8月に入ったとある日、UL系バックパックでおなじみのHyperlite Mountain Gearから突然大きなニュースが発表されました。主力ハイキングバックパック「Windrider」「Junction」「Southwest」がリニューアルするというのです。
一番の目玉は、なんといっても従来までのDCH(ダイニーマ・コンポジット・ハイブリッド)生地がさらに進化したDWC(ダイニーマ・ウーブン・コンポジット)を初めて採用したという点。
そこで今回はこの新しいDWCとはどんな生地か?何が進化したのか?をお伝えしつつ、ついでにいい機会なのであらためてダイニーマについて備忘録含めておさらいしておきたいと思います。
目次
そもそもダイニーマとは?
ダイニーマは1963年にオランダで初めて開発され、1992年には「キューベンファイバー」という名称でアメリカズカップで優勝したヨットの帆布として広く知られるようになりました(Dyneema®はAVIENT社の商標)。それ以来、ダイニーマはあらゆる産業に広がり、防護服、漁網、医療用途、そしてもちろんUL系アウトドアギアにも使用されています。
ダイニーマの特徴
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通常2~30万の分子量を100~700万まで高めた、超高分子量ポリエチレン「UHMW-PE(=Ultra High Molecular Weight Polyethylene)」。Dyneema®はAVIENT社の商標。
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同じ重量の鋼鉄(スチール)に比べて約15倍強く、引張強度はmax;42.5cN/dtexを誇る。
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比重は1.0未満(水よりも軽い)と驚くほど軽量。
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耐切創性・摩擦耐性・UV耐性にも優れている。
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吸水率が低く、形状安定性に優れる。
なぜアウトドアに最適なのか?
端的に言うと「この軽さで、従来のほとんどの生地で実現できなかった強度、防水性、安定性を兼ね備えているから」です。
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完全防水:摩耗したり劣化したりするコーティングとは異なり、フィルム層は永続的な防水バリアを形成します。
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非吸収性:何日も雨が降った後でも、水を吸収せず、重量が増えません。
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ほぼゼロの伸縮性:雨や風の強い状況でもテントが張った状態を保ち、荷物が入った状態でもパックがたるむのを防ぎます。
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並外れた強度:ダイニーマ繊維は、重量に対して優れた引き裂き抵抗を生地に与え、要求の厳しい環境に最適です。
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修理が簡単:特別な接着剤を必要とするシルポリーなどのテントとは異なり、小さな裂け目はダクトテープなどですぐに修理できます。特別な接着剤はトレイルではほとんど見つかりません。
生地としてのダイニーマ、それぞれの特徴(DCF、DCH、DWC の違い)
「ダイニーマ」と一言で言っても、テントやタープ、バックパック、スタッフサックなど、製品に合わせて生地の構造にはいくつかの種類があります。
アウトドアで見かける種類のほとんどは、
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DCF(Dyneema® Composite Fabric、ダイニーマ複合繊維)
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DCH(Dyneema® Composite Hybrid、ダイニーマ複合ハイブリッド)
そして今回新たに登場した新しいファブリック、
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DWC(Dyneema® Woven Composites、ダイニーマ織物複合素材)
の3つです。
いずれもダイニーマ繊維を使用していますが、用途によって構造が異なります。
ダイニーマ複合繊維(DCF):超軽量ラミネートの「元祖」
(引用:Hyperlite Mountain Gear WEBサイト)
ダイニーマ繊維を薄いポリエステルフィルムで挟んだ素材です。防水性があり、重量の割に強度が高く、伸縮性が低いという特徴がありますが、摩耗には弱いです。テントやタープ、パッキングキューブ、スタッフサック、ペグバッグなどに適しています。
ダイニーマ複合ハイブリッド(DCH):耐摩耗性大幅UP
耐久性と耐摩耗性を高めるため、Dyneema®複合素材のコアを織り生地(ポリエステルやナイロンなど)にラミネート加工しています。こうすることで厳しい環境での長距離移動にも耐えうる超軽量素材となり、バックパックなどに最適です。
ダイニーマ織複合材(DWC):さらに強度&耐久性UP
DWCは、ベースとなるダイニーマ®コアの表面に、(ポリエステルやナイロンの織物ではなく)ダイニーマ®繊維をさらに使用した織物が接着されています。裏には他の2つど同じようなラミネート加工によって防水性が保たれています。
(引用:BACKPACKER.com)
生地の内部層と外部層の両方にダイニーマ繊維を使用した二重構造にすることで、強度と耐摩耗性が飛躍的に向上。既存のダイニーマ複合材と比べて、耐摩耗性が10倍、引き裂き強度が5倍、重量が34パーセントも軽減されています。つまりダイニーマの力を織り面と内部のフィラメントコアの両方に活用することで、より軽くさらなる耐久性と耐引裂性を実現したというわけです。
もちろん、従来のダイニーマ®の特徴である寸法安定性や軽量性、防水性などもしっかりと兼ね備えています。極めつけは従来のリュックサックよりも静かで、パリパリという音も少ないとか。
ただでさえ超軽量高耐久だったDCHが一段と強くなったというところがシビれます。近年「Ultra fabrics」や「ALUULA Graflyte™」などの台頭によってバックパック用生地としてのダイニーマの優位性が薄れてきたところで、また一段と進化してくるあたり、さすがはUL素材の盟主。
DWCは他の競合素材と比べても優れているのか?
ダイニーマは、DWCの強度と耐久性の指標をいくつか公開していますが、それらを見ても競合他社と強度や重量について直接比較することはできませんでした。
そもそも各社で公開されている情報の種類が異なり、テストの内容も異なっているためです。このためDWCが他の最先端軽量高耐久素材と正確に比較するのは今後も難しいと思われます。
それでも、公開情報によれば200デニールのDWCの引裂強度は250ポンドで、これは800デニールのUltraに近い値であり、ここからもDWCの引裂強度は桁外れであろうことはある程度想像できます。
最後に:ダイニーマの欠点は?
あらゆる素材にいえることですが、そんなとんでもなく高い重量当たりの強度を持ったスーパーファブリックのダイニーマといえども完璧ではありません。その引き換えとして、現時点で妥協しなければならない点がいくつかあります(将来的に解消される可能性はゼロではありませんが)。
1.高価
最も大きな欠点は価格が高いことでしょう。ナイロンやポリエステル製の同等のギアの2倍から3倍の価格になることも珍しくありません。
2.騒音やシワが出やすい
ラミネート構造のため、カサカサ音やシワが発生しやすいのも他と比べると顕著。テントが風でバタバタしたり、パッキングで折りたたんだりするときの音は他と比べても明らかに大きく、またそれによって生じるシワは風合いとしてポジティブにとらえることができればいいものの、最終的には生地の強度にも影響がありますので、ないに越したことはありません。
3.カラーバリエーションの少なさ
ほとんどの製品は白、グレー、または落ち着いた色合いか、鮮やかな色でもごく少数しか提供されていません。逆に言うと、カラフルなダイニーマのスタッフサックとかを見るとそれだけで惹かれますよね。
4.生地が透ける
メリットにもデメリットにもなり得ますが、うっすらとシルエットが透けて見えてしまいます。超軽量のダイニーマ製テントを購入する際には考慮すべき点です。
5.熱に弱い
他の生地に比べると、火に近づけたりしたときの変形しやすく劣化しやすいといえます。例えば火の粉にさらされるとすぐに収縮、変形、または融解してしまうことも。原料のポリエチレンが熱に弱いためですが、70度以上の温度で使用したり、それ以上の温度でのアイロンがけなどは禁物です。
6.強いストレスで層が剥がれやすい
強く折り曲げたり長時間のストレスにさらされると、時間の経過とともにフィルムの層が剥がれる可能性があります。
7.紫外線による経年劣化
どの生地にも言えなくはないことですが、ダイニーマも同様に強い日光に長時間さらされるとラミネートが徐々に弱くなり、生地の寿命が短くなる可能性があります。特に、数週間または数か月間屋外に放置さするなんてのはもってのほかです。
まとめ
DWCは現在のところHMGのバックパックにのみ採用されているプレミアムな素材ですが、来年以降はきっと他のブランドにも開放されていくでしょう。さらに向上した抜群の強度対重量比、永続的な防水性、そして軽さと扱いやすさ、信頼性の高さは、DWCの登場によって再びダイニーマをUL最強素材の位置に引き戻したかもしれません。DWCを採用した今後の新製品に注目しましょう。
参考:
https://hyperlitemountaingear.com/pages/material-technology
https://hyperlitemountaingear.com/blogs/the-trailhead/a-deep-dive-into-our-new-pack-fabric
https://www.dyneema.com/design-with-dyneema/dyneema-woven-composites
https://www.backpacker.com/gear/dyneema-unveils-a-new-composite-fabric/