ちまたでだいぶ普及してきた、トレイルランニング用ハイドレーションベスト。「背負う」というより「着る」タイプのバックパックだ。メーカーごとに様々なパックを取りそろえているが、共通して言えることは、腰回りのヒップベルトを省略し、胸部のポケットを充実させ、バックパック自体の重心はやや上部にある点だろう。ベストタイプといえども、携帯食、水、ウェア、スマホ、マップ、ヘッドライトなどなど、最低限のものはバックパックに詰めなければいけない(コース工程、天候、自身の経験や実力によってかなり変動するけど)。暑い夏山やレース仕様だと、容量は10L未満がちょうどいい。ミニマムで、軽く、機能的。この夏、注目のトレイルランニング用ハイドレーションベストを比較レビューしてみた!
目次
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今回比較テストしたアイテムについて
以下は今回比較した5モデル。以下の基準で、レースにも真夏のトレーニングにも最適な小型のハイドレーションベストをチョイスしてみました。
- 容量は10L未満
- ベスト型のハイドレーションバックパック
- 夏をメインに、春秋でも使えるモデル
独断と偏見で選ばせてもらった最強候補5モデルがこちら。
- Arcteryx ノーバン7 ハイドレーションベスト
- Patagonia スロープ・ランナー・パック 8L
- PaaGoWorks RUSH 5r
- The North Face TR 6
- OSPREY デューロ 6
テスト環境
高尾山(東京)の先にある、休憩スポットでもある一丁平でテスト。
評価ポイント
- 機能性・・・使い勝手がいい機能を備えているかを判定してみた。
- 収納性・・・携行する荷物をいかにスムーズに、いかにシンプルに出し入れできるかを判断。
- フィット力・・・アクティビティ中のフィット力をジャッジ。
- 軽量・・・シンプルにバックパックの軽量化を判断。
- 通気性・・・通気性は、軽量化と概ね比例するものだが、その先入観に囚われることなく判断。
テスト結果&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方は こちら
各モデルのインプレッション
Arcteryx ノーバン7 ハイドレーションベスト
ここが◎
- 細かく、気の利いた収納力
- 使いやすいハイドレーションシステム
ここが△
- チェストストラップ操作がややストレス
高機能ハードレーションベスト「ノーバン」。今回の比較レビューでは、7Lをピックアップ。生地はソフトシェルのようにやや硬めでだが、ショルダーストラップをはじめ、メッシュ素材を多用することで、通気性・軽量化を高めている。総重量は265gで、かなり軽め。
トップには、アクセスしやすく、耐水性に優れた耐候ポーチや鍵などを収納するのに便利なセキュリティポケットがある。山で遊ぶユーザーにとって、気が利いた収納力と言えよう。また、耐候ポーチは荷物量に応じて、2段階のアジャストが可能。財布や地図など、濡れたら困るものを入れておくといいだろう。下部には、シェルなどを収納するのに便利な、伸縮性のメッシュダンプポケットが備わっている。ショルダーストラップなどの前面部にはソフトフラスコやエナジージェルなどを収納できるメッシュポケットや、ジッパーポケットを完備。ストックなどのホールドにも使え、アレンジもしやすい圧縮バンジーコード&ポールキャリーポケットなどなど、収納性に優れている。
とりわけ、他のハイドレーションベストと比べて秀でた特徴は、メインコンパートメントに収納するハイドレーションシステム。ソースハイドレーションブラダー(2L)が付属しているのだが、ハイドレーションのチューブをベストの横から内部へ通すタイプ。ハイドレーションに水を注ぐ際、ハイドレーション本体をわざわざ取り出す必要はなく、ベストに入れた状態で、チューブの脱着できるのでかなりスムーズ。チューブは横の後方から前方へ持ってきて、胸部ストラップのところでホールドする(通常のハイドレーションよりも水の出がかなりスムーズで、飲み切れる気がするぞ)。
ただ一点。2本の胸部ストラップの調節は、スライド式ではない。なので、やや調整しづらい。一度決めてしまえばいいかもしれないが、アクティビティ中でも、調整するユーザーはいるはずだ。胸部ストラップの高さを、左右で誤ったままとかありそうだ……。できれば、スライド式で、伸縮性がきいたストラップが良かった。
PaaGoWorks RUSH 5R
ここが◎
- ユーザーの使い勝手を考えたポケットレイアウト
- 伸縮性と通気性に優れたストレッチメッシュ
ここが△
- 耐摩耗・防水性が欲しいところ
ユーザー視点の確かなものづくりに定評あるPaaGoWorksからは、RUSH 5Rがエントリー。ウルトラトレイル用に開発され、多くのユーザーを虜にした「RUSH UT」をさらにバージョンアップさせた一品だ。
主素材はストレッシュメッシュで、重量は250g。背負ってみた感じは、素材がストレッチメッシュゆえに、軽く、優しいあたり。ベストの重心がやや上にくる感じで、(相変わらず)背負いやすく、ナイスなフィット感だ。背面は背中に密着され、伸縮性があるため、アクティビティ中は、驚くほどに揺れにくく、通気性のまずまずだ。
メインコンパートメントへのアプローチは縦型ジッパー式で、大きく開くため、荷物の出し入れがラクラク(ジッパーはやや固め)。また、メインコンパートメント内の底部には、荷物量に合わせてアジャストできる工夫がなされている(かなりニクイ気遣い!!)。ハイドレーションは、ベストを横に寝かせて、取り出しするタイプで、これまた出し入れが楽チンだ。ポケットレイアウトはユーザーの意見をふんだんに取り入れているだけあって、シンプルかつアプローチしやすい。走りながらでも飲みやすい位置にソフトフラスクやボトルを装着できるショルダーポケットや、ジェルや行動食を入るための大容量ポケットを筆頭に、ベスト右側の脇下には補給食やジェルの包装ゴミを入れる専用ポケット「トラッシュポケット」、左側の脇下には、貴重品などを安心して収納できるジッパー式大型ポケットも常設。ストレッチメッシュの適度な伸縮性がその使い勝手に拍車をかけている。
より最適なフィット感を出してくれる「サイドアジャスター」も、ナイスな位置にあり、両脇のコードを下に引くだけで、ウエストのホールド感を調節できる。付属品のバンジーコード、コードロックも、ユーザーの遊び心をくすぐる(バンジーコードを使用することで、コンプレッションされ、もう一つ上のフィット感が!)。
また、かなり斬新な機能が、体型や荷物量に応じてショルダーハーネスの長さを調整できる、アジャスタブルハーネスだ。確かにフィット感はかなりいいが、マジックテープでホールドさせているためか、ややショルダーパッドが硬め。鎖骨あたりに、若干あたる感じで、気になる人は、気になるだろう。とは言え、ユーザーの声を元に、ここまで快適さを追求したレーシングベストは、他にあるだろうか。
The North Faceティーアール6
ここが◎
- ポケットが多く収納性はピカイチ
- ショルダーハーネスのあたりがソフト
ここが△
- 身体との密着面が多いため、蒸れやすい
- 重量が重め
The North Faceからは、進化し続けるTRシリーズのウルトラトレイル用パック「ティーアール6」をピックアップ。容量は6L、重量はMサイズで310gとやや重めだ(S/290g、M/310g、L/330g)。今回のアップデートでは、「背負う」という概念を「着用する」に変化させ、身体との一体感をさらに向上させた、とだけあって、背面にかなり密着した構造となっており、安定感は上級クラス。更にフィット感を出しているのが、3本のチェストストラップ、脇下のストレッチ生地、コンプレッションバンジーコードだ。上下の揺れを軽減されているためか、激しい動きにもフィットし続け、揺れにくい。ただ、通気性はもうちょっと工夫が欲しいところ。
メインコンパートメントは、縦長のセンターダブルジッパーで、大きく開きくので、ウェアなどの出し入れはかなりしやすい。内部左右にはメッシュポケットが完備。上部には耐久・耐水性に優れていそうな、雨蓋型のベルクロフラップも備わっている。ただ、細かい点だが、ベルクロフラップを閉じたままだと、メッシュポケットにアプローチできないのが気になった。内部右側のジッパー式メッシュポケットのジッパーは長辺にあった方がいいのでは……。ただ、ポケットの多さには圧巻だった。本体下部には、左右からアクセスできる大型ストレッチポケット、ショルダーハーネスにはストレッチボトルポケットが2つ。前面両サイド下にはストレッチスリットポケットが2つ。フロント下の右側のストレッチポケットには、ホイッスルジッパーつきのセキュリティメッシュポケットも!ただ、前面下部のストレッチスリットポケットは、やや大きすぎかもしれない。使い勝手を考えると、内部で仕切られていた方が、ジェルなどの小物を収納するのに、何かと使い勝手がいいはず。
OSPREY デューロ6
ここが◎
- 優れた防水・耐摩耗性
ここが△
- 重量が重め
- 外面ストレッチポケットのバックル位置
OSPREYからは「デューロ6」をピックアップ。登山向けには多くの軽量バックパックを手掛けているOSPREYだが、耐久性、撥水性を重視した作りのためか、意外にも重量はハイドレーション込みで510g(S/M )、M/Lだと540g、とかなり重め。ショルダーストラップはメッシュタイプで、通気性を考慮している点が窺えるが、うーん……。その反面、ストラップの際の作りがソフトで肌ざわりはかなり滑らか。長時間使用する際、摩擦による擦れ防止に一役買ってくれそうだ。フィット感については、かなりいい出来だと言えよう。伸縮性が高いチェストストラップは、激しい動きにも対応できる絶妙なフィット感を実現している。ストラップの末端にあるバックルはワンアクションで操作可能。とは言え、プラスティック素材なので、乱暴な扱いには不向き。欠けないように心がけるべきだろう。
メインコンパートメントのジッパーは2つ。比較的大きく開き、アプローチしやすい。サブのコンパートメントも小物を収納するのに使い勝手は◎。ただ、外面には大型ストレッチポケットが備わっているのだが、そのハーネスのバックルがメインコンパートメントの出し入れを干渉する構造になっている。なので、メインコンパートメントなどにアプローチする度に、バックルを解除しないといけないというわけだ(どうして、こういう構造にしたのか……。)。
フロント部分のショルダーハーネスには、ストレッチメッシュコンプレッションポケットが備わっており、ペットボトル(500ml)がすっぽり入るくらい深めで安定感もそこそこ。また、ジェルなどの出し入れに重宝しそうなコンプレッションポケットも、両サイドに1つずつあり、行動食やソフトシェルなどを収納できるなど、レーシングベストの基本的な収納性は備わっている。(ハイドレーションシステムの)レザヴォア専用ジッパー式スリーブも備わっているのだが、付属のハイドレーションの容量は1.5L。細かい注文だが、なにかと使い勝手いい2Lの方が良かったなと思う。とは言え、チューブの飲み口がマグネット式で、固定できる点は評価できる。
Patagonia スロープ・ランナー・パック8L
ここが◎
- 洗練された軽さと通気性
ここが△
- チェストストラップが使いにくい
- シンプルすぎるポケットレイアウト
Patagoniaからは、「スロープ・ランナー・パック8L」をチョイス。まさしく、「背負う」ではなく「着る」レーシングベストで、容量は8Lなのに、重量は200gという超軽量級。本体のメイン生地は、コットン、ナイロンなどにナイロン繊維を縫い込まれ、軽量・撥水性に優れてたリップストップ・ナイロンを使用しており、さらに、ポリウレタン・コーティングと耐久性撥水加工が施されているシロモノだ。背面が密着するバックパネルには、通気性に優れたモノメッシュを取り入れているためか、かなりムレにくく、しなやかなアタリだ。肩まわりもソフトな印象。
メインコンパートメントは、ジッパー部分が広く、アプローチしやすい。ハイドレーション、ウェア、食糧などの出し入れがとてもスムーズ。内側の小さなジッパー式ポケットは必需品の収納に便利で、鍵を取り付けられるループ付き。胸部部分には、フラスクや行動食などを収納できる4つのストレッチメッシュ製ポケット、携帯電話用のジッパー式ポケットを完備。基本的な収納力はまずまずと言いたいところだが、外面には縦長のメッシュポケットしか実用的でないのが残念。利便性を考えると、(トレッキングポールなどを取り付けられるホルダーもあるけど!)雨蓋タイプのポケットか、圧縮バンジーコードが欲しいところだ。また、腕を後ろにまわした際、スムーズな調整ができるように、コンプレッションコードはパックの底部にあるべきだと思う。パック上部だと、腕が回しずらい。極めつけは、(軽量化とシンプルさを追求しすぎたためか!?)チェストストラップが細引きタイプで、不安定。そのためか、走っていると、揺れを感じやすい。調整するにも、引っ掛けるループが小さく、ややストレスだ。軽量・通気性は文句なしのレーシングベストなのに、もったいない限り。
まとめ
今回、試してみて、一番使いやすかったのは、「Paagowaorks RUSH 5r」。重心を高めにした設計やポケットレイアウトなどの構造面、ストレッチメッシュを活かした通気性やフィット感などなど、まさしく万人向け。ショルダーハーネスの調節やバンジーコードの取り付けは、簡単のようで、やや玄人向けな気がしなくはないが(笑)。同評価なのが、「Arcteryx ノーバン7 ハイドレーションベスト」。通気性、フィット感はもとより、耐候型ポケットやセキュリティーポケットなどの機能的なポケット、扱いやすいハイドレーションシステムなど、秀でたディーテールが散りばめられてトレランベスト。荷物量が多く、使い勝手を求めるなら「The North Faceティーアール6」。耐久性が欲しいという方なら「OSPREY デューロ6」。この2つはストレッチ素材による快適なフィット感が、あるものの、耐候性を考慮しているため、重量が重めだ。軽さと通気性なら、「Patagonia スロープ・ランナー・パック8L 」がダントツだが、機能がシンプルすぎるので、その点を理解した上での利用なら、アリ。 各メーカーから登場してきた小型のハイドレーションベスト。胸部まわりのストレッチポケットは、もはや、スタンダードと言っても過言ではないだろう。また、生地素材も大まかには、通気性・軽量化にはメッシュ生地で、フィット感や多目的なポケットを追求するなら伸縮性の高いストレッチ素材と使い分けが顕著に見られた。とりわけ、構造的にフィット感を追求するのであれば、ショルダーハーネスと同じくらいに、チェストストラップもかなりキーポイント。激しい動きでも対応するストレッチ素材を用いたり、軽量な細引きタイプだったり、本数を増やしてみたり、各社のカラーが出てきており、なかなか興味深い。アクティビティー中でもアプローチしやすく、実用性の高いポケットレイアウトや使い勝手がいいバンジーコードの有無、コンプレッション機能などなど、ユーザーとの相性もあると思うが、ディテールは各社共に光るものがある。今後の課題は、(重量や通気性の犠牲となる)耐候性・耐久性・撥水性の要素をどれだけ盛り込むかだろう。