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むしろ毎日でも寝たい。今シーズンおすすめの登山向け寝袋(シュラフ)と自分に合った寝袋の賢い選び方

快適な寝袋があれば、山での夜が待ち遠しくなる

静まり返った満天の星空の下、お気に入りの寝袋に潜り込み、極上の心地よさに身をゆだねながら眠りに落ちる夜──。実際にはテント内で寝ることが多いとはいえ、大自然との繋がりを感じながらの睡眠は間違いなくテント泊登山の醍醐味のひとつです。

そんなテント泊での快適な睡眠に欠かせないのが寝袋(スリーピングバッグ・シュラフ)。一般的なキャンプ用の寝袋と違って登山用の寝袋は軽量・コンパクトに作られ、持ち運びの負担を最小限にしながら最大限の寝心地と暖かさを提供してくれます。

他の多くの山道具と同じように、一言で寝袋といっても各メーカーは用途や目的、そして季節や場所などによって素材・構造・形・重さなどの異なるさまざまなモデルを用意しており、多様なニーズにフィットするように作られています。多岐にわたる要素や多くのバリエーションの中から自分にとって最適なスリーピングバッグを選ぶということは決して簡単なことではありません。万が一合っていないモデルや粗悪なモデルをつかまされてしまえば、寝不足になったり疲れがとれなかったりと、せっかくの旅が台無しです。決して安くはない買い物、1度購入すれば何年も使い続けることになるであろう大切なパートナーですから、ぜひとも慎重に選びたいものです。

そこで今回は山歴20数年、これまで数多くのシュラフを試し、家でも毎日シュラフで寝ている自分が今シーズンの人気・定番・新作モデルを独自基準によって片っ端から比較評価し、目的やこだわりに合わせてベスト・モデルを選んでみました。さらに後半では登山向けに最適なスリーピングバッグを選ぶときに注意すべきポイントをまとめています。多くの選択肢の中からあなたにピッタリの1枚を見つける手助けになれば幸いです。

目次

【部門別】今シーズンのベスト・スリーピングバッグ(寝袋・シュラフ)

※ここでおすすめしているすべてのモデルについては、メーカーによって適応温度域や長さ、男女の異なる複数のモデルをラインナップしているアイテムがあります。購入の際にはそれらに十分注意して選んでください。

ベスト・ハイキング(実用)部門:ドライシームレスダウンハガー900/ISUKA エアプラス/THERM-A-REST ハイペリオン/NANGA AURORA light SPDX

優れたスリーピングバッグに求められる十分な保温性はもちろん、快適な寝心地や使いやすさ、そして軽量・コンパクトさといった様々な要素をバランスよく高いレベルで兼ね備えたモデルは、幅広い季節やアクティビティに柔軟に対応しやすく、また初心者からベテランまでも満足いくクセのない使い勝手の良さも相まって、多くの人にとってちょうどいい選択肢になります。そんな誰にでもおすすめできる総合的な優秀さを備えた今シーズンのベスト・ハイキング(実用)モデルはどうしても絞りきれずに4モデル。すべてのモデルはベースとしての質の高さを備えながら、それぞれが個性的な得意分野を備えています。

ドライシームレスダウンハガー900シリーズ 軽量かつ高い断熱性を実現し、なおかつ防水透湿性も実現した画期的なモデル

お気に入りポイント
  • 軽量で防水透湿にもかかわらず高い断熱性
  • しっかりフィットしながら動きも妨げない快適性

ドライシームレスダウンハガー900シリーズの詳細レビューへ

ISUKA エアプラスシリーズ 基本を踏まえつつ最新鋭の機能も押さえた山岳向け寝袋のお手本

お気に入りポイント
  • 軽量で抜群の復元力を備えた高品質なグースダウン
  • 細部まで丁寧に作り込まれた欠点の少なさ

THERM-A-REST ハイペリオンシリーズ 最先端の技術を駆使して保温性・軽量性・実用性を兼ね備える

お気に入りポイント
  • 高品質かつ撥水加工のダウンに、軽量ながら保温性を高める巧みなバッフル構造
  • マットレスとのフィットを考えた作り、コンプレッションスタッフサック等実用性にも抜け目がない

NANGA AURORA light SPDXシリーズ 定番防水透湿シュラフの高品質ダウンモデル

お気に入りポイント
  • 高品質グースダウンとコールドスポットを生み出さない巧みなボックス構造を防水透湿素材で仕上げた完成度の高さ
  • 修理費用無料の永久保証

ベスト・ハイキング(ぬくぬく)部門:PAJAK RADICAL/Western Mountaineering ウルトラライト

こちらは総合力で上の4モデルにひけをとらないクオリティを備えつつ、特にダウンの品質において頭一つ抜きん出ているという意味で「寝袋として優れているだけでなく、ダウンの極上の寝心地を体感したいならばこれ」な部門です。どちらのモデルも世界有数のダウン産地である東ヨーロッパ産の最高品質グースダウンをふんだんに使用しており、その復元力は同じFPの他メーカーモデルと比べても素晴らしく、袋から出した瞬間、即座に破裂せんばかりに勢いよく膨らんでくれるのにはちょっと驚きです(あくまでも個人の感想です)。その驚異的なダウンだけでなく、もちろんそのダウンを活かす丁寧なバッフル構造や細部にわたる軽量・コンパクトさへの配慮など、決してお手頃とはいえない価格に見合った技術力の高さを味わうことができます。

PAJAK RADICALシリーズ 最高の品質を誇るポーランド産グースダウンを最大限に活かした軽さと快適性を実現

(e)PAJAK RADICAL 1Z Reg パヤク ラディカル 1Z Reg RPJ0391 【登山】【キャンプ】【シュラフ】【寝袋】【エコープラザ】
お気に入りポイント
  • ポーランド産ホワイトグースダウン900+FPの圧倒的な品質の高さ
  • 超極薄軽量生地などを駆使した驚くほどの軽量・コンパクトさ

Western Mountaineering ウルトラライト 上質な素材と熟練の技術に裏打ちされた、至高の快適性と実用性

(e)ウエスタンマウンテニアリング ウルトラライト 5’6 WM80015 【登山】【キャンプ】【シュラフ】【寝袋】【エコープラザ】”
お気に入りポイント
  • 長年北米随一の品質を誇ってきた、厳選された850FP+のホワイトグースダウンを使用
  • 軽量・コンパクトながら幅広い温度域での温度調節を可能にするスマートなバッフル構造

ベスト・ハイキング(軽量)部門:Rab Mythic Ultra/Sea To Summit スパークSp

同じくこれも総合的には申し分のない出来の良さを備えています。ただこれまで紹介してきたモデルと異なるのは、全体的なバランスを若干崩してでも、とにかく飛び抜けた軽さが欲しいという人にとってどストライクな作りになっていること。もちろんダウンの品質の高さ(断熱性)も、快適さも十分及第点、マミー型シュラフとして基本的なシェイプでありながら、隙あらば極力無駄を省いて軽量化が図られているという点でファスト&ライトなアクティビティにピッタリです。個人的にもこの部門が最もしっくりハマっていて、もうそこまで親切な手助けは必要ないといった、ある程度旅慣れた登山家におすすめです。

Rab Mythic Ultraシリーズ 熱反射性サーモアイオニックライニングテクノロジーを採用し1グラム単位での軽量が図られた超ハイテクモデル

お気に入りポイント
  • 業界初、繊維をチタンでコーティング。生地の通気性を損なうことなく放射熱をバッグ内に反射する構造によって驚異的な軽量化を実現
  • 900FPのR.D.S.認定ヨーロッパ産グースダウンに、NIKWAX社と共同開発のフッ素FREEの撥水加工と素材のすべてがとにかく尖ってる。

Sea To Summit スパークSpシリーズ 高品質ダウンに加えて軽量コンパクトを極めた驚異のスペック

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シートゥサミット(SEA TO SUMMIT)
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お気に入りポイント
  • 高い復元力を備えながら撥水加工の施された850+FPウルトラドライプレミアムグースダウン
  • 氷点下に耐える温度域ながら総重量約500グラムという驚異的な軽量・コンパクトさ

ベスト・寝心地部門:Western Mountaineering テラライト/NEMO ディスコ

軽くて暖かいダウンが最高の寝心地に欠かせないのはもちろんですが、実際のところギリギリまでスペースを詰めている登山用寝袋は一般的には窮屈。横向きに丸まって寝たり、寝返りを打ったりしづらいため、構造的には寝心地がよいとはいえません。そのなかにあって少しでも快適な寝心地のために工夫された、総合的な意味で寝心地重視のモデルを選んだのがこの部門です。それぞれ、限られた重量と広さの中で最大限の自由な動きをサポートしています。

Western Mountaineering テラライト 上質ダウンとゆとりのある空間によって極上の寝心地を提供

お気に入りポイント
  • 通常のマミー型に比べて肩から腰までゆったりとしたセミ・レクタングル・シェイプ
  • 最高級のヨーロッパ産グースダウンによる軽くて暖かい中綿

NEMO ディスコシリーズ 動きやすい独自のシェイプで横向き寝も寝返りも自由自在

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お気に入りポイント
  • 全体的にゆったりしているだけでなく特に肘と膝回りに余裕を持たせたスプーンシェイプ™️によって横向き寝のしやすさや、寝返りしやすさが実現
  • 暑すぎるとき、寒さを感じるときそれぞれで細い温度調節を可能にする多くの仕組み

ベスト・キルト・ハーフレングス型部門:Highland Designs UL DOWN QUILT/ENLIGHTENED EQUIPMENT Revelation

ある程度旅慣れてきて、自分にとって余計なものが何か分かってきた頃にこれ以上なくちょうどいい選択肢となる可能性を秘めた寝袋が「キルト型」や「ハーフサイズ」の寝袋です。その特徴は後述しますが、これらを駆使することで先程の軽量マミー型シュラフよりもいっそうの軽量化が可能となるため、ウルトラライトやファストパッキングを好むハイカーたちを中心に非常に人気があるタイプです。またこれらの新しい形状のシュラフは単に軽量で暖かいシュラフとしてだけでなくブランケットになったり、冬の追加シュラフとしても使い勝手もよいため、近年ではバイクパッキングやソロキャンピングなど幅広い層にまで普及してきています。

Highland Designs UL DOWN QUILT 実際のフィールドでたどり着いた軽さと快適さのベストバランス

お気に入りポイント
  • 保温が必要な部分と軽量化してよい部分が試行錯誤によって最適化された保温性と重量のバランス
  • 高いロフトと撥水性を両立した超撥水UDDダウンによって湿気の多い時期でも安心

ENLIGHTENED EQUIPMENT Revelation 上質な素材をこだわりに合わせて自由にカスタマイズ可能。自分だけの1枚を作れる喜び

  • ダウン品質からダウン量、サイズ、色等、自分の好みのスペックが選べるカスタマイズ性の高さ ※ただし英語の本国サイトで直接購入する必要あり
  • 足元のジッパーを全開すれば1枚のキルトにもなる汎用性の高さ

ベスト・お買い得ダウン部門:タケモ スリーピングバッグ

予算は限られているけどぜひダウンのシュラフが欲しいという人にはこちらのタケモがおすすめ。2015年に設立された新しいブランドの創立者の方は、元々国内のアウトドア寝具メーカーに勤務していたというからそのクオリティには信頼がおけます。750FPの天然ホワイトダックダウンを使用し、ボックス構造、ドラフトチューブ・ネックチューブ(ショルダーウォーマー)、足元の立体構造といった保温効率的にプレミアムな製品に引けを取らないしっかりとした作り(どことなく●SUKAのそれを彷彿とさせる)でありながら、手の届きやすい価格設定が魅力です。

ベスト・化繊(非ダウン素材)部門:mont-bell シームレス アルパイン バロウバッグ/OMM Mountain Core 125/Gruezi Biopod DownWool

どうしても悪天候や濡れを避けられない沢登りや長期縦走などには、いくら防水対策が施されていたとしてもダウンより化繊の方が安心して携行できます。「重い・かさばる」といった点がネックだった化繊中綿も最近では目覚ましい技術革新によって昔に比べて非常に軽量・コンパクトになり、持ち前の低価格・手入れの簡単さもあって、最先端の化繊シュラフは決して悪くない選択肢といえます。そんな化繊シュラフでのベストモデルは2点。モンベルのバロウバッグは独自の縫製技術で一段と軽く暖かくすることに成功した意欲作。OMM Mountain Coreは軽くて肌触りよく、蒸れにくく暖かい最先端の高機能中綿「Primaloft® ACTIVE」インサレーションを使用し、単体でもインナーシュラフとしても非常に優秀です。また3つ目のGruezi(グリュエッツィ)は化繊ではなくウールとダウンのハイブリッド素材を採用することによって、ダウンの弱点を補いつつ天然素材の良さを実現したという異色の高機能寝袋。こちらも非ダウンモデルとして見逃せない一品です。

mont-bell シームレス アルパイン バロウバッグ 独自のシームレス構造によって他にはない保温性と軽さを実現

お気に入りポイント
  • 縫い目を極力排除したシームレス構造によって軽量化とより高いロフトを確保
  • 使用温度域の低さのわりに非常に軽量コンパクト

OMM Mountain Core 125 常に一貫した快適さを実現するPrimaloft® ACTIVE中綿のシュラフ

お気に入りポイント
  • 適度な保温性を備えながら通気・速乾性・肌触りに優れたPrimaloft® ACTIVE中綿
  • 超軽量・コンパクト

Biopod DownWool subzero 175 ※185cmモデルは入荷待ち

  • 暑すぎず、寒すぎずちょうどよい暖かさと快適な寝心地の「ウール×ダウン」中綿素材
  • ジッパーラインやポケット類など使い勝手も良好。さらに環境にも優しい

Biopod DownWoolの詳細レビューへ

ベスト・女性向け部門:NEMO カユ 30 W’s

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一般的に寒さを感じやすいといわれている女性に合わせたモデルをラインナップしているメーカーは少なからず(特に海外ブランドに)あります。これらの女性向けと銘打たれた寝袋は、実際のところは身長に合わせて一回り小さくなっているだけというケースが多く、もう少し突っ込んだ対応としても、体型に合わせて肩・腰部にゆとりを持たせたりなどです。このNEMO カユ 30 W’sはさらに、より暖かさを提供するために中綿を多く封入するところまで対応しているところが他の女性向けモデルより一歩進んだ魅力。保温性と収納性に優れ、なおかつ撥水加工済みのダウン品質も納得。温度調節を加速させるサーモギルや足先とフード部の防水透湿素材など細部にわたって使いやすさも配慮されており、価格に対してかなり満足のいくパフォーマンスが感じられるのではないでしょうか。

選び方:登山・ハイキング用スリーピングバッグを賢く選ぶ6つのポイント

ポイント1:対応する温度域を選ぶ ~暑すぎ・寒すぎに注意~

最適な寝袋を選ぶ際に何をおいても大切なのは、正しい「対応温度域」を選ぶこと。対応温度域とはその寝袋で寝る場合、どの程度の気温でならば快適に使用できるかという目安であり、そのシュラフの保温性能を表しているといえます。

昔からスリーピングバッグは気温との関係で大きく以下の3つ程度の分類がなされてきました。

  1. 夏(1シーズン)・・・真夏の低山や初夏~初秋平地で使用することを想定した寝袋(だいたい5℃以上が目安)
  2. 春~秋(3シーズン)・・・春秋の低山や夏の3,000m級の高山に対応したスリーピングバッグ(-5~5℃程度が目安)
  3. 冬(4シーズン)・・・冬山や残雪期の高山に対応した寝袋(-5℃以下程度が目安)。

一般的な登山で使用するスリーピングバッグは、基本的には上の分類のような3種類があれば十分ということを示していますが、はじめからすべて揃える必要はなく、このうちまず最低限揃えておきたいのは3シーズン用です。真夏の低山では少々暑すぎますが、それでも使用できないことはないことから、最もカバーする期間が長いことがその理由。その後は活用頻度や予算に応じて夏・冬用を追加していくというのが無駄や失敗の少ない方法です。人によって冬用は3シーズン用+夏用を二重にして使用するなどの猛者もいます。要はここから先はそれぞれのやり方で工夫の仕方も色々あるということです。

近年では同じ3シーズン用のなかでもブランドやモデル次第で温かさはさまざまで、最適な寝袋選びにはさらに細かいチェックが必要です。そのためにあるのが各モデルに必ず提示されている対応温度域表示。かつては各メーカーがバラバラの基準で提示していましたが、近年では国際基準が浸透しつつあります。それがこれから説明するヨーロピアン・ノームです。

断熱性を判断するための便利な指標「ヨーロピアン・ノーム(EN)13537」を活用しよう

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最近のスリーピングバッグの多くはヨーロピアン・ノーム(EN)13537と呼ばれる基準に基づく参考適応温度域が示されています。EN13537 は2000年代にEU諸国内で使用されはじめましたが、現時点では最も信頼のおける指標として世界各地に広まりました(それでも決して安くはないテスト費用やその信憑性への疑念からまだこの基準の採用に踏み切っていないメーカーも存在しているのが現状)。この基準では次の3つの指標がセットになって表示されます。

  • T-Comfort(快適)は一般的な女性が寒さを感じることなく眠ることができる温度域。
  • T-Limit(下限)は一般的な男性が身体を丸めて8時間寝られる温度域。
  • T-Extreme(極限)は一般的な女性が膝を抱えるくらい丸くなって6時間耐えられるとされる温度域。場合によっては低体温症になる恐れがあり非常に危険。

【要注意】EN13537 スペックは読み方に注意(数字をそのまま100%信用してはいけない)

そうと分かれば、自分がこれから行くであろう場所の大まかな気温を天気予報などで確認し、それが EN の示す温度域内に収まるようなモデルを選べばよい、ということになりそうです。しかし実際にいろいろなモデルを購入し試してみると、事態はそう簡単ではないということが分かります。端的にいうと、試してみたほぼすべてのモデルが EN の表示ほどに温かいとは感じられないのです。

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画像:Kansas State University

その大きな原因はテスト方法にあります。EN13537 は実験室という作られた環境で、上下長袖のアンダーウェアと靴下を着用した特定の体型(男性:25歳・173cm・73kg、女性:25歳・160cm・60kg)で測定した結果にすぎません。そこには使用者の国籍・体型・体質・その日のコンディション・着ている服・敷いているマット・中綿の圧縮率といったさまざまな変動要因が考慮されていません。やや乱暴に例えるなら自動車でいうところの「カタログ燃費」みたいなもので、実際にその燃費で走れるとは限らず、あくまでも比較のための指標程度というわけです。

つまりこれらの数値は残念ながら誰もが鵜呑みにできるような数値ではないということではありますが、そうだとしても、統一された計測方法で算出された数値であるという意味では、かつてのようなメーカー毎バラバラの基準よりはマシと考えるべきです。少なくとも同条件での保温力を比較することは可能なわけなので、それを上手く活用するのが現時点での賢い選び方となります。

では実際にどうやって判断するか?

表示された温度域に惑わされないためにどうするか?それは現時点でも、そしておそらくこれからも「確証がない限り常に表示よりも余裕をもった温かさを選ぶ」のが正しいやり方でしょう。

個人差・環境によってもある程度の誤差は生じると考えておく方がよく、使い慣れたブランドや熟練者以外であれば、EN表記(女性の場合は「快適」男性は「下限」)から5~10℃は余裕をもった温度で考えておくのが間違いないと思います。具体的には温かめのモデルを選ぶか、あるいは寒いこと前提で防寒着を多めに持っていくかなどです。それでも万に一つは目論見と違ってしまうこともあると思いますが、その時には重すぎる・暑すぎるという失敗はあれど、低体温症という深刻なリスクは避けられているはず。その教訓を次の選択に活かすことができると考えれば前向きになれます。

なお、メーカーによってはまだ EN による温度域表示ではない場合も考えられますが、その時も基本は同じ。確証がない限り余裕をもった温かさを選ぶのがよいでしょう。

ポイント2:中綿素材 ~ダウンにするか、化繊にするか。そこからも無数に広がる選択肢~

対応温度域で候補を絞り込んだら、次は中綿の種類を検討します。スリーピングバッグの保温力は、中綿が膨らむことによってできる動かない空気の層(=デッドエア)が体温によって温められ、さらに外気を遮断する断熱層となり身体全体を包み込んでくれることによって生まれます。つまり保温力はどれだけデッドエアを蓄えることができるかということにかかっています。ちなみにデッドエアを蓄える空間の膨張具合をロフト(嵩高さ)といい、中綿はできる限りロフトを確保するために超重要な役割を果たすわけです。

中綿に使われる素材には天然のダウンと化学繊維がありますが、現状で重量あたりの保温力が最も高いのはダウンです。軽くてコンパクトで温かい、ダウンのスリーピングバッグを選んでおけば通常の登山ではほぼ間違いはないといえます。ただ、弱点が無いわけではありません。以下にメリット・デメリットの比較表をまとめました。

素材ダウン化繊ハイブリッド
メリット
  • 軽い
  • 圧縮性に優れる
  • すぐに温まる
  • 低温で乾燥した環境ではより保温力が増す
  • 通気性に優れる
  • 手入れによって長持ちする
  • 濡れた状態でも高い保温性を維持する
  • 速乾性がある
  • 体重でロフト(嵩高)が潰れにくい
  • アレルギーなどの心配がない
  • 手入れが簡単
  • ダウンに比べれば安価
  • ダウンと化繊双方の強みを採り入れできる限りの保温力を発揮
デメリット
  • 濡れると保温力が失われる
  • 体重で潰れやすく、その部分は暖かくない
  • 乾くまでに時間がかかる
  • 手入れの手間がかかる
  • 高価
  • 重い
  • 圧縮性が低く嵩張る
  • 寝心地は(ダウンに比べれば)そこそこ
  • ダウンに比べれば寿命が短い
  • 場合によってはダウンと化繊の弱点も併せもってしまう
  • 選択肢が少ない
適した状況や使い方
  • 寝心地と軽さ、コンパクトさを重視したい場合
  • 雨や水辺など濡れる心配が少ない場合
  • 予算に限りがある場合
  • 濡れや湿気の可能性が高い場合
  • 重さや荷物の大きさによる影響が少ないオートキャンプなど
  • 幅広いアクティビティに使用可能

ダウンは高性能ですが、価格が高めで、濡れに弱い。このため軽さ・大きさよりも価格を重視する人や、沢登りなどザックが濡れる可能性が高いアクティビティが多い人にとってはダウンよりも化繊の方が適している可能性があります。ただ幸いなことに最近の化繊中綿の進歩は目覚ましく、今や化繊だから重いとか、快適じゃないとか言ってもいられない状況が眼の前に来ていることは確か。試しに一度お店で実物を見比べてみることをぜひおすすめします。

一方でダウンの方も日々進化を続けています。強力な撥水加工処理を施して弱点である濡れに対する弱さをある程度克服した「撥水ダウン」が多く見られるようになりました。ただ撥水ダウンも濡れに対してはまだまだ限界がありますので、雨や湿気の多い日本では何らかの浸水対策は必須と考えた方がいいでしょう。

品質の高いダウンを選ぶことでより軽くて暖かく(種類・産地・FP・比率について)

ダウンの品質については、TVやラジオでよく見かける通販番組の羽毛布団ではないですが、実際に驚くほどさまざまな要素が品質に影響している世界です。ここではそれらひとつひとつを事細かに紹介することはせず、その代わり良質なダウン・スリーピングバッグを選ぶために知っておくとよいポイントを絞って説明します。

ダウンの種類・産地

より大きなロフトで嵩高性に優れ、高い保温力を発揮し、臭いも少ないなど、最も高品質であることが多いといわれているのがヨーロッパ産のグース(がちょう)から採れたダウンです。一方その他の地域で育てられた水鳥や、グースではなくダック(あひる)から採取されたダウンは(すべてではないものの)中~低級であることが多いといわれています。最高級のグースダウンとなると飼育日数も大きく影響し、丁寧に飼育された21週間後のグースから最高級のダウンが採れるともいわれています。

ダウンのFP(フィルパワー)・比率

DSC04680FPとはダウンにおけるロフトの復元力を表す指標で、FPが高いということはそれだけ個々の羽毛(ダウンボール)が大きく嵩高性に優れている、すなわち高い保温性を発揮するといえ、同じ温かさなら高いFPの方が、軽くてコンパクトな寝袋が作れるということになります。上述した水鳥の種類との関係でいうと、ダックからは高くても750~800FP程度までのダウンしか採取できないのに対し、より身体の大きなグースからは900FPか、それ以上の高品質ダウンが採取できると言われています。

一般に650以上なら高品質ですが、値が高くなればなるほど価格は跳ね上がっていくため、ダウンを選ぶ際には価格をとるか、保温性・携帯性をとるかという無情な二者択一を乗り越えていく必要があります。

またダウンと一言でいっても、実際にはロフトを稼ぐために若干のフェザー(羽根)を混ぜてあるもので、その割合が90/10などと表示されています(90%ダウン、10%フェザー)。フェザーは保温性を高めてくれる素材ではありませんので、当然ダウンの比率が高い方が保温力が高く、肌触りも柔らかく、品質が高いと考えて良いでしょう。

アニマル・ウェルフェア(Animal Welfare)とダウン

様々な面からより環境へのインパクトを抑えた製品開発へと見直される流れのなかで、ダウンもその製造過程で大きな反省を迫られるようになりました。水鳥からダウンを採取するという行為は実際には水鳥の皮膚に生えている羽をむしり取ることにほかならず、ありていに言えば動物への虐待行為そのものです。効率が最重視されていたかつては、水鳥を早く成長させるために強制的に餌を多く与え(強制給餌)、さらに生後12週目あたりからから大人へと成長するまで、生きているうちに何回も機械によって無理やりむしり取られていました。

現在では家畜にとってストレスや苦痛の少ない飼育環境を目指す「アニマル・ウェルフェア(Animal Welfare)」という考え方が広まっていった結果、一部の寝袋メーカーからこうした非人道的な飼育・採取方法を見直す動きが続々と現れており、特に欧米のマーケットで流通するダウン製品ではほぼすべてこうした考えに即した基準を採用するようになっています。

そこで消費者である私たちが今後ぜひ気にするべき点は具体的に大きくいうと、

  • 狭いケージで多く餌を与え続ける「強制給餌」をさせていないこと
  • 生きたままの水鳥から羽毛をむしり取る「ライブ・プラッキング」をしていないこと

の2点が守られている羽毛業者から仕入れたダウン中綿を使用しているかどうかです。

ただこれが守られているかどうかを消費者が逐一チェックするのは手間がかかるだけでなく、メーカーごとに独自の基準を作られては混乱を招きかねません。そこでメーカー側は製造過程全体を監査し、分かりやすいお墨付きを与えるグローバルな第三者機関を策定することで対応しました。その認証が「RDS(レスポンシブル・ダウン・スタンダード)」であり、シュラフだけでなくジャケットなども含め海外メーカーのダウン製品などにはタグがついていることがあります。

ポイント3:濡れに対する強さ ~日本では何らかの濡れ対策は必須~

テントでの快適な睡眠のために寝袋は最も重要な道具であることは間違いありませんが、その寝袋は保温性を失ってしまうという事態は何よりも避けなければなりません。つまりシュラフの濡れを防ぐための対策はどんなテント泊山行でも備えなければならないのです。

先程ダウンは濡れると断熱性を発揮できないという弱点があるということを言いました。このため従来ならば濡れが心配なときにはダウンシュラフに防水透湿生地のシュラフカバーをかぶせたり、あるいは仮に濡れたとしても保温力を失いにくい化繊綿の寝袋を選択するなどしなければなりませんでした。もちろんこれらは今でも有効かつ確実なシュラフの濡れ対策ですが、ただこれではダウンのせっかくの長所である「軽さ」が活かせず、実に悩ましい状況が続いていました。そんな状況が最近徐々に変わりつつあります。

ダウンの濡れ対策その1:防水透湿性の高い表地のシュラフ

防水透湿性の素材を使用した寝袋ならば、湿気はもちろん、水滴や水没に対してもほぼ不安はありません。

登山向けスリーピングバッグの表面生地は、まず前提としていかに薄手・軽量性を保ちながら丈夫な生地であるかが品質の良し悪しを決めます。さらにそこから糸と糸との隙間をつぶしてダウンの抜けを防ぐ「ダウンプルーフ加工」がなされていたり、水を弾きやすい「DWR(耐久撥水)加工」を施してあるかどうかなどが見どころ。ただこれだけでは、濡れ対策は十分とはいえません。

濡れに対して十分な対策が施された寝袋とは、例えば表面生地に防水透湿素材を採用していたり、さらに防水透湿素材に加えて縫い目にまでシームテープ処理を施すなどして浸水を完全にシャットアウトしているようなモデルなどのことを言います。これらならば、濡れを防ぐためのシュラフカバーはまず不要で、ダウンの軽さ・快適さを安心して堪能することができるでしょう。

ダウンの濡れ対策その2:ダウンに撥水加工を施した「撥水ダウン」採用のシュラフ

次に先ほども触れましたが、近年目覚ましい革新を遂げつつあるのがダウンが本来持つ撥水能力をさらに高める加工処理を施した「撥水ダウン」です。上の動画で紹介されているNikwax Hydrophobic Downを筆頭に、ダウン中綿自体に高い撥水加工を施すことで濡れても復元力を失いにくいダウンが次々と開発されてきています。動画を見る限りでは、ダウンが水浸しになるような酷い状況にでもならない限りある程度ロフトを保ってくれそうではあり、そこまでシビアな状況でなければ今のところ実用性は高いといえます。

ただそうはいっても、まだこれらの撥水加工ダウンは高品質なピュア・ダウンに比べるとどうしても加工を施すことによる復元力(保温性)の低下、そして製品寿命の低下は避けられません。自分はこれまでレインウェア等でもDWR加工が洗濯などによって徐々に低下してしまう現実を経験してきており、撥水加工ダウンとて何度も使えば撥水性はほぼ間違いなく低下してしまうはずです。その意味で撥水加工ダウンシュラフが長期的な視点で良い製品でかるかどうかは未だに懐疑的。かなり実用性は上がってきているのは確かですが、まだ手放しでこちらを選択すべきとはいえず、注意深く見ていく必要があると思っています。

ポイント4:形状・サイズ・構造 ~マミー型を基本に、慣れてきたら自分なりにムダを省いていく~

基本は「マミー型」。特定の用途に便利な新シェイプにも注目

オートキャンプや車中泊などまで広く考えると、普通の布団のような「封筒型(レクタングル型)」の寝袋もありますが、こと登山向けに限って言えば、寝袋の一般的な形はほぼ間違いなくマミー型と呼ばれる形状が基本です。マミー型は、顔以外をスッポリと覆いながら身体と中綿との間の余分な隙間を極力省いて保温性を最大化しながら、重量をできる限り削減することを意図したシェイプです。

 

さまざまな3シーズン用スリーピングバッグの形状(左から): マミー型、フード無マミー型、変形マミー型、ハーフキルト型、キルト型、ウェアラブル型、2人用マミー型

はじめて寝袋を購入するといったビギナーの皆さんはこのマミー型がが安全かつ機能的なのでおすすめです。ただ最近はアクティビティやニーズの多様化によって、伝統的なマミー型から派生したさまざまな形状が生まれていることも見逃せません。

これらのモデルは伝統的なマミー型の効率性をさらに推し進め、より無駄を省き、細かなニーズに特化していることが特徴です。

例えば、はじめからマットレスとの併用を前提とすることで裏面をバッサリとカットしたような「キルト型(上写真左から4、5番目)」は、軽量化だけでなく柔軟な寝姿勢(ただし最も密閉した状態になると身体の動きは制限されます)、温度調節性を可能とし、比較的温暖な時期にウルトラライトやファストパッキングをする場合、非常にマッチした形状といえます。

その他、携行している防寒ジャケットを着て寝ることを前提とした「ハーフレングス型(上写真左から2番目)」は肩や胸から上、あるいは上半身全体を省くことで軽量化を実現しています。これらはインナーシュラフとして冬山で他のシュラフと合わせて使い、保温性を追加するのにも都合が良かったりするので、自分の持っている装備全体としてムダを省くこともできるかもしれません。

サイズ

最も保温効果を高めようとするならば、スリーピングバッグと身体との間に余分な空間はない方がよいのですが、あまりにピッタリし過ぎてしまうと窮屈で寝づらい。最高なのは自分の身体のラインにピッタリフィットし、温かさと動きやすさのバランスがちょうどよいサイズのバッグをオーダーメードできることですが、もちろんそんな夢のようなサービスはまだ存在していないわけで、さしあたって今選べるのは多くのメーカーが採り入れているレギュラー・ロング・ショートといった身長・体型別のバリエーションサイズの中から自分にフィットするサイズを選ぶということでしょう(特に女性向けモデルは身長以外にも女性に対応したつくりになっているため強くおすすめします)。

なお、デッドスペースを作らないようにするための解決方法のひとつとして、生地が伸縮するモデルがあります。例えばモンベルのスパイラルストレッチシステムやドイターのインサイドサーモストレッチ・コンフォートシステムなどが有名ですが、試してみると一目瞭然、中綿が身体に密着するので入った瞬間から温かさを感じられ、体感的な保温力は間違いなく数段上で、なおかつ動きも妨げにくく、シュラフを着たままあぐらをかけたりと便利です。

構造

いくら低温に対応した高品質で大量の中綿を使用してたとしても、それだけではまだ安定した保温性を確保できるとは限りません。万が一生地内に封入された中綿が中で移動して偏りが生じてしまったとしたら、中綿の乏しくなった部分ではデッドエアが作れなくなり(コールドスポット)、全体として保温性は著しく低下してしまいます。

光に透かしてコールドスポットを確認しているところ

それを防ぐためにスリーピングバッグは中綿の封入の仕方を工夫し続けてきました。ここではスリーピングバッグの主な中綿構造を紹介しますので、候補のモデルが目的に適った構造を備えているかチェックするとよいでしょう。

素材シングル構造ボックス構造トラペゾイドボックス構造
イメージsewn-through-bafflebox-baffletrapezoidal-box-baffle
メリット
  • 構造がシンプルなので安価
  • 圧縮しやすい
  • 軽量でコンパクトな収納が可能
  • 垂直の壁(バッフル)に仕切られた内部(チャンバー)は最大限のロフト性能を発揮(寝心地がいい)
  • コールドスポットができにくいため保温性は高い
  • ボックス同士が支え合う構造でダウンが安定し、保温性と軽量化を両立
  • 中綿の嵩を高く保てる
デメリット
  • 縫い目にコールドスポットができてしまいそこから熱が逃げていく
  • 生地量が増えるため相対的には重くなる
  • 縫製は複雑で高価
  • 縫製は最も複雑で高価
適した状況や使い方
  • 中綿が少なめで保温性よりも軽量・コンパクト性を優先する夏用スリーピングバッグ
  • 夏用から冬用まで幅広く使用される
  • 高度な保温性と軽量性が求められる冬用スリーピングバッグ

ポイント5:その他の要素・パーツ ~実際に利用する際の使いやすさを考えて~

最後にここまでの説明では収まりきらなかった細かいチェックポイントを挙げていきたいと思います。

収納性

スリーピングバッグはダウンよりも化繊が、夏よりも冬と、中綿の質・量によってはかなりのボリュームになり、できる限り軽くてコンパクトである方がいいのは間違いありません。ただ一つ注意としては、そのカタログにあるスペック上の収納サイズは「付属のスタッフサックに入った時のサイズ」でしかないということです。

下の写真のように、購入したままの状態では大きめでも、別売りのコンプレッションスタッフサックを用いることで、さらに圧縮できるモデルもあります。またメーカーによっては標準付属のスタッフバッグ自体がコンプレッション機能を備えている場合もありますので、購入の際には確認しておくとよいです。

フードの作り

首から頭部にかけての部位は多くの熱が発散されているといわれ、保温性の確保にとっては意外と重要。夏用やウルトラ・ライト系ではそれほど重要ではないためカットしているモデルもあります。3シーズン以上のモデルでは頭部を覆うフードが自然にフィットするように作られているか、顔出し口のドローコードは締めやすく邪魔にならず圧迫感がないかなどを確認するとよいでしょう。またより低温での利用を意識したモデルでは肩周りにかけてなどに中綿の入ったチューブを補って冷気の侵入を防いでいるモデルもあり、それらは少ない重量でより快適さを提供してくれます。

フードのつくりがより立体的で、なおかつ対応温度域に合わせてフードや首周りにチューブ状の中綿を当てるなどしているモデルはより快適性が高い。

ジッパー

スリーピングバッグにおけるジッパーの役割は大きく2つ。ひとつは寝袋への出入りがしやすくなること、もうひとつは開閉により通気性をコントロールし温度調節すること。なるべく大きく開いた方が使い勝手は向上します。ただし、少しでも軽くしたいという立場から考えると部品類は無いに越したことはありません。このため軽量化を重視したモデルでは全長の1/2~1/3程度の長さまでしか設けないか、あるいはまったく無いモデルも存在していますので、好みに応じて選ぶとよいでしょう。

短いジッパー(点線部分)は軽量化には大きく貢献するが、出入りしにくい、温度調節しにくいなどの不便さも受け入れなければならない。

その他より低温での使用を意識して、ジッパーの内側ライン上に中綿の詰まった「ドラフトチューブ」を配置し(下写真)、ジッパー部分からの冷気の侵入に配慮されたモデルもあります。

さらに、ジッパーが寝袋の内側から操作できるようになっていたり、上下両側から開けられるようなダブルジッパー仕様になっていれば、より便利にもなり、暑い時期には足を出して寝られるため温度調節もしやすく、使い勝手はさらに向上します。

薄い生地をジッパーの上げ下げによって噛み込んで生地を傷めたりしないように、噛み込み防止機構が付いているモデルも。何の処理もされていない寝袋のジッパーはどうしても、ウソみたいに噛みやすいんです。

足元部分(フットボックス)の作り

寒さに敏感な足元部分(フットボックス)がゆったり立体的に縫製され、なおかつその部分に多めの中綿が封入されることによって、足元にかかる圧力が均一化し、保温性が向上。結果としてより快適な睡眠を可能にします。

寒さを感じやすい足元の羽毛を多めに封入。また足の形に合わせた立体的な構造が足全体を無駄なく均等に保温してくれる。

ポイント6:組み合わせて使用する寝具 ~快眠に必要なのは寝袋だけじゃない~

スリーピングバッグはそれ単体でも使えないことはないですが、濡れを防いだり快適さや保温性を最大限にするためにセットで使用する優れた道具が多く用意されています。中には必須のギアもありますので、それらは忘れずに準備しておきましょう。

スリーピングバッグカバー

ダウンの弱点は濡れたときの保温性の低下であることは前に述べたとおりですが、にもかかわらずアウトドアでは日常生活と違い、水濡れリスクが意外と多いもの。突然豪雨に見舞われた時にうっかりザックの中で防水していなかった、テント内で水をこぼした、結露した水が上から垂れ続けたなど、浸水の危険は忘れた頃にやってきます。気温が高い低山などでリスクが少ない場合を除き、雨の多い日本では何らかの防水対策が必須と考えるべきです。その第一は防水透湿素材のスリーピングバッグカバー(シュラフカバー)を別途準備すること。ちなみにこのカバーによって多少の保温性向上にもつながり、ちょっとした保温力増しにも役立ちます。

ライナー・シーツ

主に保温性の向上のためにスリーピングバッグの内側に入れるライナー(インナーシーツ)は、新たにシュラフを買うほどではないけど、手持ちの装備ではちょっと保温力が物足りないなと思うときなどに便利な場合があります。また昨今ではコロナ禍によって山小屋泊まりでもライナーシュラフが必須という山小屋も増えていて、衛生面・快適性向上といった目的でも利用が増えてきているのが実際です。

ともあれ何かと便利なライナーシーツは手軽でコンパクト、またそこまで高価でもなく使い勝手も良いため、1枚持っていて損はありません。素材はやはりコットンではなく化繊やシルクなどにしましょう。個人的にも長く重宝してたのですが、実はインナーとしてではなく夏用スリーピングバッグの代わりとして使っていたこともあります。学生時代から社会人数年目まではこれと3シーズン、スリーピングバッグカバーの組み合わせで1年間をやりくりすることも不可能ではありません。

ピロー

余裕があればアウトドアに便利な膨張式のピロー(枕)を使い、さらなる快眠に繋げるということも検討してよいでしょう。最近ではかなりコンパクトに圧縮できるピローもあるため、そこまで荷物に負担がかからなくなっているのは確かです。

ただ、空気で膨らませた枕は個人的にはそこまで快適とは思えず、苦労して持ってくるほどのものかどうかは人によるところが大きいのではないでしょうか。持っていかなかったとしても、着替えの衣類やタオルなどをスタッフバッグに入れるなどして即席枕を作ることもできますので、どうしてもというこだわりがなければ正直そこまで気にする必要はありません。

個人的にお気に入りのアウトドア枕はマットレスフォームの切れ端が詰まったTHERM-A-RESTのコンプレッシブルピロー。ただし山に持っていけるほどコンパクトにはならない。

スリーピングパッド

いくらフカフカのダウンでも体重には負けてしまい、地面に接する部分は硬くて寝心地が悪いばかりか多くの熱が逃げていき、寝袋の保温性能を大きく損なってしまうため、寝袋下にはマットを敷くのが必須です。スリーピングパッドも目的やスタイルによってさまざまなモデルがあり、自分に最適なモデルを選ぶためには多くのコツが必要です。

まとめ

軽くて小さく、いつでもちょうどよい十分な暖かさがあり、なおかつ濡れや湿気にも強く丈夫で破れにくい。そんな夢のような寝袋があれば苦労はしないのですが、現実的には季節や用途に加え、暑がり・寒がりといった個々の体質や好み、組み合わせる他の装備などとの兼ね合いによって、それぞれにとってベストな寝袋というのは様々です。これはシュラフ(に限らず山道具全般)選びの難しさでもあります。ここで挙げたベストモデルは自信をもっておすすめできる優秀な寝袋ばかりですが、これをきっかけにぜひ自分ベストを探す楽しさも共有できれば幸いです。