登山装備のなかで、何はともあれこれがなければはじまらないと言えるのが靴。特にスルーハイクや本格縦走など距離が長く、荷物が大きくなればなるほどその重要性は増してきます。
その登山靴、昔はとにかく大きな荷重や衝撃に耐えられるようにと堅固で重厚な革張り登山靴が主流でしたが、そんなクラシックなブーツを山で見ることはもうめっきり少なくなりました。近年では重荷での本格的な縦走用にもかかわらず、ランニングシューズのような軽快さを備えたトレッキングブーツがそれらに取って代わりつつあります。
そんなハイテク登山靴の最先端に位置するモデルのひとつが、MAMMUTから2年前に初登場したDucan Knit High GTXでした。ハイキングシューズの快適さと歩きやすさ、そしてトレッキングブーツの安定性と耐久性を兼ね備えた衝撃的な1足で、その年の個人的Gear Of the Yearに文句なしで選んだことを今でも覚えています。
今シーズンその後継として位置づけられる最新テクニカルハイキングシューズ、MAMMUT Ducan BOA® High GTXが発売されました。前モデルまでの遺産を引き継ぎながら、それをさらにアクティブな方向へ進化させた、現代のマウンテンシューズ・トレンドの最先端をいくブーツといえます(ちなみに2021年の欧州最大のアウトドア道具見本市「ISPO」でもAwardを受賞)。
Outdoor Gearzineとしてはもちろん速攻で入手しここ数カ月履きつぶしているのですが、結論だけ先に言ってしまうと「走れる!背負える!」と想像の上をいくパフォーマンスにヤバさしかありませんでした。
この夏じっくり履いてみて分かったこのブーツの魅力と気になる点を、前モデルとの比較など交えながら見ていきたいと思います。
目次
MAMMUT Ducan BOA® High GTXの主な特徴
MAMMUT Ducan BOA® High GTXは動きや姿勢に合わせて身体に最適に追随する立体的なパターン設計と適度な伸縮の3Dニット素材、そして新たに「BOA®シューレーシングシステム」を組み合わせることによって、これまでになく優れたフィット感と快適な履き心地を可能にしたテクニカルハイキングシューズ。前モデルからある独自開発のミッドソール「Flextronテクノロジー」は、足の自然な動きをサポートしながら疲労を軽減しつつさらに安定した着地と踏み込みを可能に。アウトソールには確実なグリップと泥抜けのよさを両立したVibram®Flextronアウトソールを採用。最新技術とスタイリッシュなデザインが融合し、ファストパッキングやスピードハイク、トレッキングなど、アクティブでこのスポーティなマウンテンアクティビティに最適な次世代型トレッキングブーツです。
ここが◎
- 極上のフィット感
- しっかりとしたプロテクションなのに軽量で動きやすく、軽快
- MAMMUT Flextron Technology™による歩きやすさと疲れにくさの両立
- ビブラムソールと計算されたラグ形状による高いグリップ力
- くるぶし上までブーツが密着することによる高い防水性
ここが気になる
- 歩きやすい反面、アルパインブーツとして使うにはシャンクがそこまで固くはない
- 前モデルに比べて足首の可動性は向上した一方、足首のサポート力は前モデルほど高くない(重荷での縦走には注意)
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
重量(実測) | 521g (8.5UK) |
アッパー生地 | MAMMUT® Georganic 3D Technology/3D Knitted Textile |
ミッドソール | MAMMUT® Flextron Technology™ |
アウトソール | Vibram® Flextronアウトソール |
シューレース | 特許取得のBOA® Fit System |
防水 | GORE-TEX® |
快適性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★★☆ |
グリップ | ★★★★☆ |
プロテクション | ★★★★☆ |
安定性 | ★★★★☆ |
総合点 | ★★★★★ |
詳細レビュー
見た目では想像もつかないほどの軽さ!
まずこのブーツで何よりも驚くのは手に取ってみた時のその軽さ。パッと見た目には、普通にハイカットの登山靴だし、ミッドソールも厚めだし、周囲も補強されてるしで、持ったらそこそこズシリとくる程度の重さを想像するじゃないですか。でもこれが拍子抜けするほど軽い。友人たちにこの靴を持たせたときもたいてい「お、軽!」となります。
測ってみたらUK8.5サイズでなんと521g(下写真右)。一般的に500グラムといえば、今どきのミドルカットの軽量ハイキングブーツといってもギリギリOKなくらいの軽さですから、これだけごついにもかかわらずこの重量は素直にあっぱれです。ちなみに前モデルも測ってみましたが(下写真左)やはり600g近くあり(これでも相当軽いですが)、10%以上軽くなったと考えるとこの変化は無視できません。
大幅に変化した外観は、機能性とデザイン性を両立
見た目も大きく変わりました。従来のシューレースからBOA®になっただけでなく、足の甲にあたるシューレース(ワイヤー)部分が伸縮生地で覆われたデザインに変更されています。好みは当然あると思いますが、クリーンで未来感満点のデザインはこの靴のコンセプトにピッタリで、個人的には嫌いじゃない。※ちなみに今回はあえて「ホワイト」色を選択してみましたが、多少汚れにくいもののやはり登山靴で白はキツいので黒がおすすめ。普段履きなら見た目はかっこいいんだけどね。
もちろんデザイン性だけでなく、足の甲の保護性も向上し、ワイヤー部分を保護することで引っ掛かりも防げたりと機能面でも理にかなっているといえます。
靴を「履く」という感覚を忘れさせるほどの、極上のフィット感と快適な履き心地
見た目やスペック的な部分の次は、実際に履いて歩いてみたインプレッション(=このブーツの魅力の核心部分)へと進めていきましょう。
前作からそうでしたが、このブーツ第一の特徴としては甲部分からシュータン~足首全体にかけてをストレッチ性のニット地で覆うようなアッパー構造が採用されていること(下写真)。
ニット地の特徴は当然のことながら「しなやかさ」と「伸縮性」にあります。柔らかいニット地で作られたシューズの場合、靴紐だけでなく生地自体によっても足に密着してくれるため、足全体は適度な圧力によって包み込まれるような心地よさを与えてくれます。
そして今回、シューレースに代わってBOA®によるフィッティングシステムが搭載されたことによって、その包み込むような極上フィット感はさらに爆上がりしました。
手袋をしていても容易に操作可能なダイヤルをクルクル回すと足全体が均等な圧力で締められていくのが感じられます。
ワイヤーが繋がっているアッパー素材部分も柔らかく、締め上げたことによる密着感はこれまでさまざまな登山靴を履いてきた自分でも味わったことのないものです。
足首からつま先にかけて、まるでソックスを履いているかのように密着してくれる、異次元の心地よさは、思わず自分は靴を履いているということを忘れてしまうほど。極端にいえば履いているというよりも「着ている」という感覚に近い。
もちろん、この絶妙なフィットはニット地とBOAを使えば誰でもできるというわけではなく、マムート独自の人間工学に基づいた立体的なラストや、「Georganic 3D」と呼ばれる姿勢や動きまで計算されたパターニング技術などが前提にあってのことであることも忘れてはいけません。
ちなみにこのニット地までGORE-TEXの防水透湿仕様となっているため、小石などが入りにくいだけでなく、かなり高い位置まで防水が保てるので、沢の渡渉の多いルートでも安心というわけです(下写真)。
独自開発ミッドソールは軽いのに安定感抜群!
ミッドソールは前モデルで初搭載された、独自開発のFlextron Technologyを中心に、ほぼ同じ作りが踏襲されています。詳細は前モデルのレビューで書いているのでここでは省きますが、Flextron Technologyの搭載されたこのブーツは、軽量ハイキングブーツのように柔軟で軽快な足運びを提供しながら、左右のブレやねじれなどを極力抑える着地時の衝撃吸収や安定感までも同時に感じさせてくれます。
加えて前作では足首の上まで締め上げられていたシューレース部分がBOA®の採用によってくるぶしの高さくらいまでになったことで、足首の可動性も向上。前述の通りより軽量化されたことも含めて全体として格段に歩きやすく、そして走りやすくなりました。その乗り味はトレッキングブーツというよりもハイキングシューズに近いと言っていいくらいです。
立体設計のラスト(足型)によってかかとのホールド感も良好。靴の中でかかとが浮きにくく、安定感・適度なクッション性が疲れをどこまでも軽減してくれます。
十分なプロテクションとグリップによる安心感も相変わらず健在
アッパーの周りを覆うプロテクションは、材質の変更に伴ってより軽量化したものに変わっています。それでも基本的な耐久性は十分。日本中の登山道を心配なく歩けます。アウトソールも前作と同じビブラム製、マムートオリジナルのFlextronアウトソールを採用。一通り悪路も含めて歩いてみましたが、苔むした岩や木の根、濡れたツルツルの岩を除けばほぼすべての地形で滑りやすいと感じることはありませんでした。
まとめ:こんな人におすすめ
感動モノだった2年前の初代モデルからさらに並外れたフィット感を手に入れ、より軽快で歩きやすくなった最新Ducan BOA® High GTXは、高いハードルの期待を越え前作とはまた違った感動をもたらしてくれました。よりスポーティになった最近のマウンテンアクティビティに最適化され、ライトなハイキングからスピードハイク、ファストパッキング、アプローチ、岩場などのテクニカルな地形のトレッキングまで、幅広い山歩きに活躍してくれる、「今履きたい」ハイキングブーツです。
念のため気をつけておくことがあるとすれば、前モデルDucan Knit High GTXでも指摘したようにこのブーツはあくまでもテクニカルな「ハイキングシューズ」として作られており、岩場や重荷の長期縦走を想定したアルパインブーツなどに比べるとヤワな作りであることは留意しておいてください。自重がその限界を超えてしまうと、脚力のない人にとっては着地のブレや疲れやすさが感じられてしまうかもしれません。その傾向は前モデルよりも強くなっています。ニュアンスとしては「軽快な登山靴」であった前モデルから、新モデルになって「快適・安定のハイキングブーツ」へと微妙にアジャストされたといえば、分かっていただけるでしょうか。
とにかく、アウトドアシューズにおける最先端のフィッティング技術と安全性を装備したいと思った方は、ぜひともこのブーツをチェックしてみてください。それでは安全で、よい旅を。