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ジョン・ミューア・トレイル 北向き縦走 (2025 NOBO) の記録 【第9章】ミューア・パス迂回ルート

【第9章】ミューア・パス迂回ルート

2017 年と2023 年はハイシェラは大雪の季節だった。2017 年は日本人と中国人の PCT ハイカーが徒渉で死亡した。筆者も筋断裂の結果、ビショップへエスケープし、ミューア・パスを迂回した。2017 年は最悪の年として記録された。

2023 年も大雪だった。死亡者はいなかったが、サンホアキン川の橋が落ちた。かなりの急流で徒渉は困難な場所だった。その結果、ミューア・パスを通るのは難しくなった。多くのハイカーは ラ・コンテ・レインジャー・ステーションからサウス・レイクへと迂回した。ビショップやパーチャーズ・リゾートで補給してノース・レイクからパイユート・パス・トレイルを辿った。

筆者はたまたま 2011 年、2017 年、2023 年とこの辺りを歩いた。それぞれ、デュシィ・ベイズンとゴールデン・トラウト・レイクなどの素晴らしい場所がある。単なる迂回ルートではない。ここを周回ルートとして歩くハイカーもいる。

図 9.1: ラ・コンテ・レンジャー・ステーションからサウス・レイクへ

図 9.2: パイユート・パス・トレイル

図 9.3: サウス・レイクに向かうパックトレイン。2011 年撮影 。

ラ・コンテ・レンジャー・ステーションからサウス・レイク

北向き JMT ならラ・コンテ・レンジャー・ステーション近くで右への分岐がある。2011 年と 2017 年にこのルートを歩いた。このルート途中にはデュシィ・ベイズンという素晴らしい場所があるので、機会があれば訪れるべきだろう。

分岐から進むとしばらくは緩やかだが、短いスイッチバックにぶつかり、急角度で登っていく。右手には岩盤の上を流れ落ちる滑滝が見えるだろう。図 9.3 はラ・コンテ・キャニオン (たぶん、レンジャー・ステーション) からサウス・レイクに向かうパック・トレインである。

スイッチバックが無くなっても同様の登りが続く。トレイルが緩くなってくると、図 9.5 のフットブリッジで川を横切る。筆者の記憶では二ヵ所あった。立派な方のフットブリッジは 2023 年の大雪で壊れたが、現在では修復された。この辺りまで登ると、図 9.4 のように、ラ・コンテ・キャニオンがよく見える。ミューア・パスは右の写真に写っていない方向である。

すぐに短いスイッチバックを繰り返すと、トレイルは岩の間を行く。2017年は天気が悪く、岩陰にタープを張って避難しているハイカーがいた。たぶん、雨具を持っていなかったのだろう。2017 年はギター・レイクでアメリカ人ハイカー 3 名が落雷を受けた年で、我々もギター・レイクで雷にあったし、マウント・ウィットニーから下山する時、長い間、雷と雹と雨にあった。

図 9.4: ラ・コンテ・キャニオン、ランジル・ピーク。2017 年撮影。

図 9.5: 中間点にあるフットブリッジ。2011 年撮影。

図 9.6: ロウアー・デュシィ・ベイズンの最下流域。2011 年撮影。

ここを越えるとなだらかなメドウに入る。ロウアー・デュシィ・ベイズンである。2011 年は、千恵子がパリセード・レイクで高山病になったので、引き返してここでテントを張った。少し下流ではあったが、だれもいないし、最高のキャンプ・サイトだった。

少し歩くと、デュシィ・ベイズンである。パイン・ツリーが無くなり、池が現れる。キャンプ・サイトは池の周りに散在する。池はずっと奥まで続くが、トレイルは池から離れて登っていく。傾斜はきつくないので、スイッチバックは少ない。植生が無くなり、平らな場所に出ると、ビショップ・パスである。振り返ると、図 9.9 のような風景が広がる。

図 9.7: ロウアー・デュシィ・ベイズン。2017 年撮影。

図 9.8: デュシィ・ベイズン・2017 年撮影。

図 9.9: ビショップ・パス南の風景。2017 年撮影。

2011 年、パスに雪が多く、3 名の女性が下ってきた。一人が脚を滑らせてよろけてしまった。近づいた途端、

「笑ったでしょう。」

「エ? 笑ってないよ。」

「笑ったわよ。」

「笑っていない。笑っていない。」

ちなみに英語では「ユー ラーフド アト ミイ」。あざ笑う意味があるのだろう。まあ、笑ったけど、ここは全否定で臨んだ。日本人と分かると、一応は仲良くなって記念撮影した。おばさんが3名集まると、なかなか油断できない。

ビショップ・パス (図 9.11) は岩だらけの平な場所である。背後にはマウント・アガシズが見える。2017 年の雪の多い時は、ここは雪原だった。標高は 3,649m。JMT のパスはみんなこの程度の標高がある。

図 9.10: おばさん3名と遭遇した時は注意。2011 年撮影。

図 9.11: ビショップ・パス、背景の山はマウント・アガシズ。2011 年撮影。

図 9.12: ビショップ・パスの北側。2017 年撮影。

パスから少し下り始める場所からは、ビショップ・レイク、サドルロック・レイク、ティンバーライン・レイク、ロング・レイクが見える、トレイルはこの湖を縫うように続いていく。パスから急角度のスイッチバックで下りていくが、すぐに終わって、ビショップ・レイクの湖岸に着く。もう、テント泊可能な場所があちこちにある。

ビショップ・レイクからパスを眺めたのが図 9.13 である。パスは一番低い場所で、パスからの急な下りは 50m ほどである。ビショップ・レイクからティンバーライン・レイクまでのトレイルはなだらかで、所々にキャンプ・サイトがある。スピアヘッド・レイク手前だけは急こう配のガレ場を横断する形でトレイルが付いている。

図 9.13: 北からビショップ・パスを振り返る。2011 年撮影。

2011 年はトレイルヘッド出発が遅かったし、バックパックが重すぎて歩けなかったので、ロング・レイクの下流部でキャンプした。ところどころにサイトはあるが、多くのハイカーのお目当てはデュシィ・ベイズンなのでキャンプする人は少ない。この年は 10 名ほどの中国人の団体 (たぶんアメリカ在住) とすれ違った。今年はトランプ政権のためか、まったく中国人の姿を見ない。

2017 年は筋断裂のため、歩くのが遅れて、サウス・レイク到着が夕暮れ時となった。暗くなると、ヒッチハイクが難しくなるので、手前でサイトを見つけてテントを張った。それが図 9.17 である。サウス・レイク手前 1km ほどには湿地帯が少しあり、その後で小川を横切る。その時に丘の上を探すと、広いキャンプ・サイトが見つかったという次第である。

雪が多いと、ハイシェラでは花々が咲き乱れる。特にビショップ・パスやパイユート・パスで目立つのはピンク色のアルパイン・コロンバインである。幸か不幸か、雪の多い夏に二度は通った、写真を図 9.14 に示す。筋断裂でいったんビショップに行き、少し回復してから、もう一度、千恵子とビショップ・パスまで行った時に写した花である。

図 9.14: アルパイン・:コロンバイン、2017 年撮影。

図 9.15: サドルロック・レイク。2011 年撮影。

図 9.16: スピアヘッド・レイクとロング・レイク。2011 年撮 影。

図 9.17: サウス・レイク手前の丘、近くに小川がある。2017 年撮影。

ヒッチハイクと補給

サウス・レイクは一番大きな湖である。トレイルヘッドは狭いので、この近くでテントは張れない。筆者が手前 1 時間ほどでテント泊をしたのは、夕方に到着してヒッチハイクに失敗すると、寝場所が無くなるからである。

補給はパーチャーズ・リゾートで行う方法と、ビショップにヒッチハイクで下りる方法がある。パーチャーズ・リゾート(図 9.19) はトレイルヘッドから徒歩 30~1 時間である。道路を歩くと、ウィルダネスから出たことになるので、パーミット取り消しになるという。ただ、誰もパーミットを取り消された人はいない。歩行者を考慮した道路ではないので、おそらく危険だからであろう。

図 9.18: サウス・レイク。2011 年撮影。

図 9.19: パーチャーズ・リゾート、2020 年、リゾート提供写真。

2024 年に南向き JMT の時、パーチャーズ・リゾートで補給しようと食料を送ったが、歯の根が折れていたため、そうそうにコロナ感染して、ハイキングを中止した。それで残念ながら、このリゾートに行ったことはない。シャワーはあるが、滞在はできないので、昼頃までに行って、補給を済ます必要がある。

少し下流にはウイロー・キャンプ・グラウンドがあるが、ここはカー (オート)・キャンピングのサイトなので、もう少し下って、レイク・サブリナに向かうトレイルに入る。そして、川沿いのスイッチバックを登ったあたりにキャンプ適地があるし、ティー・レイク、ジョージ・レイクと続く。実は、ハイカーの写真とグーグルアースで詳しく調べた。レイク・サブリナは人が多いので避けた方がよいだろう。レイク・サブリナの下流からノース・レイクに登る道路がある。

ヒッチハイクの方法は図 9.20 のようにする。ヒッチハイクのルールを示しておこう。

図 9.20: ビショップへのヒッチハイク。2017 年撮影。

図 9.21: ウォーキングしながらのヒッチハイク。2023 年撮影。

図 9.22: エミリーさんたち。2023 年撮影。

図 9.23: ノース・レイク。2017 年撮影。

2023 年はミューア・パスが通れないので、千恵子と一緒にレッド・コーンズから入り、ノース・レイクを経てビショップに行く計画を立てた。問題はノース・レイクからビショップまでの交通手段がないことである。一時はレイク・サブリナとビショップを繋ぐバスがあったが、廃止されて久しい。ノース・レイクは交通量が少なく、ヒッチハイクのチャンスは少ない。そうすると、レイク・サブリナに通じる道路まで出る必要がある。その道路に出るまでのチャンスを掴もうと、背中にヒッチハイクのサインを出しながら歩くことにした。それが図 9.21 である。

チンドン屋みたいでけっこう受けてしまった。時々、「がんばれ」と声はかけてもらえるが、なかなか乗せてくれない。登ってくる車が一台止まった。面白い、おしゃべり好きのおじさんだった。

「ビショップか。乗せてやりたいが、これから嫁さんを迎えに行くんだ。おれの嫁さんは、パックトレインで山に入ったんだが、もうすぐ帰ってくるはずだ。」

アウトフィッターの人だった。

「パスに向かっている時にすれ違ったよ。」

「そうか。じゃあ、嫁さん拾ってから帰りに会えは乗せてやるよ。頑張れよ。」

残念ながら、この人とは再会しなかった。数分すると、車が止まって乗せてくれた。エミリーさんカップルで、ノース・レイクから入って、ゴールデン・トラウト・レイクでキャンプしての帰りだった。予約していたビショップのヴァガボンド・インまで送ってくれた。お礼の代わりに写真をとったのが図 9.22 である。

パイユート・パス・トレイルからJMT へ

パイユート・パス・トレイルは 2017 年に北向き、2023 年に南向きに歩いた。2017 年の方が天気がよかったので、写真がきれいである。

レイク・サブリナに行く道路からノース・レイク・ロードの分岐がある。 2017 年はバスで行き、分岐で下ろしてもらった。シャトルを利用するならトレイルヘッドまで行けるだろう。ノース・レイク・ロードは普通の林道で、歩きやすいけれど、登りが続くので、時間はかかる。分岐からトレイルヘッドまで2時間くらいだう。

ノース・レイクはそれほど綺麗ではない。図 9.23 の写真の対岸がキャンプ・グラウンドである。パック・トレインを運用するアウトフィッターも対岸にある。トレイルヘッドにはハイカー用の狭いキャンプ・サイトがある。

トレイルは林の中を緩やかに登っていく。30~40 分歩くと、徒渉がある。一度、向こう岸に渡り、再度、こちらに渡るという少し面白みのない渡り方だが、仕方ない。それからしばらくすると、木が疎らになり、メドウの間を歩く。雪の多い夏であれば、図 9.24 のタイガー・リリーを始め、たくさんの花が見られるだろう。

視界が開けて右手をみると、図 9.25 のような茶色の岩肌が見えるだろう。まもなく急なスイッチバックが始まる。ここを 30 分ほどこなせば最初の湖、図 9.26 のロッホ・リーブンに着く。写真の凹んだ部分がパイユート・パスである。

ロッホ・リーブンとは変わった名前で、ドイツ語かと思ったが、スコットランドの言葉である。古い英語はドイツ語とよく似ている。ロッホは湖、リーブンは生命の意味である。スコットランドの人が懐かしくなって、同じ名前にしたのかもしれない。キャンプ・サイトはないので、ここで小休止して、次の湖に向かう。トレイルの傾斜は緩くなるので、これ以降は歩きやすい。

水たまりのような小さな湖が続く。スイッチバックをこなすと、パス東側の最大の湖、図 9.27 のパイユート・レイクがある。ここでフランス・パンのサンドイッチを食べた記憶がある。湖の周りは傾斜が緩いので、所所にキャンプ・サイトがある。

パイユート・パスまでもトレイルは緩やかである。雪が多い年は図 9.28ように雪渓がある。傾斜が緩いのでキック・ステップで問題はない。パスはなだらかな丘なので、下りも緩い。しばらく行くとサミット・レイクに行く。寂しい湖でキャンプサイトはあるが、キャンプしている人を見たことがない。

図 9.24: タイガー・リリー。やや高度の低い湿地に生える。2023 年撮影。

図 9.25: ノース・レイクからの登り。2017 年撮影。

図 9.26: ロッホ・リーブン。2017 年撮影。

図 9.27: パイユート・レイク。2017 年撮影。

図 9.28: パイユート・パスへ向かう。2017 年撮影。

パスを越えると、東の方の高原が見える。まっすぐに東に進むトレイルと、写真の左手の湖岸を進むトレイルに分かれる。ただ、このトレイルは高原を下った場所で一つに合流する。キャンプする人は湖の近くのトレイルを歩くだろう。

パス近くのタンドラには図 9.30 のようなアルパイン・コロンパインが咲き誇っていた。

図 9.29: パイユート・パスの西、2017 年撮影

図 9.30: ピンクのアルパイン・コロンパイン。2017 年撮影。

トレイルは北向きに変わり、斜面を歩く。この辺りから良いキャンプ・サイトが点在する。パイユート・クリークを渡る場所の近くにもあった。たぶん、パス近くでは一番よい場所だろう。

トレイルは高原上の場所を東に伸びている。振り返ると、図 9.31 のマウント・エマーソンが見える。標高 3,998m の岩山である。トレイル脇に裸地があったので、2023 年にはテントを張った。

図 9.31: マウント・エマーソン。2017 年撮影。

少し下るとちょっと嫌な徒渉がある。それが図 9.32 である。これは雪の多い時なので、通常は靴を濡らさずに渡れると思うが、深い場所があるので、注意を要する。ここを越えて 30 分くらいの場所でテントを張ったのが、図 9.33 である。2017 年は雪が多かったので、そばで水を見つけたが、2023 年には干上がっていた。貴重な場所だったかもしれない。

図 9.32: 唯一の渡りにくいクリーク。2017 年撮影。

図 9.33: クリークを渡って 30 分ほどの場所。2017 年撮影。

ビショップから出発すると、パイユート・パス・トレイルの何処かで一泊することになる。補給の時は野菜とか美味しそうなパンを一日分くらい持ってスタートするので、朝食も豪華になる。図 9.34 がサンドイッチの残り物で、これとコーヒーが朝食である。

図 9.34: 残り物のサンドイッチとサラダ。2017 年撮影。

テント泊をした場所からもなだらかな下りである。岩場には真っ赤なパンステモン (図 9.35) が咲き乱れる。高度を下げていくと、パインツリーが増えるが、時々はメドウがあり、一面に花が広がるが、残念ながら、蚊の猛攻を受ける。

図 9.35: 岩場にはパンステモンが咲き乱れる。2017 年撮影。

1 時間ほど下ると、支流が合流する。支流は何本にも分かれているので、それぞれの小川は浅い。意外に簡単に徒渉できる。南向き JMT の場合を図 9.32 に示す。水量をましたパイユート・クリークは急流 (図 9.38) で、とても徒渉できない。幸い、トレイルは一貫して左岸を走る。1~2 時間下ると JMT と合流する。

図 9.36: メドウは花が一杯、蚊も一杯。2023 年撮影。

図 9.37: 徒渉は簡単 (南向き JMT)。2023 年撮影。

図 9.38: パイユート・クリーク。2017 年撮影。

図 9.39: JMT 合流点まで 30 分程の場所。2023 年撮影。

図 9.39 は南向き JMT の時のキャンプ・サイトで上流 100m ほどの所に水があったため、テントを張った。アメリカ人ハイカーが 2 名いたが、さらに先に行くと言ったからである。

<第10章へ続く>

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国立大学元教授であると同時に『ハイキング・ハンドブック(新曜社)』や『米国ハイキング大全(エイ出版)』など独自深い科学的見地から合理的なソロ・ハイキング・ノウハウを発信し続ける経験豊富なスルーハイカーでもある村上宣寛氏の新著『ハイキングの科学』が、Amazonにて絶賛発売中です。日本のロングトレイル黎明期からこれまで積み重ねてきた氏の経験と、ハイキングや運動生理学をはじめあらゆる分野の学術論文など客観的な資料に基づいた、論理的で魅力たっぷりの、まったく新しいハイキングの教科書をぜひ手に取ってみてください。

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村上 宣寛

1950年生まれ。元富山大学名誉教授。専門は教育心理学、教育測定学。アウトドア関連の著作は『野宿大全』(三一書房)、『アウトドア道具考 バックパッキングの世界』(春秋社)、『ハイキングハンドブック』(新曜社)など。心理学関係では『心理テストはウソでした』(日経BP社)、『心理学で何が分かるか』、『あざむかれる知性』(筑摩書房)など。近著に、グレイシャー、ジョン・ミューア・トレイル、ウィンズといった数々のアメリカのロングトレイルを毎年長期にわたりハイキングしてきた著者のノウハウ等をまとめた『アメリカハイキング入門』『ハイキングの科学』(アマゾン)がある。

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