焚き火の味を沢登りから知った自分にとって、焚き火といえば河原の横で石を組んでやる、いわゆる直火が当たり前でした。そんな自分にとっては、いくらキャンプ場で必要だったとしても、そしてそれがいくら頑丈で、安定している「いい道具」であったとしても、焚き火台というものに正直抵抗がないわけではありませんでした。炎と自分との間を隔てるものは少なければ少ない方が良い。
だから焚き火台はしっかりと仕事をしてくれるけど、できることなら、どこまでも主張の少ない脇役であって欲しい、そんな欲張りな希望を薄っすらと抱えていた自分にとって、この「MAAGZ RAPCA」はまさにうってつけでした。
ものづくりの街、東京は八王子発のガレージメーカーが開発したというその焚き火台は、およそ焚き火台とは思えないくらい削ぎ落とされたシンプルな構造。驚くほど軽量で、最小限のパーツで組み立てられていながら、それでいて美しい佇まい。
クラウドファンディングでは700万以上の支援金額を達成したといいます。確かに見た目でつい「欲しい」となる気持ち、分かります。ただ、これまでシンプルで軽量な焚き火台もいくつか使ってみたことがありますが、見た目は素晴らしいけど火力に負けてしまう繊細な作りだったりと、使ってみてがっかりすることも無くはなかったので、その辺も気になるところ。
ありがたいことにメーカーから声をかけていただき、この焚き火台を使わせて貰う機会を得ました。自粛期間によって試す機会を大分逸してしまっていましたが、6月のとある日曜日、こちらを携えて河原バーベキューに繰り出してみましたので、早速そこで試してみたレビューをお伝えします。
目次
MAAGZ RAPCAのお気に入りポイント
- 驚くほどの軽量さ。
- コンパクトに収納でき、持ち運びも楽々。
- シンプルな構造なので、組み立ても簡単。
- 大きさはソロからデュオ、大人数でなければグループやファミリーでも使えるちょうどよいサイズ感。
- スムーズな通気が意識された開放的な構造(故に風の強い環境では注意が必要)
- ミニマルなパーツにもかかわらず、大きな火力でもしっかりと耐えられる堅牢性。
- シンプルながら十分かつ多彩な使い方ができるゴトク。
- 今後販売予定の様々なオプションパーツや、市販の部品などを組み合わせることもできる拡張性の高さ。
- 終わったときの後片付けや手入れもストレスなく、しかも全パーツ分解できるクリーンな構造。
河原バーベキューで試してみた
スタイリッシュな収納ケースに収まる驚くほど軽量・コンパクトなパーツ
早速、届いた「RAPCA」を紐解いていきましょう。見た目がシャレオツなのは知っていましたが、収納袋もまぁクールです(下写真)。丈夫な黒いキャンバス地の、まるで書類袋のような40cm四方の薄いケースにすべてのパーツが収納されています。ゴトクを含めてもその重さはなんと約1,800g(ケース重量約130g除く)。一般的なグループ用サイズの焚き火台は3kg前後は当たり前ですから、その軽さは明らかです。
世の中に焚き火台は山ほどありますが、グループでも使えるサイズでここまでコンパクトに収納・持ち運びできるモデルはなかなか見当たらないのではないでしょうか。
袋から部品を出して並べてみました(下写真。左上のゴトクのみ、通常セットには含まれていません)。ベースフレームとプレート、ゴトクはすべて分解でき、重ねて薄く収納することができます。
組み立てはいたって簡単
シンプルなパーツでも組み立てが複雑ならばメリットは半減。組み立てやすさはどうなのかチェックするべく、実際に組み立ててみます。
まずはベースとなるフレームの組立て。緩くカーブしたジョイントブリッジの両端にフレームを差し込みます。特段差し込みにくいなどはなくいたってスムーズ、差し込む場所もまず迷うことはないでしょう(下写真)。
下のジョイントとベースのフレームが接続されると、下写真のようにそれだけでもう自立します。
フレームがセットできたら、次は灰受けをセットします。灰受けは2枚の薄いパネルを接続して(下写真)、
フレームの上にしっかりと載せるだけ。これもほぼ迷うことはありません(下写真)。
最後に、灰受けの上にロストルをセットします(下写真)。
さすがに焚き火台というものが何なのか見たこともない人にとっては簡単ではないかもしれませんが、そうではない、人と違うイケてる焚き火台が欲しいと思うような人にとっては特にこれといって注意をする必要がないくらい、いたって簡単な手順でセットできます。
ゴトクを載せてみたところ。ゴトクは両端がカギ状になっている極々シンプルな棒で、フレームの両端に渡された梁に引っ掛ける仕組み。梁の高さは3段階あり、どこに置いても自由。一応溝が入っていてズレにくい部分もあります(下写真)。
考えられたエアフロー設計で着火も想像以上にスムーズ
組み立て方が分かったところで、河原のキャンプ場にもっていき実際に焚き火をしてみました。
大きさはソロからデュオ、大人数でなければグループやファミリーでも使えるサイズ感です。とりあえず乾いた枝を集めてきて、着火。焚き火の仕方に関しても、通常の焚き火台と変わりません。
思った以上にめちゃくちゃスムーズに種火ができました。このときあらためて気づいたのですが、この焚き火台、非常に通気性に長けた構造になっています。
まず四方が囲まれていない。そして薪の下部は灰受けとロストルの間に一定方向の風が通る様になっており、そこからロストルの隙間を通って空気がしっかり抜けるようになっています。このため、カラカラに乾いた薪だったこともありますが、予想以上に簡単に大きな薪まで火が移ってくれて、安定した焚き火になりました。もちろん人力で風を送ったり、火吹き棒的なものなどはまったく使わずにです。
ただ、この「空気の流れを最大限に活かせる」という特性は、裏を返せば「風の影響を受けやすい」と言えなくもありません。
通気が良いのはうれしい反面、薪は常にあまりにも「よく燃えて」くれるため、太い木の火床でじっくりと安定した火を長く燃やすといった燃やし方が、普段の感覚と比べてやや難しかった印象です。この辺はそこまでいろいろな薪で試したわけではありませんのであくまでも印象ですが。また、当日風が強くなる時間帯が一瞬あり、その時は油断もあって火の粉がまとまって飛んできて、ハッとしたりもしました。焚き火をする上で当然の配慮といえばそれまでですが、他の焚き火台と比べてより風の影響を受けやすいということを考慮しておく必要はありそうです。
※公式通販サイトを見ると、メーカーもその辺は認識しているようで、風の影響を減らして燃焼を安定させられる専用ウィンドスクリーンを現在開発中のようです。これは超期待。
とことんシンプルだからこそ可能な拡張性の高さ
さて、この焚き火台の素晴らしさはデザインや着火のしやすさだけでにとどまりません。鍋やアミを置く場合際にセットするゴトクは、たった2本の棒を溝に掛けるだけというシンプルさ。さらに3段階ある高さのどの位置に置いてもよいという自由度の高さ。もちろん、標準パーツであるこれらのゴトク以外に、メーカーからは、まだ開発中のものもありますが、鉄板や焼き網、コンロなどオプションパーツを付け足すことによって、自分の好みにカスタマイズすることが可能です。
そうしたオプションパーツも用意する一方で、このシンプルさゆえに、アミだろうが鉄板だろうが、純正以外のさまざまなメーカーのゴトクが工夫次第で何となく使えてしまうところは、個人的にかなりうれしい。例えば下の写真はホームセンターで買った網。
いつも使っていたスノーピークのグリルプレートハーフ 深型もこのとおり(下写真)。1番上は幅的に足りませんでしたが、3段目ならば安定して置けました。
同じくスノーピークの焚火台Mサイズ用の「焼アミ Pro.M」も普通に使えました。下の写真は焼きアミを置きつつ、最上段にはゴトクを置いて、その上に鍋やフライパンを置くことも可能。要は臨機応変に、自分がもっている道具の範囲でさまざまな工夫ができるということ。素晴らしい。
この日は焼きアミを置いてバーベキューを愉しみつつ、その上にはトライポッドを立ててダッチオーブン料理を同時並行で作るなんて手の込んだ使い方もしてみました。少ないパーツにもかかわらず、あれこれこちらの工夫次第で多様なスタイルに応えてくれます。
残った灰の始末は、灰受けだけをそのまま回収場所まで持っていけます。
パーツはすべて分解できるので、気持ちよく隅々まで洗うことができます。連結部分などが切り離せないとどうしてもそこに汚れや破損などがあり得ますので、ここも地味ですが大きな満足ポイントです。焚き火だけでも十分に使いやすいものでしたが、使い終わった後始末までもがストレスなくスムーズときて、これは本当に良いものだと感心しました。やはり細部まで考えて作られた道具はどこまでも気持ちいい。
まとめ:普段のキャンプよりもっと焚き火の醍醐味を味わわせてくれる、ルックスと使い勝手抜群の一台。
どこまでも軽量・コンパクトなのに、使い勝手も抜群で、さまざまな道具と組み合わせられる柔軟性と拡張性を持ち合わせている。シンプルでミニマルなMAAGZ RAPCAがまとっている洗練された美しさは、決して見た目だけ着飾ろうとしたわけではなく、わかりやすさ、使いやすさといった機能性を突き詰めていった結果として生まれたものであることが十分に堪能できました。とことんミニマルであるがゆえに耐風性に関してなどズブの初心者にとってはそのまま使うには多少の注意が必要な面もありましたが、それらはオプションの補助パーツを推奨することで今後フォローされていくと思われます。
決して主張してこないその控えめな姿は大自然の中に溶け込み、直火と同じとはいかないまでも、いつもより自然と自分を炎に集中させてくれます。それでいて、その研ぎ澄まされた美しさと使いやすさによって、ソロからデュオ、小グループまで、これからのキャンプやツーリングで欠かせない存在となってくれるでしょう。