日帰り登山から軽い荷物でのテント泊まで、近年目に見えて人気が増してきているのがファストパッキング(他にもスピードハイキングやファストハイキング)と呼ばれるハイキング・スタイル。
そのスタイルを端的に表すと、軽量・最小限ながら野営が可能な程度の重荷を背負いつつ、走れるところは積極的に走ったりして通常のコースタイムよりも素早く行動する、つまり「ハイクアップ&ランダウン」を繰り返すようなハイキング・登山のことをイメージすればよいでしょう。
この新しいスタイルの登山を楽しむためのシューズは、伝統的な軽登山靴やハイキングブーツでは駆け下りるのにはやや足手まといになりがち。かといってスピード重視のトレランシューズでは重荷で足首のサポートやプロテクション、耐久性に不安が残ります(もちろん体力とスキルで乗り切ることは可能ですが)。
登山に必要な安定性と耐久性を備え、なおかつトレランのように軽快に進める機動力と反発力を兼ね備えている。急増するファスト&ライトなハイカー達のこうした欲張りなニーズに応えるべく、近年では各メーカーが切磋琢磨して次々と優れたモデルが登場してきているのが現状です。SALOMONからこの秋登場した、トレランシューズをベースに、ファストハイキング・スタイルに最適化された防水仕様のミッドカットブーツ、SALOMON CROSS HIKE MID GTXはそんな競争激しい軽量ハイキングブーツを何十足と試してきた自分がみても、これはファストパッキング向け軽量ハイキングブーツのひとつの到達点ともいえるべき、飛び抜けた完成度に達した一足でした。
そこで、歩いてよし、走ってよしの極めてバランスの良い一足を早速レビューしていきたいと思います。
目次
SALOMON CROSS HIKE MID GTXの主な特徴
SALOMON CROSS HIKE MID GTXは、サロモンファンにはおなじみのベストセラー・トレランシューズSPEEDCROSSシリーズをベースに、足首をミッドカットにし、さらに細かい部分でスピードハイクやファストパッキングといったアクティブなハイキングに最適化したモデル。
縫い目を最小限にした圧着仕様で、GORE-TEXによる防水仕様ながら片足400gを切る軽さ(MEN’S 27cm)を実現。柔軟性と耐久性を両立させた合成素材を採用し、アキレス腱部分にはストレッチ素材を配置するなど、十分なプロテクションを保ちつつ自然な動きを妨げない構造は、ミッドカットのブーツとは思えない軽快な足さばきを可能にしました。Quicklace®を採用したシューレースは緩みにくく着脱のストレスも大幅に軽減します。ミッドソールには「EnergyCell™+」を採用し、トレランシューズ由来の軽快な反発力と優れた衝撃吸収力を両立しています。アウトソールにはタフな地形でも抜群のグリップ力を発揮する「Contagrip®TA」をハイキング向けに最適化し、より全方向へのグリップに対応するとともに、耐久性も向上するようラグの大きさやパターンを見直しています。CROSS HIKE MID GTXはファストハイキングやアクティブなトレッキングはもちろん、キャンプやフェスなどのアウトドア全般にまで活躍してくれる、汎用性の高い1足です。
おすすめポイント
- 軽量でしなやか、動きやすさと足首の保護が両立されたアッパー
- すばやくセット可能なクイックレース
- 衝撃吸収力と安定性に優れた「EnergyCell™+」の高い反発力・クッション性
- 滑りにくく踏み込みの効くアウトソール
気になったポイント
- 通気性
- 足首の付け根付近にもう1つアイレットが欲しい
主なスペックと評価
項目 | CROSS HIKE MID GTX |
---|---|
重量 | 389g(27cm片足実測) |
ドロップ | 10mm(トゥ 17.7mm / ヒール 27.7mm) |
アッパー |
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ミッドソール |
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アウトソール |
多方向ラグを備えたContagrip® TAアウトソール
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防水透湿 | GORE-TEX |
快適性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★★★ |
グリップ | ★★★★★ |
クッション性 | ★★★★☆ |
プロテクション | ★★★★☆ |
安定性 | ★★★★☆ |
詳細レビュー
長引く残暑の9月初旬に猛暑とゲリラ雷雨の合間をかいくぐり、丹沢の主脈トレイルを数十キロ、このブーツを履いて歩いて(走って)みました。
クリーンな外観に好印象
凸凹の少ないクリーンなルックス、モビルスーツのような無骨なフォルムと質感(特に今回の試用モデルではないブラック・レッドモデル)も、自分のようなガンダム世代的には悪くない第一印象です。
手にとって直感的に感じる、見た目からは想像つかない軽さ
手にとってみると、知っていてもその規格外の軽さには心が踊ります。2年前にこのサイトで行った軽量ハイキングブーツ比較のときには、ミッドカットで400gを切ればそれはちょっとした事件でしたから、最軽量ではないにしてもこの軽さは本当によくやっているというほかないでしょう。
張りがありつつしなやかで耐久性も十分なアッパー素材
アッパー表面に採用されている合成素材は、密に織られたリップストップ生地。張りがありつつしなやかで優れた耐摩耗性・耐久性を備えています。ただメッシュ感が少ないため通気性はあまり期待できないでしょう。
基本的なベースはトレランシューズのSPEEDCROSS 5ですが、ハイク向けにチューニングするにあたって、長時間での歩行時の快適性をより高めるため、ランニングシューズと比較して約6mmラストを広く設計されています。足を入れてみると、つま先周りもまったく窮屈さを感じない十分な広さがあることが感じられ、きっとランニングシューズがベースと聞いて敬遠しがちな人にとってもリラックスした履き心地を体感できると思います。甲から足首周りも適度なパッドで覆われ、薄手ながらも柔らかい履き心地が味わえます。
耐久性の確保だけでなく快適性の向上にも。計算された圧着プロテクション
アッパーの外周にはプロテクション素材が、縫い付けられるのではなく熱圧着によって取り付けられています。ここ最近のサロモン製品では珍しくはありませんが、ここではミッドソールとアッパーとの境目が見えないくらい、地面と接する部分からプロテクション素材が使われているのが特徴です。
もちろん、単に圧着によって単純に糸がいらないことで軽量化につながるということはありますが、このアッパー素材をミッドソールの上から張り巡らした構造は、それ以上に足と靴との一体感を向上させたり、岩や木などで傷つきやすい部位にはさらなる補強を施してよりプロテクションを向上させるなど、細かい点で快適性の向上にもつながっています。
ミッドカットでもすばやくセット可能なクイックレース
嬉しいことにミッドカットでは珍しく、SALOMONの多くのトレランシューズに搭載されているQuicklace®システムが採用されています。ワンアクションでのオン・オフが可能です。樹脂パーツと余ったレースはタンにあるシューレースガレージに収納できるので、引っ掛けるなどの心配もありません。また丈夫ですが細いシューレースは、荷重が強いと食い込みなども気になりますが、今のところ個人的には問題なし。
さらにタンの前足部にあるループによって、クイックレースとアッパー生地とが直接擦れることで生地を痛めてしまうといったことのないようにもケアされています。
ただ個人的にあえていうと、アイレット(靴ひもを通す穴)の数についてはミッドカットで4つという比較的少ない数が若干気になりました。現状で特に不便を感じているわけではないのですが、あえて言うならば特に足首の付け根に近い位置にもう1箇所アイレットがあれば、全体的なフィット感と下りでのつま先のツッコミにくさはさらに向上したのではないかという気がします。
歩いてよし、走ってよしの絶妙な機動力と安定性・クッション性のバランスの良さ
今回は「日帰り+一眼レフ+三脚」という概ね軽量テント1泊分程度の重さで、コースタイムの1/2~2/3程度のスピード感(つまりはファストハイクスタイル)で行動してみましたが、このシューズの対応力の高さには驚かされました。多少の重荷でもグラつくこともない安定感、上りでのスムーズな踏み出しの気持ちよさ、下りでの思い切ったブレーキの確かさ、土や木の根・小石混じりのオフロードをはじめ、岩場・泥濘・水辺などあらゆる地形での安定した着地、そして万が一の捻りに対する足首のサポートと、これでもかというくらいあらゆる場面で楽しく、安全な行動をサポートしてくれました。
平地はもちろんサクサク。
岩場の急登もなんのその。
マッドなぬかるみの上でもぐっと食らいついてくれます。
「EnergyCell™+」が実現した高反発・高クッション・高耐久
その安定した機動力と快適性において中心的な役割を担っているのが、ミッドソールに内蔵されたトレラン由来のテクノロジーである、EnergyCell™+です。これは反発性の高いミッドソールであり、これによって踏み込み時には優れたエネルギーリターンを得ると同時に、着地時には十分なクッション性と耐久性を実現しています。ヒール部分にのぞく威圧感のあるぶ厚いミッドソールがその威力を物語っています。
ちなみにソールの厚みはヒール27.7mm/フォア17.7mm/ドロップ10mmと、かかと部分のクッションがしっかりと盛られています。
かかとと爪先が若干せり上がるようにカーブしたロッカー形状気味の構造によって、着地した際には適度なクッションで衝撃を受け止めながら、スムーズに前へと勢いがつくような蹴り出し感覚が味わえます。
足首の前後屈曲をスムーズにした足首後部の伸縮素材
そして快適な歩行を可能にするもう一つの秘密が、足首の機動性とサポート性を両立させたアキレス腱部分。
足首の後ろが少し落ち込んでいて、そこに伸縮素材が当てられています。このため足首を前後に動かす際には抵抗が少なく、走っている際にも邪魔になりにくいという仕組みです。これによって最低限の足首サポートを実現しながら、トレイルランと同じような感覚での素早い足さばきが可能となっています。
こうした多くの高い技術力と鋭いアイデアの集積によって、このシューズはある程度の重荷でも「歩いて快適」「走って軽快」という絶妙なバランスを実現していました。特に下りでは、ミッドカットとは思えないほどに楽しく軽快に足を運ぶことができます。蛇足ですが、あまりにも気持ちよくなって撮影した動画を参考までに下にアップしておきます。
多方向に確実なグリップを発揮する深く・腰の強いアウトソール
グリップの要となるアウトソールの作りについて見てみると、ここにも多くの工夫が詰め込まれていました。基本構成はベースとなっているSPEEDCROSSと同様、牽引力と滑りにくさを両立した「Contagrip® TA」の”シェブロンラグ”を採用しつつ、SPEEDCROSSとは異なるラグパターンによってハイキング向けに最適化されています。具体的には、SPEEDCROSSで象徴的だったくさび形状を、”マキビシ”のような三角型を散りばめるようにして、前への踏み出し・牽引力だけでなく、多方向に有効なグリップを意識しています(下写真)。ラグの間隔も十分に空いていることから泥抜けもよく、不安定で柔らかく滑りやすい地形でも安定したグリップが期待できます。
さらによく見ると、より大きな荷重のかかる中央縦ラインおよび親指付近のラグが大きめになっています。これはより長時間・高負荷の登山向けに、より安定感と耐久性を高める工夫だといいます(下写真左側)。
高い撥水性と安定感抜群のGORE-TEX 防水透湿
タンとアッパーとが一体化したガセットタン、GORE-TEXによる高い防水透湿性、さらには生地表面に施された優れた撥水加工によって、高い防水性を確保。小雨やシャワー程度ならばまったく気になりません。
まとめ:誰もが安心してハイクアップ & ランダウンを楽しめるミッドカット
CROSS HIKE MID GTXは、トレイルラン・トレッキング双方で培ったノウハウを融合した、見事なマリアージュが思う存分楽しめる、非常に完成度の高い一足。その高いレベルで隙きのない性能と機能の数々は、ファストパッキング向けシューズのひとつの到達点といっても決して言い過ぎではないことが分かっていただけたでしょうか。
薄手ながらも適所にクッションが効いて柔らかくも強固なホールド感。そして優れた衝撃吸収力と反発力を持つ「EnergyCell™+」を中心として、歩いても走っても快適さを感じられる仕組みの数々。ハイキング向けに計算し直された、牽引力と滑りにくさを兼ね備えたアウトソール。これらが相まって、CROSS HIKE MID GTXは軽量な装備で楽に歩きたいハイカーから、走り主体でガンガン攻めながら長い距離を攻めたいファストハイカーまで幅広くその快適さを体感できるでしょう。
かつて趣味や旅だった登山から、健康・スポーツ領域へと楽しみ方を広げながら進化していくマウンテン・アクティビティを、より多くの人々に楽しんでもらうために、まさにこのブーツはうってつけといえます。最高のファストパッキング向けシューズを探している人に、そしてこれから登山の世界に入っていく人に、ぜひとも早くこのシューズを手にとってもらえれば幸いです。
SALOMON CROSS HIKE MID GTXの詳細と購入について
製品の詳細についてはCROSS HIKE MID GTX (メンズ)/CROSS HIKE MID GTX W(ウィメンズ)それぞれの公式通販サイトもあわせてご確認ください。