ヘッドランプの進化が止まりません。自然のなかで夜を過ごすには欠かせないアウトドア必携ギアであるヘッドランプは、2017シーズンペツルやブラックダイヤモンドなどの主要なブランドで大幅なモデルチェンジがありました。
これによってあり得ないほどの高出力や自動調光機能、スマホ連動といったハイテク機能が当たり前に?なりつつあります。未来のことは分かりませんが、とにかく今やヘッドランプは数年前には想像もできなかった”ウェアラブルデバイス”へと姿を変え、ここまでいくとこの先例えばカメラが内蔵されるなんてこともあながち妄想ではないなんて、そんな時代です。
こうした高機能化と高価格化がここまで進んだのはアドベンチャーレースからウルトラトレイル、さらにはナイトハイクといった夜間積極的に活動するアクティビティの普及によるところが大きいといえるでしょう。ただ逆にいえば、昔からある普通の登山をする人にとっては正直オーバースペックと感じられる機種も少なくはありません。ユーザーはメーカーの煽り文句に踊らされることなく自分の目的・用途に沿ったモデルを選びたいところです。
ところが厄介なことに、昨今のヘッドランプはいざ選ぶとなったとしてもお店では十分に試しにくかったり、表示スペックからは実際の性能が判断しにくいといった問題を抱えたギアであることは以前このサイトで詳しく書いたとおりです。自分にとって十分なモデルを探し出すことは決して簡単ではありません。
そこで今回は、あらためて主要メーカーの売れ筋・注目・最新モデルをピックアップし、さまざまな角度から比較してこのサイトなりの評価をしてみるという好評企画の2017年モデル版をお届けします。
いつもそうですが、このサイトの比較レビューは、単純で分かりやすいランキングを示して購入ボタンへ誘導しようというものではありません。それよりもさまざまな評価項目での各モデル毎の特徴・個性の差が浮き彫りになることで、読む人それぞれの用途・アクティビティにとって最適なヘッドランプが分かるようにと考えて書いています。そんなわけで今回もかなりのボリュームになってしまいましたが、早速いってみましょう。
目次
目次
今回比較したヘッドランプについて
今回の比較にあたっては、国内外主要メーカーのなかで一般的なトレッキングに対応と謳っている範囲で、エントリーモデルからハイエンドモデルまで性能・価格に幅をもたせた下記10モデルをピックアップしました。
- Black Diamond スポット
- Black Diamond リボルト
- Black Diamond スプリンター
- milestone MS-B3
- PETZL ティカ
- PETZL リアクティックプラス
- PETZL NAO+
- モンベル パワーヘッドランプ
- GENTOS GT-105R(テストはGT-305R)
- LEDLENSER SEO7R
今年も何はともあれ昨年当レビューにて総合1位を獲得したBlack Diamond リボルトの2017年版は外せません。このモデルを含めて、夜道を照らす「遠距離モード」と手元を照らす「ワイドモード」を備えたいわゆる「登山向け」のスタンダードモデルは多くのブランドから発売されており、人気・実力的にも厚めに幅広く選出しました。特に今年はブラックダイヤモンド、ペツルの二大ブランドのリニューアルだけでなくジェントス、レッドレンザーといった新顔も含めて個性的なモデルが多く非常に楽しみ。
それ以外で今年はペツルの新作がおもしろい。大幅に高出力となったNAO+や、スマホのアプリで操作できる機能が追加されたにも関わらず大幅にプライスダウンしたリアクティクプラスなどの新製品は期待が膨らみます。その他、モデルチェンジはしていない模様ですが、mont-bell、milestone、Gentosといったコストパフォーマンスが魅力の日本製モデルも選出しています。なお、GENTOSについて、テストはGT-305Rでおこなっていましたが、テスト中に105Rへモデルチェンジしました。ただスペックを確認したところほとんど変わらず(むしろ機能を削ってマイナーチェンジ)だったということで、記事では現行モデル105Rとして進めています。
テスト環境
- 外からの光をシャットアウトした真っ暗な室内で定量的な比較(強さ、広さ、電池寿命など)
- 真夜中のトレイルで静止した状態、歩きながらでの比較
- 実際の泊まりがけハイキングで一通りの使い方を試しながら使用感をチェック
明るさの測定にはCIE(国際照明委員会)規格に準拠した照度計を使用(写真)しました。ただいろいろ調べてみると、照度計自体の品質や光の色の違いによって計測結果にはある程度誤差が生じるらしいので、測定値は絶対値として評価せず、各ギアの相対的な比較でしか使用していません。なお、電池によって性能が違うリボルトは、フルパワーが出せるアルカリ電池で比較しています。テストはすべて新規・充電済みの電池で実施、写真はすべて同設定で撮影し、現像しています。
テスト結果&スペック比較表
評価結果 ~タイプ別おすすめ~
PETZL REACTIK+(リアクティックプラス)
総合1位:歩きやすさと多彩な機能が詰まったヘッドランプの未来形
多くのヘッドランプメーカーが高出力ビームやセンサーによる自動調光などでお茶を濁しているあいだに「ヘッドランプをスマホで操作する」という、ちょっとどうかしているとしか思えない方向へと三段跳びかましてくれているのが2017年のペツル。だってそうじゃないですか?「今度のスマホは何が新しいんだい?」と聞いて「スマホで操作できます」と返されたら普通「は?」でしょ。一体何が便利になったのか、想像できますか?ぼくのようなにぶい人間にはとんと分かりかねます。
ところが、もちろんそれだけではない点も含めてですが、いろいろな意味で斬新なこのモデルが今回の1位になってしまいました。ギャップってヤツですかね、それは否定しません。機能がたくさん付いているからってイイなんていうつもりは毛頭ありません。ただこればかりは、使ってみて自然と「未来のヘッドランプはこうなるのか」という気が本当にしてきてしまったのだからしょうがない。
このモデルの目玉であるスマホアプリ「MyPetzl Light」ですが、いろいろな機能があるもののまだ試行錯誤な所は否めません。アクティビティに合わせたビームパターンのカスタマイズもそこまで必要?という気がしないでもない。ただこれだけははっきり言えます。「出力レベル」と「電池の残量(残り時間)」が分かるって気持ちいい(精神衛生上)。スマホと連動して良かったことはまだこれだけですが、当たり前になって欲しい機能であることは確か。残り照射時間はまだどんな場合でも正確という程ではないのでここは引き続きがんばって改善していってもらいたい。
その他の性能についてもさすがハイエンドというだけある性能を備えています。例えば他ブランドでも見られるようになった「リアクティブライティング(自動調光機能)」は鉄板で使えます。思えば今までランプの明るさを歩いている途中で調節したことなんて数える程しかありませんでした。周囲の明るさに合わせて自動でちょうどいい明るさにしてくれて、電力を節約してくれればどれだけ幸せかということが実感できます。電池寿命に関しても、多くのモデルがすぐに出力が半分以下に落ちてしまうなか、このモデルは2時間経っても80%程度の出力、5時間経っても10%以上を維持していました。さらにもうひとつこのランプにしかない素敵なポイントは足元の照射範囲の広さ(写真)です。暗闇を歩く時には遠くまで見えることだけでなく、足を置く場所も明るいということがこんなに快適だったとは、これ(正確にはこの前モデルティカRXP)を使うまで気づきませんでした。
登山はもちろんのこと、運動中でもずれにくいヘッドバンドで夜間走行ありのトレイルランにも十分守備範囲。そして何より価格がギリギリ手の届く範囲になってきたことから、どんな人に対してもおすすめできる良品と言えるのではないでしょうか。ただ最後にひとつだけあらかじめ断っておくと、操作は複雑。覚えるまでは面倒だからそれだけは覚悟しておけ、とだけは言っておきます。
Black Diamond リボルト
泊まりのハイキングに必要な機能を高次元に備えた登山向けNo.1
遠距離照射の実質的な明るさや近距離照射での視認性の高さ、そして極端な電池の減少がないという安心感、USB充電機能。前回の比較で1位を獲得した大きな理由はこうした奇をてらわない使いやすさ、バランスの良さでした。2017年のリニューアルで大きく進化したのは、明るさが300ルーメン(アルカリ電池使用時)と約3倍になったこと、そしてほぼ防水(IPX8)になったことでしょうか。重量はさほど変わらない一方、見た目的に大きく変わり、よりコンパクトになったというのも目新しいといえなくもない。
正直ペツルが次々と新しいぶっ飛んだ機能を詰め込んでくるため若干の拍子抜けは否めませんが、冷静に考えればこれで十分でしょう。その意味でリボルトは面白みはないかもしれないけど素直で、優等生なヘッドランプ。新モデルはその完成度にさらに磨きがかかり、より隙がなくなりました。
やはり近距離・遠距離ともそれぞれでムダのない範囲をしっかりと照らす光の質の高さは相変わらず。そして5時間以上経っても極端な減り方をしない電池消耗曲線の緩やかさ、ボタン1つで操作が完結するシンプルさも、従来からのハイカーにとっては代えがたい安心感に繋がります。
あなたが強烈なビームを瞬かせながら前を走るランナーを威嚇する必要がなければ、細部まで完成度を高めて明るくなったリボルトは相変わらず間違いのない選択となるでしょう。新しい機能での新しい使い方はトレイルランナーにこそ刺さるわけで、価格的にも登山メインであればこちらがちょうどいいといえます。
PETZL NAO+
走るための照射性能と機能を突き詰めたモンスターライト
もちろんライトは明るいに越したことはないですが、登山で歩く程度のスピードならば、はっきり言ってそこまで高出力の光は必要ありません。ただしレースとなると話は別。1分1秒を縮めるためには可能な限り明るい光を、可能な限り長い時間照らして欲しいという欲求は止まることを知りません。その要望に応えてくれたのは予想通り、750ルーメンという超高出力を誇るペツルのアウトドア向けフラッグシップモデルでした。
自動で明るさを調節してくれる「リアクティブライティング」をはじめ、電池寿命が減ってきても長時間高い照射力を一定に保つ「コンスタントライティングテクノロジー」、 走りやすいように近距離照射用ワイドビームと遠距離照射用スポットビームを同時に照射するミックスビーム、重量バランスを保持し後方の赤色シグナル光にもなるバッテリーボックス、ズレにくいヘッドバンドなど、欲しがりランナーのシビアな要求にも応えてくれる機能が一通り揃っています。これを点けて走った時の真昼のようなずば抜けた快適さは想像以上でした(後述)。さらにスマホアプリ「MyPetzl Light」も連携するため、大まかなバッテリー残量も時間表示で把握可能。1分1秒が大切なランナーにとってこれは大きい。
ただ専用バッテリーはアルカリ電池等使用不可ですので、予備バッテリーが必要な場合にはオプションでまた 専用バッテリーを購入する必要があり、高い出費を覚悟しなければなりません。とはいえ性能に妥協したくないユーザーにとってはそれをしてでも装備する価値があるモデルであることは確かです。
Black Diamond スポット
シンプルな機能ながら高い品質を備えたコスパNo.1
高性能のヘッドランプで気になるのはやはり価格で、1つ目から5千円を超えるモデルを揃えろというのはさすがに酷だということはぼくも分かります。ビギナーの方々は「いいから早く安くて間違いのないモデルを教えろや(#゚Д゚)ゴルァ!!」と今頃しびれを切らしているに違いありません。そんな人たちのためにはじめてでも安心の、ベテラン登山者の長い説教を聞かなくてすむという意味でのコスパNo.1を選ぶとすればこちら、泣く子も黙るBlack Diamondのベストセラーモデル、スポットなんかいかがでしょう。
電池寿命の短さを除けばBD リボルトと遜色ないビーム品質、IPX8クラスの防水性能は、5,000円を切る価格帯としてはかなりデキる子といえます。前回のコスパNo.1モデルであるモンベル パワーヘッドランプも高コスパであることは間違いないのですが、やはりスペックには現われてこない性能まで含めて相対的に考慮するといくら低価格であったとしても今回はこちらに軍配を上げたいと思います。
前ページでは比較したモデルのランキングと、評価・スペックの一覧、そしてそれに基づくおすすめを紹介しました。ここからはその評価について、どのような基準で評価したのか、なぜそのような評価になったのかについて解説していきます。
各項目詳細レビュー
遠距離(トレイル)照射
ここでは主にトレッキングやトレイルランでの夜間行動中に前方を照らすために必要な性能を比較しています。
ライトを照らすことで真昼に近くなればなるほどより快適(見やすい)わけですから、光は遠くに届けば届くほど良い。ただしそれには限度がありますから、ヘッドランプは限られた光をライトの周囲にある反射板によって集約することで、できる限り光を遠くに届かせようとします。するとどうしても光の照射範囲は絞られてしまう。遠距離照射では光のパワーだけでなく、このバランスが非常に大切といえます。なお、「照射距離」そもそも何よって人は、以前書いた「ヘッドランプの選び方」に詳しく書いていますので参考までに。
実際に照らしてみると大きく違う、暗い夜道での歩きやすさ、走りやすさ
まずは各モデルが公表しているスペックから、遠距離モード最大出力での光の強さと照射距離を比べてみます(下表)。
アイテム | Black Diamond スポット | Black Diamond リボルト | Black Diamond スプリンター | milestone MS-B3 | PETZL ティカ | PETZL リアクティックプラス | PETZL NAO+ | モンベル パワーヘッドランプ | GENTOS GT-105R | LEDLENSER SEO7R |
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カタログ最大光量(lm) | 300 | 300 | 200 | 160 | 200 | 300 | 750 | 160 | 320 | 220 |
カタログ照射距離(m) | 80 | 80 | 50 | 70 | 60 | 110 | 140 | 110 | 54 | 130 |
PETZL NAO+は別格に光量・照射距離ともに高いことが見てとれます。そしておもしろいことに300前後のモデルでも照射距離が100mに満たないモデルもあれば、200前後にもかかわらず100mを超えているモデルもあるということにあれっと思った方は鋭い。
この各モデル毎の微妙な違いが実際に光を点け比べてみた時どのように現れるのか?次に全モデルを最も照射距離が出る設定で約2m離れた壁に照射してみた写真を見てください。
アイテム | Black Diamond スポット | Black Diamond リボルト | Black Diamond スプリンター | milestone MS-B3 | PETZL ティカ | PETZL リアクティックプラス | PETZL NAO+ | モンベル パワーヘッドランプ | GENTOS GT-105R | LEDLENSER SEO7R |
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照射範囲写真 |
まずPETZL NAO+はやはり光の強さも照射範囲の大きさもスゴイ。そしてそれに次いでなかなか優秀と感じられたのがBlack Diamond リボルトとPETZL リアクティックプラス、次点でBlack Diamond スポット。これらは前方の目盛りが消えてしまうくらい強い光を相当大きな範囲照らしてくれているのが分かります。それ以外のモデルは中心付近の光量はあるものの広がりが弱いとか、広がってしまって中心付近が弱いとか、そうした何かしらの難点がありました。
今回興味深かったのはLEDLENSER SEO7Rです。SEO7Rは光の照射範囲を手動で調節でき、上の写真は光が最も遠距離まで届くスポットモードにした状態ですが、最大光量は220とこのなかでは中程度にもかかわらず、光が照らされている部分はNAO+に負けないくらい強い、つまり照射距離的には非常に高評価をあげていい。
一見これで遠距離照射的には高く評価しても良さそうですが、ただ一方SEO7Rは見て分かるとおり照らされている範囲は縁までフラットに強い光が広がっていますが、その照射範囲自体が他と比べて極端に狭く、縁の明暗差が激しい。このあたりの特徴は実際のトレイルでどのように見えるのか、知りたいですよね。ということで、今度はこの違いが実際の夜道でどう影響するのか、夜の高尾山でトレイルを歩いてみた比較動画がありますので、こちらを見てみましょう(下写真)。
アイテム | Black Diamond スポット | Black Diamond リボルト | Black Diamond スプリンター | milestone MS-B3 | PETZL ティカ | PETZL リアクティックプラス | PETZL NAO+ | モンベル パワーヘッドランプ | GENTOS GT-105R | LEDLENSER SEO7R |
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屋外照射写真 |
※静止画は別の場所で一本道を撮影した写真になります。なお写真ではかなり暗く見えているとしても、人間の視覚は無意識のうちに暗さに対応していくため、暗いと思われるライトも実際には写真よりもかなり明るく見えていくということはご注意ください。
例によってNAO+は別格として、PETZL リアクティックプラス(動画1:18あたり)は近距離・遠距離がミックスされ、なおかつ中心から下半分に台形状に広がった光が足元までしっかり明るく照らしてくれていて歩きやすさでは頭ひとつ抜きん出ていました。またBlack Diamond リボルトも表示スペックのわりには遠く・広く光が届いており、光の縁周辺の滑らかさも見やすくて快適でした。一方でLEDLENSER SEO7R(動画2:19あたり)ですが、中心付近は非常に奥まで照らされているもののいかんせん範囲が狭すぎる。道標や分岐などを見逃せないトレイルでこの照射範囲では、前方に影なのか縁なのか見分けがつきにくい部分が常にあり、ストレスが溜まります。このスポットモードを使用するのは現実的ではないため、結局はワイドモードを使用することになり、実質的にはスペック上の照射距離を使えていません。このため総合的な遠距離照射の評価としては下げざるを得ませんでした。
近距離(手元)照射
キャンプや登山においては夜中歩くことは緊急時以外そこまで多くはないため、ある意味最も使用頻度が高いともいえるのが近距離照射モード。もちろん明るいにこしたことはないのですが、直視できなくなるほどの明かるさは手元の地図すら見にくくしてしまうため不要です。それよりも大切なのは、身体や視線を動かさないで周囲の状況をストレスなく把握できるような「より広く、均一に点灯されたビーム」ということになります。
それを踏まえた上で、今回は各モデルの近距離モード(近距離モードがないモデルは通常モードの「中」レベル)を地上1.5mの高さから約3m離れた白い壁に照らした様子をご覧ください。
アイテム | Black Diamond スポット | Black Diamond リボルト | Black Diamond スプリンター | milestone MS-B3 | PETZL ティカ | PETZL リアクティックプラス | PETZL NAO+ | モンベル パワーヘッドランプ | GENTOS GT-105R | LEDLENSER SEO7R |
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近距離照射写真 |
最も目に優しいレベルで明るく、そして広く均一に拡がる光をつくっていたのは、いずれも今シーズンモデルチェンジしたBlack Diamond リボルトとBlack Diamond スポット。この2モデルに関しては明るさもさることながら、照射範囲が自分の視界よりもギリギリ広いくらいだったため、前方のライト縁が気になるというストレスが全くありませんでした。テント内や早朝の準備などの快適さは普段あまり気にしませんが、比較してみるとここまで違うものかとあらためて驚きです。
その他気になったところでは、GENTOS GT-105RとLEDLENSER SEO7Rの明るさと光のフラットさが際立っていました。中心から縁に至るまでの光の減衰が少なくフラットであるため、照射範囲内での見やすさはピカ一。ただし遠距離照射のときと同様、照射範囲が他と比べて狭く、どうしても縁が気になるという点で快適性が劣っていました。
バッテリー寿命
照射時間(電池寿命)は単純に長ければ長いほど良いということは当たり前なのですが、ヘッドランプという道具の性質上、寿命が尽きるまで100%のパフォーマンスを発揮できるわけではなく、評価にあたってはその寿命の中身を比較することが重要です。
例えば「10時間」という表示があったとしても、当然HIGHクラスの光量が10時間もつわけではありません。また、10時間かけて一定ずつ光量が減っていくというわけでもありません。実態はそんな甘いものではなく、モデルによってははじめの1時間で最大光量から半分程度に減ってしまうものもあります。さらに表示された寿命が一体どのような状態でどのような照射モードで測ったものなのか、一見すると分かりにくい表示になっていたりすることもあります。
これはブランドが公表している計測値が自社基準によるものであるところが大きく、主要なブランド間ではその基準も揃ってきてはいるものの、まだまだ表示された寿命はあくまでも目安として考える程度に留めておく必要があります。ちなみに最近では「ANSI/NEMA FL1」といった新しい統一規格での計測値を表示するブランド出てきており、そうした標準化の動きを今後も期待したいところです。
今回は各モデルが同じ条件ではそれぞれどのような減り方をするのかということを知るため、遠距離モード(ブーストモードなどの瞬間的なモードを除いたMAX出力)で5時間照らし続け、その間の照度の変化を測定しました。2m離れた場所から壁の照度計に向かって照射した光を測定した結果が下のグラフです。横軸は時間、縦軸は照射距離です。ちなみにここでの照射距離は照度計によって得られた照度(lux)から「逆二乗の法則」を用いて算出した理論上の距離です。絶対的な数値として信頼できるとは考えていないので、あくまでも5時間での変化量としてお考えください。
グラフが分かりにくくてアレですが、何が分かったのか以下ポイントを説明します。
まず5時間を経過して高い照度(照射距離)を保っていたのはPETZL リアクティックプラス(28m)、Black Diamond リボルト(26m)、PETZL NAO+(23m)で、これら3モデルは総じて5時間絶った後でも明るい、という意味ではひとまず「寿命が長い」モデルであるといえます。なかでも一定時間まで最大に近い照度を保つ「コンスタントライティング」機能を有したリアクティックプラスは使用時間が3時間限定なら170分経過後でも70mという驚異的な照射距離を保っていたことは特筆すべきで、その点NAO+は少し予想を下回りました(元の照度が強いのでそれでも明るいには違いないですが)。一方リボルトははじめの30分での落ち込みがやや激しいものの、そこからはほとんど明るさが落ちずにずっと快適で使えるところが他のどのモデルと比べても優秀でした。
次に、これも3時間限定で考えれば最大照度からの落差が最も少なかったBlack Diamond スプリンターも、さすがトレイルラン向けとあってレースのような最大照度が長時間必要なケースには適しており、バッテリー消耗に強いモデルといえます。その他、LEDLENSER SEO7Rも4時間過ぎまで最大照度の50%程度をずっと維持しており、長い時間快適に使えるモデルであることが分かります。この点カタログ情報では何も触れていなかったのですが、もっとアピールしていいのに。
まとめると、
- 5時間程度までの長時間耐久ならばBlack Diamond リボルト、LEDLENSER SEO7R
- 3時間限定で優秀なのはPETZL リアクティックプラス、PETZL NAO+、Black Diamond スプリンター
といったところでしょう。
重量・機能性・操作性
この項目では光の性能以外で、道具としての使い勝手や便利機能、操作性について評価しています。まず重量に関して、基本的には軽いものほど点数が高いわけですが、軽量な専用バッテリーを使用したLEDLENSER SEO7Rは多機能な割に重量も抑えられており、このなかでは特に注目です。
機能性についてはどうしても今年リニューアルしたモデルが強くなってしまうという結果になってしまったことは否めません。誤点灯を防ぐロック機構、充電可能なバッテリー、バッテリー残量表示、自動調光、無段階調光、スマホ操作など前回に比べて質・量ともに多種多様な機能をもったヘッドランプが多くなり、単純に比較することは難しくなってきていますが、基本的には加点方式で、より有効な機能がたくさん付いているモデルほど高い評価としています。
それを踏まえて価格的にも最高峰のPETZL NAO+はスマホ連動も含めて最新鋭の機能が満載、まさに至れり尽くせりです。特に背面のRED表示やバッテリーパックの分離によるバランスの良さ、外れにくいヘッドバンドなどランニング向け機能が充実しているのが特徴。操作性についても1ボタンで混乱することは少なかったです。その点、同様コンセプトのPETZL リアクティックプラスは機能・操作性ともに一歩劣るところで、特に操作性に関しては2つのボタンの組み合わせでやはり混乱しがちです。ここは何とか改善してほしいところ。
一方ランニングに適した機能は少ないものの、防水機能といった過酷な状況に対応した機能が充実したBlack Diamond リボルト、Black Diamond スポットは登山での使用を考えればこちらの方が機能的にマッチしているといえるでしょう。ただ自動調光機能に対抗?するべく配置されたワンタッチでMAX照度になるボタン「パワータップテクノロジー」は機能的には満足なものの、操作性に関しては正直誤作動しがちで少し気になりました。それを除けば概ね1ボタンで操作が完結する点は好印象です。
その他PETZL ティカ、モンベル パワーヘッドランプは操作性という観点から最もシンプルで誰にでも使いやすいといえる一方、機能面は(価格的に考えても)案の定、最低限に絞られています。ただ、もちろんまったく使いものにならないというわけではまったくありませんので、これらはコスト優先で最低限の使い勝手で十分と割り切れる人にはおすすめといえます。
まとめ
ある程度予想されたことですが、やはり今回の比較ではタイミング的にリニューアルした2大ブランドの良さがどうしても目立ってしまいました。そのなかでも個人的にはペツルの細部にわたる工夫と、先鋭的な機能による未来感が使っていて心地よかった印象。BDも決して悪くはないし嫌いではないのですが、新しいモデルのデザインを含めてちょっと今回は期待を上回る部分が少なかった気がします。そしてやや余談ですが、今回新たに加わったLEDLENSERのクセの強さには驚かされました。抜群にフラットで見やすいビーム、先進的な機能など丁寧に作り込まれた高い品質であることは実感できるですが、いかんせんクセが強い。使った感触的にはある程度の慣れが必要なのと、シーンを選ぶのかなという気がしましたが、ランナーなどの愛用者も多いともいわれているので、できることなら引き続き他のモデルも試してみたいと思います。