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Review:OSPREY ケストレル 38 非の打ちどころがない登山向け万能バックパックは「完成」から「円熟」へ。

ロングセラーには理由がある

ごくまれにですが「あなたが考えるベスト(あるいはお気に入りの)アウトドアメーカーはどこですか?」といった質問を受けることがあります。

そんなとき自然と口に出るのは「Osprey(オスプレー)」という、バックパックブランドの名前。創業から40年以上もの間、北米をはじめ世界中で、ハイキングからサイクリング、クライミング、バックパッキング、旅行、スキーなど、ありとあらゆるアウトドアアクティビティで優れた製品を提供し続け、多くのファンに支持される世界屈指のバックパック専門メーカーです。

何がぼくの心を捉えるのか。それはひとえに、どこまで大きなブランドになっても変わらない作り手の情熱とチャレンジ精神、そして(マスプロダクトにもかかわらず)まっすぐ形にできる強さです。創業者にしてCEO、今でもバリバリの現役デザイナーでもあるマイク・プフォーテンハウアー氏の、実用性に対する飽くなき探究心、職人的なものづくりへのこだわりと情熱、そして新しい試みに対していの一番に飛び込んでいくチャレンジ精神については以前も紹介した通りですが、オスプレーの作るバックパックどれ一つとっても、そうしたコンセプトや作り手のメッセージが感じられないものはありません。オスプレーの新作バックパックを試すことはいつも、作り手のメッセージを受け取るコミュニケーションのようなものであり、それは毎回楽しみでしょうがありません。

今回紹介するのは、2016年から3年を経てさらなるアップデートを遂げた、ハイキングから本格登山まで、オールシーズン幅広く使用できるロングセラーモデル、ケストレル(女性モデルはカイト)シリーズです。前作モデルは登山向けバックパックとしてほぼ完成に近いという印象さえもった、重量・耐久性・使いやすさの三拍子そろった非常に優秀なモデルでしたが、3年を経てどう変わったのか。2019年の私たちに何を届けようとしたのか、早速詳細レビューをお届けします。

主な特徴

ケストレル(カイト)シリーズは、低山ハイキングからごつごつした岩場だらけの高山の縦走、藪だらけの沢筋、雪に覆われた稜線、その他あらゆる地形・気候で安全に荷物を運搬することを可能にした多用途・オールシーズン利用可能な軽量バックパックです。

調節可能なバックパネルによる完璧なフィット感。背面のエアスケープバックパネルにより高い通気性を確保。暑い日でも快適さをサポートします。強度を増したフロント大型ポケット、サイドメッシュポケット、デュアルアイスツールの取り付けポイント、右脇にはトレッキングポールキャリーと、さまざまな外部アタッチメント・ポケットを備えています。サイド・ボトムにはメインアクセスジッパー、取り外し可能なレインカバーは底部に、ハイドレーションスリーブは簡単にアクセスできる外部になど、収納に関しては徹底した実用性が考えられています。軽量ながら丈夫なナイロン生地は長年培われたオスプレイの品質基準を満たしています。

ここが◎

ここが気になる

主なスペックと評価

項目 スペック・評価
素材 メイン=210Dx630Dナイロンドビー
アクセント=420HDナイロンオックスフォード
ボトム=500Dナイロンパッククロス
カラー
  • ブラック
  • ピコリーヌグリーン
  • ラックブルー
サイズ/背面長 S/M=40.5~51cm、M/L=48~58.5cm
容量 S/M=36リットル、M/L=38リットル
重量 S/M=1.46kg、M/L=1.54kg
バリエーション
  • ケストレル38
  • ケストレル48
女性向けモデル
  • カイト36
  • カイト46
メインアクセス トップ・サイド・ボトム
ハイドレーションスリーブ
レインカバー
ポケット・アタッチメント
  • 背面調整可能なエアスケープバックパネル
  • ストラップループ付き固定式トップ(天蓋)ポケット
  • フロントストレッチポケット(デイジーチェーン付き)
  • サイドストレッチポケット
  • サイドジッパーアクセス
  • ボトムにジッパーアクセス
  • 1、2気室切り替え式
  • 収納可能なアイスツールループ
  • ヒップベルト両サイドにジッパーポケット
  • ストウオンザゴートレッキングポールアタッチメント
  • 着脱式スリーピングバッグストラップ
快適性 ★★★★★
安定性 ★★★★★
収納性 ★★★★★
使い易さ ★★★★★
耐久性 ★★★★☆
重量 ★★★☆☆
総合点 ★★★★★

アイテム外観

前モデルからの主な変更点

ロゴマーク

よりすっきりとスタイリッシュになったロゴマーク。

オスプレーの象徴ともいえるあの鳥のロゴマークが、ついに変更されました。好き嫌いはもちろんあるでしょう。前までのクラシックな雰囲気が好きな人にとっては残念なニュースかもしれませんが、代わってみてあらためて、こちらの方がより洗練されていて今っぽいですね。

より快適さが向上した背面・ショルダー・ヒップベルトパッド

背面パネルはほとんど変化ないものの、新モデル(左)は腰の後ろ部分の当たりはよりソフトになった。

ベースとなる通気性とクッション性が考慮された背面パネル「エアスケープバックパネル」の素材自体にはさほど変更ないものの、溝の角度や幅に若干の調整が入っています。特に腰の当たる部分はよりフォームが全面で当たるようになり、微妙に快適さが向上。

さらにショルダー・ヒップベルトで使用されているメッシュ素材についても、前モデルが通気・速乾性を意識していたのに比べ、最新モデルはより厚みとクッション性が増し、肌触りも柔らかくなりました。

前モデル(下)に比べてクッション性と感触がふんわりソフトになって快適性UP(上)。

大型フロントポケットの使いやすさはそのままに耐久性UP

ナイロン生地で破れにくくなったフロントの大型ポケット(右)。

フロントの大型ストレッチポケットにも変化が。前モデルまでとポケット自体の大きさは変わらず、擦れやすい正面がメッシュ生地から丈夫なナイロン生地になりました。これによって耐久性は向上しつつ、伸縮する両脇のストレッチメッシュ地によって使い勝手は変わらず。確かにメッシュ部分はすぐに穴が空いてしまうので、シンプルに改善といえそうです。

より出し入れしやすくなったトップリッドポケット

天蓋のポケット。前モデル(右)ではジッパーの開閉範囲が狭く出し入れしにくかったが、今回(左)大幅に改善された。

前作のレビューで不満を挙げていた天蓋のポケットの入口が小さすぎるという点についても、はっきりと改善がなされていました。他モデルと比べて飛び抜けて大きく使いやすいというほどではありませんが、この天蓋ポケットならば特に不満は感じられません。細かいところまでしっかりと仕上げてくる。さすがです。

重量は100グラム増加

重量は1.42kg → 1.54kgと約100グラムほど増加。要因としては底面の生地が510Dと厚手に強化された点や、前述したクッション部分の補強などが考えられます。前モデルに比べて軽量さよりもしっかりと安心して背負える耐久性と利便性が重視されている印象です。しっかりと時代のニーズに合わせて微調整してきている敏感さと、思えば2015~18年くらいまではウルトラライトのブームだったのだなという感慨をしみじみと感じます。

他にも細かい変更点はありますが、まずは大きなものを一通りみてきました。すべて僕にとっては改善・進化というものばかり。ますます買わない理由がなくなってしまいました。ここからはあらためてケストレルシリーズの特徴を見ていきます。ただ、正直細かいところまで言い出すと丸1日かかってしまいそうなくらい、細やかな工夫の数々が詰まったバックパックです。なるべくポイントを選りすぐってご紹介していきます。

詳細レビュー

調整可能な背面長

背面パネル裏側のマジックテープを剥がすことで背面長を細かく調節可能。

毎回言ってるのですが、何度でも強調します。背面調節機能がこのクラス(30L程度)のモデルで実装されていることの驚き。今でこそいくつかの他社モデルで見られてはいますが、それもここ数年のこと。ケストレルでは10年近く前から実装されていました。ようやく時代が追いついたという感じです。やはり体型の違う個々人の背中にしっかりとフィットさせるために、背面長調節機能は必要不可欠です。

バックパックが腰に吸いつく!細かすぎて伝わらないヒップベルトのストラップ

ストラップを締めることで、荷重がしっかりと腰に乗ってくれるだけでなく、パックのコンプレッションにも繋がりブレにくくなる、一石二鳥の新機構。

またもやってくれました。今シーズンのケストレルは一見しただけでは大きな変化の見えにくいアップデートですが、そのなかに驚きの仕組みを何食わぬ顔でぶっこんでくれていたのです。

上の写真、腰とバックパック本体を引き寄せるためのストラップが、バックパックのサイドコンプレッションストラップと兼用になっているんですね。

まず、もともとこのパックは基本的に通気性を保ちつつも背中にピッタリと密着してくれ、重たい荷物でも安定して背負いやすいバックパックです。背面がえぐれた、いわゆる背面メッシュのトランポリン型のバックパックなどに比べてもその点は優れていました。今回、そこからさらに腰部分をバックパックにしっかりと引き寄せられるストラップが付いたことによって、ブレがますます少なくなり、安定感が増した印象です。

驚きなのは、そうした安定感向上のためのパーツを新たに追加するのではなく、これまであったサイドストラップの仕組みを利用して、重量を増すことなく改善したこと。こんなにシンプルで、なおかつここまで画期的なつくり、見事すぎて言葉を失いました。簡単そうでいて、今まで見たことがなかったわけです。こういった細かいアイデアと工夫の積み重ねがまさにこのバックパックの他の追随を許さない品質の高さにつながっているとあらためて分かります。

相変わらず必要十分な外部ポケット・アタッチメントの数々

ポケット・アタッチメント類については、これまでのケストレルですでに大方完成の域にあったといえ、今回もそれほど大きな変更はありません。当然あって欲しいと思うものがきちんと一通り揃っており、工夫次第でさまざまなシーンにフィットするような汎用性も備え、ビギナーからベテランまで使いやすいように作られています。

マットを取り付けられるボトムストラップ(左上)、トップリッド(天蓋)にもストラップを通せるループ(右上)、大型フロントポケットはアウターなど嵩張るアイテムを収納可(左下)、ヒップベルトには小物入れ(右下)

ビギナーにやさしい使いやすい便利機能

メイン収納への入口は、ワンアクションで開け閉め可能なドローコードでスマートなパッキングを可能に(下写真)。

メイン収納も、ストラップを引けばワンアクションで締めることができ、開けるときも両手で口を開くだけ。

また、天蓋を開けなくてもメイン収納の荷物へダイレクトにアクセス可能なジッパーはサイド・下部の2カ所に配置されています(下写真)。サイドのジッパーは前モデルに比べて大きく(長く)なり、より出し入れがしやすくなっています。ここでも改善しか見あたらない……。

メイン収納は2気室にもできる仕様。底面のジッパーからはシュラフやテントなどを取り出しやすく、その他右サイドにも大きなジッパーが配置して中のものをすぐ取り出せる。

サイドのメッシュポケットはウォーターボトルを差し込むことを考慮し、上・横と2方向から出し入れ可能(下写真)。行動中にバックパックを下ろすことなく給水できます。これも便利なハイキング向けバックパックにはおなじみの機能ですが、しっかりと押さえてくれています。

今シーズンモデルからついに実装された、上・横から収納可能なサイドストレッチポケット。ドリンクホルダーにぴったり。

ハイドレーションスリーブは外側に設けられています(下写真)。メイン収納にスリーブがあることで中が凸凹になり、パッキングの妨げになることを考えての配慮です。

ハイドレーションスリーブは外部に。地味にパッキングしやすくなる。

付属のレインカバーは底部のポケットに(下写真)。これもパッキングの妨げにならないような細やかな配慮の表れです。

レインカバーは底面の目立たない場所に標準装備。

行動中にバックパックを下ろさずトレッキングポールをしまうことができる、オスプレーオリジナルのアタッチメント「ストウオンザゴートレッキングポールアタッチメント」ももちろん実装されています(下写真)。

フロントにもトレッキングポールやアックスを取り付けるループがあるが、ちょっとした岩場など、ザックをいちいち下ろさなくても引っ掛けておけるポールホルダー。

最後にあえて言うと、ここが気になる

バックパックとトップリッド(天蓋)は背面に縫いつけられて連結されているため、38リットルという容量は厳格に守らなければなりません。これが取り外し可能、あるいはストラップで伸ばせるような設計であれば、もう少し容量の許容範囲が広がって、より使い勝手の向上につながるはず。

まとめ:どんな活動におすすめ?

前モデルに引き続き、ケストレル38は一見地味で目立たないルックスからは考えられないほどの高い品質と驚きの工夫が詰まったバックパックです。とことん考えつくされた細部の数々は、その一つひとつが決して漫然とそこにあるのでなく、使う人の立場から考えられた、本来の「道具」としての意思をもってそこにあると思えるものばかりです。前モデルで「完成した」とすら思えた先には、円熟とでもいうべきよりきめ細かい進化がありました。今回の新作も、そんなプロの仕事が堪能できる逸品であることが実感できました。

登山をはじめとしてさまざまなマウンテンアクティビティを1年中楽しむことができる、オールシーズン・オールラウンドなバックパック。容量は38リットルなら余裕のある日帰りハイキングから、1~2泊の小屋泊まりにはちょうどよいサイズ。テント泊なら48リットルがおすすめです。初心者にもやさしい使い勝手抜群の機能がそろっているため、ビギナーからベテランまで間違いなく満足できるでしょう。

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