みなさんは登山靴のインソールを交換していますか?
インソールといえば、通常であれば登山靴に標準で搭載されているパーツ。メーカー純正で特に不都合を感じていなければ、特にあらためて用意する必要はないとされているアイテムではあることは確かです。なにかと装備にかかる出費がかさむ登山では、交換用インソールまで手が回る人は少ないかもしれません。
ただ、どんな靴を合わせても、何らかの違和感や問題を抱えてしまう人にとっては切実な問題です。だからなのか、販売されているインソールの種類は年々増え続けていると感じるのは私だけではないと思います。
単にクッション性(衝撃吸収)や通気性だけを目的としたものではなく、ここ数年はバイオメカニクス(生体構造力学)を取り入れ足全体のサポート・矯正といった機能性をもたせたモデルも数多く登場しており、膝痛防止や疲労軽減を目的とした登山・アウトドア用モデルも展開されるようになってきました。それだけ登山者に膝痛など足のトラブルを抱えている人が多いということの表れだと感じています。足型や歩き方のクセはそれこそ千差万別で、解消したい悩みやかなえたい要望の種類は、人それぞれ多様です。それだけにメーカーの売り文句だけでは選ぶのが難しいアイテムであるともいえます。
そこで今回は、そんな機能性インソールの中から登山に適した代表的なアイテムを履き比べてみて、その印象や違いについて書きます。医学的な知識や科学的な試験などは不可能ですし、またその時の環境や人によって印象には差が出てきてしまうのは仕方がない部分ではあります。あくまでもひとつの実例として参考にしてみてください。
目次
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今回比較したインソールについて
登山靴には必ず純正のインソールが装着されていますが、そのほとんどが、標準的で最小限の作りになっています。それはある意味当然で、登山靴メーカーからすれば特定の足型を持つ人だけに合う靴(あるいはインソール)を作るわけにはいかず、さまざまな足型の人に対応できるようにしているわけです。それに対して機能性インソールはメーカーやモデルによってアーチの高さ、ヒールカップの深さ、構造、厚みが異なります。また、人によってワイズ(足幅)や甲の高さといった足の形状、痛みや疲労を感じる部位も異なるため、一概にこの足型にはこのメーカーのこのモデル!と断定できないことがインソール選びの難しいところです。自分の足型にマッチさせるのであればオーダーメード成形モデルの一択となりますが、今回のレビューでは比較的導入しやすい下記の既製品モデルを取り上げていきます。
テスト環境
テスト期間は2018年5月~8月末までの約4ヶ月間。テストは奥秩父、中央アルプス、南アルプスの山を中心に実施しました。テスト1回における歩行距離は5~15㎞程度とし、1日を通してそれぞれのモデルを履き比べたり、山行中に異なるモデルに交換して比較を行っています。そのほか詳細なテスト条件については各項目の詳細レビューにて補足しています。
評価項目については、下記の通り5つの指標を設定。テスト結果の評価数値はテストを行った私自身(医学的知識なし・ただの会社員)のインプレッションによります。
- 重量 ・・・登山靴の重量と合わせて足運び・疲労の蓄積具合を左右します
- サポート性・・・足にフィットし、正しい形にアーチを整え骨格をサポート
- 快適性・・・通気性をはじめ靴内部での足のズレを防止
- 衝撃吸収性・・・ヒールカップで踵を包み込み衝撃吸収能力を高める
- 価格・・・導入に際し最も重要な点かも!?
テスト結果&スペック比較表
各モデルのインプレッション
SIDAS OUTDOOR 3D
SUPERfeet GREEN
SHOCK DOCTOR ウルトラ2
ソルボセイン エスキューブスケルトントレッキング
そんなソルボのインソールですが、柔軟性は今回レビューしたアイテムの中で最も高い印象を持ちました。実際に山で使用してみた感じは、柔軟性のおかげで足の着地から蹴り出しまで一連の動作をソフトに行うことができ、膝や腰に影響を与えることなく歩き続けられました。
前ページでは比較したモデルのランキングと、評価・スペックの一覧、そしてそれに基づくおすすめを紹介しました。ここからはその評価について、どのような基準で評価したのか、なぜそのような評価になったのかについて解説していきます。
各項目詳細レビュー
重量
インソールの重量は各社それほど大きな差はなく、その差はせいぜい10~30g程度でしょうか。個人的にはインソール製品についてはそこまで神経質になる必要を感じません。衝撃吸収性に特化したインソールはSIDASアウトドア3DのようにEVA素材を使用しシンプル構造で軽量な製品が多く、かたやショックドクターウルトラ2のようなサポート性を高めたインソールはプラスティック素材のスタビライザーが使用されているため多少重量が増します。スタビライザーの有る無しが重量の決め手となるのは間違いありませんが、インソールの場合はその重量よりも性能・効果のほうが比重の大きい製品だと思います。
サポート性
機能性インソールの多くは、ヒールカップによって踵周りを包み込み、土踏まず部分に厚みを持たせて足裏のアーチを支える形状をしています。この2つがインソールのサポート性を計る上で欠かせない重要なポイントです。まずヒールカップの深さを見ていきますが、最も深いのはショックドクターウルトラ2、次いでスーパーフィートという結果になりました。この2つのモデルは裏側にプラスティック素材のスタビライザーが装着されていることで足が内側、外側に傾いた際にも歪むことなくしっかりと踵を保持し続けます。SIDASアウトドア3Dにもヒールカップがありますが、全体が柔らかいEVA素材で構成されていることから踵を包み込むという感覚というよりも踵に当たっているだけといった物足りない印象を受けました。
続いて、土踏まず部分のアーチですがこちらも最も高くしっかりとしたアーチはショックドクターウルトラ2、次いでスーパーフィートという結果になりました。あくまでも私の足での話ですが、スーパーフィートは土踏まずアーチの下部までの高さに対し、ショックドクターウルトラ2はそれよりも高い足内側の側面(土踏まずアーチ上部)までの高さがあります。そもそもこの部分は疲労時に足の内側縦アーチが崩れ扁平足になることを防いでくれる役割があるようですが、ショックドクターウルトラ2については下からだけではなく側面からも支えが効いているように思います。
快適性
ここでは靴内部の環境を左右する通気性、そして靴内部での足ズレについてレビューします。通気性については素材による比較というのが一般的ですがこのインソールについては各社EVA素材を使用していることから素材による大きな差は無いように思います。ただし、SIDASアウトドア3Dとショックドクターウルトラ2については、表面に通気孔を設けていますので、他の2アイテムと比べれば通気性が高いと言えるのかもしれませんが、今回のテストだけではなんとも言えないところが正直な感想です。
続いて靴内部での足ズレについてですが、こちらは表面素材(生地)による違いやメーカー独自の工夫が見えるところでもあります。化繊素材が多い中、唯一SIDASアウトドア3DだけゴートバッグPVという樹脂が使われています。滑らかな触り心地ですが不思議と足が動かず驚きました。また、個人的に感心したのはショックドクターウルトラ2の足指付け根部分の形状。アルファベットの「Y」の字を逆さにしたような形状の突起があり、足指が引っかかることで靴内部での足のズレ(滑り)を防いでくれます。また、靴にジャストフィットさせない独特のフィッティング方法を謳うスーパーフィートについては、靴内部でインソールと連動して足が動くため、ズレそのものを感じることはありませんでした。
衝撃吸収性
衝撃吸収性について、今回のレビューを通してわかったことは、衝撃吸収性を高めるためには少なくとも2つの手法があるということです。1つはヒールカップで踵周りを包み込み足本来の衝撃吸収性を生み出す方法、そしてもう1つが柔らかいクッション素材を用いる方法です。今回レビューした4アイテムの中で前者にあたるのがスーパーフィートとショックドクターウルトラ2、後者にあたるのがソルボスケルトントレッキングということになります。SIDASアウトドア3Dについては両者の中間的な存在でやや後者寄りといった印象を受けます。どちらが良いのかということは人それぞれだと思いますが、個人的には前者(足本来の衝撃吸収性を高める構造)の方が長距離を歩いた時に疲労の度合いが全く違いました。後者(クッション性素材採用)は歩き始めからそのクッション性を実感することができますが、長距離・長時間の行程でヘタり反発力が弱くなってくる感覚がありました。私自身が選ぶのであれば短距離・短時間=クッション性重視、長距離・長時間=足本来の衝撃吸収性を高めるタイプをチョイスすることになるかと思います。
価格
導入のしやすさとコストパフォーマンスというヤツです。高くても安くても性能や効果に不満が残るようでは最適な選択とは言えません。幸い既製品インソールの多くは同じような価格帯で販売されていることが多く大体5,000円前後といったところでしょうか。
オーダーメードであっても10,000円前後と登山用品の中では比較的導入しやすいアイテムだと思います。今回レビューしたアイテムの中でも3アイテムが同価格帯に収まっています。導入のしやすさという点で言えばソルボスケルトントレッキングということになりますが、ネックなのは重量。日常的に使用するということであればその選択も間違いではないと思いますが、登山というシチュエーションで考えると釈然としないのが正直な感想です。また、サポート性ということを考えると物足りなさも感じることから5,000円前後の金額を費やせば、選択肢も拡がり自身の目的に合ったインソールが購入できるということなんだと思います。
まとめ
さまざまな特徴を持つインソール。その効果や感じ方は個人差があると思いますが、登山中に足に何かしら不具合を感じているのであれば是非とも導入をオススメします。また、購入の際は登山靴とのフィッティングも重要ですのでインソール単体で選ぶのではなく、登山靴を持って実店舗で購入されることもオススメしておきます。あくまでもアマチュア登山愛好家によるインプレッションですがインソール選びの参考にしていただけると幸いです。
齋藤 ヒロアキ
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