Review:MAMMUT Ducan Spine 28-35 ブレなし、ムレなし、如才なし。ファストパッキングが安心して楽しめるバックパック
トレイルランニングのように軽快に、そして縦走登山のように泊まり前提のロングコースを歩きたいという欲望を共に満たしてくれる「ファストパッキング」は、あらためていうまでもなくここ数年で一気に普及した登山スタイルでしょう。
その人気の広がりを支える大きな要因のひとつは、もちろんテクノロジーの進化と、それに適した道具の普及です。軽量かつ高機能な道具の登場は、良し悪しは別にして、これまで健脚だけに許されたアクティビティの門戸をより多くの人に開いてくれることに繋がりました。
今シーズン、マムートからリリースされたDucan Spine(デュカンスパイン)バックパックは、新開発の背面システムをはじめ、細かなギミック満載の多彩な収納・アタッチメントを備えており、テクノロジーの威力をまざまざと見せつけてくれる新しいバックパックといえるでしょう。
昨年のBlack Diamond ディスタンス 15のように、クライミングギアブランドからも優れたファストパッキング・スピードハイキング向けバックパックが数多くリリースされて来ている昨今、同じクライミング系でのトップブランドが満を持してリリースしたモデルだけに、非常に気になります。それでは早速詳細レビューをお届けします。
目次
主な特徴
Ducan Spine(28-35/50-60)は背負った際の快適性と動作時の安定性、そして実用的な収納と使い勝手を融合したハイキングバックパック。特許技術「Active Spine Technology」を備えた背面システムは、荷重を均一に分散するとともに、歩行時には上半身のブレを吸収して肩と腰の動きが妨げられずより自然な歩行を可能にします。背面に空間を設けてあるため通気性も高く、激しい発汗でも快適性を保ちます。フロントにはメイン収納にダイレクトにアクセスできるジッパー、ショルダーストラップにはドリンクや小物も収納可能、さらにバックパックのショルダー・ヒップベルトのどちらにも取り付け可能なポケットや、ボトルが歩きながらでも取り出しやすく設計されたサイドポケットなど、多彩な収納・アタッチメントによる使い勝手抜群の機能が満載の軽快・多機能バックパック。
ここが◎
- 重荷で歩いても(走っても)重心が左右にブレにくい、安定感抜群の背面システム
- 優れた通気性と十分なクッションで疲れにくい背面・ヒップ・ショルダー
- 荷室への素早いアクセスが可能なロールトップ+フロントジッパーアクセスのメイン収納
- 実用性を考えた、盛りだくさんの多彩な収納・アタッチメントの数々
ここが気になる
- 背面の中心に集中したクッションは背中全体がフィットする感じには乏しいため、慣れるまでは違和感がある
- ショルダーストラップ左右のメッシュポケットが浅くて小さい(500mlフラスクが安定する程度には欲しかった)
- 付属の撥水ポケットは便利だが、欲を言えばもう少し大きいサイズがいい
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
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素材 |
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カラー |
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サイズ/背面長 |
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容量 | 28-35リットル/50-60リットル |
重量 | 1290 g(レインカバー 72 g、撥水ポケット 34 gを除く) |
女性向けモデル | あり |
メインアクセス | ロールトップ・フロントジッパー |
ハイドレーションスリーブ | ◯ |
レインカバー | ◯(標準付属) |
ポケット・アタッチメント |
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快適性 | ★★★★☆ |
安定性 | ★★★★★ |
機動性 | ★★★★★ |
収納性 | ★★★★☆ |
機能性 | ★★★★★ |
耐久性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★☆☆ |
詳細レビュー
外観の特徴
表面を見てみると、外側にはメイン収納へのジッパーとパックを圧縮するためのコンプレッションストラップ、ポール用のアタッチメントが見えるのみで、天蓋などもなく、表の顔は非常にシンプル。よくあるハイキング・トレッキング向けバックパックと比べるとポケットなどの収納がない点は一瞬モヤるかもしれませんが、それらは他の収納の便利さで巧みにカバーされています(後述)。
作りは極力軽量仕様ですが、重量は1290 gとこの容量のバックパックとしてはそこまで軽量とは決して言えません。全体的にムダが削ぎ落とされているのですが、その重量分はボリューム満点の背面システムによって相殺されているようです。ただ、極端に重いわけでもなく、快適さや疲れにくさは重量だけでは決まりませんので現状あまりここに気にする必要はありません。
メインの生地には、軽量かつ高い引き裂き強度と垢抜けたカラーリングのリップストップナイロン(100デニール)生地を使用し(下写真)、底面にはさらに耐久性の高い210デニールの生地で補強されており、耐久性に関しては特に心配なさそうです。
安定感と通気性を両立した画期的な背面システム
Ducan Spineに搭載されている背面システム「Active Spine Technology」がはじめて登場したは、実は昨シーズンのTrion Spineというモデルから。自分はそこでこの背面システムの巧みさを実感してから、今では春山などの残雪登山でよく使うようになりました。
ただ、昨シーズンのTrion Spineはややアルパイン志向の強い4シーズン向けバックパックであったため、ぶっちゃけハイキング向けのメインストリームとして使うにはやや手に余るものがあったのも事実。おそらくこのDucan Spineはそうした市場からのニーズに応えるべく、画期的な背面構造をベースとして残しながら、よりハイキング向けにアジャストさせたモデルだと考えて間違いはないでしょう。
前置きはこのくらいにして、早速その基本的な仕組みを紐解いていきます。
まず背面全体は少しくぼんだトランポリン状の、非常に剛性の高い金属製フレームで覆われています(下写真)。
肩と腰周辺には十分な厚みのクッションが当ててあり、その裏には柔軟性のあるグラスファイバーの支柱が中央部に一本通っています。さらにその支柱の上下両端(肩と腰)のそれぞれが回転できるようになって固定されています(下写真)。
この一本の支柱が上半身の傾きに合わせてまるで背骨(=Spine)のようにたわむことで、歩行時の揺れを吸収し、バックパックを常に垂直に保ち、重心のブレを防いでくれるという仕組み(下写真)。
下の紹介動画は昨シーズンのTrion Spineのものですが、基本的な構造は同じなので、参考までに載せておきます。
これまでも、歩行時の重心移動を安定させるためにヒップベルトが腰を中心に回転する構造のバックパックは無かったわけではありませんが、ただその多くはヒップベルトだけが回転したり屈曲したりする仕組みであり、背面全体を完全に連動させているものは、これまでほとんど記憶にありません。「Active Spine Technology」の新しさは、腰にかかる重心を安定させるだけでなくそれを上半身の肩荷重と巧みに連動させたことで、上半身の動きやすさと荷重の背中全体への分散にも寄与させていることでしょう。
さらにはトランポリン状の背面フレームによって背中の風通しのよさも抜群です。背面を空気が自由に流れ、大量の背中の汗もこのおかげですぐに乾きます。ショルダー・ヒップベルトも通気性の良さを意識した素材を使用し、ジメジメした天候の多い日本でも不快知らずです(下写真)。安定性だけでなく激しい動きや発汗に対しても見事に要求に応えてくれるこの仕組は、スピードハイキングには非常にマッチしたシステムといえます。
初めて見る作りのスターナムストラップは、伸縮ゴムなのでブラブラしない、ミニマルなパーツで軽量化、位置の調節も簡単と、そのムダのなさは見事(下写真)。ただし重荷MAXのときの強度にはやや不安がないとは言えませんが。
クセはあるけど超絶歩きやすくて疲れにくい、独特な背負い心地
実際に背負ってみたときの印象ですが、正直なところ、はじめは違和感がありました。背中に接触するクッションは心地よい反発性をもっており決して不快というわけではないのですが、背骨のラインに沿った2ヵ所(肩・腰)に集中して盛ってあるため、背中にまんべんなくフィットする感触とは違い、極端にいうと”点”で接触している感じ。これは背中全体にまんべんなくフィットするような背面とは真逆のイメージで、正直好き嫌いは分かれるかもしれません。
ただ、背負って歩き始めるとその違和感なんてほんのちっぽけなものであったことにすぐ気づかされます。というのも、それ以上に何よりも「Active Spine Technology」による歩きやすさ、快適さ、安定感によって、これまでにない心地よさが待っているからです。
例えばトレッキングポールを常用する自分は、下半身のダメージを最小限にするため上半身をなるべく使って歩くようにしているのですが、ポールを操作するための肩の上げ下げが、こんなにスムーズでいいの?ってくらいに抵抗が少なくなりました。しかも腕の上下動にもかかわらず、バックパックはほとんど微動だにもせず、ブレていません。
これは言うまでもなく背面システムのおかげ。片方の肩を上げたときには、上げた方のショルダーストラップは肩の動きに追随してもち上がり、一方ヒップベルトは上半身の動きに引きずられずに水平位置を保ってくれているからです。
また早足で下っていくときには一歩一歩の衝撃も強く、スピードがつけばザックが左右に振られる力も大きくなります。ところがその際も、ザックが上下に動きこそすれ、不思議なほどスムーズに駆け下りることができました。ザックの動きの激しさに関わりなく、背中全体で均一に衝撃を受け止めてくれる感覚で、普通のザックで感じられるような「振られる」という感じがない。ショルダー・背面・ヒップといったハーネスの一部分に負荷がかかるということが決してなく、常に安定した位置を保ってくれました。
実用性を考えた、盛りだくさんの多彩な収納・アタッチメントの数々
ロールトップ型のメイン収納
メイン収納は最近ではかなり一般的になっているロールトップ型。開け閉め操作が楽なだけでなく、クルクルと折りたたむことで28リットルから35リットルまで容量を調節できるという利点があります。バックルは上で留めるもよし、サイドで留めるもよし。
メイン収納の入り口にはジッパーがついており、細かな使い勝手も考えられています。
フロントから出し入れ可能なダイレクトアクセス
ハイキングバックパックといえば、外側に大きなポケットなどがあって行動食や防寒着・雨具などを収納できたらいいという人も多いと思います。このモデルにはそうした外部ポケットはフロント部には存在していませんが、代わりにこの容量にしては珍しくほぼフルオープンのジッパーがついており、中の荷物は容易にアクセスできます。ジッパーもYKK製、大型で頑丈、引手もしっかり。クリーンな外観を保つためか、裏使いしているところもニクイ。
ちなみに、バックパックの全体をコンプレッションコードが張り巡らされており、少ない荷物であったとしてもコード上部の1カ所を引くだけで、全体をしっかり圧縮可能。どんな容量であってもこのザックの魅力である安定感を失わないように工夫がなされています。
小物の収納に適したトップジッパーポケット
バックパック上部には、入り口が狭くてちょっと出し入れはしにくいですが、財布や鍵、カードなどの貴重品やスマホなどが入るジッパーポケットがついており、小物の整理も安心。
好みの位置に取付可能な撥水ポケット
ありそうでなかったちょっと面白い工夫として、ザックのさまざまな位置に取り付けられる撥水仕様のサブポケットが標準でついています。自分好みの場所にセットできるので非常に実用的です。
ただし袋にはマチがほとんどないため、地図・コンパス・スマホ・ハンカチが入る程度と、大きさの割に思ったほど容量は少ないので、できればそこは次モデルで改善されて欲しい。ただ、実際にはここに自分がすでに持っているポーチなどを代わりに取り付けても良いわけで、その意味ではカスタマイズしがいがあってこのままでも十分嬉しい。
左右にショルダーメッシュポケット
ショルダーハーネスには左右にメッシュポケットがついています。昔はトレイルラン用のベスト型バックパックにしかないものでしたが、ここ数年で軽量バックパックの多くに配置されるようになりました。
ここには個人的に飲料をセットしたくなるのですが、残念ながら500mlを超える容量のボトルやフラスクはやや不安定な浅さで、355mLのソフトフラスクならぎりぎりちょうどいい感じ(下写真左・中)。またボトルではなくスマートフォンなどならまず安定して収納できます(下写真右)。ちなみに水分補給についてはもちろん、ハイドレーションにも対応しています。
ボトルや行動食に最適なサイド・ヒップベルトポケット
左右のサイドメッシュポケットは1リットルのナルゲンボトルがしっかりと収納でき、斜めに入り口がついているので歩きながら出し入れが可能です(下写真左)。固定用のストラップもありますので、ある程度の長物も固定できます。
またヒップベルトの左にはやや大きめのメッシュジッパーポケットがあり、スマホやハンカチ、行動食などを入れておくることができます(下写真右)。
アプローチ時・行動時それぞれに対応したポールアタッチメント
トレッキングポールのアタッチメントは、通常の左右フロント位置の他(下写真左)、ヒップベルトの右側にサムライのように装着することができます(下写真右)。歩きながらバックパックを降ろさずにほとんどのことができる、かゆいところにまで手の行き届いた抜け目のなさはホントにありがたい。
ちょっとした荷物を固定できるボトムアタッチメント
ここまででも十分すぎるほどに気の利いた収納が揃っていると思いますが、極めつけはパック底部に配置されたボトムアタッチメント。長さ調節可能な伸縮性のドローコードによってさまざまなアイテムを固定可能です。ただし残念なことに、ゴムだけに固定力には難があり、夏用シュラフ程度までならば固定できましたが、フルサイズのスリーピングパッドではグラグラして危なげ。ここだけは安定感なしかい。
なお、底部には付属のレインカバーがしっかりと収納されています。やっぱり安定感抜群かい。
まとめ:どんな活動におすすめ?
ハイテク背面システムによって重荷やハイスピードで移動しても横ブレしにくく、安定して快適な背負い心地を実現しただけでなく、パッキングから行動中のサポートまでを含め、ファストパッキングやスピードハイキングで求められる多くの(ときに欲張りな)要求にしっかりと応えてくれる細やかなギミックの数々は、もちろん普通にのんびりとした山歩きにはもちろんですが、まさに最新のより軽快な登山スタイルにマッチしたバックパックといっていいでしょう。ところどころの詰めは甘いものの、それらはどれも致命的なものはなく、自分の工夫でカバーできる範囲です。
容量は28-35リットルモデルなら日帰りから1泊程度のファストパッキングにはちょうどよいサイズ。一回り大きな50-60リットルモデルならばさらに長い距離の旅が可能でしょう。時期としてはやはり暑い夏がピッタリ。2020年春、まだまだ山好きにとってはぐっと我慢の時期が続いていますが、この夜が明けたら、来るべき新しい朝を迎えるのにぴったりのバックパックではないでしょうか。