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Review:Arc’teryx Bora2 Mid GTX ミッドハイキングブーツ

まったく新しいアプローチがたどり着いた異次元のフィット

品質に対してびた一文妥協しないその姿勢から、近年厚い信頼と注目を集め続けるアークテリクスが今シーズン、ついにフットウェアに進出しました。当然そのニュースは瞬く間にアウトドア業界を駆け巡ります。そして溢れる期待のなか現れたのは、なんとシュータンレスで取り外し可能なライナーと、熱ラミネート構造のシームレスなアッパーシェルによる多重構造トレッキングブーツ。そのビジュアルとコンセプトの斬新さで完全に人々の予想の斜め上をいくあっぱれな孤高っぷりはもはや驚きを通り越して感動すら覚えてしまいます。こうして一気に2015年の注目をかっさらってしまったのがこの Bora2 Mid GTX、ぼくは期待というより(いつものクセで)むしろ懐疑的に眺めていたのですが、試してみたらこれはこれでアリ!見た目だけでは分からない細部にわたる驚きの連続で、10年代を代表するトレッキングブーツとして忘れられないギアとなりました。それでは早速レビューしていきましょう。

詳細レビュー

アイテム名(参考価格)

Arc’teryx(アークテリクス)Bora2 Mid GTX ミッドハイキングブーツ(参考価格:45,360円)


主なスペックと評価

項目 スペック・評価
重量 600g(片足)
素材
  • 通気性に優れた EVA フォームコアを備えた2層のストレッチナイロン monomesh、Stretch GORE-TEX
  • PU 加工のナイロン糸
  • TPU を使用した耐摩耗性に優れたフィルム
防水 GORE-TEX
アッパー 耐久性に優れ、縫い目のない 1 枚のサーマルラミネートアッパー
ライナー 軽量・速乾・取り外し可能な GORE-TEX ミッドライナー
Sole 滑りにくさ、敏捷性、サポート力、耐久性を兼ね備えた Vibram Arc’teryx Hiking アウトソール
バリエーション ライナー取り外し不可のBora ミッド GTX ハイキングブーツ
カラーバリエーション なし
快適性 ★★★★★
グリップ力 ★★★☆☆
安定性 ★★★★☆
耐久性 ★★★★☆
重量 ★★★★★
価格 ★☆☆☆☆
総合点 ★★★★☆

ここがスゴイ!

異次元のフィット感と快適性とを実現したライナー・アッパーの多重構造

何をおいても注目すべき特徴のひとつは、完全取り外し可能、まるでハイエンドのアルパインブーツのような Arc’teryx アダプティブフィットライナーの存在です。まず伸縮性のあるライナーに足を入れると、ソックスを履くのと同じような感触で吸いつくようにすっぽりと足を包み込み、そして次にシェルを装着した瞬間、驚きの感覚に気づかされます。大なり小なり感じるはずの「ブーツ履いている」というあのゴツゴツとした圧迫感は微塵もなく、ブーツと足の間にはソックスを履いている延長線上の、隙間なく均一な感覚が広がっている、これまでに感じたことのないとしたフィット感。例えるならば靴を履くというよりは「靴を着ている」感覚です。このウルトラスーパー快適なフィットによって足の一部分への過剰な負荷を取り除き、靴擦れの危険を最小限にしてくれていることは言うまでもありません。

さらにこの縫い目を最小限に抑え、シュータンをなくしたライナーは軽量で通気性・防水性・伸縮性に富んでいるため、過酷な天候で長時間歩いてもブーツの中がまったく蒸れることはありません。その他、ライナーだけ履いて屋内・キャンプシューズとしても単体で使用できる、濡れても分離して乾かせ、もちろん取り外して洗えるので衛生的、また寒い季節でも使える断熱性のあるバージョンを別売りで交換可能など、伝統的なトレッキングシューズの作り方ではあり得ないさまざまなメリットを提供してくれます。

二重構造のブーツを履くときは、取り外したライナーを履いてから、その足をシェルに入れると履きやすい。

軽快な歩行を可能にするソール

Bora2 Mid GTX のソール(靴底)は決して急峻な岩場をメインフィールドとするアルパインブーツのような硬さはありませんが、かといって穏やかな無舗装路をいくハイキングシューズのように柔軟過ぎることもありません。そう、このブーツが想定しているフィールドは幅広く、フラットな登山道を軽量な装備で駆け抜けるファスト&ライトな山旅から、岩稜帯が続くテクニカルなルートまで地形を選ばず履いていけることを目指しています。一見するとやや中途半端とも思えるこのコンセプトでしたが、関東近郊の低山歩きからアルプス・信州戸隠山のような沢と岩場の連続体を歩いてみて、その懸念は細部に工夫を重ねることによって十分に対応できているように感じました。

具体的には、信頼性の高いソールメーカーであるビブラムがアークテリクスと共同で開発した独自のパターンによるアウトソールはラグ(ソールの突起部分)もしっかりと深く大きく、重荷でも安定性を損ないにくい構造、それでいて適度な粘り(柔らかさ)でグリップ力に富んでいます。

さらに中心部分の“Y” 溝スプリットヒールテクノロジーはブレーキ性能を高め、つま先部分はフラットになっていて、岩場の細かいホールドも摩擦力が効いて捉えやすいようになっています。

そして球状のヒールデザインから滑らかにカーブしたつま先までのライン(下写真)は、特に平地を歩く時にかかとからつま先へのスムーズな体重移動を助けてくれるため、硬く重たいブーツにあるような舗装道路の歩きにくさも思ったほど感じられません。

結びやすく緩みにくいカスタム紐フック

最後は細かいところですが、結びやすく緩みにくい、固定力の非常に高い独自のフック構造。締め上げた靴ひもをきっちりロックできます。

ここがイマイチ

価格

微に入り細にわたって高いクオリティを実現しているのは確かですが、相変わらず手の出しづらい価格は最大のネック。本国ではもとより、ここ日本では円安がさらに悩ましくしてしまっています。

アッパーの剛性・柔軟性のバランス

今回のテストで一番悩ましく感じたのはこの問題。高度に計算された耐久性と柔軟性をもったアッパーですが、逆にその薄さによる剛性・アッパーの曲がりやすさが気になりました。ヒールとつま先以外、とことん省かれた必要最低限のプロテクションには通常の革素材に比べて(実質的には問題にならない程度だととしても)若干の不安が。頑丈なハイキングブーツとして考えるとちょうどいいのですが、軽いアルパインブーツと考えるとちょっと淡泊すぎる印象です。

まとめ:どんな活動におすすめ?

快適な履き心地と地形を選ばない高いグリップ力・安定性で良い靴であることは確かですが、この高コストを考えると、近郊のハイキングや小屋泊まりの軽登山、アプローチシューズとして使うにはオーバースペック気がします。他にもっと安くてちょうどいいブーツはたくさんありますし。一方岩稜帯などのテクニカルなルートを含んだ長い縦走や、ロングトレイルをスピードで駆け抜けるような、軽さと快適さを両立したい場合などではそのオールマイティなサポート・グリップ力が存分に実力を発揮してくれるでしょう。もちろん履く人を選ばないクセのない快適さから、あらゆるレベルの人がどのようなタイプのニーズをもっていたとしても、価格相応の期待には応えてくれるはずです。

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