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最適スリーピングバッグ(シュラフ)で身体の芯からぬくぬくと ~選び方とおすすめの8つ~

目次

快適な寝袋をもつと、山の夜が待ち遠しくなる

さえぎるもののない満天の星空を、極上の寝袋に包まれながら満喫──。今までの野外生活を振り返ってみて、これを上回る至福のひとときはそうそう思い出せません。

ふかふかのスリーピングバッグ(またはシュラフ、寝袋)に身体を突っ込み、果てしなく続く銀河を眺めながら眠りに落ちる喜びは、苦労して重い荷物を背負い、不快な身体で何日も過ごすテント泊の苦労をすべて帳消しにして余りある、心が洗われるかけがえのない瞬間です。ただ思えば実際のところ、そんな唯一無二の夜を迎えるためには多くの幸運と準備が必要でした。晴天で月明かりが少なく、無風で、厄介な虫がいないといういくつもの環境的な条件もさることながら、何よりも快適なスリーピングバッグに入っていることが贅沢な夜のために欠かせない重要な要素であったといえます。

この先長く寄り添っていく大切なパートナー選びのために

もちろん、野ざらしの屋外ではなくテントで一夜を過ごしたとしても、スリーピングバッグが重要であることは変わりません。機能しないスリーピングバッグでは、睡眠の質も量も削がれるばかりか、溜まった疲れによって行動時のリスクは増し、負のスパイラルへまっしぐら。泊まりがけ山行での快・不快を分けるのはひとえに、テント泊での最重要ギアのひとつであるスリーピングバッグ選びにかかっているといっても過言ではありません。

ただ、一言でスリーピングバッグといっても、現在では大きさ、形、重さや詰め物などさまざまな違いによって、下は数千円から上は10万を超えるモデルまで、用途によって膨大な種類の「アウトドア用寝具」が用意されています。多岐にわたるチェック項目、手頃とはいえない価格、多くのバリエーション。そんな中から自分にとって最適なスリーピングバッグを選ぶということは決して楽なことではありません。とはいえ1度購入すれば何年も使い続けることになるであろう、大切なパートナーであることは確かです。いつか歩き疲れてドロドロになった身体を快適な寝袋のなかに滑り込ませたとき、きっとここでの苦労が無駄ではなかったと思えるはず。ぜひとも慎重に選びたいものです。

そこで今回は一般的な登山に使用するための最適なスリーピングバッグ選びで注意すべきポイントをこのサイトなりにまとめてみました。既に世の中ではこれらの選び方について、ガイドやカタログ、雑誌等の記事が多く流布しており、今更それをなぞっても面白くありません。このサイトでは例によって前半では現在の最新モデルを一通り検討し、実際に購入するまでの経験を基に実践的な購入アドバイスを中心に、後半ではフラットな立場からおすすめの注目モデルを紹介していきたいと思います。

目次

ポイント1:対応温度域~どのくらいの温かさが必要か~

最適なスリーピングバッグを選ぶ際に何をおいても大切なのは、正しい対応温度域のモデルを選ぶこと。対応温度域とは端的にそのモデルがどの程度の気温のなかで使用するのがベストかを示してある目安であり、スリーピングバッグの保温性能を表しているといえます。その話をする前に、昔からスリーピングバッグは気温との関係で大きく以下の3つ程度の分類がなされてきました。

種類 夏(1シーズン)用 春秋(3シーズン)用 冬(オールシーズン)用
特徴 夏の低山や平地で使用することを想定した最も軽量・コンパクトで高い温度域のみに対応したスリーピングバッグ。 春秋の低山や夏の3,000m級の高山に対応したスリーピングバッグ。 本州でいうと中級の冬山や残雪期の高山に対応したスリーピングバッグ。
最低温度の目安 約5℃以上 -5~5℃程度 -5℃以下

一般的な登山で使用するスリーピングバッグは、基本的には上の分類のような3種類があれば十分ということを示していますが、はじめからすべて揃える必要はなく、このうちまず最低限揃えておきたいのは3シーズン用です。真夏の低山では少々暑すぎますが、それでも使用できないことはないことから、最もカバーする期間が長いことがその理由。その後は活用頻度や予算に応じて夏・冬用を追加していくというのが無駄や失敗の少ない方法です。人によって冬用は3シーズン用+夏用を二重にして使用するなどの猛者もいます。要はここから先はそれぞれのやり方で工夫の仕方も色々あるということです。

近年では同じ3シーズン用のなかでもブランドやモデル次第で温かさはさまざまで、最適な寝袋選びにはさらに細かいチェックが必要です。そのためにあるのが各モデルに必ず提示されている対応温度域表示。かつては各メーカーがバラバラの基準で提示していましたが、近年では国際基準が浸透しつつあります。それがこれから説明するヨーロピアン・ノームです。

参考温度域の主流:ヨーロピアン・ノーム(EN)13537

最近のスリーピングバッグの多くはヨーロピアン・ノーム(EN)13537と呼ばれる基準に基づく参考適応温度域が示されています。EN13537 は2000年代にEU諸国内で使用されはじめましたが、現時点では最も信頼のおける指標として世界各地に広まりました(それでも決して安くはないテスト費用やその信憑性への疑念からまだこの基準の採用に踏み切っていないメーカーも存在しているのが現状)。この基準では次の3つの指標がセットになって表示されます。

EN を100%信用してはいけない理由

そうと分かれば、自分がこれから行くであろう場所の大まかな気温を天気予報参考ページなどで確認し、それが EN の示す温度域内に収まるようなモデルを選べばよい、ということになりそうです。しかし実際にいろいろなモデルを購入し試してみると、事態はそう簡単ではないということが分かります。端的にいうと、試してみたほぼすべてのモデルが EN の表示ほどに温かいとは感じられないのです。

画像:Kansas State University

その大きな原因はテスト方法にあります。EN13537 の計測方法では実験室の特定条件下で、特定の「標準」体型のみを測定したにすぎません。そこには使用者の体型・体質・その日のコンディション・着ている服・敷いているマット・中綿の圧縮率といった膨大な条件の多様性が失われているわけで、その点では実際にテストと同じ条件で使用する可能性は限りなくゼロに近い。このことはやや乱暴な言い方をすると、自動車のスペックでいうところの「(出そうと思っても限りなく不可能に近い)カタログ燃費」に近いものと考えると分かりやすいのではないでしょうか。

つまりこれらの数値は残念ながら誰もが鵜呑みにできるような数値ではないということではありますが、そうだとしても、統一された計測方法で算出された数値であるという意味では、かつてのようなメーカー毎バラバラの基準よりはマシと考えるべきです。少なくとも同条件での保温力を比較することは可能なわけなので、それを上手く活用するのが現時点での賢い選び方となります。

実際にどうやって温度域を読むか?

表示された温度域に惑わされないためにどうするか?それは現時点でも、そしておそらくこれからも「確証がない限り常に表示よりも余裕をもった温かさを選ぶ」のが正しいやり方でしょう。ハイキングハンドブックによると EN の下限温度は弱い風やマットレスの断熱性だけでも7~9℃くるう(その影響力は気温が低いときほど顕著)といわれており、メーカーの数値を鵜呑みにすると「死ぬ程度」のモデルを選択してしまうかもしれないと警鐘を鳴らしています。

個人差・環境によってもある程度の誤差は生じると考えておく方がよく、使い慣れたブランドや熟練者以外であれば、EN表記(女性の場合は「快適」男性は「下限」)から5~10℃は余裕をもった温度で考えておくのが間違いないと思います。具体的には温かめのモデルを選ぶか、あるいは寒いこと前提で防寒着を多めに持っていくかなどです。それでも万に一つは目論見と違ってしまうこともあると思いますが、その時には重すぎる・暑すぎるという失敗はあれど、低体温症という深刻なリスクは避けられているはず。その教訓を次の選択に活かすことができると考えれば前向きになれます。

なお、メーカーによってはまだ EN による温度域表示ではない場合も考えられますが、その時も基本は同じ。確証がない限り余裕をもった温かさを選ぶのがよいでしょう。

選ぶときのポイント

ポイント2:中綿・表面素材

対応温度域で候補を絞り込んだら、次は中綿の種類を検討します。スリーピングバッグの保温力は、中綿が膨らむことによってできる動かない空気の層(=デッドエア)が体温によって温められ、さらに外気を遮断する断熱層となり身体全体を包み込んでくれることによって生まれます。つまり保温力はどれだけデッドエアを蓄えることができるかということにかかっています。ちなみにデッドエアを蓄える空間の膨張具合をロフト(嵩高さ)といい、中綿はできる限りロフトを確保するために超重要な役割を果たすわけです。

中綿に使われる素材には天然のダウンと化学繊維がありますが、現状で重量あたりの保温力が最も高いのはダウンです。軽くてコンパクトで温かい、ダウンのスリーピングバッグを選んでおけば通常の登山ではほぼ間違いはないといえます。ただ、弱点が無いわけではありません。以下にメリット・デメリットの比較表をまとめました。

素材 ダウン 化繊 ハイブリッド
メリット
  • 軽い
  • 圧縮性に優れる
  • すぐに温まる
  • 低温で乾燥した環境ではより保温力が増す
  • 通気性に優れる
  • 手入れによって長持ちする
  • 幅広い選択肢
  • 濡れた状態でも高い保温性を維持する
  • 速乾性がある
  • 体重でロフト(嵩高)が潰れにくい
  • アレルギーなどの心配がない
  • 手入れが簡単
  • ダウンに比べれば安価
  • ダウンと化繊双方の強みを採り入れできる限りの保温力を発揮
デメリット
  • 濡れた状態で保温力が失われる
  • 体重で潰れてしまった部分の保温力が失われる
  • 乾くまでに時間がかかる
  • 手入れの手間がかかる
  • 高価
  • 重い
  • 寝心地がやや悪い
  • 圧縮性が低く嵩張る
  • ダウンに比べれば寿命が短い
  • 温まるまで時間がかかる
  • 場合によってはダウンと化繊の弱点も併せもってしまう
  • 選択肢が少ない
適した状況や使い方
  • 軽さやコンパクトさを重視したい場合
  • 雨や水辺など濡れる心配が少ない場合
  • 予算に限りがある場合
  • より濡れる可能性が高い場合
  • 重さや荷物の大きさによる影響が少ないオートキャンプなど
  • 幅広いアクティビティに使用可能

ダウンは高性能ですが、価格が高めで、濡れに弱い。このため軽さ・大きさよりも価格を重視する人や、沢登りなどザックが濡れる可能性が高いアクティビティが多い人(=学生時代の自分)にとってはダウンよりも化繊の方が適している可能性があります。ただ幸いなことに最近の化繊中綿の進歩は目覚ましく、今や化繊だから重いとか、快適じゃないとか言ってもいられない状況が眼の前に来ていることは確か。試しに一度お店で実物を見比べてみることをぜひおすすめします。

一方でダウンの方も日々進化を続けています。保温力は若干落ちてしまうものの、弱点である濡れに対する弱さをある程度克服し、微細な粒子によって潰れにくく、痛みにくくなった「撥水ダウン」が多く見られるようになりました。ただ撥水ダウンは湿気によるロフト低下などには有効なものの、どこまでいっても「防水」ではないため、結局何らかの浸水対策は必須です。その意味では正直なところまだそれだけのために購入候補になるかというと微妙なところ。

ダウンを選んだらここもチェック(種類・産地・FP・比率)

ダウンの品質については、TVやラジオでよく見かける通販番組の羽毛布団ではないですが、実際に驚くほどさまざまな要素が品質に影響している世界です。ここではそれらひとつひとつを事細かに紹介することはせず、その代わり良質なダウン・スリーピングバッグを選ぶために知っておくとよいポイントを絞って説明します。

ダウンの種類・産地

より大きなロフトで嵩高性に優れ、高い保温力を発揮し、臭いも少ないなど、最も高品質であることが多いといわれているのがヨーロッパ産のグース(がちょう)から採れたダウンです。一方その他の地域で育てられた水鳥や、グースではなくダック(あひる)から採取されたダウンは(すべてではないものの)中~低級であることが多いといわれています。最高級のグースダウンとなると飼育日数も大きく影響し、丁寧に飼育された21週間後のグースから最高級のダウンが採れるともいわれています。

ダウンのFP(フィルパワー)・比率

FPとはダウンにおけるロフトの復元力を表す指標で、FPが高いということはそれだけ個々の羽毛(ダウンボール)が大きく嵩高性に優れている、すなわち高い保温性を発揮するといえ、同じ温かさなら高いFPの方が、軽くてコンパクトな寝袋が作れるということになります。上述した水鳥の種類との関係でいうと、ダックダウンの場合、高くても750~800FPまでのダウンしか採取できないのに対し、グースダウンからは900FPか、それ以上の高品質ダウンが採取できるとか(出典:REI.com)。

一般に650以上なら高品質ですが、値が高くなればなるほど価格は跳ね上がっていくため、ダウンを選ぶ際には価格をとるか、保温性・携帯性をとるかという無情な二者択一を乗り越えていく必要があります。

またダウンと一言でいっても、実際にはロフトを稼ぐために若干のフェザー(羽根)を混ぜてあるもので、その割合が90/10などと表示されています(90%ダウン、10%フェザー)。フェザーは保温性を高めてくれる素材ではありませんので、当然ダウンの比率が高い方が保温力が高く、肌触りも柔らかく、品質が高いと考えて良いでしょう。

表面素材

登山向けのスリーピングバッグの表面素材は主に引裂き・摩耗に強いナイロンリップストップやポリエステル、裏面は滑らかさを重視したポリエステルやナイロンタフタが使用されています。安価なモデルの場合、耐久性を保つためにとにかくぶ厚い生地で作られており重量がありますが、高品質なモデルの場合、耐久性を保ったまま生地は薄く軽くなり、さらにダウンの抜けを防ぐダウンプルーフ加工や、多少の水は弾いてくれる撥水加工など、多くのありがたい付加価値のついた高品質素材が使用されます

さらに特別なモデルでは、表面生地に防水透湿素材を採用した防水スリーピングバッグ、さらに縫い目にシームテープ処理を施して雨具並みの完全防水を謳った完全防水スリーピングバッグなどが要注目。日本ではスリーピングバッグカバーの文化が一般的なため防水寝袋という製品はあまりメジャーではありません。一方カバーの文化がない(?)海外では防水透湿生地を採用した高性能スリーピングバッグは日本以上にバラエティ豊富に展開されています。いずれにせよ、防水寝袋は濡れを防ぐためのカバーが不要なため、荷物全体を軽量化できる可能性があります。ただし防水透湿生地自体は通常よりも重たい生地のため、必ずしもカバー分の重量が丸々削減できるというわけではない点には注意が必要です。

選ぶときのポイント

ポイント3:形状・サイズ・構造

基本は「マミー型」一択

多くの登山ガイド記事には「封筒(レクタングラー型)」と「マミー型」という比較があることが多いこの形状についてですが、一体なぜ未だにこの問いが存在するのかさっぱり分からないくらい、現在ではもう迷うところ無くマミー型です。

寝袋はその昔1枚のブランケットに始まり、やがて2枚の毛布をつなぎ合わせただけの封筒型(=レクタングラー型)へ、そして登山やハイキング文化の発展とともにより効率的に人間の身体を包むことに特化した形(=マミー型)へと進化していった歴史があります。

レクタングラー型は見た目からも分かるとおりいわゆる布団に近い形状。狭苦しさはないので寝心地は多少よいかもしれませんが、いかんせん重すぎるし、頭部は完全に無防備で極寒状況での保温性に難あり。これに対してマミー型は、口の周り以外をスッポリ覆いながら身体と中綿との間の余分な隙間が極力ないように裁断され、重量をできる限り削減することで保温性・携帯性に優れています。つまりこのサイトに訪れる人のほとんどが関心をもっているだろうハイキングに適した形はマミー型しか考えられません(重さやスペースなどに十分な余裕があるオートキャンプなら話は別)。

より寝心地や効率性を重視した新しい形状に注目

それよりも今、面白いのは特にウルトラ・ライト系のスリーピングバッグの世界でしょう。伝統的なマミー型から派生したさまざまな形状が生まれています。

さまざまな3シーズン用スリーピングバッグの形状(左から): マミー型、フード無マミー型、フード・ジッパー無マミー型、ハーフキルト型、ウェアラブル型、キルト型(画像:OutdoorGearLab)

これらのモデルは伝統的なマミー型の効率性をさらに推し進め、保温性を極力損なうことなく重量・サイズを削減することに工夫を凝らした精力的なチャレンジが続けられています。その一例として、下の写真です。はじめからスリーピングパッドとの併用を前提とすることで裏面をバッサリとカット。寒いときにはパッドに巻き付ける形で通常のマミー型に近いモデルに。暑い時には結束をほどいて1枚の掛け布団状に。そんなさまざまな使い方が可能な sea to summit アンバー キルト シリーズは驚くほど軽量・コンパクトでありながら非常に幅広い温度域に対応できるスグレモノです。

 

サイズ

最も保温効果を高めようとするならば、スリーピングバッグと身体との間に余分な空間はない方がよいのですが、あまりにピッタリし過ぎてしまうと窮屈で寝づらい。最高なのは自分の身体のラインにピッタリフィットし、温かさと動きやすさのバランスがちょうどよいサイズのバッグをオーダーメードできることですが、もちろんそんな夢のようなサービスはまだ存在していないわけで、さしあたって今選べるのは多くのメーカーが採り入れているレギュラー・ロング・ショート、あるいは男性用・女性用といった身長・体型別のバリエーションサイズの中から自分にフィットするサイズを選ぶということでしょう(特に女性向けモデルは身長以外にも女性に対応したつくりになっているため強くおすすめします)。

ただ、いくつか寝比べてみると分かるのですが、スリーピングバッグのフォルムはブランドによってかなり違っており、身長が合っていても寝心地という点では合っているかどうか外からでは分かりません。このため最も確実な手段はなるべく実際に身体を入れてみるなりしてサイズと寝心地を試してみることです。ただ、残念なことにすべてのお店ができるわけではなさそうなので(正直それもどうかと思いますが)、試せるお店があればそこをフル活用するのをおすすめします。

構造

いくら低温に対応した高品質で大量の中綿を使用してたとしても、それだけではまだ安定した保温性を確保できるとは限りません。万が一生地内に封入された中綿が中で移動して偏りが生じてしまったとしたら、中綿の乏しくなった部分ではデッドエアが作れなくなり(コールドスポット)、全体として保温性は著しく低下してしまいます。それを防ぐためにスリーピングバッグは中綿の封入の仕方を工夫し続けてきました。ここではスリーピングバッグの主な中綿構造を紹介しますので、候補のモデルが目的に適った構造を備えているかチェックするとよいでしょう。

素材 シングル構造 ボックス構造 トラペゾイドボックス構造
イメージ
メリット
  • 構造がシンプルなので安価
  • 耐久性も高い
  • 軽量でコンパクトな収納が可能
  • 垂直の壁(バッフル)に仕切られた内部(チャンバー)は最大限のロフト性能を発揮(寝心地がいい)
  • コールドスポットができにくいため保温性は高い
  • ボックス同士が支え合う構造でダウンが安定し、保温性と軽量化を両立
  • 中綿の嵩を高く保てる
デメリット
  • 縫い目にコールドスポットができてしまいそこから熱が逃げていく
  • 生地量が増えるため相対的には重くなる
  • 縫製は複雑で高価
  • 縫製は最も複雑で高価
適した状況や使い方
  • 中綿が少なめで保温性よりも軽量・コンパクト性を優先する夏用スリーピングバッグ
  • 夏用から冬用まで幅広く使用される
  • 高度な保温性と軽量性が求められる冬用スリーピングバッグ

(参考:ISUKANANGAdeuter山岳装備大全ハイキングハンドブック、rei.com、trailspace.com

選ぶときのポイント

ポイント4:各種パーツ・特別な機能

最後にここまでの説明では収まりきらなかった細かいチェックポイントを挙げていきたいと思います。

伸縮性

前述したように、保温効率を最大限に高めるためには寝袋と身体の間には空間がない方がよいのですが、そうしたデッドスペースを作らないようにするための解決方法のひとつがこの伸縮するスリーピングバッグ。モンベルのスパイラルストレッチシステムやドイターのインサイドサーモストレッチ・コンフォートシステムなどが有名ですが、試してみると一目瞭然、中綿が身体に密着するので入った瞬間から温かさを感じられ、体感的な保温力は間違いなく数段上。ただ窮屈感という意味においては多少好みが分かれるところだとは思います。

重量・収納性

スリーピングバッグはダウンよりも化繊が、夏よりも冬と、中綿の質・量によってはかなりのボリュームになり、できる限り軽くてコンパクトである方がいいのは間違いありません。ただ一つ注意としては、そのカタログにあるスペック上の収納サイズは「付属のスタッフサックに入った時のサイズ」でしかないということ。下の写真のように、購入したままの状態では大きめでも、別売りのコンプレッションサックを用いることで、よりコンパクトに収納できるものもあります。また、付属のスタッフバッグ自体ががコンプレッションタイプになっているモデルもありますので、購入の際には確認しておくとよいです。

付属のバッグが少し余裕を持たせた大きさの場合、コンプレッションスタッフサックを使えばグッとコンパクトに(右端)。

フード

首から頭部にかけての部位は多くの熱が発散されているといわれ、保温性の確保にとっては意外と重要。夏用やウルトラ・ライト系ではそれほど重要ではないためカットしているモデルもあります。3シーズン以上のモデルでは頭部を覆うフードが自然にフィットするように作られているか、顔出し口のドローコードは締めやすく邪魔にならず圧迫感がないかなどを確認するとよいでしょう。

フードのつくりが平面的で簡素なつくりのモデルは締めたときに余計な空間が生まれフィット感もよくない(左)。より立体的で対応温度域に合わせた十分な量の中綿が封入されているモデル(中・右)はより温かく快適。

 

ショルダー(低温モデル限定)

冬用に近い3シーズンモデルには、外気の侵入を防ぐため首もと~肩にマフラーのようなチューブ状、あるいはU字状のショルダーウォーマーが付いています

首・肩周りの保温も形はさまざま。チューブをドローコードで締める形は調整しやすい一方、U字型よりも部品が多くなり重量の面ではロスになるなど一長一短。

ジッパー

スリーピングバッグにおけるジッパーの役割は大きく2つ。ひとつは寝袋への出入りがしやすくなること、もうひとつは開閉により通気性をコントロールし温度調節すること。なるべく大きく開いた方が使い勝手は向上します。ただし、少しでも軽くしたいという立場から考えると部品類は無いに越したことはありません。このため軽量化を重視したモデルでは全長の1/2~1/3程度の長さまでしか設けないか、あるいはまったく無いモデルも存在していますので、好みに応じて選ぶとよいでしょう。

その他、より低温での使用を意識した高品質モデルはジッパー部分がコールドスポットにならないようにジッパーの内側ライン上に中綿の詰まったドラフトチューブを配置しています。

ジッパー(写真の点線)に沿って中綿の入ったチューブが配置されている。

ジッパーが寝袋の裏表に付いていたり、裏にも回るようになっていると地味に便利。さらに上下両側から開けられるような仕組みになっていると、暑い時期に足を出して寝られるので温度調節がしやすい。

薄い生地をジッパーの上げ下げによって噛み込んで生地を傷めたりしないように、噛み込み防止機構が付いているモデルも。何の処理もされていない寝袋のジッパーはどうしても、ウソみたいに噛みやすいんです。

写真はナンガとYKKの共同開発による噛み込み軽減ファスナー。滑らかで開閉しやすいと共に、万が一噛み込んだとしても生地を傷めにくくなっている。

足元部分(フットボックス)の作り

寒さに敏感な足元部分(フットボックス)がゆったり立体的に縫製され、なおかつその部分に多めの中綿が封入されることによって、足元にかかる圧力が均一化し、保温性が向上。結果としてより快適な睡眠を可能にします。

寒さを感じやすい足元の羽毛を多めに封入。また足の形に合わせた立体的な構造が足全体を無駄なく均等に保温してくれる。

ポイント5:組み合わせて使用する寝具

スリーピングバッグはそれ単体でも使えないことはないですが、濡れを防いだり快適さや保温性を最大限にするためにセットで使用する優れた道具が多く用意されています。中には必須のギアもありますので、それらは忘れずに準備しておきましょう。

スリーピングバッグカバー

ダウンの弱点は濡れたときの保温性の低下であることは前に述べたとおりですが、にもかかわらずアウトドアでは日常生活と違い、水濡れリスクが意外と多いもの。突然豪雨に見舞われた時にうっかりザックの中で防水していなかった、テント内で水をこぼした、結露した水が上から垂れ続けたなど、浸水の危険は忘れた頃にやってきます。特に雨の多い日本では何らかの防水対策が必須と考えるべきでで、現時点では撥水加工技術であっても本格的な浸水には耐えられず、防水透湿素材のモデルはなぜか日本で入手できる選択肢が少なく、結果として防水透湿素材のスリーピングバッグカバーを別途準備するのがベターかと。ちなみにカバーによって若干の保温性向上にもつながります。

ライナー・シーツ

スリーピングバッグのインナーとして、主に保温性の向上のために便利なライナーは、手持ちの装備ではちょっと保温力が足りないなと思うときには非常に便利です。何よりもコンパクトさと価格の安さが魅力。素材はやはりコットンではなく化繊やシルクなどにしましょう。個人的にも長く重宝してたのですが、実はインナーとしてではなく夏用スリーピングバッグの代わりとしてという、今考えるとあまり勧める気はしない使い方をしていました。学生時代から社会人数年目まではこれと3シーズン、スリーピングバッグカバーの組み合わせで1年間をやりくりしていたという実績あり。

スリーピングパッド

いくらフカフカのダウンでも体重には負けてしまい、地面に接する部分は硬くて寝心地が悪いばかりか多くの熱が逃げていき、寝袋の保温性能を大きく損なってしまうため、寝袋下にはマットを敷くのが必須です。スリーピングパッドも目的やスタイルによってさまざまなモデルがあり、自分に最適なモデルを選ぶためには多くのコツが必要です。その重要性とノウハウについてはこちらの記事にまとめましたので、興味のある方は是非。

ピロー

余裕があればアウトドアに便利な膨張式の枕を使い、さらなる快眠に繋げるということも検討してよいでしょう。ただし、そんな余裕はないという場合でも来ていない衣類やタオルなどをスタッフバッグに入れて枕とする方法で十分補うことはできると思います。

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編集部のおすすめ3シーズン用スリーピングバッグ8つ

最後にこれまで編集部が使用してきたお気に入りのモデルや、最新の仕組みが搭載された注目のモデルをご紹介します。一部海外輸入が必要なモデルもありますが、そこは申し訳ないですが自由に選ばせてもらいました。基本的に積雪期以外なら大体問題なさそうな幅広めの3シーズンを選んだつもりですが、最適な温度域やサイズはユーザー個々によって異なりますので、そこはみなさんの方で別途検討してみてください。

ISUKA エア 450X 基本を踏まえつつ最新鋭の機能も押さえた寝袋のお手本

70年代から現在まで長らく日本が世界に誇る寝袋開発の高いクオリティを牽引してきた老舗ブランド。軽量で保温性抜群の800FPホワイトグースダウンと極薄・超撥水加工の軽量生地によって携帯性と保温性を両立。軽さのために何かを捨てることはせず、細かいところまでしっかりと作り込むその生真面目さが非常に好感。

mont-bell ダウンハガー800 #3 寝ても起きてもこのフィット感が心地よし

モンベルといえばダウン製品の高クオリティが北米でも認められつつあり、高品質グースダウンによるダウンハガーシリーズはその代表。超軽量・コンパクトながら高いフィット感を実現するスパイラルストレッチシステムの快適さは格別で、起き上がっても穿いたままあぐらをかいてしまうほど。その一方で、細かい部分ではジッパーやフード周辺の簡素なつくりなどやや物足りなさも。800FPモデルは重さと保温性のバランスが最も良いと思っていますが、予算が許せば900FPをおすすめしたい。同じ温度域でダウンの品質が選べる(650・800・900FP)のは嬉しくもあり、悩ましくもあり。

NANGA AURORA light 350DX 荷物がひとつ減るのはやはりインパクト大

近年益々勢いづく新進気鋭のシュラフメーカーは徹底したダウン品質へのこだわりに定評があり、修理費用無料の永久保証はまさにその自信の表れといえます。このモデルは760FPの高品質ダウンもさることながら、それを内包する表面素材に防水透湿素材のオーロラテックスを使用した「スリーピングバッグカバー不要」の高機能コンパクトモデル。日本にはまだ少ない防水スリーピングバッグの選択肢だけに、それでいてこの品質の高さは非常に魅力的です。予算に余裕があり、より低い温度に対応したい場合は860FPの高品質ダウンを採用した「SPDXモデル」もおすすめ。

Sea To Summit スパークSp Ⅱ 軽量コンパクトを極めた驚異のスペック

軽量化もここまで来たかと唸らせる、手のひらサイズで464gの3シーズン用スリーピングバッグ。表面素材は10デニールの極薄ナイロン、ダウンは850FPかつ撥水処理を施した最高級クラスのグースダウン。ジッパーの長さが全長の1/3程度などその徹底ぶり等をみるに、ある意味万人におすすめできるモデルではないかもしれません。その意味で非常に楽しみなモデルではあります。保温性に関しては若干心許ないところもあるので、残雪や晩秋の使用には注意が必要です。

タケモ スリーピングバッグ 3 高品質な日本の寝袋をすべての人に

2015年に設立されたという新しいブランドの創立者の方は、元々国内のアウトドア寝具メーカーに勤務していたというからそのクオリティは安心できます。何よりこのブランドの良さはボックス構造、ドラフトチューブ・ネックチューブ(ショルダーウォーマー)、足元の立体構造などといった保温効率的に最高クラスの作り(どことなく●SUKAのそれを彷彿とさせる)でありながら、手の届きやすい価格設定にあります。現在はネットでしか入手できないのですが、このサイトでも入手してみたので今後レビューを公開していきたいと思います。

THE NORTH FACE ゴールドカズー ダウンと化繊のハイブリッドが実現する高い保温効率

背中の圧力が最もかかる部分に潰れにくい化繊素材を配置し、ダウン潰れによる保温性の低下を克服したハイブリッドシュラフ。保温効率を最大化したことで、同程度のサイズ感や重量のモデルではトップクラスの保温力(下限-5℃)を発揮しています。個人的には裏地の肌触りが最高。ジャケットスタイルの形状をしたフィット感抜群のフード周りと首元をぐるっと回ったドラフトカラーがこの上ない快適さを提供してくれます。ただジッパーはちょっと噛みやすい。

Mountain Hardwear ハイパーラミナスパーク 大注目の次世代高機能化繊シュラフ

パッと見化繊とは思えないほど軽くて柔らかく弾力性のある独自中綿素材「サーマルQ」を裏表の生地に溶着固定させた新機軸のスリーピングバッグ。要は縫い合わせていないのでコールドスポットが生まれず、高い保温性が保たれます。さらにそうやって中綿を固定させられるため、冷えを感じやすい部分と不要な部分の中綿量をよりきめ細かくマッピングできる。結果として軽量コンパクトかつ保温性抜群の化繊シュラフが実現できています。センターに配置されたジッパーも使い勝手がイイですね。

finetrack ポリゴンネスト 6×4 徹底したユーザー視点で使い勝手抜群の超軽量化繊シュラフ

独自開発の中綿(というより保温シート素材)「ファインポリゴン」も次世代化繊シュラフを引っ張る興味深いモデル。これが化繊かと思わせる軽さとカラッとした肌触りにまず驚き。さすがにダウン並みの保温力は望めないものの、湿度に影響を受けない安定した保温性や軽量性、コンパクト性、速乾性、丸洗いできるメンテナンス性という点では、特に暑く湿気の多い時期での使い勝手のよさはハンパない。マグネット式のジッパーフラップも地味に好き。さらにさまざまなクラスを「組み合わせて」使うというコンセプトは自分のコレまでの使い方に非常に近く、共感せずにはいられません。この「6×4」を中心に「1×1シールド」「1×1UL」を駆使すれば、少ない投資で1年間をフルにカバーする自分にピッタリの構成を作ることができます。

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