素足で山のシューズを履く人はほぼいないだろう。ソックスを履いた足でシューズを履く。足と言っても、肌を露出するため、スレなどから、守らなければならない。
とりわけ、スピードハイクやファストパッキングでは、季節やフィールドコンディション、行動時間、行動スピード、シューズとの相性もあるが、ソックスを選ぶ要素としては、通気性、グリップ力、衝撃吸収、アーチサポートといったところだろう。その点にポイントを絞り、この夏、注目するソックスの比較レビューをお送りする。もちろんトレイルランナーも参考にしていただきたい。
目次
今回比較テストしたアイテムと評価基準
ファストパッキングやスピードハイク、トレイルランニングといった、通常の登山よりも早く歩き、トレイルランよりも長く歩くアクティビティに適したソックスの最適解を探るべく候補を選んで比較してみた。想定とした季節は、概ね、春、夏、秋の3シーズンだが、主に暑い夏、アクティビティ開始から終わるまで、長時間履き続けられるもの。形状タイプは通常の丸いラウンドタイプ、五本指タイプ、足袋タイプからで、注目するソックスを選択した。
- ファストパッキング(~トレイルラン)向け
- 春夏秋の3シーズン対応
- 長時間履いていられるソックス
こうして選ばれた5モデルがこちら。
- injinji トレイル ミッドウェイト ミニクルー
- Feetures ELITE LIGHT CUSHION MINI CREW
- YAMAtune Spider Arch 2toe Non Slip
- R×L WILDWOOL
- FITS ultra light runner no-show
テスト環境
梅雨明け前の7月中旬。アップダウンの大きいトレイルだけでなく、柔らかい芝の上や硬いアスファルトのロードなど、コンディションを変えてテストした。シューズはスポルティバのブシドー2を着用。評価ポイントは以下の4点。
- 通気性・・・長い時間、履いていると足はムレてくるもの。通気性が優れているかを判断。
- グリップ力・・・着地や蹴り出しの際、シューズの内側で足が滑らずにグリップできているかを鑑みた。
- 耐衝撃耐磨耗・・・主に着地時に、かかとをはじめ、足を衝撃や磨耗から守ってくれ、疲労を軽減してくれるかをジャッジ。
- アーチサポート力・・・パフォーマンスや疲れにくさに大きく影響してくるアーチサポート力を判断した。
テスト結果&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方はこちら
各モデルインプレッション
injinji(インジンジ)トレイル ミッドウェイト ミニクルー
ここが◎
- 肌触り
- 通気性
- 耐衝撃
- 伸縮性
ここが△
- 五本指ゆえに、履く時に時間を要する
1999年、カリフォルニア州サンディエゴで誕生した五本指ソックスの専門メーカー「injinji(インジンジ)」。まず、生地素材について言及したい。
足の汗を吸い上げ、ドライに保つ吸水速乾性素材「クールマックス」、防水・耐摩耗性に優れ、ナイロンの7倍の強度とも言われている繊維「コーデュラ」、伸縮性と再現性に優れている繊維「ライクラ」を混合した、贅沢な一足(その割合はクールマックス32%、ナイロン58%、ライクラ5%)なのだ。
履いてみた感じは、やや厚みがあるのにとてもソフトで、サラサラしたドライな肌触り。また、ライクラの伸縮性だろうか、ピタッと足にフィットするし、五本指でもかなりスムーズに着用できる。とりわけ、足首のフィット感は心地よく、ダブルカフ(2重折りの履口)やメッシュトップロック(緻密に織ったメッシュパネル)により、ソックス内へ砂埃や砂利などの侵入や、ズレ落ちの心配はまずない。アーチサポートもほどよく効いてる。
足裏は(タオル生地のようにフワフワとした)パイル編みを採用していることにより、クッション性向上に一役買っている。五本指ソックスゆえに、踏ん張りが効くし、シューズの中で、滑りにくい。フィールドコンディションがハードでも耐久性、吸水速乾性に優れ、快適な履き心地を約束してくれるに違いない。
Feetures(フィーチャーズ)ELITE LIGHT CUSHION MINI CREW
ここが◎
- 肌触り
- クッショニング
- アーチサポート
- ずれ落ち防止
ここが△
- もう一つ上の耐久性が欲しい
2002年創業、アメリカ・ノースカロライナを拠点とする「FEETURES(フィーチャーズ)」。丈やカラーリング、クッショニング別など、ラインナップが豊富なソックスメーカーだ。ちなみに、クッショニングだけでも3タイプある。ULTRA LIGHT(クッション最薄。最軽量)、LIGHT CUSHION(高密度クッションでかさばらない。軽量では着心地も快適)、 MAX CUSHION (クッション最厚かつ最大パフォーマンス。衝撃の強い場所でも快適)。今回は、中間のLIGHT CUSHIONをチョイスした。
履いてみた感じはinjinjiにほど近く、かなりソフトで心地いい。全体的に伸縮性を帯びており、足の甲にもピタッとフィットする感じだ。つま先部分はシームレスデザインでまずまず快適。ただ、きめ細やかな機能に驚かされる。素材はナイロン、ポリウレタンだが、ナイロンベースのメーカーオリジナル素材iWick®ファイバーを取り入れており、汗を外に逃してくれる。そのため、ドライかつ防臭をキープ。走ってみて、気がつくのは特許取得「Targeted Compression」のピンポイント圧着でアーチサポート。特に着地・蹴りだしの際に、土踏まず部分が下からサポートされているのがわかる。
また、豆や靴ずれを軽減するため、左右異なった身体構造に合わせたデザインを採用。かかと部分は、靴の中でソックスのズレ落ちなどを防止するY-heel構造で脱着時もラクラク。非常にバランスがとれたスポーツソックスだと言えよう。
YAMAtune (ヤマチューン)Spider Arch 2toe Non Slip
ここが◎
- アーチサポート
- 蹴りだしやすいグリップ力
ここが△
- 通気性がイマイチ
- 伸縮性が少なくちょっとキツめ
北海道東川町に拠点を構え、創業昭和34年の老舗メーカー「YAMAtune (ヤマチューン)」からの一足。つま先は足袋タイプの「2toe」を採用しているため、親指が独立して動くモデルだ。
特に蹴り出し時に親指の可動域が広く、脚を前へ出しやすい。厚みは中厚タイプ。こちらも繊維配合が表示されているので、メーカー明記すると、ナイロン71%、 ポリエステル 21% 、ポリウレタン8%。また、前述の伸縮性繊維「ライクラ」も配合されているようだ。
履いてみると、伸縮性がやや強いがわかる。足裏部分には、滑り止めように耐衝撃性に優れたシリコンゴムを。また、土踏まずの部分には、アーチサポートシステムとして、伸縮性の強い「Spider Arch System」を配置している。グリップ力と伸縮性はかなり強めなため、足運びはしやすい。
ただし、その分、通気性がちょっと気になる。通常の丸いラウンドタイプと異なり、足袋タイプということもあり、多少は通気はいい方だと思うが、足裏に配置されているシリコンゴムが通気を邪魔している気がする。(シューズや個人差にもよると思うが、)やや蒸れやすい傾向にあった。
R×L(アールエル)ソックス WILDWOOL(ワイルドウール)
ここが◎
- 肌触り
- 通気性
- クッショニング
ここが△
- アーチサポートの伸縮性が弱め
- 足裏グリップが弱め
1982年創業、埼玉県富士見市に拠点を構える「R×L(アールエル)ソックス」。世界で初めて、右左立体形状の特許製法技術を取得し、製造しているソックスメーカーだ。 こちらからは、耐久性に優れた「WILD WOOL (ワイルドウール)」をピックアップ。
素材はメリノウール、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンだが、主に雨や汗、湿気等に強い「メリノウール」、高耐久性素材「コーデュラ®ナイロン」を混紡した点がウリのようで、前モデルに比べ耐久性7倍にアップという。さらにアキレス腱部と指先部分はナイロン糸による補強もプラスされている。
履いてみると、概ねソフトな印象だが、(特に足裏が)ざらっとしたような肌触りが少し感じされる。全体的に中厚よりも若干厚めだが、通気性は程よく、蒸れるようなことはなさそうだ。つま先部分のやや厚めの形状。ソックス内に砂利などが侵入を防ぐため、足首周りはしっかりとホールドしてくれる。
土踏まず部の糸を裏糸だけにし、フィット性を高める「薄さ」を追求した製法「エアーフィット製法」により、ナチュラルなアーチサポートを実現したというが……。正直、もう少しサポート力が欲しい。また、グリップ力は心許ない。(シューズ選び、個人差はあると思うが、)さらなる改良が必要だと思う。
FITS(フィッツ)ultra light runner no-show
ここが◎
- 薄型軽量
- 通気性
ここが△
- 薄手ゆえに、物足りないクッショニング
2010年、アメリカ・テネシー州で誕生した「FITS(フィッツ)」。こちらは、メリノウールを使用した超軽量ランニングソックス「ultra light runner no-show」を選んだ。
薄手・軽量のタイプで、「メリノウール」が持つなめらかさと「ライクラスパンデックス」の伸縮性が、絶妙なフィット感を生み出している。素材はウール66%、ナイロン27%、ポリエステル5%、ライクラスバンデックス2%。とりわけ足首周りの伸縮性は程よく、ずれ落ちることはまずない。薄手な分、丸いラウンドタイプの割には、指が動かしやすい感じがしたし、通気性も問題なし。
ただ、かかとや指先部分だけといった、部分的にでも、クッションニング配置の工夫を凝らした方が、足への負担は軽減されるだろう。土踏まずを意識した編み方がなされているようだが、もっとアーチサポート力があっていいと思うし、よりグリップ力を求める方もいそうな印象だ。今回はクッションと長時間使用を重視するファストパッキングでの評価ということで、少し評価基準が不利であったことは否めない。トレイルランに利用するのであればかなりバランスのよい選択肢となることは付け加えておく。
まとめ
アクティビティ中、ソックスのコンディションは意外にも気になるもの。足の蒸れ、パフォーマンスに直結するグリップ性、アーチサポートを含んだクッション性や耐衝撃、耐摩耗などなど、様々な要素が求められる山用ソックス。素材生地の厚みが増したり、滑り止めに足裏にシリコンゴムを配置したりすれば、通気性に支障をきたす場合がある。
一概には言い難いが、素材だけで言ってしまうと、快適性ではメリノウール、速乾性ではポリエステル、伸縮性ではライクラ、耐久性ならコーデュラと言ったところだろうか。織り方等で、クッションニングやアーチサポートをより優れたソックスに仕上げているように見受けられる。細かい部分では一長一短あるが、injinji トレイル ミッドウェイト ミニクルーとFeetures ELITE LIGHT CUSHION MINI CREWは、好みで選んでどちらも間違いないモデルであると確信した。結局のところ総合的なバランスがとれているモデルが、最も使いやすい、評価できるソックスなのではないだろうか。