ハイキングやトレイルランなどで見かけることが珍しくなくなったトレッキングポール。自分にとってはもうこれがないと山を歩くときに物寂しさを感じるほど当たり前の道具となり、読者の中でまだ使ったことがないという人がいれば、真っ先におすすめしたい山道具のひとつです。
ただ、世間的には膝への負担を減らし、バランスを保つための道具として知られる一方で、SNSやハイカーの間では「本当に必要?」「値段が高いから格安モデルでいいのでは?」「どれも同じように見えるからどう選んでいいか分からない」といった議論がたびたび巻き起こります。
使用効果や販売価格に疑問が生まれるのは、きっとこの「素朴な棒」の裏側にある緻密な構造や正しい使い方などの知識が十分ではないからかもしれません。一見するとシンプルな「杖」に見えるトレッキングポールですが、登山靴などと同様、常に使い続けているという意味で行動全体に与える影響を甘く見てはいけません。また素材や構造、グリップ形状やロック機構に至るまで、トレッキングポールの背後には、実は各メーカーの技術と工夫が凝縮された奥深い世界が存在しています。
なぜトレッキングポールの効果や選び方・使い方には悩みが尽きないのか。今回は、筆者もずっと抱き続けてきたトレッキングポールにまつわる素朴な疑問から正しい選び方・使い方についてのあらゆるモヤモヤを解決するため、ドイツの名門ポールブランド「LEKI(レキ)」の日本総代理店である株式会社キャラバンを訪ねました。
お話を伺ったのは、長年同社で自社ブランド製品開発や広報、イベント講習に携わってきた井原隆一さんと、飛び入りでお話を聞くことができた国際山岳ガイドの近藤謙司さんです。初心者が陥りがちな誤解から、現場でポールを破損させない使い方、そして長持ちさせるメンテナンスの基本まで、徹底的に解説していただきました。
お話を伺ったのは…
プロフェッショナルに聞く、トレッキングポール選びについての素朴な疑問と真実【Q&A】
Q1. そもそも山でトレッキングポールってなぜ必要なのですか?
A1. 体重を預ける道具ではなく「バランス保持」と「荷重分散」のための道具であると同時に、足場が安定することで「目線を上げて周囲に注意を向けられる」という心理的な安心にもつながります
ポールの本質は体重をベタッと預ける杖ではなく、歩行時のバランスを保持し、身体にかかる衝撃を分散させる補助具です。人間が歩行する際、一歩を踏み出す瞬間に身体は一時的な片足立ち状態になります。ポールを持っていない場合、身体が左右に傾かないよう体幹や腰の筋肉を常にフル稼働させてバランスをとるため、無意識のうちに筋肉を消耗し続けています。
ポールを両手に持つことで「四足歩行」に近い状態となり、足を上げた瞬間でも最低2点以上が地面に接地して左右のぐらつきを抑えられます。特に段差の大きい下り坂では、膝や腰にかかる激しい着地衝撃を分散・緩和する効果が明白です。
かつては「若いうちからポールを使うのは軟弱だ」という風潮も一部にありましたが、将来にわたって長く登山を楽しむためには、膝が痛くなってから導入するのではなく、健康なうちから正しいポールワークを身につけて身体へのダメージ蓄積を防ぐことが重要です。
・・・と、ここまでは教科書的な話です。その他、国際山岳ガイドの近藤謙司さんは現場の視点からの大きなメリットとして「目線を足元から外せること」を挙げています。ポールによって足元の感覚的な手探り感が得られるため、意識を常に足元だけに集中させる必要がなくなり、進行方向の状況や落石の有無、周囲の安全確認に目を配る精神的な余裕が生まれることからトレッキングポールの使用利点を説いています。。
Q2. トレッキングポールは昔から使われていたのですか?普及のきっかけは?
A2. 1978年のエベレスト無酸素登頂でLEKIのポールが使用されたことを機に世界へ広まり、日本では90年代末の登山ブームから定着していきました。
かつては日本だけでなく海外でも「自分の足だけで登るのが登山であり、杖に頼るのは足腰が弱いからだ」という精神論が存在していました。
そこから大きな転機となったのが1978年、ラインホルト・メスナーとピーター・ハーベラーが世界初のエベレスト無酸素登頂を達成した際、LEKIの伸縮式ポールを使用していたことです。これによって登山におけるポールの有効性が世界的に認知されました。
日本においては、1990年代末から2000年代にかけてTV番組等で紹介されたことで「T字型シングルポール」の爆発的なブームが巻き起こりました。当時はショップ側もダブルポールのセットを1本ずつバラして販売していたほどでしたが、地道に運動学的に優れたダブルポールの有効性を訴え続けた結果、現在のようにダブルポールが定着しました。
Q3. ネット等で売っている安価なポールと、専門メーカー(LEKI等)のポールは何が違うのですか?
A3. 一見同じように見える製品も、中身を見ると精密な設計構造、素材の加工から表面処理といった製造工程による部材の品質や耐久性、さらにはパーツ単位での修理対応力などが決定的に異なります。
見た目は似ていても、製品の背景にある作り込みには大きな差が存在します。簡単に言うと安価なポールは「整った条件であれば普通に使える」、専門ブランドのポールは「過酷な状況でも安心して使える」という違いがあります。
例えばアルミシャフトの製造方法において、安価なポールは1枚の板状アルミシートを筒状に成形して接合部を溶接する手法で作られています。この方式は内部から強い圧力がかかった際や経年劣化によって、溶接部分が割れてしまうリスクがあります。
一方、LEKIの上位モデルでは「抜き出し(引き出し)製法」を採用しています。これはアルミの真鍮(円柱)に高圧をかけて筒状に抜き出すため、継ぎ目が一切存在せず、耐荷重強度や耐腐食性において圧倒的な堅牢性を誇ります。
また、プラスチックのパーツも柔軟性と耐久性を備えた高品質な特殊樹脂を採用し、チェコにある自社管理の専門工場で一貫した品質管理のもと製造されています。そして万が一の破損時には国内のキャラバンリペア室でパーツ単位の交換や修理が可能な点も、使い捨てになりがちな格安品との決定的な違いです。
Q4. トレッキングポールは「1本(シングル)」と「2本(ダブル)」のどちらで使うべきですか?
A4. 身体の左右バランスを均等に保ち、転倒リスク自体を減少させる「ダブルポール(2本)」が基本です。
1本使いの場合、持っている側へ傾いたときは支えられますが、持っていない側へ身体が倒れそうになった際は咄嗟に対応できず、かえって身体の運動バランスを崩してしまうことがあります。
2本を均等に使う「ダブルポール」で初めて、歩行リズムの安定と確実な荷重分散が実現します。鎖場や険しい岩場など両手をフリーにすべき危険箇所ではポールを素早く収納・保持し、通常の登山道ではダブルポールで歩くというのが登山の安全鉄則です。なお、1本売りされているモデルは、歩行補助というよりは立ち休みや軽微な転倒防止を目的とした「杖」としての側面が強くなります。
ちなみにLEKIのポールのストラップは、実は「左用・右用」が存在し、左右の手に合わせて通しやすいようストラップのループ向きが左右逆に取付けられています。かつてのナイロンストラップ時代にはLとRの表示があったり、現在の柔らかいスキンストラップでも手首への馴染みを計算した緻密な左右設計が継承されています。
Q5. シャフト素材の「アルミ」と「カーボン」は何が違う?どういう基準で選べばよい?
A5. 「カーボンは折れる、アルミは曲がる」という特性を理解し、初心者の1本目には堅牢なアルミ製が推奨されます。
素材の違いを分かりやすくするためにあえて端的に表すとすると「カーボンは折れる、アルミは曲がる」という違いがあります。
カーボンシャフト
非常に軽量で地面からの微振動を素早く収束させる強みがありますが、一定の限界を超える負荷がかかった際や、岩などで1点に衝撃が加わると一気に「ポキッ」と破断する性質があります。つまり現地で折れてしまうと応急処置が不可能です。細かな傷などもそこをきっかけに破損しやすく、注意が必要です。
アルミシャフト
カーボンよりはわずかに重いものの、過度な負荷がかかった際に、こちらは真っ二つに破断するのではなく「くの字に曲がる」挙動を示します。曲がるだけであれば、曲がり方によっては長さ調整などによってかろうじて使用できる可能性があるため、下山まで最低限の杖としての機能を維持できます。
こうした特徴の違いから、岩場でのポールの扱いに慣れていない初心者や、重い荷物を背負う長期の縦走ではアルミ製の方が万が一の時でも安心です。一方、正しいポールワークを習得したうえでさらなる軽量化や軽快なテンポを求めるアクティビティやスタイルの時に、はじめてカーボン製を選ぶというのが理想的です。
Q6. 「折りたたみ式」と「伸縮式」ポールはどちらがおすすめですか?
A6. バックパック内への収納やコンパクト性を重視するなら「折りたたみ式」、長さ調整の幅や剛性を求めるなら「伸縮式」です。
「折りたたみ式(フォールディングタイプ)」は、シャフト内部を通るコードにテンションをかけて固定する構造で、収納長が約40cm前後とコンパクトになるのが最大の特徴です。バックパックの内部にすっぽり収まるため、電車やバスなどの公共交通機関利用時も周囲に誤って当ててしまう心配もなく安全に持ち運べます。一方で長さ調整範囲が狭いのがデメリットにはなります。
「伸縮式(テレスコーピングタイプ)」はシャフトをスライドさせて伸ばし、固定する構造です。長さの調整幅が広いので(90-140cmまで調整できたり)、斜面の度合いに応じた細かな設定が可能です。また節が少ないため構造的に剛性が高く、山岳ガイドが救急用途(セルフレスキューでの添え木や簡易搬送具の作成)として携行するケースも多く見られます。ただ収納長はだいたい60cm以上になるため、公共交通機関で持ち運ぶ際は手持ちが基本となります。
Q7. ロック機構の仕組みや締め付け強度の調整方法は?
A7. 現行の主流は操作性に優れる「レバーロック式」。工具不要で締め付け強度を微調整できるモデルが安全です。
トレッキングポールのロック(固定)方式には、シャフト同士をひねって固定する「スクリュー式」と、外側のレバーを開閉する「レバーロック式」があります。
スクリュー式は突起物がなく軽量ですが、まれに歩行時の微細な振動や手首の返し動作等によって知らず知らずのうちに緩んできてしまうリスクがあり得ます。一方レバーロック式は見た目からでもロック状態を確認でき、開け閉めの操作もグローブを着用したままでも簡単で確実に操作できます。
締め付け強度の調節しやすさも重要です。例えばLEKIの「スピードロック2プラス」などは、工具を使わずにダイヤルで締め付け強度を調整でき、ダイヤルが脱落しない構造になっています。
Q8. グリップ形状や素材(コルク・フォーム等)ごとの特徴は?LEKIのグリップが握りやすいのはなぜ?
A8. グリップは大きく分けて「コルク」か「樹脂」か。LEKIポールのグリップは人間工学に基づく10度の傾きと、戦闘機の操縦桿に着想を得た独自のヘッド形状が無駄な握力消費を抑えます。
グリップに採用される素材は大きく分けて主に3~4種類。まず「コルク」は滑らかで自然な肌触りと、時間が経つにつれて手の形になじんでくるという天然素材ならではの心地良さで根強い人気があります。次に「コルクシート / コルク樹脂」は汗をかいても滑りにくく吸湿性に優れます。全コルク製は岩場での衝撃で欠けるなどのリスクがあるため、LEKIではモデルによって耐久性を高めるシート加工や樹脂配合を行い、グリップ感と耐久性、価格などのバランスをみながら使い分けています。そして「EVAフォーム」は変形しにくい高密度フォームを採用し軽量、適度なクッション性と柔らかさで手に馴染みやすいのが特徴です。最後はラバーグリップ。柔らかさと粘りのある高品質ラバーを使用し、手に吸い付くグリップ力を発揮します。
LEKIポールの他にはない「握り心地の良さ」を可能にしている最大の特徴は、長い研究に基づく独自形状にあります。実はLEKIポールのグリップ部分は、先端にかけて直線ではなく、微妙に(10度)前傾角が設けられています。これにより、手首を不自然に曲げずに自然な角度のまま地面を突くことができます。
さらにグリップ先端のヘッドトップは人間工学に基づいた「エルゴン・グリップ」構造。当時の社長が戦闘機の操縦桿のフォルムから着想を得て開発されました。卵型のラウンドトップは下り坂で上から包み込むように握りやすく、先端の張り出しは指をかけて振り出し動作を助け、岩場での一時的な支点確保として機能します。
Q9. バスケットの役割は?大きさの違いや、脱落防止のコツは?
A9. バスケットは岩や木道の隙間への深い刺さり込みを防ぎ、テコの原理によるシャフト破断を回避する必須パーツです。
バスケットはポールが隙間に深く突き刺さるのを防ぐストッパーの役目を果たしています。バスケットがないと石突きを超えて奥まで刺さり込み、歩行の勢いで強いテコの原理がかかってシャフトが一瞬で折れたり曲がったりしてしまいます。このため軽量志向の方でまれに「邪魔だから」「軽くしたいから」とバスケットを外して歩く人がいますが、無用なトラブルを引き起こす可能性があるのでおすすめしません。
装着の際は、ネジ山に対して空転する根元まで確実に回し切ることが大切です(LEKI製品の場合)。途中で止めていると歩行中の振動で緩んで脱落してしまいます。
バスケットの大きさは、無雪期は標準の小径バスケット(径約5cm)で十分ですが、10〜20cm以上の積雪期やバックカントリーでは大径のスノーバスケットに交換しないと用をなしませんので、その点にも注意しましょう。
Q10. トレッキングポール先端チップ(石突き)の役割と、ラバーキャップの必要性(使用マナーの境界線)は?
A10. 登山道や木道の保護として装着が原則ですが、濡れた粘土質やザレ場などスリップの危険がある場面では安全を優先して外すなど、現場での判断が重要です。
トレッキングポール先端チップ(石突き)の本来の役割とLEKIの先端チップ
トレッキングポールの先端に配置されている金属製の先端チップ(石突き)は、単なる針や突起ではなく、岩場、土、粘土質、ザレ場、凍結路面などの不整地において地面を捉え、滑り出しを抑制して足元の安定と身の安全を確保するという最も根本的な役割を担っています。
LEKIのポール先端部は長年の専門メーカーとしてのこだわりとテクノロジーが結集されています。例えば素材には非常に硬質なタングステンカーバイド合金を採用し、岩場などで長年ハードに使用し続けても摩耗や削れがほとんど生じない、抜群の耐久性を誇ります。また先端部は単なる円錐形ではなく、中央がえぐられた「すり鉢状(凹型)」に成形されています。これにより先端の周囲に鋭いエッジが立ち、どんな角度や方向から突き立てても岩の僅かな凹凸や微細な突起を確実に捉えてしっかりと食い込み、高いグリップ力を発揮します。
ラバーキャップの装着とつけ外しの境界線
一方でトレッキングポールの先端チップは非常に鋭利なため、木道や植生・土壌を傷つけてしまう可能性もあり、それを保護する環境的な配慮として、一般的な登山道では「ラバーキャップ」を着けて使用することが推奨されます。ただし、ゴムキャップをつけたままでは滑って転倒・滑落のリスクが高いと考えられる場面では、先端チップのエッジ効果をフルに活かすためにキャップを外して自身の身の安全を優先することも重要です。自然の中では何事も教科書知識で思考停止に陥るのではなく、現場では常に「何を優先するべきか」を判断して行動することが大切です。
- 装着すべき場面:整備された土の登山道、木道、人の手によって作られた路面、一般道
- 外すべき場面:岩場、ザレ場、雨で濡れた粘土質の滑りやすい急斜面、凍結路面
キャップを紛失・脱落させないためのコツ
多くの人が経験したであろう「歩いているうちにキャップが外れて落ちる」というトラブルですが、正しい条件でキャップが装着されていれば、抜け落ちるということは起こり得ません。長い修理対応の経験から分かってきた、キャップが抜け落ちてしまう主な原因は、キャップ内部に付着した泥・砂汚れによってゴムの摩擦抵抗が落ちているか、岩場で使用するなどでフレックスチップと呼ばれる先端パーツ自体が摩耗して痩せ細っているといったことが考えられます。
このため、使用後に先端とキャップ内部を水拭きして土汚れを落とし、フレックスチップ自体が消耗していないかを定期的に点検することが紛失防止に繋がります。
Q11. 「アンチショック(衝撃吸収機能)」の本当の効果と選び方は?
A11. かつては不快感や繊細さから敬遠されることもありましたが、最新バージョンでは衝撃を吸収しつつ微振動をカットするなどして疲労を軽減してくれます。
昔のアンチショックはバネ式で、突いた瞬間に「ブヨヨンッ」と大きな沈み込みと跳ね返りの感覚があり、接地感に欠ける面がありました。
上写真の左で示すLEKIの現行アンチショック(AS)システムは、手首から遠く、地面に近い「先端チップの直上」に弾力性を持つエラストマー素材を配置しています。これで大きく沈み込む不快なブレを完全に排除しつつ、地面から伝わる微小な振動を的確に吸収します。何千回/何万回とポールを突き立てる長時間の山行において、手首や肘、肩の関節への負担を緩和してくれます。
なお、カーボンシャフトモデルは先端に溝を切る加工を行うと強度が落ちてしまうため、アンチショック機構付きモデルの場合、先端シャフトだけは耐久性に優れるアルミシャフトが採用されています。
Q12. ストラップの役割と正しい握り方、ストラップを使わない方が良い場合もあるって本当?
A12. ストラップは「下から手を通して、ストラップごとグリップを包むように握る」のが正解です。危険箇所では手を抜きます。
ストラップは落下防止ではなく荷重を分散させるためのパーツであり、正しく使うことで握力を節約することができます。下から手を通して握り込むことで、手首で荷重を受け止めることができ、指先を強く握り締めなくても軽く添えるだけでポールをコントロールできます。
例えば平坦路や登りでは手は軽く添えるだけで握らなくてもストラップが荷重を受けるため、握力をほとんど使わなくて済みます。これだけでも長時間歩いたときの疲労感は大きく違います。
ただ、岩場、鎖場、梯子、トラバースなど転倒・滑落のリスクが高い危険箇所では、万が一の際にポールに引っ張られて手が拘束されるのを防ぐため、ストラップから手を抜く(またはポールを収納する)といった現場判断が必要です。
Q13. 初心者がやってしまいがちな「ポールの危険な使い方・破損の原因」とは?
A13. 斜めに突いて自分の方にしならせる引き寄せ動作や、隙間に刺さったまま前進する行為は破断の最大原因です。
ポールは垂直方向(長軸方向)への耐荷重には非常に強い構造ですが、横方向からかかる曲げの力には脆弱です。
ポールを前斜めに突きながら直線的に地面に対して力を加える動作(押す動き)は問題ありませんが、シャフトをしならせながら自分の身体に引き寄せるような突き方をすると、横圧がかかって折れやすくなります。ポールを突く際には真っ直ぐなポールに対して同じく直線的に荷重をかけるのが原則です。
隙間に挟まったまま進むのも禁物。岩の割れ目や木道の隙間に石突きが挟まったことに気づかず身体だけ前進すると、テコの原理で一瞬で破断してしまいます。
Q14. 自分に合った適正な長さ設定と、登り・下りでの正しいポールワークのコツは?
A14. 平地では「肘の角度が100度〜110度(90度より拳1個分低め)」を基準にし、登りは短め、下りは長めに設定します。
一般的な教科書では「平地でトレッキングポールを握った時に肘の角度が90度」と説明されることが多いですが、キャラバンでは「100度〜110度(90度より拳1個分短め)」を推奨しています。突いた時に肘が上がりすぎない低めの設定にする方が、肩の張りを防ぎ、振り出し動作が楽になるからです。(※90度という基準は、スキーポールで先端部分が雪に埋まる分を考慮した名残りです)。
そのうえで、登りでは平地よりやや短めに設定したり、斜面のトラバースでは斜面側の片手を延長グリップ(ロンググリップ)の下部を握るなどして長さを調節します。下りでは平地より拳1個分長めに設定したり、LEKIのエルゴン・グリップであればヘッドトップを上から掌で抑え込むようにして握ります。
Q15. 長く安全に使い続けるための正しいお手入れ・乾燥・保管方法は?
A15. 使用後は汚れを落として日陰で乾燥。防錆潤滑油は絶対厳禁です。
雨の日はもちろん、晴れた日や高湿な低山であっても、シャフト内部には太陽光の熱や外気との温度差による結露・湿気が溜まります。山行から帰ってきたら、面倒でも以下のようなケアをしておくことで製品の寿命を延ばし、劣化を防ぐことに繋がります。
- 部品を可能な限り分解する:ゴムキャップを外し、シャフト同士は重ならないように引き抜きます。そこまでしなかったとしても最低限、最大長まで伸ばしてください。
- 乾拭きと日陰乾燥:汚れている場合は硬く絞った濡れ雑巾で拭いて汚れを取った後、乾いたタオルでシャフト表面や結合部の水分を丁寧に拭き取ります。その後直射日光を避けた風通しの良い日陰で内部の湿気がなくなるまでしっかり乾燥させます。
- 潤滑油・ケミカル類は絶対に使用しない:動きを良くしようとして防錆潤滑油(WD-40やクレ5-56等)をスプレーすると、内部のロッキングプラグが滑ってロック不能になります。
- 保管方法:完全に乾いたら再度組み立て、ロックレバーやスクリューは締め込まず「軽く緩めた状態」で保管します。
LEKIのトレッキングポールが世界中で選ばれ続ける理由――LEKIの歴史とキャラバンのアフターサポート
今でこそ、トレッキングポールは多くのメーカーが参入して多様なモデルが切磋琢磨する状況になっていますが、今から四半世紀前にこのジャンルを切り開いたのが、何を隠そうこのLEKIでした。なぜLEKIのポールは他と違うのか?そこには長く積み上げてきた数々の挑戦の歴史がありました。
1948年創業、ポール進化の歴史を創ってきたパイオニア
LEKIの歴史は1948年、ドイツ・シュヴァーベン地方のデッティンゲン・ウンター・テックでカールとゲルトルート・レンハート夫妻が設立した木工工房から始まりました。
自身も熱心なスキーヤーであったカールは、当時のスキーポールの品質に満足できず、自らアルミや複合素材を用いてスキーポールのグリップやバスケットを作り始めます。1970年に「LEKI(キルヒハイムのレンハート)」ブランドとして初のスキーポールを発売しました。
1974年には、世界初となる伸縮収納式トレッキングポール「MAKALU(マカルー)」を発表。1978年にラインホルト・メスナーとピーター・ハーベラーが世界初のエベレスト無酸素登頂を成し遂げた際、その足元を支えていたのがLEKIのポールでした。
1982年には世界で初めてシャフト内蔵型衝撃軽減システム『アンチショック・スプリング・システム』を発表。その後も人間工学に基づいた『エルゴングリップ』や、瞬時に長さ調整が可能なレバー式固定機構『スピードロックシステム』、手に馴染みやすい『スキンストラップ』など、今では一般的になっているようなトレッキングポールの歴史における主要なイノベーションの多くを創出し続けています。製品の設計・製造において常に最高品質を追求し、高品質で信頼性が高く耐久性に優れた製品づくりというコンセプトは創業当初から現在に至るまで、連綿と受け継がれています。
自社内リペアールームと、いつまでも登山を楽しみたいと思うすべての登山者への想い
輸入代理店である株式会社キャラバンでは、社内に専門のリペアチームを設置し、長年使い込まれたポールの修理やパーツ交換に対応しています。※一部パーツで在庫が無い場合は、代用パーツでの対応となります。
井原さんは最後に、登山者へのメッセージをこう締めくくりました。
「極端なことを言えば、登山においてトレッキングポールは必須装備であるとは思いません。でも、有ると無いとでは登山を楽しむうえで大きく影響を及ぼすとても便利な道具だとは思っています。
登山をする際にトレッキングポールに頼るなんて・・・と否定的な意見を述べる方も実際に少なからずいらっしゃいますが、人それぞれ骨格も筋力も体力も体幹も異なるのですから、より安全に登山を楽しむうえで否定要素は何一つないと個人的には感じています。
市場を見渡せばとてもお手頃で安価なものからLEKIポールのように高額なものまで、価格差も相当あるのはご承知の通りです。お値段の違いに関係なく、使用用途はどれも基本的には同じです。使い方にもそれほど大きな差があるわけではありません。大事なのは、非日常のアウトドアフィールドで長時間使用し続ける『使い勝手の良さ』『使い心地』『耐久性などへの信頼性』こそが、ポール専門メーカーが製造するLEKIブランドの強みであり、選ばれる理由だと思います。」
Outdoor Gearzineがおすすめする、LEKIトレッキングポールのアクティビティ別・スタイル別おすすめモデル
最後にLEKIの豊富なラインナップの中から、Outdoor Gearzineが全LEKI製品をチェックして独断と偏見でチョイスした、用途・目的別のおすすめモデルをコメント付きで紹介します。
ベスト・トレッキング:マカルー FXカーボン AS
軽量なカーボンシャフトとアルミのハイブリッド、最高峰のフィット感とサポート性に優れたエルゴンエア・グリップ、操作性と固定力を両立したスピードロック2プラスシステム、違和感なく衝撃を吸収してくれる先端アンチショック(AS)機構など、LEKIが誇る最新の快適性と安全性技術を余すところなく詰め込んだ、文字通り非の打ち所がないトレッキングポールのフラッグシップモデル。日帰りハイクから長期のアルプス縦走まで、快適性と安全性を妥協したくないハイカーにおすすめできる万能な1本といえます。これがあればどんなに重荷の過酷なトレッキングでも安心。
ベスト・ライトウェイト:スカイ ソロ FX. ONE カーボン
人によって「ベストなトレッキングポール」の定義が異なることは当然で、安全性よりも軽快さを重視する人がいてもおかしくありません。その意味ではこの「スカイ ソロ FX. ONE カーボン」は、LEKIのラインナップ中で、山岳エリアでのより軽快な行動力を追求したい人に最もおすすめしたい超軽量カーボンポールです。フルカーボン仕様かつ長さ調節を省略したことで得られた異次元の軽さ。握りやすさをキープしながら無駄を削ぎ落としたグリップや、軽さと汗抜けを重視したメッシュストラップ、その他随所にみられるシンプルな構造によって、軽やかなスイングバランスと十分な使いやすさを実現しています。エルゴングリップがどうしても欲しいという人には物足りないかもしれませんが、個人的にはこれでも十分に手に馴染みやすいグリップですし、軽量化しながらも高いシャフト剛性は保たれているので、この安心感もさすが。どこまでも荷物を軽量化してファスト&ライトなスタイルで軽快に進みたい時に最適です。
ベスト・ファストパッキング:スカイ テラ FX カーボン
過酷な縦走やスルーハイクを見据えて作られた、軽快さと堅牢性・実用性を兼ね備えた高剛性かつ超軽量な折りたたみカーボンモデル。直径14/12㎜の極細フルカーボンシャフトやスリムなグリップヘッドなどによって限りなく軽量化を追求しつつも、シャフト連結部をパーツ補強する事で耐久性を高め、延長グリップや長さ調節機能などでさまざまなシチュエーションに対応力も備えます。スピードロック・+システムやコア・ロッキングデバイスによるロック方式など使い勝手も抜群。ファストパッキングや重量を気にする長期縦走など、軽量さとタフさの両方が求められるハードな山行で真価を発揮する信頼のギアです。
ベスト・トレイルランニング:ウルトラトレイル FX. ONE スーパーライト
スピードと軽さを極限まで追求するトレイルランナーのための超軽量モデル。手とポールをダイレクトに連結する「トレイルシャークグリップ」を採用し、握力を使わずにポールを保持することが可能で、腕の振りを効率的に推進力へと変え、パフォーマンスを最大限に引き出してくれます。自分自身で使うシーンはないのですが、もし自分が記録を気にするトレイルランで本気を出すとしたら、この走りを妨げない軽さと素早い取り回し性を備えた1本を選ぶでしょう。
商品詳細ページ:ウルトラトレイル FX. ONE スーパーライト
ベスト・ビギナー向け:ジャーニーライト
コストパフォーマンスで選ぶならばこの一本。高い基本性能と手に取りやすい価格を両立した、初心者に最適なエントリーモデルは、不意の荷重にも粘り強く耐える堅牢なアルミシャフトと、操作しやすく緩みにくいスピードロック・プラス、そしてシンプルで確実な強度の伸縮式構造を採用しています。格安品とは一線を画す耐久性とアフターサポート体制を備えており、使い方に慣れていないうちの最初の1本として長く安心して使い続けられるモデルといえます。
ベスト・番外:スカイ ソロ FX カーボン コンパクト(EC限定)
番外編で、キャラバン直営店(巣鴨店・WEB EC)のみで展開される数量限定の希少モデルを紹介します。上級者向け、世界の高峰に挑むトップ登山家たちとの共同開発で誕生した「SKYソロ」シリーズの中でも最高峰の高い剛性と圧倒的な軽さを両立したモデルがこの「スカイ ソロ FX カーボン」。サイズ調整が可能な二段折りたたみ式タイプで重量は約476g(組)と軽量ながら、カーボンとアルミのハイブリッド構造などによって高い強度をキープしています。確かなロッキングを可能にするスピードロック2プラスシステムはアルミ素材で耐久性も向上しており、積雪期用のバスケット「マウンテンビンディングバスケット」も標準付属と、オールシーズンの過酷な旅に対応しています。本格的な機能性を備えつつ、他のハイカーと被りたくない個性派や、限定ギアにこだわりたい方には特におすすめしたい、プレミアムな1本です。
商品詳細ページ:スカイ ソロ FX カーボン コンパクト(EC限定)


