登山での快適なテント泊に欠かすことのできないスリーピングマット。暖かい時期ならば薄手軽量のモデルでも事足りる場合が多いものの、寒さが厳しい季節となればより断熱力の高いものが欲しくなってきます。
軽量で高断熱なマットレスのタイプとなると、空気を注入する方式のエアマットが一般的。ただし、より暖かくて軽いモデルはその分高価だったりと、断熱性能と軽さと価格は本来トレードオフの関係にあるため、何かをとれば何かを失うこともやむなしというのがこれまでの常識でした。
そんなエアマットの常識を覆すかもしれない興味深い新製品が、トップクラスの断熱力と軽さを実現しながらも2万円でお釣りが来るという驚きのマットレスarata「ASP-R7」です。今回使用させてもらう機会を得たので、さっそくレビューしていきます。
「新たな」と「改める』」の二つの言葉から名付けられた日本生まれの「arata」は昨年発売されたテントきっかけに注目度の高いブランド。そんなarataが作ったマットは携帯性と断熱性、快適性、そしてコストパフォーマンスを異次元とも言える高レベルなバランスのとれたマットでした。
目次
arata ASP-R7の主な特徴
arata ASP-R7は日本の山岳シーンを想定し、 厳冬期の北アルプスをはじめとする3000m級の環境での使用に対応できるオールシーズン用として開発されたエアマットです。ラインナップは幅に余裕のある長方形タイプの「Regular」と不要な部分をカットし軽量に仕上げた「Mummy」の2タイプ、求める快適性や山行のスタイルによってチョイスが可能。
マイナス25℃以下にもなる北アルプスのの環境に単体で対応できるよう、TPUフィルムと熱線反射PETフィルムを組み合わせた多層構造を採用することにより、RegularサイズでR値6.7、MummyサイズでR値6.6と高い断熱性を確保しつつ、極限まで軽量・コンパクトになるよう設計されています。その結果、Regularサイズで約584g、Mummyサイズで約477gを実現されたオールシーズン対応のスリーピングマットです。
お気に入りポイント
- 厳冬期の単体使用もOKな高い断熱性
- 地面の凹凸を十分に吸収してくれる十分な厚みと快適な寝心地
- 断熱性・快適性に対しての携帯性の高さ
- 異次元なほどのコストパフォーマンス
気になるポイント
- 地面側にあるバルブはあとから空気圧の微調節が難しい
- 耐久性は最低限
主なスペックと評価
アイテム名 | arata ASP-R7 / Mummy | arata ASP-R7 / Regular |
---|---|---|
サイズ | 183 x 51 x 10 cm | 183 x 56 x 8 cm |
収納サイズ | φ10 x 22cm | φ10 x 25cm |
マット厚さ | 10cm | 10cm |
重量 | 477g | 584g |
表面素材 | 20リップストップナイロン | 20リップストップナイロン |
断熱素材 | TPUフィルムと熱線反射PETフィルムを組み合わせた多層構造 | TPUフィルムと熱線反射PETフィルムを組み合わせた多層構造 |
R値 | 6.6 | 6.7 |
季節対応 | 4シーズン | 4シーズン |
付属品 |
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Outdoor Gearzine評価 | ||
快適性 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
断熱性 | ★★★★★ | ★★★★★ |
重量 | ★★★★★ | ★★★★☆ |
収納性 | ★★★★★ | ★★★★☆ |
使い勝手 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
汎用性 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
詳細レビュー
今回のレビューでは主にMummyサイズを使用し、フィールドテストを行ってきましたのでMummyサイズの使用感をベースにレビューをしていきます。それではさっそくみていきましょう。
厳冬期の単体使用もOKな高い断熱性
地面からの冷えが原因で眠れなかった経験回数は全国でもトップクラスに入ると自負している筆者。スリーピングマットの重要性は誰よりも身をもって知っていると思います。
地面と接地している箇所が冷えて眠れないというのは本当に辛く、それが極寒の環境であれば死活問題。ASP-R7は断熱性能を表す「R値」が6.6(ASTM規格F3340-22)あります。設計上ではマイナス25℃を下回る環境ですら問題ないR値を誇り、日本の山岳地帯でならこれ一つで対応可能なスペックです。気象庁のデータによれば、歴代観測史上で最も気温が低かったのは1902年1月の北海道旭川でマイナス41℃、さすがにここまで低い気温を想定するならばASP-R7単体では対応できなくなってきますが、山に入ることすらできない最強寒波などの襲来がなく、一般的に山に入れるような気象状況であれば単体で使うことのできるスペックです。
エアマットの構造にはダウンや化繊などの「断熱材が封入されているタイプ」や断熱フィルムで「層を形成し対流を抑制するタイプ」、「断熱材と層構造を組み合わせたタイプ」などさまざまですが、ASP-R7はTPUフィルムと熱線反射PETフィルムを組み合わせ層を形成する構造が採用され断熱性が確保されています。
R値が6.6あるASP-R7の実力は、実際のところどのくらいなのか。
寒さの感じ方は人によって違うため参考程度になってしまいますが、筆者の経験としてこれまでで1番寒い環境でのテント泊だったのがマイナス20℃まで冷え込んだ南アルプス。その時に使用していたマットはクローズドセルマットとエアマットを重ねて使用し、R値は合わせて5.8ほどで、地面からの寒さを感じる事なく過ごすことができました。
その時の断熱性と比べてもR値6.6のASP-R7 は特に冷たい・熱いという差は感じられず、その時と同じように非常に高い断熱性が感じられました。実際にマットに直接横になってみると、すぐにじんわりとした温もりを感じはじめることができ、熱反射フィルムが体温を反射してくれていることを体感できます。重ねてR値5.8にしたマットよりも単体でR値が6.6あるASP-R7の方がマットのズレなどを気にすることもなく、ストレスを感じずに使用することができました。断熱性にしてもR値が0.8高くなっていることで安心感があります。
断熱性が高く、気温の高い時期にはオーバースペックになるかもしれませんが、その場合はシュラフを少し薄くして調整することもできます。いずれにせよこれ一枚で一年中カバーできる高い断熱性です。
手をおいてみるとじんわりと暖かくなってくる
地面の凹凸を十分に吸収してくれる十分な厚みと快適な寝心地
フィールドにベッドを持ち込んだかのような快適さ
多層構造のエアマットは厚くするほど断熱性が向上し、それはメリットとも言えますが、個人的には厚くなることでエアマット特有のフワフワ感というか、ボヨボヨとした寝心地になり、空気を入れる必要がない折り畳み式のクローズドセルマットレスを愛用してきた筆者にとっては苦手意識が。ASP-R7はMummyサイズで厚さが10cmあり、その厚さが寝心地に与える影響が懸念点でしたが、実際に寝てみるとボヨボヨ感はなく、快適そのものでした。
地面のデコボコをフラットし、快適な寝心地を提供してくれ、さらに表面の構造がエアマット特有のフワフワ感を軽減し、また体との間に空間が生まれる箇所を作ることで体との接地面が蒸れてしまうことを防いでくれているように感じました。10cmの厚さは横向きで寝た時も底着きするようなことはなく、快適でした。
10cmある厚さは地面の凸凹をフラットにしてくれる
足元に向かってややシェイプのかかるMummyサイズですが、足先の先端部はしっかりと足が乗るサイズが確保されているため、寝ていて窮屈さは感じません。
断熱性の高いエアマットは中の断熱フィルムがガサガサと音がするのも寝心地に関わるポイントです。ASP-R7も空気を入れる前の状態で触ってみると断熱フィルムがガサガサと音がしますが、膨らませて寝てみるとガサガサ音はごくわずか。ゼロとは言いませんが気にならないレベルで、寝袋に入った状態ではまったく気になりませんでした。
寝返りのたびにガサガサと音がしてしまうエアマットでは同じテントで寝るパートナーに迷惑をかけてしまう恐れもありますが、ASP-R7なら問題ないでしょう。
Regularサイズの「幅56cm」は絶妙なサイズ感
Mummyサイズの横幅は多くのエアマットが採用している51cmです。これは成人男性が寝た時に腕が落ちるかどうかギリギリのところ。軽量化と寝心地のバランスからギリギリまで幅を削っています。寝る時にもう少し余裕の欲しい人はRegularサイズがおすすめで、Mummyサイズの横幅よりも5cm広い、56cmというサイズが絶妙でした。腕をおろした状態でマットの上にぴったりと収まり、窮屈さを感じないギリギリのサイズと言えるでしょう。足元、頭がシェイプされていない正方形で、フィールドにベッドを持ってきたようなイメージです。
幅が5cm広くなったことで窮屈さがなくなる
3回でパンパンにできるポンプサック
ASP-R7に付属しているポンプサックは大きめで、およそ3回でパンパンに膨らませることができました。広げれば使えるクローズドセルマットと違い、使える状態にするために手間がかかるのがエアマット。ポンプサックを使い何度も空気を入れるのは手間のかかる作業で、時間もかかりますが、3回で膨らませることのできるASP-R7はストレスを感じませんでした。
ナイロン性で滑りやすい
エアマットの表面生地使われる素材には「ナイロン」や「ポリエステル」があります。ナイロンの方が繊維比の強度が高く、軽量化を図れるため、軽量化のニーズの高まる現代ではナイロン性のマットが増えてきており、ASP-R7もナイロン性です。
軽量メリットを持つナイロンですが、摩擦係数が低いため滑りやすいというデメリットを持ち合わせており、傾斜があるフィールドではマットから滑り落ちてしまいやすくなります。ASP-R7も生地の特性上、傾斜がある場所では滑りやすく、何らかの対処が必要でしょう。(おすすめの対処法については記事後半で紹介させてもらいます)
バルブが裏側(地面側)にあるから固さの調節が難しい
気になったところは空気を入れるバルブが裏面(地面側)にあること。バルブが地面側にあることで、寝ていてバルブが気になることはないのがメリットな反面、膨らませる際は裏返しにした状態で空気を入れないといけず、さらに膨らませた後の空気量の調整にも手間がかかります。
断熱性・快適性に対しての携帯性の高さ
500mlペットボトルとの比較。左がMummyサイズ、右がRegularサイズ
ただでさえ装備の重量が重くなりがちな厳冬期の装備。極寒の中へ山行を計画する上では防寒に対する装備を軽量化させることは愚行です。そのため軽量化できる術は少なく、重たい装備を背負うことは宿命とも言えますが、ここでも一石を投じるのがASP-R7です。
マイナス30℃に対応できる断熱性を備え、快適な寝心地を提供してくれるにも関わらず、477g(Mummyサイズ)と軽量で、雪山登山での軽量化を図りたい人にとっても魅力的な仕上がりになっています。ポンプサックや収納袋、リペアパッチを含めても560gなため、断熱性能を考えると軽量、コンパクトで携帯性の高いマットと言えるでしょう。
本体、収納袋、ポンプサック、リペアキットを含めた重量
軽量化と快適さのバランスは相反関係にあることが多く、両方を実現させることは難しいですが、軽量化はそこそこに快適性も犠牲にしたくない人は寝心地が確保された上で584gに抑えられたRegularサイズがいいでしょう(付属品も含めたRegularサイズの総重量は672g)
パンク対策&断熱ブースト!世界最軽量!?わずか42gのクローズドセルマット
全てのエアマットが抱える問題として「パンクのリスク」が付き纏います。マイナス30℃の世界であればパンクは絶対に回避したい問題の一つ。パンクのリスクを抱えたくないためにエアマットを選択しない人すらいるほどです。
エアマットのパンク対策として有効なのがクローズドセルマットとの併用です。地面とエアマットとの間に一枚マットを敷くことでエアマットが傷ついてしまう事によるパンクを防ぐのは有効な手段で、筆者もエアマットを持ち出す際にはクローズドセルマットと併用しています。しかし、2枚のマットを携帯するということは装備の重量が増えるのも事実。パンクのリスクを減らすためには仕方のないことと割り切っていましたが、arataにはクローズドセルマット、 ASP-03もラインナップされており、長さ180cmと全身をカバーするサイズでありながら重量は42g。これは全身をカバーするマットとしてはおそらく世界最軽量のクローズドセルマットといえる重量。
わずか42gの超軽量マット
エアマットに42gプラスすることでパンクのリスクを減らせるなら軽いものではないでしょうか。ASP-03は0.4mmの厚さで、R値が0.45あるため、わずかではありますが断熱性のブーストも担ってくれます。ポリエチレンマットの中でも表面の摩擦係数が大きく設計されており、 ASP-03とエアマットを組み合わせることで滑り止めの効果も発揮してくれ、一台で保護・保温・滑り止めの3役を担ってくれます。
下に敷けばエアマットを保護してくれる
異次元とも呼べるコストパフォーマンス
繰り返しますが、マイナス30℃に対応できる断熱性を備え、快適な寝心地を提供してくれるASP-R7ですが、それだけの高いスペックを誇りながら脅威のコストパフォーマンスを実現させています。
価格高騰でどのブランドのマットも値段が上がりつつある中、ASP-R7はMummyサイズ、Regularサイズ共に2万円でお釣りが来る価格設定。この攻めすぎた値段設定にはやや生産側への心配してしまうほどですが、ユーザーのお財布に優しいのは事実。ありがたく恩恵を受けましょう。
冬季の山に入るための装備を揃えるためには膨大な予算がかかりますから、コストパフォーマンスに優れるASP-R7はこれからマイナス30℃の世界の登山にチャレンジしたいと思っているハイカーにとってもおすすめです。
まとめ:断熱性、快適性、携帯性、コストパフォーマンス全て揃ったオールシーズンエアマット
arataのエアマットASP-R7を紹介しました。
マイナス30℃の極寒の世界で寝る上で寒さを感じないというのは安心感はまさに守護神。横になった時に冷たさを感じるどころかぬくぬくとできる快適なベッドをフィールドに携帯し、1日の体力の回復をさせて翌日に備えましょう!
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Yosuke(ヨウスケ)
不便にならない程度に「できるだけ軽く」をモットーにバックパックひとつで行動する人。
春から秋にかけては山奥のイワナを追いかけて渓流へ釣りに。 地上からは見ることのできない絶景を求めて山を歩き。 焚火に癒されたくてキャンプ。 白銀の山で浮遊感を味わいにスノーボード。
20年以上アウトドアを嗜み、一年中アウトドアを自分流に楽しむフリーランスのライター。数十以上のアウトドア系WEB媒体での記事執筆経験をもとに、自身の経験や使ってみて良かった道具を発信していきます。