比較レビュー:快適トレランライフ間違いなし。注目トレイルラン向けバックパックを背負い比べてみた
近年のマラソンブームとスピードハイクやファストパッキングの流行は、山野を自在に駆け抜けるトレランをはじめるキッカケとなることも多いようです。テレビ番組で広大な世界を走るトレラン大会を特集したりテレビCMに有名トレイルランナーが起用されたり専門雑誌が出版されるなど、メディアに取り上げられる機会も増え、トレランがますますトレンドとなりつつあるようです。
筆者も里山からトレランを始め、100mileの大会も完走できるぐらいハマってしまったトレラン好きのひとりです。今回はトレランの必須アイテムとなるバックパックをレビューします。最新トレンドからド定番までこれからトレランを楽しみたいあなたにランキング形式で紹介します。
目次
これからトレランをはじめる人にもぴったりな10Lクラスのモデルを厳選比較
縦横無尽に動くトレイルランニング。走りをサポートする機能が求められるバックパック。安全に山野を走るならシューズと同様にこだわりたいアイテムでしょう。レースのディスタンスとレギュレーションによってアイテムの選択幅は近年ますます広がりを見せていますが、これからトレイルランニングを始めるなら100mileレースから日常のロード練習まで幅広く使える10L前後の容量・サイズがおすすめです。
そこで今回は主要ブランドから10L前後のバックパック5点(2017年モデル、カラー変更のみの場合は考慮せず)を厳選。それらを同じ条件で背負い比べ、さまざまな視点から比較し、これからトレイルランニングにチャレンジする初心者にも分かりやすいよう目的別のおすすめモデルを選定しました。
バックパック選びには試着が必須とはいいつつも、実際にはお店でちょっと背負ってみてもまだ分からないもの。今回の比較と実際のフィーリングを合わせて参考にしていただき、後悔のないバックパック選びの役に立てれば幸いです。なお、登山用でありますが基本的なバックパックの選び方についてはこちらの記事で詳しく書きましたので一から学びたいという人はぜひこちらを参考にしてみてください。
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今回の比較候補となったバックパックについて
まず比較候補の選定にあたっては、大まかに以下のような基準を考慮しました。容量は大まかに10L前後の汎用性の高いモデル。50km~70km前後のミドルレースで必携装備を十分にパッキングできる容量となっています。それ以上のロングレースはデポジットポイントで補給できれば十分なサイズといえます。また、入浴準備と着替えをパッキングしても日帰りの里山であれば心配なくトレイルランニング練習に対応できます。
以上の条件からカタログ等の情報によってある程度絞り込み、さらにお店で実際のモデルを見て試着した上で今回の比較候補である5点を絞り込みました。もちろん個人的な興味や好みがまったくないわけではありませんが、少なくともここに挙げた候補はその時点で一定の水準を満たしたおすすめモデルであることには違いないということは念のためお伝えしておきます。
- RaidLight Gilet Responsiv 10L
- GREGORY RUFOUS 8
- UltrAspire Zygos 2.5(現在は後継モデルZygos 3.0が販売中)
- Ultimate Direction AK MOUNTAIN VEST 3.0(現在は後継モデルMOUNTAIN VEST 4.0が販売中)
- OSPREY Duro 6
トレラン仲間の口コミとカタログやウェブサイトの情報、これまでに使用したパックの経験を踏まえ、ランキング上位から次のように予想しました。1位はアルティメイトデイレクション。デザインの良さとブラッシュアップの回数から成熟度の高いグレゴリーとウルトラスパイア。ベストタイプでダイヤル機構によりフィット感を高めるレイドライトと堅牢な作りのオスプレーがそれに続くといった感じでした。さて、結果はいかに。
テスト環境
テスターは筆者(トレイルランナー歴20年、身長167cm、体重67kg)。
基本装備は、
- 携帯電話
- 携帯コップ
- ハイドレーションパック1L(もしくはフロントにウォーターボトル)
- 行動食(パン・おにぎり等の固形物)
- ライト2個(ヘッドライトとハンドライト)
- サバイバルブランケット(130cm以上×200cm以上)
- コースマップ
- レインウェアー上下
- グローブ、キャップ
- ファーストエイドキット(絆創膏、消毒薬など)
テストは、1~2月で埼玉県の越生町・ときがわ町を中心とした里山で実施ました。使ってみた印象および細かい作り込みの観察から採点しました。
なお各モデルの評価は以下の5項目を重要度によって加重配点し、それぞれの採点項目は以下のように設定しました。
- 使いやすさ(40点)・・・使い方の分かりやすさ、ポケットやアタッチメント類へのアクセス、ジッパー・バックルの開け閉め、ポケットの実用性から採点
- 快適性(30点)・・・背負った時の伸縮性とフィット感、通気性の高さ、高速走行時の安定感から採点
- メインコンパートメント(背面部)の収納性(10点)・・・雨具、ライトなど頻繁に取り出さないギアの収納性を採点
- 耐久性(10点) ・・・ベルト類、生地の耐久性を採点
- 重量(10点)・・・単なる重量ではなく、パッキングして背負った感覚で採点
テスト結果&スペック比較表
評価結果 ~タイプ別おすすめ~
今回選んだアイテムはトレランの練習で使用するには十分に役割を果たすモデルばかりです。トレランのバックパックは高価なモデルが多く練習だけではなくレースでも使用したいと思います。そこが選択のポイントになろうと思います。これからお伝えする結果は、レースでの使用を想定した細かい部分での比較・考察の結果です。練習からレースまで汎用性の高いモデルを選択したいあなたのお役に立てればと思います。
Ultimate Direction AK マウンテン ベスト 3.0(現在は後継モデル4.0が販売中)
レースから練習までこたえるオールマイティーモデル
ココが◎
- 汗抜けの優れた快適な背面
- 見た目以上の耐久性
- パックをおろさず出し入れしやすい絶妙な位置のポケット類
ココが△
- 価格
多様な用途を想定し比較した結果、筆者がベストバイであると判断したのはアルティメイトディレクションのモデルです。まずパワーメッシュ素材は汗抜けの点で非常に優れ背部を快適に保ち蒸れなどによる肌のトラブルを軽減してくれるので女性にも使いやすいでしょう。さらにベストタイプの縫製により見た目以上の耐久力があり、ハードな使いこなしにも対応できる点は評価できます。
バックパックをおろさずに走り続けることを想定したつくりを徹底しているので快適です。ショルダーハーネスの左右に0.5Lボトルが入るので水分補給も容易にできます。この配置が絶妙で腕振りを全く邪魔しないのです。またジェル(行動食)を収納できるポケットが左右に2つずつあります。さらに右下部にジッパー付きのポケットがあるので汎用性があります。左下部はジッパーなしで深めのポケットがあるので行動食のゴミなどを入れられます。まだまだ、走行中に使えるサイドポケットが左右にあり、こちらはジッパー付きで6インチ程度までのスマホも収納できます。このサイドポケットの位置は疲労していても届く脇腹部に位置しているのでアクセスしやすいのです。これらの走行中にアクセスできる収納の多さはトレランに集中できる安心感をもたらしてくれます。使い込むことで一層好きになるモデルと思えます。
RaidLight ジレット レスポンシブ 10リットル
ジャストフィットの超軽量モデル
ココが◎
- 軽量
- 抜群のフィット感
ココが△
- サイズ調整がシビア(サイズ選びが重要)
- 耐久性
- 一部の奥まで届きにくいポケット・荷室
今回の5モデルで最も個性的なバックパックがレイドライトのモデルです。ウルトラトレイルランレースでの使用を前提に作られた尖ったモデルですが軽量でフィット感に優れているのでレース以外でも十分に使用できます。チェストベルトとウエストベルトにゴムを使用し上下の調整はできないのでサイズ選びが重要です。とにかく軽く究極のベストタイプといえます。目立った硬い素材は左右のフィット感を高めるダイヤルアジャスターのみです。軽量化により耐久性に不安を感じますが、メッシュ素材による快適性とコンプレッション素材によるフィット感を重視したつくりは流石といえます。
残念な点は本体荷室の1つに汗などの水分から大切な装備を守る1層が設けられていますが、不要に深く奥まで手が届ない作りになっています。また、前面部のポケットは左右に1つずつありますが、こちらも不要に深い作りとなっています。
シンプルな作りなだけに使い込んでいくことで可能性は広がると思えます。シンプルな割に高価なので最初のバックパックとしてはおススメしませんが走力があれば積極的に使いたいモデルです。
OSPREY デューロ 6
コストパフォーマンスで選ぶならコレ
ココが◎
- 大きく使いやすい収納類
- ホールド力のしっかりしたショルダーハーネス
- 耐久性
ココが△
- フロント部分の収納が少ない点
- 重量は重め
ショルダーハーネスの左右に0.5Lペットボトルでも余裕で収まる大型ポケットは配しているモデルです。腕振りの妨げにはならない高さに位置しています。また、ジェルが入る小型のオープンポケットもコンプレッション生地で左右に1つずつあります。ショルダーハーネスはベストタイプらしい幅広のためホールド力もしっかりしているので突き上げのきついダウンヒルでも安心して走れます。メインコンパートメントの生地はナイロン製の伸縮がないものですがジップで分けてある3つの荷室との相性も良く耐久性と使いやすさを重視したモデルです。フロントパネルのメッシュコンプレッションポケットもウェアーの収納に使いやすい作りです。
強いて弱点をあげるならば、フロント部分の収納が少ない点にあります。レース想定では厳しい点です。また堅牢なつくりのためサイズのわりに重い点も残念です。
GREGORY ルーファス 8
人気のオシャレなデザインと収納性の両立
ココが◎
- 重心の安定と走りやすさが考慮されたフォルム
- 長距離でも安心の大きなハイドレーションタンク
- ポケットが多く使いやすいショルダーハーネス
ココが△
- サイズ調整がやや難しい
- 背面部のドリンク収納は気をつけないとボトルが落ちやすい
ベストタイプではなくトルソー(背面長)が長めのパックですがメインコンパートメントの下部を狭く上部を広くすることで重心を高めて腰部の負担を減らしランニングフォームの安定と効率化を図る設計となっていて走っていて安定感があります。ハイドレーションタンクは2Lでも収まるほどの容積があり超長距離でも安心して使えます。ショルダーハーネスには携帯電話やサプリメントを収納するための7つのポケットがあり使いやすいです。また、オープンタイプのサイドポケットは適度な深さと伸縮性のある生地を使用することで物が飛び出すことはありません。サイズはワンサイズで調整も難しいので必ず試着しましょう。
弱点としては、背面部ボトムのドリンクボトルを収納できる特徴的なポケットにあります。落下防止に伸縮性のないヒモがついていますがダウンヒルを走行中にボトル落としてしまうことがあります。ここはバンジーベルトに変更するなどのモディファイを望みたい点です。
UltrAspire ザイゴス 2.5(現在は後継モデル3.0が販売中)
ブラッシュアップを重ねて完成形を目指す
ココが◎
- 走りの動きに追従しやすいチェストベルト
- 水分や小物類まで、走りを邪魔しないように効率的に配置されたポケット類
ココが△
- チェストベルト部分の生地は擦れやすい
- 専用フラスク以外収めにくい独特なメッシュポケット
- 開閉しにくいサイドポケット周り
バンジーコードのフックタイプアタッチメント(チェストベルト)を使用することで走りの動きに追従しやすいように工夫しているモデルです。バックパックを構成する生地は伸縮性の少ないポリエステルを多用しています。よって全体的なホールド感は強めです。ここは好みがわかれるところです。専用のウルトラフラスクは0.55Lを左右のショルダーハーネスボトム部のメッシュポケットに収納しますが腕振りへの影響はありません。それ以外に左右にポケットを配置しヘッドライトとジェルなどの小物も収まります。メインコンパートメントは2室にわかれて大きく開口するジップで取り出しやすい作りになっています。サイドポケットは左右ともにジップを設けて大開口します。
気になるのは、チェストベルト部に硬い素材を使用しているので肌との擦れが心配な点があげられます。また、専用のフラスクを収めるメッシュポケットは独特な形状のため他社製品とのマッチングには向いていない点もあります。
欠点としては、サイドポケットまわりの生地のたわみによりジップ開閉が片手では難しいことが挙げられます。次バージョンで改善を待ちたいところです。
まとめ
最近のトレイルラン関連アイテムの進化はトレラン人口の拡大を後押しし、スピードレースを実現させてきました。バックパックは前後配分を考えたベストタイプモデルが主流となっています。また、通気性と伸縮性に優れた素材を多用し肌トラブルも減りました。今回の比較モデルも全体として見れば、3年前のバックパックから比較すれば完成度の高さが際立つものばかりでした。
今回のインプレッションで最も刺激的だったのは10Lのサイズで200g程度のレイドライトのジレットです。わずかな差であっても背負ってみると違いがわかるものでした。ランニングは脚を使う競技ですがトレランでは上体の負荷も高く、その意味でバックパックの軽量化は思った以上に重要だと感じました。
またリフレクターを備えるモデルはアルティメイトディレクションとグレゴリーのみでしたが、日本のトレランは一般道を走ることも多いので必要であると感じました。細かな点ですがキーリングはあると重宝します。レイドライトとウルトラスパイアについていないのは残念でした。
以上となりますが、本記事が快適なトレランライフの一助となれば幸いです。
東條 一矢
茨城県に育ち学生時代は水泳を中心に活動。社会人でトライアスロンデビュー。社会人1年目に第1回日本山岳耐久レース(=ハセツネ)を完走。マウンテンスポーツの達成感に心酔する。30代で埼玉県に転居独立。奥武蔵をT氏に案内されトレランとウルトラマラソンに魅了される。現在では国内のトレイルレースを中心に活動。信越五岳、上州武尊、KOUMI100のロングレースを連戦完走。また、NPO法人小江戸大江戸トレニックワールド、NPO法人彩の国ウルトラプロジェクト(SUP)でレースサポートを手掛ける。またギアの性能を引きだしトレランの安全確保の啓蒙に励んでいる。
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