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“軽くて当たり前”のその先へ——”軽いのに広い、だけじゃない” 細部に神が宿りまくったBig Agnes「コッパースプールUL1」テントが示した快適さの新基準【実践レビュー】

ここ最近、Outdoor Gearzineでテント泊イベントをすることが多いのですが、その時に参加者の皆さんに「どんなテントが欲しい?」か聞いてみると、意外なほど「軽い」よりも先に「広い(正確に言うと「広くて軽い」)」という意見を上げる人が多いのに驚きます。

もちろん深く聞いていくと、みな「軽さも」重要だとは言うのですが、ただその言葉の裏には明らかに「軽いのは当たり前」という暗黙の了解が隠れており、21世紀になってテント他すべての山道具の軽量化がどんどん進んだことによって、人々の欲求はかつてのように「とにかく軽く!」から、今や軽さよりも居住空間の「快適さ」が最も気になる時代へと移り変わっていることにあらためて気づかされるわけです。登山は昔のような「冒険」や「アドベンチャー」というよりも、数ある旅のバリエーションのひとつとして、人々の日常の延長に。ここ数年世界でリリースさせる新作アウトドア向けテントがことごとく「軽さの一点突破」ではなく「快適性と軽さのバランス」を重視したモデルなのは、まさにその流れの表れでもあります。

この大きな流れのなかで、当サイトが今シーズン最も注目しているバックパッキング向けテントが、2008年の登場以来長年にわたって北米市場で絶大な人気を博してきたBig Agnes「コッパースプールUL1」の新作です。軽量性を意識しながらも居住性や立てやすさ、使いやすさを決して犠牲にしたくないというハイカー・登山者のために開発されたこの山岳テントは、今シーズンまた新たに生まれ変わりました。さっそく今シーズンさまざまな山行で実際に試してみることができたので、レビューしていきたいと思います。

Big Agnes「コッパースプールUL1」の主な特徴

Big Agnes「コッパースプールUL1」は、ハイカーや登山愛好家なら誰しもが直面するテント選びのジレンマ「狭いけど軽い」を選ぶか、それとも「重いけど快適」を選ぶかという難問を解決する、携行時の軽さと使用時の快適性を両立した自立式ダブルウォール型山岳向けテント。独自のハブ構造とサブポールを組み合わせたデザインによってほぼ垂直に立ち上がった壁面が広大な上部空間を確保。小物の整理やランタンスペースとして非常に便利なユニークな大型3Dメッシュポケットなどの室内収納によって、その軽さからは想像できないほど広くて快適な居住空間を提供します。さらには標準以上の広さを備えた前室、トレッキングポールを使用した独自のユニークなオーニング(ひさし)システムによって、広々とした調理スペースや、雨天時でも景色を楽みながら過ごせるなど、このテントでしか味わえない居住快適性を備えています。

さらに今シーズンのアップデートでは新開発の独自素材「HyperBead™ファブリック」を採用し、従来モデルと比較して軽くなったにもかかわらず、防水性と強度が向上するなど大幅な性能向上を実現。他にも結露を防ぐ高い通気性や、設営・撤収のしやすさなど、ユーザー目線での実用性と快適さが細部まで突き詰められ、軽さを犠牲にすることなく、最大限に快適性や居住性を追求したい今どきのハイカーにピッタリ。

お気に入りポイント

気になったポイント

主なスペックと評価

アイテム名 Big Agnes コッパースプールUL1
就寝人数 1名
最小重量 911 g(インナー、フライ、ポール)
総重量 1090 g(インナー、フライ、ポール、ガイライン、スタッフサック、ペグ11本)
フライ素材 HyperBead™、15Dリサイクル・リップストップナイロン。耐水圧1500mmの防水コーティング(PFASフリー)
本体・フロア素材
  • 本体:15Dリサイクル・リップストップナイロンと20Dソリューションダイ・リップストップ。15Dポリエステル・メッシュ
  • フロア:HyperBead™、15Dリサイクル・リップストップナイロン。耐水圧1500mmの防水コーティング(PFASフリー)
ポール素材 DACフェザーライトNFLとNSL
室内サイズ 長さ2.24 m × 幅0.71 – 0.97 m × 高さ0.97 m
出入り口の数 長辺に1
収納サイズ Φ11×45cm
フロア面積 1.9 ㎡
前室面積 0.8 ㎡
Outdoor Gearzine評価
居住快適性 ★★★★★★
設営・撤収の容易さ ★★★★☆
耐候性 ★★★★☆
耐久性 ★★★☆☆
重量 ★★★★☆
携帯性 ★★★★☆
汎用性 ★★★★★

詳細レビュー

自立式テントとしてはトップクラスの軽さなのに、驚くほど広くて快適な住み心地

新しく届いたコッパースプールUL1 を紐解くと、まずはその丁寧でユーザー本位の収納のスマートさに惚れるはずです。パッケージ内にはインナーテントとフライ、ポール(リペアポール含む)、ガイライン、ペグ11本が、大きな出し入れ口のEZ Packスタッフサック収納袋に入っています(下写真)。

これらをスタッフサックの中にパッキングすると、一見「なんか収納サイズ大きくない?」とマイナスに思う人がいるかもしれませんが(下写真)、実際にはこれでいい、いや「これがいい」のです。

山でテントを使ったことがある人ならば、こうして大きな出し入れ口で余裕のある大きめのスタッフサックであることがどれほど設営・撤収作業を楽にしてくれるかということを知っているはず。昔ながらのぎゅうぎゅうに押し込んでギリギリ入るサイズの円柱状スタッフサックの場合、確かに見た目は小さくなりますがちょっと水を含んでいたり、汚れていたりすると袋に詰めるのが大変だったりして、パッキングの手間が大きく違います。さらにはパッキングした袋が大きくて柔らかい状態の方が、バックパックに詰めた時に隙間にもしっくりと埋めやすい(もちろん小さく畳む圧縮クロージャー機能も付いています)。神は細部に宿るではないですが、真に優れた道具は、えてしてこうした細かい部分にまで配慮が行き届いているものです。

これらすべての部品を合わせた総重量は1090g。最小重量(テント・フライ・ポールのみ)だと911g。この重量は、日本の代表的なテントであるmont-bell ステラリッジ が最小重量1140gなので、それと比べても200グラム以上軽い。またここ最近最軽量の部類に入るゼインアーツ ヤール1 の860gと比べてもわずか50gしか差がないことを考えると、自立式ダブルウォールテントの中でもトップクラスに軽量であることは明らかです。

なお、もちろん超軽量スタイルを突き詰めたシングルウォールのトレッキングポールシェルターだったら500g台もザラですが、それらとはコンセプトが根本的に異なり、(これから説明する)居住快適性や機能面が天と地ほど違うため、同列で比較するものではないということは念のため書き添えておきます。

このテントでしか味わえない異次元の快適空間

このトップクラスの軽さを維持した1人用のテントと聞くと、たいていの場合、顔の近くまで壁が迫ってくるような狭くて窮屈な空間を想像するかもしません。ところがこのCopper Spur UL1 は、その重量からは想像もつかないほどの快適な居住空間を実現しており、それこそが他のテントには決して真似することのできない最大の強みといって間違いありません。その秘密は独自のポール構造にあります(下写真)。

プレベント・ポールとアングルハブによる、最小限の重量で最大限の居住空間を生み出す巧みなポール構造。

テントポールのトップメーカーであるDAC社と古くから深くかかわってきたBig Agnes は、このテントをデザインするにあたって同社のファウンダーであり伝説的設計者、ジェイク・ラー氏と共同で独自のハブ付きポール構造を開発しました。

従来の自立式テントであれば2本のポールを交差させる構造が一般的ですが、このテントでは複数のポールを要所で接続するハブ構造によって、四方の側壁を地面からほぼ垂直に立ち上げることができます。内部の高さは97cm あって頭がつっかえることもありません。これによって肩から上の上部空間に広大な空間を生み出し、従来のドーム型テントで感じられる顔付近の圧迫感が大幅に軽減され、フロア面積の数値以上に室内が広く感じられました。しかもこのポール構造によって重量を最小化することにまで貢献しているのだからニクイ。

テントの端の壁もほぼ垂直に立ち上がるため、広々としているだけでなく、就寝時でも寝袋がたるんだ壁に触れることもなくなる。

テントの横幅は1m近くで一般的なソロテントと同じくらい。なのに体感的な広さはほぼコンパクトな2人用テントとほとんど変わらない。

ちなみに今回は試すことができませんでしたが、このテントは暖かく天気が良い日にはインナーテントを省略し、フライシートとフットプリント(別売)のみで設営する「Fast Fly」モードが可能です(下写真)。その場合は重量はわずか737gにまで削減可能。ユーザーは旅の目的やコンディションに応じて、このテント一つでかなりの範囲まで、快適性と重量のバランスを自ら調整することができるわけです。

ただ注意しなければならないのは、テントの側壁が垂直になればなるほど、逆に風を受け流すのは難しくなってくること。もちろんこのテントでもその点はある程度考慮され、側壁が立っているとはいえそもそも安定感のたかいドーム型で、ハブ付きポール構造は柔軟性があり、フライシートにも角度がついているし、固定力を高めるガイラインも付属しているため、風に対して特に弱いというわけではありません。一般的な3シーズンの登山では問題なく耐えられそうですが、バリエーションルートや冬季縦走など、ガチのアルパイン、ガチの冬山にまで安心して持ち出せるほどの強さは想定されていないという点は留意しておく必要があるでしょう。

工夫を凝らした便利な内部収納

メッシュインナーの足元方向の天井に目をやると、そこにはこれまでどんな山岳テントでも見たことのない、特大の「3Dビンポケット」と呼ばれるくさび型の収納袋(というよりもほとんど棚)が備わっています(下写真)。

ここにはスマホはもちろん、ヘッドランプにサングラス、ライター、タオルなどを何も考えず放り込んでおくことができますし、ここにヘッドランプを置いてランタン代わりにもできる。はたまた濡れた衣類を乾かすなんてこともできてしまいます。ここまで便利な収納が標準で配置されている例はこれまで見たことがなく、他のテントの小さなポケットとは便利さがまったく異次元です。

ちなみにこの反対側には別の小さなメッシュポケットが二つ(下写真)。これだけあれば室内収納で不満が出ることはまずないでしょう。

オーニングスタイルで快適にくつろぐこともできる広々とした前室

このテントの他にはない圧倒的な居住快適性は、これだけにとどまりません。もうひとつ、Copper Spur UL1 の革新的な機能が「オーニング(日よけ)スタイルの前室」です。

出入りしやすい長辺側に取りつけられた大きな出入口の脇には、広い前室が右に確保されており、バックパックや汚れた登山靴を雨から守るのに十分なスペースを提供しています(下写真)。

さらにドア正面には2つのジッパーがあり、トレッキングポール(別売り)を使ってフライの先端を跳ね上げることで、入り口前空間をなんとオーニング(ひさし)付きのポーチとして展開することができます(下写真)。

これにより日差しや雨を避けながら快適に調理等をすることができるだけでなく、出入り口を広々と開放してリラックスするための日陰も提供してくれたりと使い方はさまざま。便利でありなおかつ旅の楽しみ方を拡張してくれる、これまでにない気の利いた機能に思わず感心してしまいました。だって山岳テントでこんなユニークな機能、誰がどうやって思いつけます?

こういう遊び心は個人的にも大歓迎。しかもこの機能、単なる遊び心であるだけでなく、荷物置き場でしかなかった前室をテントの居住空間にまで拡張したという意味では意外と馬鹿にならない「画期的な構造」といえるのではないでしょうか。

トレッキングポールを使わなかった場合には、前室のドアを完全に巻き上げて開放的なメッシュにすることも可能。

前室とドアはトグルによってここまで開放することができる。インナードアは巻き上げることなく素早く固定できるドアキーパーも付いており、出入りのわずらわしさにも細かい配慮がなされている。

通気性・換気性も問題なし

どんなテントであれ結露をゼロにすることは難しく、結露問題はハイカーにとって悩ましい問題です。Copper Spur UL1 はダブルウォール式であり、インナーテントも上部がメッシュ構造であることから基本的に結露には強い構造ではあります。ただそれに加えて効果的な換気システムが備わっていることも、このテントが結露に対しての安心につながっています。

例えばフライシートの頭上側には、つっかえ棒で開いた状態を維持できるベルクロ式の大型換気口が設けられているため、雨が降っているときでも常に良好な換気が可能です(下写真)。またレインフライのジッパーは上下どちらからでも開閉できるため、上部を開けて暖気を逃がすこともできます。これらが積み重なって、テストでは湿度の高い状況でも結露の発生に関して不快な思いをしたり、心配することはありませんでした。

屋根付きの大きな換気口は、雨などによる生地の重みで口が塞がったりせず、常に抜群の通気性を提供。

設営と撤収:誰でも簡単な設営を追求したきめ細かい機能

Copper Spur UL1が長年全米で愛され続けてきた理由は、軽さと快適さだけではありません。初心者でも安心して使いこなせるようによく考え抜かれた数多くのスマートな機能もその理由の一つ。例えばテントの四隅に配置された、ペグダウンのポイントとポールの固定、フライシートの取り付けという3つの機能を一つのパーツに統合した「TipLok Tent Buckle™」(下写真)や、同じ色同士を合わせるだけで正しい設営が直感的に可能な色分けされたポール&クリップシステムなど、初心者のことを考えた優しさによって細部まで丁寧に作り込まれています。

ペグダウンのポイントとポールの固定、フライシートの取り付けという3つの機能を一つのパーツに統合した「TipLok Tent Buckle™」。ポールの色とこのパーツの色は同じグレー同士で、接続する種類を間違えにくいようになっている。

こうした配慮に加えて、地面を選ばず場合によってはペグも不要で立てられる自立式・釣り下げフック式構造によって、Copper Spur UL1 の設営はいたってシンプルで、疲れ切ったハイキングの後でもストレスなく素早い設営が可能となっていました(下写真)。

設営は①四隅をペグで留め、②ポールをセットし、③インナーテントのフックを吊り下げて固定し、④レインフライを被せ、⑤ポールとフライをベルクロ留めし、⑥最後に残った場所をペグダウンすれば完了。

耐候性:より防水性が向上し、なおかつより軽くより強くなってさらに万全に

どれだけ軽くて快適で使いやすくても、厳しいアウトドアの環境に耐えられる強さがなければ安心して使えません。最後にチェックするのは、このテントの雨や風に対する強さに関して。この点で注目すべきは、2025年のアップデートで採用された独自開発の新素材「HyperBead™」によって、このテントの性能は大幅に向上したという事実です。

インナーテントの底部とフライシートに採用されたこのファブリックは、より環境負荷の少ない素材で従来モデルの生地より約6%軽量化されたにもかかわらず、防水性能が約25%向上し、強度も約50%向上しています。しかも驚くことに、この生地に施されたPFASフリーの撥水剤は経年劣化せず、つまり高い撥水性を再撥水加工を追加する必要がないと公式にアナウンスされています。さすがに耐久テストをすることはできませんでしたが、確かに撥水性の高さに関しては目を見張るものがありました(下写真)。もちろん、縫い目はすべてシームテープで処理されています。

ただファブリック自体の耐水圧は1500mmと若干低いのがやや気になりますが、それでも実際にはこの高い撥水性と急勾配の側壁、濡れてもたるみにくい生地の特性によって雨は常にフライに溜まることなく流れ落ちていくため、フィールドテストではこのスペック以上に浸水を防いでくれていました。

まとめ:こんなテントを待っていた。3シーズンテントで、軽さも快適さも使いやすさもすべてを諦めたくない人の終着駅

Big Agnes Copper Spur UL が他のテントよりも抜きんでて優れている点は、決して何か突出した要素があるからではありません。トップクラスの軽量性、誰でも簡単な設営しやすさ、先進的なポール構造や収納システムによる広々とした居住空間、そして今シーズンモデルから採用された最新の高撥水力のHyperBead™ファブリック、さらには使いやすさを追求した数々のユニークな独自機能など、これら全ての要素が完璧に組み合わさった他に類を見ない完成度の高さにあります。

もちろんこれまで存在していた従来の山岳用の自立式ドーム型テントに比べてすべての面で優れているというわけではありません。より厳しい環境でハードな登山を志向するならばこのテントよりも最適な選択肢はあるでしょう。ただそれ以外の、無雪期の低山ハイキングからロングトレイル、そして数泊までのアルプス縦走などを愉しむといった、現代の多くのハイカーや登山愛好家にとっては、快適性や居住性、耐候性を犠牲にすることなく抜群の軽さを実現したという意味では、他の追随を許さない最適な選択肢であるといえます。為替の影響で決して手に取りやすい価格とは言えませんが、品質の高さと唯一無二の優れたパフォーマンスはそれだけの価値はあります。

快適なテント体験を最優先し、軽さと快適さの完璧なバランスを求めるハイカーの皆さんはぜひチェックしてみてください。

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