フィールドにおいて睡眠の質を左右するのはテント・シュラフ・スリーピングパッド(マット)の3つであることは間違いないでしょう。当方、登山よりももっぱら最近はファミリーキャンプばかりに没頭している日々です。
満点の星空の下、焚き火をしながら家族、友と語らいテントに入り床に就く。しかし、寝床の質が悪いと、快眠するのはなかなか難しいもの。翌日身体のどこかしらが痛くなり、楽しみなアクティビティにも影響が出てしまいます。
かくいう自分も高スペックのシュラフさえ使っていれば、スリーピングパッドはホームセンターで売っている銀マットで何とかなると思っていた時代もありました。ところがあるとき、シュラフでは背中(地面)側の中綿が自重でつぶれてしまうため断熱にほとんど役立たないということを知り、それからというものスリーピングパッドの断熱性を意識するようになりました。
もちろん、スリーピングパッドの良し悪しは断熱性(保温性)だけでは測れません。だからこそ、各メーカーから出ているさまざまな特徴をもったモデルのを納得いくまで調べて、自分の用途や目的にぴったりのモデルを賢く選びたいものです。そこで今回は、そんなパッド選びに悩める皆さんのために、今シーズンの最新モデルを含めて個性派ぞろいのスリーピングパッドを比較評価してみましので、早速どうぞ。
今回比較したスリーピングパッドについて
今回比較したスリーピングパッドは以下の8モデル。
- Klymit インシュレーテッド スタティック V ライト
- NEMO TENSOR™ 20(テストはMサイズ)
- NEMO ZOR™ 20(テストはMサイズ)
- Sea To Summit ウルトラライト インサレーティッドマット
- Sea To Summit ウルトラライトS.I.マット
- Therm-a-Rest NeoAir Xtherm
- Therm-a-Rest Z Lite SOL
- エバニューFPmat 125
かなりハイスペックになっている現代のスリーピングパッドに驚きを隠せない筆者ですが、それでもまだすべての項目において完璧なマットはありません。どれだけ高価なスリーピングパッドでも、長所と短所が必ずあります。また、どういったフィールド、環境で使用するかによっても選び方や重視するポイントが異なってきますし、寝心地の好みも違うことでしょう。
このためこの比較レビューでは、よくある乱暴なランキングではなく、それぞれのマットを使ってみて、断熱性・収納性・重量・快適性・使い勝手・耐久性という6項目について多角的に評価しています。総合評価はあくまでも筆者が実感したうえでのおすすめ指数です。
- 快適性・・・クッションの良さだけでなく、身体のズレにくさなど含めた総合的な寝心地の良さ
- 断熱性・・・地面の冷気をどれだけ遮断してくれるか
- 重量、収納性・・・テントやシュラフに注目がいきがちですが、パッドも意外と荷物になる
- 使い勝手・・・セッティングのしやすさや畳みやすさなど、使用時にどれだけストレスなく使えるか
- 耐久性・・・使い物にならなくなるリスクがどれだけ少ないか(エア注入式は特に注意)
テスト結果&スペック比較表
総評 ~タイプ別おすすめモデル~
まず今回の比較で筆者が総合的いって最も惚れ込んだのはNEMO TENSOR 20(テストで試用したのはMサイズ)。断熱、快適、収納の項目で非常にハイスペックでした。特に寝心地については言うことなし。まぁ耐久性については若干不安な部分もあり、あまりハードに使うことはおすすめできませんが、そこを考慮してもおすすめしたくなるスリーピングパッドでした。またこのシリーズは内部にPrimaLoft®をラミネートして保温性を飛躍的に高めたインシュレーテッドタイプもありますので、状況に応じてより適したモデルを選ぶことができます。
また、エバニュー FPmat 125は収納、重量、使い勝手、耐久性に優れており値段から考えてもかなりコスパが良いです。バックパック内の収納スペースに余裕があれば是非携行して欲しいアイテムの1つです。日帰り登山でのちょっとした休憩時に使用するのもあり、メインのスリーピングパッドの下に敷くのもあり、バックパック内の道具を広げる際に敷くのもあり、もちろんメインのパッドとして使用するのもあり。などなど、さまざまな使い方ができるのが魅力で登山以外のアクティビティにも大活躍してくれそうです。
秋から冬にかけての寒い季節にお勧めするのはTherm-a-Rest NeoAir Xthermです。何と言っても冷気を断熱するだけではなく、背中側からじわじわやってくる暖かさは唯一無二ですね。もはや、断熱性よりも保温性と言ったほうが正しいかもしれません。8つのスリーピングパッドで比較すると一番高価ですが、価格に見合った性能を体感することはできると思います。
寝心地を重視するなら、エア注入式パッドがお勧め。中でもNEMO TENSOR 20Mについては前記のとおり。klymit インシュレーテッド スタティック V ライトとSea To Summit ウルトラライト インサレーティッドマットは気室がそれぞれ独立しているため寝返りをうつ際にマット全体が動くことがなく安定感を提供してくれます。なおこちらの2モデルも断熱性の高さによって夏向け・冬向けが選べるようになっていますので、用途に合わせて選ぶことができます。
できるだけコンパクトな装備でいきたいときにおすすめなのはNEMO TENSOR 20(M)とエバニュー FPmat125ですね。どちらも軽量かつ収納性が非常に優れています。NEMO TENSOR 20Mはハードシェルなどの大きめのポケットに入るほどコンパクトです。
ちなみにパッドの縦サイズですが、冬の寒い時期に使用するのであればなるべくキッチリ身長分あった方が安心です。下半身からくる寒気は意外と馬鹿になりません。一方それ以外の季節であれば、万が一身長分なくても、下半身は余っているギアで代用するなどして、ある程度何とかなるというのが今回比べてみての実感でした。その分軽量・コンパクト化できるのも大きなメリット。スペックの高いマットの短いサイズを選び、価格を抑えるのもよいでしょう。
前ページでは比較したスリーピングパッドそれぞれの評価・スペック、そしてそれに基づいたおすすめモデルを紹介しました。ここからはその評価について、どのような基準で評価したのか、なぜそのような評価になったのかについて解説していきます。
各項目詳細レビュー
快適性
寝心地の好みは一番好みが分かれるところではないでしょうか?筆者は布団でいうとどちらかというとフカフカよりも硬めを好むタイプです。しかしながら、そんな私を虜にしたのがNEMO TENSOR 20でした。
柔らかすぎず、硬すぎず、寝返りを打っても安定しており、フワフワする不安定感はないのに、まるで宙に浮いている様な感覚になり、すべてがちょうどいいんです。とにかく体験して欲しいですね。両サイドのバッフルを多少高めに作り安定感を高めているところがポイントです。また、厚みが約8cmもあるため下からの突き上げもまったく気になりませんでしたし、寝返りを打った際のガサガサという音もなく、総じて快適な寝心地を提供してくれました。
その他横になった際の安定感という点についていえば、klymit インシュレーテッド スタティック V ライトとSea To Summit ウルトラライト インサレーティッドマットも素晴らしいものがありました。エア注入式によって厚みもありながら、独立した気室によって凸凹が最小限に抑えられ、座ったり、寝返りをうったりでマット全体が動くことがなく、こちらもベッドで寝ているのと同じような自然な安定した寝心地を提供してくれます。Sea To Summit ウルトラライトS.I.マットの十分な厚みをもったフラットな床も悪くないです。
断熱性
検証月が8月と夏でしたので雪の上でテストすることができず、色々悩んだ結果、クーラーボックスに使用する保冷剤を並べて置き、その上にマットを敷いて断熱性能をテストしました。筆者が下着1枚の状態で寝てみて、背面から冷気を感じ始めた時間で検証してみました。
この結果、予想通りというか、ずば抜けた断熱性能を記録したのはやはりTherm-a-Rest NeoAir Xthermです。全く冷気が伝わってこないどころか、自分の体温が反射して背中側がじわじわと暖かくなりました。マットレス内部にはさみ込まれている4枚の熱反射板が区切られたチューブ内に暖かい空気の層を作り出す構造になっており、真冬でも自信をもって使えることでしょう。公表されているR値5.7も納得です。
その他サプライズだったのは、R値が公表されていないNEMO TENSOR 20が思った以上になかなかの断熱性能を発揮していたことです。当然Therm-a-Rest NeoAir Xthermのように背面から暖かくなるとまではいきませんでしたが、約8cmという厚みからか冷気を感じることはありませんでした。R値が公表されているKlymit インシュレーテッド スタティック V ライト(4.4)と比較してみてもいい勝負で、あくまでも筆者の独自判断になりますが、R値4.0はあるのではないかと感じられました。
逆に開始早々に冷気を感じたのは、クローズドセルタイプのTherm-a-Rest Z Lite SOLとFPmat125でした。特にFPmat125は検証開始直後(約2分)には冷気を感じはじめるほど。当然の結果といえばそれまでかもしれませんが、収納性、重量、使い勝手に長けている分、断熱性は期待しない方がよいでしょう。また、Sea To Summit ウルトラライト インサレーティッドマットも、期待しすぎたのか、冷気を感じはじめる時間が思ったよりも早いと感じました。検証開始後、約20分程度で背部から冷気を感じ、その後もあまり回復せずで、R値3.3という数値は厳寒期に安心して使用するのにはやや頼りない気がしました。
重量
今回サイズ的にも若干バリエーションをつけて試していますので、重量の比較は「1cm当たりの重量」で評価しています。その結果、最軽量はエバニューFPmat125です。125cmで200gとのことですが、実際手にしてみると、それ以上に軽く感じます。これだけの軽さと収納性の高さがあれば、これをメインに使うだけでなく、メインのスリーピングパッドの下に敷いて断熱性や耐久性のサポートとしての役割も十分ありだと思います。
一方軽量化が難しいセルフインフレーティングタイプですが、他の項目ではあまり目立たなかったNEMO ZOR 20がここでは俄然、存在感を見せていました。縦横2方向の肉抜き加工で極限まで軽量化しているところがポイントのようです。
逆に最重量級はklymit インシュレーテッド スタティック V ライトとSea To Summit ウルトラライトS.I.マットでした。Klymitは(年々軽量化を進めているとはいえ)中綿素材が詰めてあることやV字チューブの構造的に表面積が大きくなっていることなどから、素材の分だけ重くなってしまうことは仕方ないのかもしれません。快適な寝心地が魅力的なだけに惜しい。
収納性
収納時のコンパクト性について。クローズドセル型のTherm-a-Rest Z Lite SOL、エバニュー FPmat125ともに折りたたむことができますが、Z Lite SOLはまったく圧縮できませんので正直収納性が高いとはいえません。一方FPmat125はそもそも極薄マットですので、畳めばその薄さはなんと5mmで圧倒的です。Therm-a-Rest Z Lite SOLはバックパックに外付けする方がほとんどだと思いますが、外付けしていると枝や岩に当ててしまう経験をされている方も少なくないのでは?それに比べてFPmat125はバックパック内に簡単に収納できてしまうのです。しかも、背面パッドがないバックパックだと背面パッド代わりにもなったりと、なんとも良い仕事をしてくれます。
またエア注入式は中身が空気ですので、どれも収納性という点では非常に優秀。NEMO TENSOR 20(M)はコンパクト・軽量・収納時のストレスがないと3拍子が揃っていました。空気を抜いた状態がペラッペラになるのであとはくるくる巻いていけばよいだけ。備え付けのコンプレッションストラップも助かります。その他Klymit インシュレーテッド スタティック V ライトとTherm-a-Rest NeoAir Xtherm、それからSea To Summit ウルトラライト インサレーティッドマットも予想通り高評価です。
使い勝手
クローズドセル型は総じて手間入らずですぐに使えるところや、耐久性を気にしないでガシガシ使える点はやはり強みです。またFPmat 125はちょっとした休憩時や寝るまではいかないもののフィールド上で座る際にお尻の下に敷くのにも使えたりと、使い勝手抜群。背面パッド代わりや、好みのサイズに切って使うなど工夫次第で様々な使い方ができます。価格的にも無理がしやすいです。
また、エア注入式パッド、セルフインフレーティングパッドのなかでも、空気の注入と脱気が簡単だったのがSea To Summitの2モデルでした。Sea To Summitのバルブは逆流防止弁がついているため、エア注入時(特に終盤)には逆流がなく、また脱気の際にもバルブの径が大きく、一気に空気が抜けてくれるため楽でした。他のモデルでは息継ぎ時にバルブを指で押さえたり、仮ロックする必要があるので、そういった手間が省けるのも魅力の一つです。しかもSea To Summit ウルトラライトS.I.マットの脱気時にはバルブの一部を反転させて付け替えることで、マット 内へのエアの再流入を防止することができるというなんともありがたい機能がついています。おかげでエア脱気は非常に楽でした。
エア注入タイプについては、エア注入時に便利な「エアストリームポンプサック」が標準で付属していたのがTherm-a-Rest NeoAir XthermdとSea To Summit ウルトラライト インサレーティッドマットでした。これがあると無いとではセッティングの手間が雲泥の差ですので、ぜひとも標準付属しているものを選ぶか、オプションである場合には揃えたいものです。
その他、収納時、特に苦労したのがSea To Summit ウルトラライトS.I.マットです。セルフインフレーティング型は往々にして中のウレタンフォームが圧縮しにくいため、収納は苦労しがちなのですが、これも脱気して丸めても収納袋ギリギリにやっと収まるといったところでした。かなり力を入れて丸めればスペースはできますが、その苦労はやはりストレスに感じてしまいます。また、空気が抜けにくいという点で苦労したのがKlymit インシュレーテッド スタティック V ライトでした。分割されたボックスが快適性を高める一方で収納時のストレスを高める結果となってしまっています。
耐久性
フィールド上で破れたり穴が空いたりすることを気にせずに使えることはストレスフリーでギアに対する安心感も高まります。マット自体も安くはないギアですので選ぶ際にも考慮したい項目のひとつです。
クローズドセルパッドの2つが耐久性に優れていることは一目瞭然です。特にエバニューFpmat125については厚さがわずか5mmなのに強度は十分すぎるほどあります。また、各マットの生地デニール(D)を比較すると、Therm-a-Rest NeoAir XthermやSea To Summit ウルトラライト インサレーティッドマットが耐久性に優れていることがわかります。特にNeoAir Xthermは裏面には70Dのナイロン素材を当て、耐久性を維持させつつも軽量化を向上させていることがわかります。
逆に懸念されるのはNEMO TENSOR 20、NEMO ZOR 20です。共に軽量化されている反面、20Dのポリエステルは摩耗等には強くないため、慎重に扱わなくてはなりません。
まとめ
冒頭にも書いた通り、1種類で完璧なスリーピングパッドはありません。使用環境や目的に合わせて、適材適所で自分に合ったスリーピングパッドを選ぶことができればそれが最高です。価格のバラツキもあり、悩むと思いますが、絶対に妥協できないこだわるポイントを明確にして、自分の登山スタイルに一番近いモデルを探すようにすると、おのずと自分に合っているマットが絞られてくると思います。
スリーピングパッドについてはこちらの記事もおすすめ
TAC
レビュアー募集中
Outdoor Gearzineではアウトドアが大好きで、アウトドア道具についてレビューを書いてみたいというメンバーを常時募集しています。詳しくはこちらのREVIEWERSページから!