ランニングシューズの技術的進化のスピードには目を見張るものがあります。少し前まで常識とされていたものがあっという間に時代遅れになっていたり、昔ナンセンスとされていたものが、技術のおかげで最先端のトレンドとして蘇ったり。
今年のトレイルランニングシューズの新作を見ていると、そんなドッグイヤーの技術革新が続くランニングシューズの大きな波がトレイルランニングの世界、なかでもロードのランニングシューズと親和性の高い「短・中距離向け」モデルに大きく及んで来ているのがひしひしと感じられます。今年はもしかするとトレンドの大きな曲がり角に来ているのでは?未来の新しい相棒との出会いを前に、ランナーたちのワクワクが止まりません。
そこで今回はそんな革新的な新作モデルを中心に、人気モデルから日本では知名度がそれほど高くないブランドの隠れた実力派モデルまで、これはと思うトレイルランニングシューズをピックアップし、とことん走り比べて比較評価してみました。
目次
短・中距離向けトレイルランニングシューズ比較レビューについて
比較候補を選ぶ
今回は数多くあるトレイルランニング用シューズの中でも、特に半日程度で走る距離(~50km)に最適なモデルを選んでみました。
このレンジのモデルは基本、軽量で軽快、スピード重視、また山深く分け入って走るというよりも里山から低山あたりをターゲットに、オフロードと舗装路のどちらも対応しているようなソール構造が多いのが大まかな特徴です。ちょうどオープンエントリー可能なトレイルランニングレースなんかもこのあたりが多いので、街ランからトレイルランを始めたという人もふくめ、きっと引っかかる人は多いはず。
そんな短・中距離向けモデルの今年の注目・新作モデルを中心に、メジャーなメーカーから隠れた実力派まで、6モデルをピックアップしてみました。それぞれを候補に選んだ簡単な理由について少し話してみます。
THE NORTH FACE フライト ベクティブ
アウトドア業界で一番勢いのあるノースフェイスが、やはりというか、ついにというか。ノースフェイスの新作フライト ベクティブは、ランニング界でここ数年旋風を巻き起こしている「カーボンプレート」を、トレイルランニングシューズに初めて(?) 搭載したモデル。スムーズな舗装路とは勝手の違うオフロードで、果たしてこの期待の高速シューズは力を発揮してくれるのでしょうか?今レビューの大本命。
HOKA ONE ONE チャレンジャーATR 6
トレイルランニングシューズのバラエティも豊富なホカからは、軽量でオンロード・オフロードどちらも快適に走れるバランスの良さが魅力、発売当初から変わらぬコンセプトで進化し続けてきたチャレンジャーATRが今シーズンバージョンアップしたということで、ピックアップ。真骨頂である最高のクッショニングとともに、ATR(All Terrain・全地形対応)でどんなトレイルの走破もサポートする特徴が光ります。
Brooks カタマウント
ランニング大国アメリカでは2010年代からシェアNo.1、日本での認知度の低さはなぜなのかと思わず首を傾げたくなるランニングシューズブランド、ブルックスのフラッグシップ・オフロードモデルです。エリート用ランニングシューズにも使われる、軽量性・クッション性・反発性に優れたミッドソールを使用した、高速トレイルランニングシューズがついに当サイトの比較レビューに登場。
NIKE エア ズーム テラ カイガー 7
あのナイキがトレイルランニングシューズ?実は結構前から作っています。一時は日本市場で消えかかっていましたが、ここ数年また普通に入手できるようになってきて嬉しい限り。皆さんご存知のあのNIKEが誇る最先端テクノロジーをふんだんに取り入れた、軽量かつ爽快な走行感を実現するスピードシューズ。柔らかで反発性のあるミッドソールで、トレイルの状況を一早く察知して路面に対応し、スムーズに軽やかに次への一歩を踏み出せます。
adidas テレックス スピード ウルトラ
アディダスも、世界的にTERREXというブランドでアウトドア分野にもかなり力を入れて展開しているのですが、日本ではイマイチ知られていない。ナイキ同様、有り余る技術力を活かし、高速ロードシューズに使われるミッドソールのコンビネーションをそのまま使用した、トレイルを走るためのランニングシューズとも言うべきモデルがこのスピード ウルトラです。超軽量性と、高い反発性でスピードランナーの足元を支えます。
montrail F.K.T.アテンプト
モントレイル、色々と親会社は変わっているけど、昔からいい靴を作っていました。それは今でも変わっていないよね(願望)。その安定感と、どんな時でも使いやすい万能性をもつ、オールラウンドシューズの新作を今回ピックアップ。高い耐久性も兼ね備えた、ハイコストパフォーマンスシューズです。
評価ポイント
今回は以下の8つの評価基準で各シューズを評価しました。
- 快適性・・・足を入れたときの肌触りから圧迫感など、履き心地のよさはもちろん、何時間走っても蒸れにくく、擦れたり、痛めたり、疲れたりしにくいかどうかを評価。
- 安定性・・・常に不整地を地面を走るトレランでは、着地時に微妙にブレたり、ふとした時に足を捻ったりしないかどうかという意味での安定性が安全で疲れにくいランニングに影響します。
- クッション・・・着地時に身体が受ける衝撃をいかに和らげて、次の一歩に繋げてくれるかどうか。ただ材質が柔らかいだけでなく、衝撃を受け切れるだけのボリュームがしっかりとあることも大切です。
- グリップ・・・さまざまなコンディションの地面で着地したときに滑りにくいかどうか。さらに着地した後にしっかりと地面を噛んで踏み込めるかといった牽引力(トラクション)もこの項目で評価しています。
- プロテクション・・・アッパーは枝や鋭利な岩などの障害から防げるか、ソールは凸凹地面からの突き上げの衝撃をガードしてくれるかといった保護力の強さを評価。
- フレキシビリティ・・・トレイルランニングでは地面の微細な感覚を足の裏から感じ取ることで、過酷な地形を高速で走っている最中でもトレイルの状況に素早く対応することができます。ある意味プロテクションとトレード・オフの関係にある要素ですが、そうした足裏感覚の繊細さ・柔軟性(フレキシブル)を評価。
- 重量・・・実際の重量は大事ですが、走った時の重量感も必要な判断要素です。
- オンロード・・・トレイルだけではなく、時にはアスファルトやコンクリートを走ることも。そんなロードの走りやすさも評価基準にしてみました。
テスト環境
適度にアップダウンがあり、途中岩場・泥地を含むトレイル、またロードでの走りやすさを計るためにアスファルトの道も走り(同じルートを何度も履き替えながら)、その使用感を評価しました。
テスト結果&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方はこちら
各モデルのインプレッション
The North Face フライト ベクティブ
異次元の反発力で勝手に足が前に出る感覚。スピード出したい、出しても大丈夫な人のための最速シューズ
ここが◎
- 桁違いの反発力と推進力
- 安定性
- フィット感
- グリップ力
ここが△
- 高価
- 足の筋力ができていないと疲れやすい
- トゥーボックスが狭め
- ややアッパーの耐久性が低い
近年ランニング界を賑わせ、もはや定着している感のある厚底カーボンシューズ。その流れがロードのみならず、遂にトレイルにもやってきました。The North Faceのフライトベクティブは、発表されるやいなやトレイルランニング界の話題を席捲しました。これまで個人的には同ブランドのシューズにそこまで期待はしていなかったので、この発表についても正直さほど期待はしていませんでしたが、やはり世界を賑わすあの厚底カーボンプレートを採用した本格トレイルランニングシューズ、スルーするわけにはいきません。で、履いてみたらやっぱり。想像以上に、カーボン効果とも言える初めての走行感覚が感じられました。
シューズを横から見ると、そのカーボンプレートがミッドソールの真上に配置されてているのが、ヒールの下部にちらっと除くカーボンのおかげで一目瞭然です。このカーボンプレートのおかげで、これまでのトレランシューズにはなかった、全く新しい体験をすることができます。
VECTIVの文字の部分と先端に、ミッドソール上に配置されたカーボンプレートがのぞいています。以前試走イベントでミッドソールの解剖モックを見せてもらいましたが、指先付近を除いてふんだんにカーボンプレートが敷かれています(下写真)。
やはり走ってみて明らかに他のシューズと違うのは、その推進力の高さ。平地ではもちろんですが、特に上り坂でその圧倒な的パワーを感じられます。テスト中、上り坂では普段通り走っているつもりだったのですが、いつもよりキツく感じることがありました。今日は体調が悪いのか?と、ふと時計を見てみると登坂のペースが明らかに他のシューズより早く、知らない間に勝手にスピードアップしてしまっていたようです(ロードでカーボンプレート入りシューズを履いたことがある人にはあるあるでしょう)。
さらにソールの前後がやや反り上がったロッカー構造も追い風となり、より足がスムーズに前に出て、スピードに乗ることができます。端的に言うと自分の考えている以上に足の回転数が上がる = スピードが出せるので、とにかくスピードを上げたいという人にとってはこれ以上にないシューズになるはずです。裏を返せば、必要以上にスピード出てしまい、筋力が足りない人は疲れやすく、足さばきがなれていない人は危険、ということ。まさに実力者のみに許された諸刃の剣……。
ミッドソールは柔らかくもなく、硬くもなくといったマイルドな調合で、しっかり足の保護もしてくれるし、反応もしっかりしてくれ、とてもちょうどよい硬さ。またカーボンプレートはかかととから前足部の両側を包み込むように縁が立ち上がった立体形状をしており、それによって着地時の安定性も非常に高くなっています。
さらにフィット感も秀逸。シュータンとシューズは完全一体型となっていて、人によってはシューレースを結ばなくても十分なフィット感を得られます。シュータンのシューレースが交差する部分は少し厚くなっているので、もっとフィット感を高めたい人がシューレースを強めに閉めても足の甲が痛くなることはないです。
ただフィット感は高いのですが、先端の形状はややタイト目なので、シューズ選びにつま先のフィッティングをいつも気にしている人にとっては、窮屈かもしれません。つま先に遊びがないことから、長く走るのには向いていないようです。アッパー側面高耐久のケブラーで編んだ生地を採用して通気性・耐久性を持たせていますが、他部分、特に先端部のアッパー素材は耐久性も心配。30㎞くらい走るともう摩耗が出ていました。
テストを通してあらためて感じたのは、話題になっているカーボンの反発力、だけじゃない、全体的なバランスもとれた良シューズであるということです。レースで上位を狙うような人にとって最適であることは間違いないのですが、だからといって快適性や安定性を無視するほど削ぎ落とされたようなシューズというわけでもない。トレラン愛好家レベルでも十分楽しめるでしょう。
ただそうはいっても、カーボンプレートの反発力によってこれまでのシューズとは明らかに違う走りをさせてしまうことは確かです。意図ぜずスピードが出てしまうことで、体力を早めに使い切ってしまう恐れは否めず、その意味ではやはり万人におすすめできるとは言えません。具体的には、楽しむためのランで履いても有り余るスピードがもったいないし、普段のトレーニングで履いてもプレートのサポートによってトレーニング効果が薄れてしまいます。やはりこのシューズが最も活きるのは、ここぞというレースなのではないかという印象でした。
Hoka One One チャレンジャーATR 6
元祖厚底ランニングシューズといえばこれ。軽量かつ極上のクッションでロードもトレイルも軽快に
ここが◎
- オールラウンド
- クッション性
- ロードも軽快
- 軽量性
ここが△
- タフな地形に弱い
- 耐久性
- プロテクション
今やランニングシューズにすっかり定着した分厚いミッドソール+ロッカー構造。これらをいち早く採用してきたHoka One Oneはこの分野の先駆者といっても過言ではないでしょう。そんなHoka One One のトレランシューズを代表するモデルチャレンジャーATRはアップデートを繰り返しながら今期はバージョン6となりました。
やはりHoka One One独特のフカフカのクッショニングは一度履いてしまうと他の靴には戻れないほど。つま先側もかかと側にもしっかりとクッションが効くので、特に下りセクションではこの恩恵を十分に受けられます。横から見るとわかりやすいですが、つま先24mm・かかと29mmと極厚。しかもただ柔らかいだけでなく、ミッドソールの適度な反発力とロッカー構造のおかげでスイスイと前に進ませてくれます。この感覚は他では味わえない専売特許でしょう。
後ろから見ると横にもミッドソールにボリュームがあるのが分かります。フカフカなので着地時の安定性は悪くなりがちですが、それに対応するために横幅にボリュームを持たせ安定感を高める工夫をしています。岩などの突き上げからもしっかりと足裏を保護してくれます。
ただ、一方で岩場やガレ場、木の根などが多い凸凹したトレイルではこの厚みのおかげで足裏感覚が薄くなり、スムーズな足さばきが難しくなり、そうしたテクニカルな地形が多いトレイルではこの靴の良さが現れにくくなるでしょう。同じように、泥が多い路面、急な斜面、テクニカルなセクションにはこの分厚いミッドソールは向いていません。緩やかな地形であったり、ある程度整ったトレイル、さらにはアスファルトなどのロードセクションを交えたコースならばならば気持ちよくスイスイ進めるでしょう。
もう一つ気になるのは耐久性です。中間部はミッドソールが露出し、アウトソールは先端とかかと部分にのみ配置されている軽量仕様ため、早めにミッドソールが削れてきます。アウトソールも耐久力は決して高くないため、他モデルと比べてもソールの消耗は激しい方でした。同ブランドのSpeed Goatのようにビブラムソールで悪路をガンガン行くようなモデルではなく、先述した通りあくまで比較的走りやすいトレイルを走るためのシューズです。
アッパーもかかとはある程度補強してあるものの、サイドの補強は薄め。険しい地形で激しい摩耗や障害物に対してはそこまで強くはありません。
総じて、やはり代名詞ともいえるクッションとロッカー構造は健在で、それだけでも選ぶ価値はありそうです。しかし、スピードを出して走るようなランナー、険しい地形でアップダウンも激しいルートなどにはフィットしないかもしれません。マイルドなオフロードのトレイルを自分のペースで気持ちよく走るためのシューズ、逆に言えばロードからトレイルまで幅広く対応できる万能シューズともいえます。ビギナーから中級レベルのランナーが気持ちよく長時間走るためには非常に良いシューズです。シリアスランナーも息抜きにこのシューズを選べば、トレイルを走る楽しさを再発見できるかもしれません。
Brooks カタマウント
抜群のフィット感と適度なクッション、優れた反発性がバランスよく融合し、弾むような乗り心地を実現した快適スピードシューズ
ここが◎
- 優れた反発力
- 抜群のフィット感
- 軽量ながらも十分なクッション性
- ロードも軽快
ここが△
- タフな地形に弱い
- 厚いミッドソールにより足裏感覚は低め
ブルックスはアメリカのランニングシューズメーカー。アメリカ国内におけるランニングシューズシェアはかなり高いのですが、日本では知名度は高いともいえず情報も少ないので、興味があるけどよくわかんない…という人も多いことでしょう。今回取り上げたカタマウントは、そんな日本での知名度をぐっと高める一足となるかもしれません。同ブランドの魅力が詰まった一足です。
メーカーによるカタマウントの基本的な位置づけとしては、100マイル(160km)もの長いトレイルに耐えられる、軽量レース用シューズということからも分かるように、耐久性とスピードを両立した作りを(それが成功しているかどうかは別にして)志向しています。まずそれが最もよく現れている点のひとつが、ロード用超スピードモデルのミッドソール「DNA FLASH」を形状こそ違えど(ほぼ)そのまま採用していることです。これによってロードのシューズを履いているかのような軽快さと、地面を弾むように進んでいける乗り心地が、オフロードのトレイルでも体感することができます。前述したフライト ベクティブと比べると、こちらはバネのようなあからさまな反発というよりは、少しねばりのある適度なサポートとしての心地よい反発でとても滑らか。あくまでも相対的な印象ですが、スピードに乗せられるのではなく、スピードに乗っていけるといった感覚に近いです。
ミッドソール厚は数値上、今回の中で最も厚くなっています。ただこちらはHoka One One チャレンジャーATRのマシュマロのようなフカフカ感ではなく、適度に硬めのしっかりしたフォームで、それが高い反発力にも繋がっています。さらにこのミッドソールはかかと部分がレーシングカーのシートのように包み込むような立体形状をしているため、フィット感・クッション性だけでなく、着地時の安定性向上にも貢献しています。
スピードと安定性を両立したミッドソールに加え、このシューズのもうひとつ大好きな部分は、その履き心地の良さでした。アッパー全体にはメッシュ生地が張り巡らされ、その適度な柔らかい肌当たりと包み込まれるような高いフィット感は今回履いた中でもトップクラス。通気性も良好です。ミッドソールに繋がっているシュータンはかかとから母指球あたりまで、そして足の甲をしっかり包んでくれます。トゥーボックスには適度な遊びがあり、長い距離でも疲れにくい、トレランにはちょうどいいフィット感です。アッパーの周りには薄いながらもしっかりとTPU補強がなされています。つま先部分はこの補強だけでなく、柔らかめのプレートが入っているので、足先のプロテクションも十分です。なお、地面の石や木の根からの突き上げに対してはソールに内蔵された「Balistic Rock Shild」プレートが守ってくれています。
一方で、やや惜しいのがアウトソールのグリップ力。ラグが浅めの独自「TrailTrack」ラバーは、見た目通り案の定、ぬかるんでいたり極度に柔らかい路面、急な下り坂、急な方向転換は苦手でした。ある程度スピードが出ていても緩やかな斜面でばらばそこまで気になることはありませんが、ハードな地形や天候条件の悪い場合などには要注意です。
さすが長年トップシェアを誇っていただけある快適な履き心地と、必要十分なクッションとプロテクションに加え、軽くて強い反発力をまとったカタマウントは、高いレベルでのバランスを持ちながら、さらにいつも以上のスピードを獲得したいレース志向のランナーに特におすすめしたいシューズです。本気でトレイルランに取り組むランナーならば、きっとこのシューズでブルックスのモットーである「Run Happy」を体験するでしょう。
ハードな地形には向かないと書きましたが、逆に言うと浅めのラグはロードもトレイルも大きな違和感なく走り続けることができるので、そうしたミックスコースに対しても強いかもしれません。またロードからトレイルランに転向してくるランナーにとってもベストな選択肢の一つだと感じました。一方メーカーは“designed and built for 100 miles of run happy.”というメッセージとともにかなり長距離レースに最適化しているように謳っていますが、印象としては、万人にとってそこまでの長距離に耐えられるほど足への負担を減らす作用は感じられませんでした。ここに関しては参考程度に捉えておくのがいいだろうというのが個人的な感触です。
Nike エア ズーム テラ カイガー 7
優れた快適さと安定性を保ちながら、トレイルを楽しく走るための要素も忘れない良バランスシューズ
ここが◎
- 地面を繊細に感じられる足裏感覚
- プロテクション
- フィット感
- 適度なクッション
ここが△
- 濡れた路面には特に弱いグリップ力
厚底カーボンプレートをはじめ、ファッション性だけでなく常に最先端の技術で競技者のパフォーマンスレベルを向上させてきたナイキが、現在の最先端クッションテクノロジーを搭載して開発した、軽量トレイルランニング向けモデルがこのエア ズーム テラ カイガー 7。「大地の王」と名付けられたこのシューズは、オフロードを快適に走るための機能と、野山を走る楽しさを失わない絶妙な味付けが融合した、ある意味ナイキらしいシューズ。印象的なハイ コントラストのカラーリングも、他のシューズと一線を画しています。
テラカイガーの特徴が最も現れているのは、やはり他のランニングシューズメーカー同様、ロードシューズにも使用されている独自技術を採用したミッドソールにあります。ミッドソール全体には独自の「Reactテクノロジー」を取り入れた軽量で耐久性の高いフォームを、そして前足部の一部には「Zoom Airユニット」が搭載されています。このミッドソールのおかげで、柔軟性のあるクッショニングとキビキビとした反発力を両立した、快適な乗り心地を感じることができます。
クッションは着地するとやや沈み込みますが、かかと周辺のミッドソールはソリ上がっていて包み込んでくれているのと、接地面を広く取っているので着地時の安定性は高めです。着地するとミッドソールの反発力でそのまま滑らかに前に進ませてくれます。走り始めると、思わずニヤッとするほど楽しさがこみ上げてきます。
適度な心地よいクッション性と反発力にもかかわらず、ソールの厚みは今回の中では最も薄く、このため地面の凸凹を足裏で繊細に感じとりながら着地を決めていく、まさにトレイルを走る醍醐味が最も感じることができるシューズです。
アウトソールは、前足部にはやや柔らかめ、かかと部には硬めと異なる硬度のラバーを使用し、グリップ力と耐久性のバランスを持たせています。そのため、濡れた岩や木の根っこにかかとから着地しに行くと滑ることがありました。スピードシューズなので、スピードに乗って走っている時はかかとのグリップは滑りやすいので注意が必要です。ロックプレートも入っておりトレイルからの突き上げを防いでくれますが、どうやらロックプレートはソール全体的に配置されているのではなく、必要な場所にのみ配置しているようで、つま先部分ではむしろ地面の感覚を敏感に感じながら走ることができます。
アッパーは全体的に大きな穴を散りばめているので通気性はとても高く、特に夏など高温下でも蒸れにくそうです。アッパーの外側をだけ見るとユルそうでとフィット感が心配になりますが、アッパー下に伸縮性のある生地がミッドソールから伸びており、足の甲からつま先までをしっかり包んでくれ、見た目と裏腹にフィット感は抜群です。
ヒールカップはやや浅めですが、アキレス腱のまわりを厚めのパッドで囲うため、しっかりシューレースを結べばブレることはありません。
総じて、快適なフィットに地面をしっかりと掴めるかのような柔軟性、クッション性と反発力を両立したミッドソール、軽快な足さばきを可能にする軽さとオフロードでも安心の堅牢性と、(グリップを除いて)トレイルランを楽しむために必要な要素がバランスよく備わった、非常にオールラウンドな楽しいシューズです。ナイキがここまで優等生的なシューズを作るとは、正直意外です。
自分はこれまでテラ カイガーの前モデルをはじめとしたナイキのトレイルランシューズを何度か履いたことがありましたが、多くはつま先が細すぎたり、ソールのグリップが弱かったりと、正直期待はずれなことが多かったのが実際でした。ところがこのバージョンアップしたテラ カイガーは、これまでの残念な印象を180°覆す、これまで履いてきた様々なシューズと比べても、素晴らしい要素を沢山持っている一足といえます。
このバランスの良さはレースにも、100㎞超えの長距離でも不可能ではないと思いますが、それぞれに特化したモデルに比べればそこまでのメリットはありませんので、利用目的が明確に決まっている場合には他の選択肢もありえます。
快適に走ることはもちろん大切だけど、できる限り多様な地形を走るトレイルランの楽しさを感じたい、そしてできることならシューズに頼らず自分の脚力で野山を駆けたい。週末トレイルにも、レースにもという欲張りにはもってこいです。
adidas テレックス スピード ウルトラ
スピードランナーが高速でトレイルを走り続けるための超軽量シューズ
ここが◎
- 軽量性
- 柔軟性
- グリップ力
ここが△
- 安定性
- クッション性
- 快適性
アディダスは昔からTerrex(テレックス)というブランドでアウトドア向け製品を開発していますが、実際のところ日本ではまだあまり認知度が高いとはいえません。かくいう自分も、つい最近になってハイキングシューズ Free Hikerを履くまではその実力を実感することはありませんでした。しかしこのサイトでも散々いろいろな製品を取り上げているように、やはり世界的スポーツメーカーの巨人ならではの開発力と付加価値の高さには疑う余地もありません。そこで今回はここから最新のトレイルラン向けスピードシューズ、スピード ウルトラをピックアップしました。
まず前提として、このシューズは見た目からも明らかなように、今回の中でも特に純粋なレーシングモデルであることは留意する必要があります。まずミッドソールでからして「BOOSTミッドソール」「Lightstrikeクッショニング」をダブルで使用しおり、これはアディダスのロードシューズでも、レーシングモデルに採用されているコンビネーションです。そのおかげで、200g半ばという重量も相まって足入れから走り初めまでとても軽快で、とてもトレランシューズとは思えません。
もちろんロードレースで実証されているミッドソールなので、早く走るためのクッション性・反発力、そして着地時の足裏の感覚はすごくよく、一連の動作は非常に滑らかに進ませてくれます。硬めのトレイルなら、アスファルトかのようにテンポよく走れるでしょう。もちろん舗装道路での走りやすさは今回の中でもトップクラスです。
アウトソールには、自転車や車のタイヤで有名なコンチネンタルとの共同開発したコンパウンドを使用しています。このグリップ力の確かさはハイキングシューズで試したときでも実感していますが、今回もスピードに乗ったブレーキングやカーブでも前後左右にしっかりグリップしてくれます。しかしラグは少し浅めですので、あまり過信しすぎると、ぬかるんだ地面や滑りやすい濡れた岩などで思わぬスリップがあるかもしれません。
アッパーは目の細かいメッシュ地で、他のシューズのアッパーと違い疎水性の素材なので速乾性にも優れています。トゥーボックス部分は生地が一重なので通気性は非常によく、蒸れることは一切ありません。よく見ると内側からストライプ状に補強用の生地が溶接されていますが、通気性には関係なさそうです。つま先部分に薄くプロテクターが溶接されているのと、一番ダメージの来る親指部にはより厚めの補強が施されているので、レーシングシューズとしてはプロテクションは必要十分です。
全体的に欠点が少ないように見えるこのシューズ、個人的にはスピードを出して楽しく走れるので好きなのですが、やはりレーシングシューズという枠からは外すことができません。薄く軽量な構造は、足の筋力ができている人でないとやや安定感に不安が残ります。また潤沢なクッションやフィット等もできる限り削ぎ落とされている以上、他の快適なモデルに比べれば、妥協する必要が出てきてしまいます。
適正な距離に関しても、名前に「ウルトラ」を冠しておりメーカーも「長距離を走りぬくための~」と謳ってはいますが、共同開発したトム・エヴァンスのようなトップ選手でないと若干無理があるのではないかという印象です。しっかり練習した人が、ショートディスタンスから50kmくらいまでのレースで使えば、これまでの記録を塗り替えられる走りができるのでは。トレランシューズではかなり軽量の分類に入るので、バーティカルのようなレースにもばっちりでしょう。
montrail F.K.T.アテンプト
オールラウンドな性能でどんな状況でも使いやすい万能シューズ。コスパもNo.1
ここが◎
- オールラウンド
- バランスの良さ
ここが△
- これという秀でた要素がない
初めて買ったトレランシューズはコロンビア、2足目はモントレイルだったので、今のコロンビア モントレイルには一入の思い入れがあります。そのモントレイルの代表モデルであり、幅広いランナーに愛されてきた「バハダ」シリーズのソールユニットを継承し、新たなテクノロジーを採用した新作がF.K.T.アテンプト。期待しないはずがありません。
まず足を入れた感想は、しっかりとした作りだ、ということでした。ミッドソールは適度に厚く、足首回りは厚めのスポンジで抱えられ、足の甲からつま先までもしっかりホールドされているのがわかります。ミッドソールはモントレイルの「Fluid Foam」で、着地時の安定感はよく、クッション性・衝撃吸収性の高さがうかがえます。しかし蹴りだしはやや鈍く、今流行りの反発力はさほど感じられません。アウトソールのパターンは四角形のブロックがちりばめられたようになって、四方へまんべんなくグリップが効くようになっています。これはバハダを彷彿とさせます。グリップは悪くないのですが、目が細かいので目詰まりしがちでした。
ロックプレートのようなもの「Trail Shield」がアウトソールとミッドソールの間に挟んであるせいもあると思いますが、走っていてもあまりしなりなく硬めの印象です。しなりやすくするためか、アウトソールには縦横に切れ込みが入っていて柔軟性は持たせていますが、そこまで効果的とは言えません。
アッパーは異なる目のメッシュが二重になっているのと、フィット感を高めるためのミッドソールからシュータンまで伸びる伸縮性のあるメッシュ生地も加わるため、アーチ部分からつま先にかけては、三重メッシュになっています。これだけ生地が折り重なっていると、通気性はよいとは言えず夏は蒸れそうです。アッパーとミッドソールに接する部分は、つま先~サイド~かかとまでしっかり厚めの補強が入っているので、プロテクション、左右のブレへの安定性、耐久性も高そうです。
走りに与えるこれ!といった特筆する特徴がなく、相対的には低めの評価になってしまいましたが、今回は比較対象が強敵過ぎたかもしれません。しかしオールラウンドに使え、耐久性もあることから、値段のことを考えると(フライト ヴェクティブの半額以下…)コストパフォーマンスの非常に良いシューズです。レース用スピードシューズは比較的耐久性も低いことが多いので、普段の練習はF.K.T.アテンプトを使い、レースは自分の脚に合ったレースシューズという具合に選ぶのもありです。
まとめ
正直今回の比較レビューは非常に迷いました。各評価項目をもとに順位をつけはしましたが、順位をつけるという行為自体がとても心苦しいほど良いシューズぞろいで、順位によって良いシューズが埋もれてしまうのでは…と気をもんでいます。順位はついていますが、それは気にせず自分がトレランシューズに求めているものにを明確にし、自分に適したシューズを選んで欲しいです。
例えばHoka One OneのチャレンジャーATR6は、とにかく早く走って表彰台を狙いたい人にはおススメできませんが、快適に長時間楽しく走りたい!という人には、最も適したモデルとなり得ます。逆にadidas スピードウルトラは、ロードが得意な人がトレイルランニングを始める時や、ロードのように山道をスピーディーに走りたい人向けですし、The Norht Faceのフライト ベクティブは、しっかりと練習したランナーがここぞ!というレースで表彰台を狙いにいくという場合にはうってつけです。自分が求めているものを明確にすることは、よい靴を選ぶ第一歩です。この記事がその一端にでもなれば幸いです。