」「スノーシュー」「スノーバイク」といった多彩なアクティビティの種類を設定することでそれに応じた内容に整理され、歩いた・滑走した軌跡をマップで確認できることはもちろん、歩行・滑走毎のデータや高度・速度変化グラフなどもグラフィカルに表示されます。
このようにシンプルな操作だけでなく、分析・表示内容の詳細さにかけてもかなり細かいところまで配慮の行き届いたアプリです。当然アクティビティの履歴は保存されており、保存したデータはKMZやGPXなど主要なファイル形式での書き出しが可能で、ここから他のアプリケーションに取り込んで管理することまでできてしまうという完成度の高さ(しかもここまで無料!)。なおトラッキングは電波が届かない場所でもGPS信号さえ拾えていればよいので、ずっと機内モードにしておけるためバッテリーの消耗もあまり気になりません。
ゲレンデスキーからバックカントリーまで、幅広いウィンターアクティビティでストレスなく使えるアプリは、冬にこの時計で利用するアプリとしては、現時点ではこれ一択です(登山でのYAMAP・Stravaは別)。なお、無料版と有料版(¥120)がありますが、違いはルートの保存件数が最大4件までという点ですので、使い込むなら有料版がおすすめです。
バッテリーの消耗具合は?
リチウムイオン電池は低温になるとバッテリーの消耗が早くなると一般的にはいわれています。デバイスによっては氷点下になるとついさっきまで残量に余裕があったと思ったら急に簡単に電源が落ちてしまうなんてこともよくあります。ただし実際には、デバイスによってバッテリーの消耗しやすさ、電源の落ちやすさには差があります。
ただ前回のレビューでも触れたように、バッテリー容量そのものに関しては、極限状況で命を預けるアウトドアウォッチとして考えるとまだまだ物足りないのは確か。アプリでトラッキングしながら通常使用で実質1日持たない(さまざまな省エネ設定を駆使すれば若干マシになりますが)といった点は、充電端子の接続が不安定で外れやすいこととあわせて真っ先に取り組んでいただきたい課題です。
まとめ:冬もいつも通りに使えたPRO TREK Smart、F20Xが加わってさらに自由度UP
期待というか、ある程度予想通りというか、PRO TREK Smartは堅牢性・耐寒性・機能性ともに雪山という厳しい環境でも及第点の活躍を見せてくれました。つい数年前までスキーではスマホをはじめとしたモバイル機器はいつ使えなくなるか分からないものだと半分あきらめていたことを考えると、今回ここまでいつも通りの働きをしてくれたことには感無量です。
新モデルF20Xについて、付属のクロスバンドはまだ装着方法に関して若干の改良の余地があるものの装着時の安定感は抜群です。ただ密かに個人的には何より「付け替えられる」という点について大いに評価しています。実際、いわゆる「NATOストラップ(22mm幅)」に変更してみたところ問題なく取り付けられたことから(メーカーが推奨しているわけではないものの)工夫次第で自分好みの1本にできるというのは何よりも大きい。自分と同じような凝り性の人にはたまらないのではないでしょうか。
最後に、いくら便利だからといっても、冬山に時計あるいはスマホ地図のGPSだけでいいというわけではまったくありません。たとえ予備バッテリーをもっていくとしてもそれだけは絶対にやめましょう。いざというとき周囲の地形を見ながら、紙の地図とコンパスで現在地を把握したりルートファイディングができることは冬登山では必要最低限のスキルのひとつといえます。ただ状況によっては時間がかかったり困難であったりするもの。これからはそれらを大いに補助し、さらに冬のアクティビティの新たな楽しみ方を教えてくれるギアとしてPRO TREK Smartが非常に頼もしい存在となってくれるでしょう。
ラインナップや主なスペック、付属品等についてはこちら(公式製品ページ)を、さらにメーカーによるお役立ち情報や最新情報などはPRO TREKのFacebookページで発信中です。