梅雨時に限らず、天候の変わりやすい山歩きでは片時も忘れてはいけないのが、濡れと寒さを防ぐために欠かせない山の必携アウターであるレンウェアです。
気がつけば当サイトではかれこれ1年おきくらいに必ず書いてきましたが、今年もおなじみ登山向けレインウェアの比較レビューをはじめていきたいと思います。
今回はこれまで以上にどれも軽量・コンパクトなだけでなく、防水性や蒸れにくさをはじめ細部までスキのない完成度の、甲乙つけがたい優秀モデル揃いの豊作年でした。そんなOutdoor Gearzine的最新レインウェアの2021頂上決戦を早速どうぞ。
目次
比較候補を選ぶ
今回は市場で売られている幅広いレインウェアの中でも比較的軽量(250g前後以下)であり、かつ性能的に耐久性以外ではアウトドア向け雨具の中でもトップクラスというモデルを中心に選びました。春~秋で日帰りから2~3泊程度の登山までなら十分対応できるであろうモデルです。一方で長期遠征やハードなアクティビティ、冬にも使いたいなどと考えている場合には物足りないモデルも中にはあります。その範囲内で、今回僕たちが選んだ「最強候補」モデルは以下の5着。
mont-bell ストームクルーザージャケット
国内では各アウトドアメーカーがベンチマークとするくらい、登山向けレインウェアの大定番。海外ではその堅牢性を保ちつつ無駄を省いた丁寧な作りに、ULハイカーたちにも人気のあるブランド。今回も並み居るニューフェイス達の前に立ちはだかってもらいます。
Outdoor Research ヘリウムレインジャケット
元はロッククライマーのためのエマージェンシー用レインジャケットとして生まれたヘリウムジャケットですが、その軽量性とレインジャケットとしての基本的な性能の高さから、軽量性を求めるハイカー達にも使用されるようになりました。今シーズンのアップデートでは優れた引き裂き強度を備えた「Diamond Fuse テクノロジー」を採用し、軽量ながら耐久性にも長けています。
Patagonia ストーム 10 ジャケット
ここ数年でかなり信頼性を増してきた独自防水透湿メンブレン、H2Noパフォーマンス・スタンダードを使用した同社のレインウェアの中でも、防水透湿性だけでなく軽さ・快適さといった面までバランスよく備わった期待の新製品。
THE NORTH FACE パンマージャケット
15デニールという極薄のGORE-TEX® Active™ C-Knit Backerを採用した、防水・透湿・軽量・快適レインウェア。厳しい環境で長期に渡って高いパフォーマンスを求めるエキスパートに向けて開発されただけあって、品質も、価格も妥協なし。肝心の実力は果たして?
山と道 UL Rain Hoody(Sosui)
今やULハイカーから絶大な信頼を得ている国産ガレージメーカーによる、ユニークかつ革新的な超軽量レインウェア。ジッパーやポケットなどを思い切って省きながら必要な機能はしっかりと残し、唯一無二の魅力を醸し出しています。ある意味比較の難しいアイテムではありますが、他モデルとの違いに光を当てることでこの雨具の魅力が引き出せれば。
テスト結果&スペック比較表
総合評価 | AAA | AAA | AA | AA | A |
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アイテム |
THE NORTH FACE パンマージャケット |
mont-bell ストームクルーザージャケット |
Patagonia ストーム 10 ジャケット |
山と道 UL Rain Hoody(Sosui) |
Outdoor Research ヘリウムレインジャケット |
ここが◎ |
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ここが△ |
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防水性 | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ |
蒸れにくさ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ |
快適性 | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
機動性 | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
使い勝手 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
重量・コンパクトさ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ |
スペック | |||||
重量 | 約250g(Lサイズ) | 254g(平均) | 235g | 109g(Sサイズ) | 179g |
耐水・透湿素材 | 15D GORE-TEX® Active™ C-Knit Backer | GORE® C-ニット™バッカーテクノロジー | H2Noパフォーマンス・スタンダード | Pertex Shield Pro | Pertex Shield Diamond Fuse |
表生地 | 表:ナイロン100%、中間層:ePTFE、裏:ナイロン100% | 表:20デニール・バリスティック®ナイロン・リップストップ | 7デニール・トリコットの裏打ちを施した、3層構造の2.2オンス・20デニール・リップストップ・リサイクル・ナイロン100%。 | ナイロン100%(表地:10d/10f x 10d/10f+30d, ripstop、裏地:7d トリコット) | 100% nylon, 30D ripstop |
レイヤー数 | 3 | 3 | 3 | 3 | 2.5 |
耐水圧(mm) | 非公開 | 50000mm以上 | 非公開 | 20000mm | 20000mm |
透湿性(g/m² 24hrs) | 非公開 | 35000g/㎡/24h(JIS L-1099B-1法)(参考値) | 非公開 | 20000g/㎡/24h | 20000g/㎡/24h |
ポケット数 | 2(両胸) | 2(両脇腹) | 3(胸・両脇腹) | 0 | 1(胸) |
パッカブル | ×(収納袋付属) | ×(収納袋付属) | 〇 | × | 〇 |
各モデルのインプレッション
THE NORTH FACE パンマージャケット
価格に目を瞑れば間違いなく総合1位。一流シェフが極上の食材を惜しみなく使って作った高級フレンチのような一着
ここが◎
- 蒸れにくさ
- 着心地の良さ
- 動きやすさ
- 撥水・防水性
- フロントのダブルジッパー
ここが△
- フード後ろのコードロックが緩め
- フード周りの隙間
- ポケットが胸のみ
どこかから「ズルい」という声すら聞こえてきそうなほど、生地から細かいパーツに至るまでハイエンドな高級素材を贅沢に使用したレインウェアというのが最初に抱いた感想です。
透湿防水素材に使われているのはGORE-TEX® Active™ C-Knit Backer。重量を極力抑えながら、高い防水性と同時に抜群の透湿性、しなやかで肌触りの良い裏地など、軽量性と耐候性・快適性を兼ね備えた優秀な防水透湿生地のひとつ(その分価格もヤバいですが)。さらに15デニールという薄手の表地は、公表こそされていないものの、ナイロンという材質にしても、質感にしても、ルーペで覗いて確かめてみても(下写真)、優れた耐久性でおなじみのGORE-TEX PROで以前から裏地に使用されている「マイクログリッドバッカー」的な生地のようです(数年前Mountain Equipmentから発売されていたImpellor Jacketと同じ)。この表地の特徴は比較的低密度に織られているため、軽くて透湿性が高い点。思った以上に衣服内の蒸れはスースー抜けてくれます。にも関わらず、耐磨耗性・耐スナッグ性を兼ね備えているので、想像するよりも耐久性は安心です。その上強いシャワーを長時間浴びせ続けても低下しない撥水性の高さも驚きでした。
ふんだんな高品質素材使いは生地だけではありません。フロントジッパーはスムーズで防水性もバッチリ、おまけに高耐久で凍結にも強いビスロンジッパーを上下ダブルジッパー仕様で配置されています(下写真)。フロントの開き具合を調節しやすいため、さらに柔軟な湿度・体温調整を可能にしています。
さらに妥協のない作りは素材選びだけでなく作りにも随所に見られます。特に気に入ったのは上半身の動きやすさ、ストレスの少なさです。無駄のないスリムなシルエットにも関わらず上腕の動きで衣服がバタついたり突っ張ったりすることがありません。これは脇下に配置された(クライミングパンツの股部分にあるような)ガゼットクロッチ状のパーツに代表される、動きを計算に入れた巧みな立体裁断によって行動時の大きなストレスを軽減する工夫によるものです(下写真)。
フードはヘルメットも被れるように大きめになっておりツバも硬質素材が真っ直ぐに伸びているため前からの雨もしっかり流してくれます。後頭部の1点で立体的にフィットしてくれるドローコードは、調節も簡単。
ただ、それ以外の点でこのフード周りは唯一といっていい不満点です。サイドの伸縮部分は正面ジッパーを上まで上げていても難なく脱ぎ被りができるという点は評価できるものの、顔にピッタリの密着させることができないため冷気や雨は侵入する余地を残してしまっています。また後頭部のコードロックは極端な軽量化のため発泡ゴムによる簡易なパーツになっているため、緩みやすいのも気になります。
ハードなシチュエーションでライト&ファストな行動を実行するために必要最低限の要素を残しつつ、それ以外で素材と技術によって解決できる部分は惜しみなくテクノロジーを利用することで徹底的に無駄を省くという、まさにノースフェイスの本気が詰まったフラッグシップ的なレインウェア。
透湿性が高いからといってもGORE-TEXの性質上アウターとしての保温力もそれなりに低くないため、真夏のハイキングから低温下の縦走まで、幅広く対応してくれます。すべてにおいて高性能、汎用性の高い作りは、きっと価格に見合ったパフォーマンスを見せてくれるでしょう。
mont-bell ストームクルーザージャケット
着実に進化し続けるレインウェアの巨像の安心感。とにかく雨から身をまもりたいならこれ。
ここが◎
- 高い耐水圧に加えて水滴もばちばち弾く撥水性
- 透湿性
- 密閉性高く調節しやすいフード
- 以前に比べて動きやすさ向上
ここが△
- ゴワゴワした着心地
- 緩めのフィット
- フードのツバが風で折れやすい
日本で登山をする人で知らない人はいないかもしれない、押しも押されぬレインウェア番長、mont-bell ストームクルーザージャケット。そう言われる大きな所以はなんといっても、愚直なまでに雨具としての機能性を追い求めている点です。
これでもかというほど高い耐水圧を備えた20デニールのGORE-TEXの3層生地を採用し、防水性と耐久性に関してはまず心配いりません。さらに最新のアップデートで取り入れられた独自裁断パターン「K-Mono カット™」によってさらに縫い目を少なくすることで一層その信頼性は高まりました。調節可能な袖・裾・フードの密閉性も高く、今回比較した中でも防水性に関しては最もスキのないと1着といって間違いありません。
特にフードの作りに関しては、ツバの硬さ以外は理想に近い完成度だと思います。頭頂部には面ファスナーとコードロック、顎には左右2箇所と、合計4箇所でフィット感を調整できる過剰なまでの調節性の高さ。快適なフィット感とともに完璧に雨をシャットアウトしてくれ、今回評価したウェアの中ではピカ一の出来栄えと言えます(下写真)。
ただ、一方で多くのメーカーが参考にしてきた「間違いのない」作りは、ともすると退屈さとして映ってしまうこともいたし方ないところ。人間だもの。
例えば日本人のマジョリティに合わせたシルエットは、いくらレイヤリングを想定して余裕をもっているとは言えやはり緩めで、素早い動きのアクティビティにとってはバタつきが気になってしまったり(下写真。これでさらにゆったりサイズがあるというのがだから驚き)。着心地についても、裏地にGORE® C-ニット™バッカーテクノロジーを採用してしなやかさ、肌触りの良さを増していると入っても、防水性と撥水性を高めた表地は相変わらず相対的にはゴワゴワ感が否めません。ただ前述の「K-Mono カット™」によって動きやすさが向上していることは大いに歓迎です。
雨に対するプロテクションと快適性に関しては何の心配もなく、クラシックな意味での「登山」というアクティビティに限って言えばオールシーズン使える汎用性の高さもバッチリ。一着で何役もこなしてくれるので、大多数の登山者にとってはこれだけで十分不満は生まれないでしょう。ただしあくまでも個人的にはですが、心から「今」欲しい1着なのかは、はっきりいって疑問が残ります。あまりにも定番として完成されてしまった巨人がもつ、永遠の贅沢な悩みは今年も消えませんでした。
patagonia ストーム10・ジャケット
軽さのなかでも安全性と快適性を忘れず、そしてシルエットも良し。質の高さを感じさせてくれる良バランスな一着
ここが◎
- 無駄のないフィット感
- 抜群の着心地の良さ
- 高い撥水・防水性
- 豊富なポケットとパッカブル仕様の使い勝手の良さ
ここが△
- ポケットが多い分、若干蒸れを感じやすい
- フードのツバが短く下を向いていて前方からの雨に弱い
まず3レイヤーの生地とは思えないほど柔らかくしなやかなで、着た瞬間の着心地のよさに驚かされます。羽織ってみると、身頃やアームホールなどはややタイトめですが、窮屈感という程ではありません。全体的にスリムで洗練されたシルエットが素晴らしく、袖を通すと気持ちが自然にアガってきます。
また関節部分の動きを想定した細かな立体裁断のおかげで、機動性も妨げられていません。生地には若干のストレッチ性も備わっているため、動くことに関しては驚くほどストレスフリー。このスタイリッシュさと動きやすさを両立した「服としての上質さ」が何よりもこのモデルの魅力です。防水性・汗抜けに関しても、patagonia独自生地「H2Noパフォーマンス・スタンダード」は及第点。飛び抜けて優れているという事はありませんでしたが、思った以上に撥水・防水性も優れ、ゆったりペースで歩いていれば蒸れも少なく快適でした。
もう一つこのモデルが他よりも勝っている点といえば、ポケット・収納類の使い勝手です。ポケットは全部で3つ。前面にある2つ大きめのハンドポケットは、手を広げても余裕で入る大きさなので、入れようと思えばかなり収納力があります。ポケットの大きさからも、雨天時に着っぱなしになっても、行動中必要なものは色々入れておけるようにということでしょう。胸のポケットは収納袋としても機能するパッカブル仕様で、コンパクトに収納することができます。
全体として欠点の少ないレインウェアですが、あえて難点を挙げるとすれば、ポケットが多い分、前面の抜けが悪くなり、結果として蒸れにくさを感じづらいという点です。実際のところ今回比べてみるまでは感じたことはありませんでしたが、ポケットがあることによる湿気の抜けにくさは意外と大きいものです。
また、フードを頭の形に合わせて締め上げると、ツバが折りたたまれて下を向いてしまう構造はちょっと疑問です。別途キャップ等を被れば問題ないのですが、下を向いた状態ですとツバとしての機能は著しく低下し、メガネなんぞしてようものなら前が見えなくなるまで水滴が貯まりまくります。その点はケアが必要です。
残雪期のスキー登山などで着用することまで考慮されているこのレインジャケットは、薄手軽量ながらも安全性・機能性は十分。ハイキング・トレッキング・ファストパッキング・そして春スキーと、クラシックからモダンなアクティビティまで、今回の比較の中では最も幅広いレンジをカバーする一着かもしれません。そのバランスの良さに加えて、やはりジャケットとしての良質さ、着心地の良さがこの一着をどうしても忘れられなくしています。そのポイントに共感できる人ならばきっと満足のいく買い物になってくれるでしょう。
山と道 UL Rain Hoody(Sosui)
「ムダ」を極限まで削ぎ落すことで生まれた、唯一無二の「価値」
ここが◎
- 軽くて薄くてコンパクト
- ジッパーが無くノーストレスで快適な着心地
- 余計なパーツがない分予想以上に蒸れにくい
ここが△
- 極薄生地による耐久性
- 脱ぎ着の面倒さ
- ジッパー・ポケットが無いため雨具以外での利用がしづらい
フロントジッパーも、ポケットも、その他のパーツも見当たらない。見た瞬間、大丈夫か?と思ってしまうほど、これまでのレインジャケットにあったさまざまな「当たり前」を省略してしまった、思い切ったつくりのレインウェア。
当然ですが、とにかく軽い。Sサイズ109gと、他のジャケットのほぼ半分程度の重さ。綿のTシャツよりも軽量です。その軽さは、たとえ使い古された言い回しだとしても言わずにはいられません、「まるで着ていることを忘れてしまうほど」。実際、雨で着た後そのまま脱ぐのを忘れ、再び雨が降って来た時に「そういえば着てたんだ」と気づかされました。前述したフロントジッパーやポケットが無いことによる、生地の不自然な”折れ曲がり”や、ポケットの”分厚さ”といった着ているときに当たり前に感じていたストレスを感じないことも、着ていることを忘れさせてくれる大きな要因のひとつと言えます。
さらにこの極端な切り捨による効果は軽さや着心地だけでなく、防水性を高めているという点も見事です。縫製が行われているのは文字通り数か所で、フード・首回り・体側から手首にかけて・腰のみ。特に水が大量にかかるりバックパックのプレッシャーも掛かる肩回りには縫製は全くありません。ジッパーや縫製箇所を極力排すことで雨の侵入の可能性を極力削減する、口で言うのは簡単だけど実現するのは難しいこのやり方をまとめ上げる手腕には恐れ入ります。
生地は軽量ながら十分な耐久性と防水透湿性を備えたPertex Shield Proの3レイヤーで、極薄生地といって決して侮れない優れた撥水・防水性を発揮しています。それよりも驚いたのはこの薄さで、余計なポケット類を排したシンプルな1枚の生地のみによって構成されたウェアのスペック以上に感じられる蒸れの感じにくさです。試す前にはジッパーによる開け締め調節ができないなど、どうしたって蒸れを感じやすいのではないかと想像していただけに、これは新しいポジティブな発見でした。
とにかく新しい発見が目白押しで、着ていて楽しくなるレインウェアであることは実感しました。レインウェアとしてのパフォーマンスは超軽量としては十分すぎるほど高く、数日レベルのハイキングやファストパッキングならば、本格的な悪天でもしっかりと雨を防いでくれます。
しかしこのウェアは、その確かな実力を踏まえたうえで、やはり使う人を選ぶ一着であることは否めません。そもそも脱ぎ着がしにくく、ジャケット的に使用できず、手や物が収まらないジャケットは、幅広いシーンで使おうと思えばどうしたってあったらいいなと思う場面が出てきてしまいます。その意味では、モンベルのように「何も言わずにコレを持っておけ」と手放しでおすすめするには怖すぎる一着であり、軽量・スピーディなアクティビティで、持ち運びで邪魔にならず、いざ使うときには雨を防ぐ以外に何も要らない、それ以外はすべて不要と割り切れる人にのみおすすめできる雨具です。薄手の生地の扱い方にも慣れていた方がいいです。
それらを踏まえた上で、このクラスの超軽量レインウェアを手にしたいと思ったなら、UL Rain Hoodyはこれまで試してみた100g前後のモデルの中でも抜群にポテンシャルの高い一着であることは間違いありません。
Outdoor Research ヘリウムレインジャケット
軽量・コンパクトなのに耐久性抜群の新マテリアルでさらに頼もしくなった元祖軽量レインジャケット
ここが◎
- 軽量かつ丈夫
- 動きやすくストレスのない着心地の良さ
- スタイリッシュ
- パッカブル
ここが△
- 防水・透湿性ともにイマイチ
- 素肌に着ると裏地がベタつく
- ポケットが胸のみ
- フロントジッパーが硬い
200gを下回る軽さは現在でもトップクラスといってよい、現在まで続く軽量ブームの走りともいえる、定番軽量レインジャケットです。ロングセラーを続けるなかで、軽さによるデメリットを着実に克服しています。
前バージョンと同じPertex Shield 2.5レイヤーを採用しながらわずかに軽量化を実現し、さらに「Diamond Fuseテクノロジー」という新技術を追加。これは断面がダイヤモンド形の糸で高密度に編むことにより、前バージョンから5倍の耐引き裂き性向上を果たし、摩擦やスナッグにも強い構造となり、生地自体の薄さにも関わらず優れた耐久性を実現しました(下写真)。
しかし特筆できるのはそこぐらいで、今回の比較の中でいうと防水性・蒸れにくさ共にあと一歩物足りない印象が残りました。今回唯一の2.5レイヤーモデルということでハンデではあったかもしれませんが、汗をかいた場面では裏地の凹凸コーティングをもってしてもやはりベタつきが気になり、汗抜けも遅く感じます(下写真)。軽量化のためベンチレーションもなく、対処しようがありません。手首部分が緩めな作りなので、かろうじてそこから湿気を逃がしていますが、逆に手首から雨が侵入しやすくなっています。
このジャケット唯一の胸ポケットは収納袋と兼用しているので、手のひらサイズにまでコンパクトになります。かつ軽量なのでバッグに忍ばせておくレインウェアとしては文句なしです。
雨が十分に想定されている長期縦走時にはそもそも選択肢に入らないレインウェアかもしれません。一方で持っていきたいけど荷物は減らして軽量にしたい!という人や、日帰りのハイキングなので思わぬ悪天にあった時などのお守りのつもりでこのウェアを携帯していれば、いざという時ありがたみを感じることでしょう。軽量なので、トレイルランニングや、ファストパッキングで使いたくなるかもしれませんが、常に汗をかき続ける状況では汗抜けの悪さが目立つので、もっと通気性の高いウェアを選んだほうが良さそう。ハイキング・トレッキングであればその心配はありませんが。
まとめ
ハイキング向けレインウェアは他にも興味深いモデルは山ほどあり、この5着で終わりにするのは心苦しい限りなのですが、いつだって予算と時間の制約からは逃げられません。いずれにせよ、作りとしては基本的にスタンダードなタイプが多いため、どれを選んだところで大きく期待を裏切られることはないかもしれません。ただ細部まで見ていくとそれぞれのコンセプトによって微妙な使い心地の違いがあり、そこまでしっかり選んだ一着はきっと自分にとってかけがえのない一着となってくれるはずです。
すべてにおいて欲張るならばTHE NORTH FACE パンマージャケットがおすすめ。軽快なアクティビティを中心に幅広く対応させたいならPatagonia ストーム 10 ジャケットを、あまり激しいことはせず、普通の登山で間違いない物が欲しいならmont-bell ストームクルーザージャケットがおすすめです。ストイックに最低限の装備で万が一の雨をしっかりと凌ぐためと割り切れるならば山と道 UL Rain Hoody(Sosui)に勝るものはありません。Outdoor Research ヘリウムレインジャケットは今回に関しては比較相手が悪すぎたかもしれません。ただ軽さと収納性、ウィンドシェルとしても使いやすい着心地の良さは、バックパックに常に入れて一時的な悪天を凌ぐのには重宝することは間違いありません。
この記事を読んでくれているのは、せっかくの高価な買い物、後悔しないようにと深く検討しようとしている人がほとんどだと思いますが、この記事が少しでも参考になり、それぞれにとって満足いく一着に出会えることを願います。
【補足】レインジャケット比較レビューについて
テスト環境
5~6月、長野県北信州のトレイルで、アップダウンを交えた日帰りコースを、それぞれのアイテムを着て歩いてテストしました。また防水性のテストでは雨の中で着てみるほか、豪雨を想定したシャワーテストも行っています。
評価ポイント
今回は以下の7つの評価基準をもとに、各レインジャケットを評価しました。
- 防水性・・・レインウェアとしてまず第一に評価しなければいけないポイント。単に生地の耐水圧だけでなく、実際の雨のときに衣服内に雨が入ってきにくいかどうかを総合的に評価。
- 蒸れにくさ・・・透湿性の評価は各ブランド独自で公表されている場合もありますが、その条件は同じとは限りません。このためそうしたスペック上の透湿性能だけではなく、ベンチレーションによる換気性なども含めた、行動中の「蒸れ」の感じやすさ(にくさ)を評価。
- 快適性・・・袖を通したときの肌触りやフィット感といった着心地のよさを評価。
- 機動性・・・上半身の動きに対してストレスなく動きやすいかどうかなど、動きの中での着心地のよさを評価。
- 耐久性・・・生地の摩擦やひっかきに対する強さ、パーツの壊れやすさ、洗濯による劣化の少なさを評価。短期間・主観的な評価にならざるを得ないため、あくまでも参考程度に。
- 使い勝手・・・フードや袖、裾の調整しやすさをはじめ、ポケットやパッキングしやすさなど、実用レベルでの全体的な使い勝手の良さを評価。
- 重量・コンパクトさ・・・重量と収納時のコンパクトさを評価。