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ラインナップ比較:知る人ぞ知る実力派、TSLのスノーシューを履き比べてみたのでおすすめモデルを紹介するよ

昨年末より行っているスノーシュー主要ブランドの代表モデル試し履き企画の第2回目。今回はフランスが誇るスノーシューブランド、TSLのラインナップをご紹介します。

TSL2016年のラインナップのうちハイエンド~入門モデルまで、なるべく広範囲にピックアップした5モデルをお借りし、12月3~4週目、雪の少ない入笠山(雨)と雪だらけのかぐらスキー場(雪)でそれぞれのモデルを試し履きしてきました。例によってここからの話しは多少スノーシューについての知識があることを前提としています。もし読んでいて分かりにくい部分がある場合には、以前スノーシューの選び方について解説・レビューした以下の記事も合わせて読んでみてください。

目次

TSLスノーシューの特徴

プラスチック製スノーシューのパイオニア

出典:Wikipedia

TSLのスノーシューというと、ここ最近の日本では米国ブランドの人気に押され気味で地味な印象かもしれません。確かに雪上歩行具としての歴史は北米大陸には及ばないかもしれませんが、現代のスノースポーツギアとしての歴史でいえばそれに優るとも劣らない実績を誇ります。ちなみにぼくが10年以上前に出会った初めてスノーシューもこのTSLでした。

まだスノーシューがローハイド製のレースで編まれた楕円形の木製フレームであった1980年、北米旅行中に運命的な出会いを果たしたTSLの創業者は新たなスノースポーツとしてのスノーシューに可能性を見いだし、故郷フランスに帰国後すぐ(1981年)にこれを扱いやすいプラスチックで製造することを思い立ちます。これが雪上を歩き、自然に親しむスポーツ用ギアとしてのスノーシューのパイオニア、TSLの誕生です。『山岳装備大全(山と渓谷社)』によるとそれは北米でアルミ合金フレームのスノーシューが商品化されるよりも、日本で金属製のワカンが製作されるよりも早かったといえます。

軽快な歩行を可能にする独自のフォルム

TSLスノーシューの特徴である砂時計型フォルム(出典:公式HP)

そんなTSLのスノーシューに共通する特徴は、何といってもそのスムーズな歩行体験にあります。スノーシューが雪上で浮力を得るためにはどうしたって足の接地面積が拡がり歩きにくくなってしまうものです。が、TSLの開発したスノーシューは伝統と科学の融合した合理的なフォルム「HOURGLASS SHAPE」によって、そうした不自然さを極力意識しないでスムーズに歩けるよう工夫されています。その他にも長年培われてきた多くの独自技術(後述)がますますイージーでセーフティな歩行を可能に。その雪質や地形を問わない軽快な歩き味は試した人にしか分りません。

柔軟なサイズ調整と簡単な着脱

TSLスノーシューはバインディングも特徴的。基本的にはどれも足の長さを合わせつつ、つま先と足首を固定する方式で、ちょうどスキーブーツのバックルやスキー板のバインディングなどとイメージが近いといえるでしょうか。この場合、予め自分の靴に合わせて調整しておく必要がある一方で、履くときには毎回力を込めてベルト締めしたりする必要がないため、着脱は非常に楽。足の位置も決めやすく、サイズさえバッチリ合わせておけば常にスピーディに安定した固定ができるという点においては、他メーカーのような足の位置やバンドの締め具合を毎回調整する方式よりも優れているといえます。

TSLスノーシューのバインディングは基本的には同じ方式だが、グレードによって足裏・つま先・足首の素材や固定方法が異なる。

オールラウンドな地形での優れたグリップ力

TSLスノーシュー3つめの特徴は、プラスチックフレームによる全地形に対応した高いグリップ力です。なだらかで深いパウダースノーを歩くことが多い北米では浮力を優先し、アルミ合金のパイプ状フレームが発達した一方、起伏が激しくパウダー・湿雪・凍結とさまざまな雪質・地形に対応しなければならないヨーロッパの山岳では斜面を捉える柔軟性とフレーム外周までエッジが効くというバランスの良さをもったプラスチックフレームがより適していました。こうしたさまざまな地形に対応する力は急峻な地形と多様な雪質が前提の日本においても求められている特徴であり、TSLスノーシューはその点日本で使うにはもってこいの特徴を備えているといえます。

基本的なグリップ力の高さをベースとしつつ、各モデルは目的と想定される地形によってさまざまなブレード・クランポンの構成に分かれる。

参考:今回試着したスノーシューの特徴比較まとめ

デッキタイプ HYPERFLEX UP&DOWN COMPOSITE
アイテム SYMBIOZ ELITE SYMBIOZ MOTION 418/438 UP&DOWN 305/325 TOUR 305/325 RIDE
イメージ
SYMBIOZ ELITE

SYMBIOZ MOTION

418+UP&DOWN

325+TOUR

325+RIDE
グリップ
浮力
着脱のしやすさ
調整のしやすさ
固定力
歩きやすさ ◎◎ ◎◎
下りの楽しさ
つま先の調節
  • バックル+ストラップ+アジャスター
  • バンド+アジャスター
  • バックル+ストラップ
  • ストラップ+アジャスター
  • バンド+アジャスター
足首ストラップ
  • ラチェット式
  • パッド付ストラップ
  • ラチェット式
  • 樹脂製ストラップ
  • ラチェット式
  • パッド付樹脂製ストラップ
  • ラチェット式
  • 樹脂製ストラップ
  • ラチェット式
  • 樹脂製ストラップ
前爪
ブレード・クランポン 8ステンレススチールクランポン(大) 8ステンレススチールクランポン(小) 6+2スチールクランポン+ブレード 6スチールクランポン+ブレード 6スチールクランポン
クライミングサポート バインディング踵下部 バインディング踵下部 フレーム(3段階) バインディング踵下部 バインディング踵下部
サイズ(cm) 21×59 21×59 21×57.5 22×59.5 22×59.5
重量(g) 1960(Mサイズ) 1830(Mサイズ) 1920(418サイズ) 1980(325サイズ) 1770(325サイズ)
サイズバリエーション S/M/L S/M/L 418/438 305/325 305/325

TSLスノーシューのシーン別おすすめモデル紹介

以上の特徴を踏まえた上で、TSLシリーズのなかでも特に使いやすかったおすすめモデルを紹介します。

あり得ないほどの歩行性能と使いやすさで剛柔あらゆるアクティビティにおすすめ:SYMBIOZ ELITE

スノーシューで自然に歩けるようになるためには多少の気遣いと慣れが必要で、その違和感はどのスノーシューにも多かれ少なかれあるのですが、このSYMBIOZシリーズはそんな配慮は極端にいって不要。これまで試したどんなスノーシューよりも歩きやすい。その大きな要因は写真のように大きく曲がる(しなる)ことのできる特殊プラスチックのフレーム「HYPERFLEX」機構です。

通常スノーシューで普段の歩き方をしようとすると、足が接地する瞬間にどうしてもかかとが突っかかってしまうものです。ところが「HYPERFLEX」では従来のフレームに刻みを入れることで、かかとが接地してからフレームが柔軟にしなってくれるため普段と変わらぬ自然な足運びが可能に。加えて前述した足を引っかけにくい「HOURGLASS SHAPE」と合わせて、身体とスノーシューの絶妙な一体感と細かいエッジングを可能としたフレーム・クランポンは、新雪をはじめ、よりテクニカルな地形をスピーディに駆け抜けるような登山まで、オールマイティに高いパフォーマンスを発揮してくれます。

なお今シーズンのSYMBIOZシリーズはバイディングの形状によって「エリート」「ハイカー」「モーション」の3モデルがラインナップされています。一昨年から前モデルSYMBIOZ EXPERTを愛用してきましたが、今期のフラッグシップモデルである「エリート」ではバインディングのつま先・足首部分がバックルとテープストラップになったことにより、着脱と調節がけた違いに楽になりました。その他、ステンレススチール製クランポンのグリップ力、カーボン製強化板による剛性と軽量性・柔軟性のバランスの良さなど多くの面で抜群の使いやすさを備え、まさにTSLスノーシューの特長を凝縮した1足といえます。

垂直の登り下りにより安定感を発揮する高機能ワカン:418/438+UP&DOWN GRIP

今回の履き比べで新たに発見した秀作がこのUP&DOWN GRIP。一見すると他のモデルと同じように見えますが、このモデルが他のどのスノーシューとも大きく異なるのはフレームの内側(かかと部分)が抜けているという点で、その部分だけでいえばワカンに近い構造になっています。百聞は一見にしかず、下の写真を見れば分かるように、ヒールバーを3パターンにセットすることでかかとの着地点の高さを3段階に設定することができます。

かかとのバーを、左から「登り」「平地」「下降」モードにした様子。

出典:公式HP

このようにかかとの高さを上げ下げできることで登り斜面はもちろん、一般的なスノーシューでは困難な下り斜面においても足をフラット(水平)に保つことができ、安定した着地が可能となります(写真)。つまりスノーシューのもつ高い浮力と、ワカンのもつ安定した登下降能力を両立させたのがこのモデルといえます。実際に使ってみると特に急斜面の下りでも前のめりになりにくく、もちろん浮力は維持したままかかとをグイグイと踏み込んで下りていける軽快さは他のスノーシューと明らかに違うということが実感できます(もちろんかかとが食い込まない程の凍った地面では意味がありませんが)。スノーシューでは比較的苦手とされる急斜面にも強いという意味でいえば、バックカントリーだけでなく、いつもならワカンを持っていくけどより浮力が欲しい登山などでも十分活躍できそうです。

穏やかな地形をよりシンプルにとことん楽しく歩きたいなら:305/325 RIDE

これからスノーシューをはじめようとするビギナーや、厳しい急斜面の登下降で使用したり多様で複雑な地形での確実なグリップが必要というわけでないのであれば、より軽量で、より歩きやすく、よりシンプルで扱いやすく、そして何より優しい価格のモデルが適しています。TSLのラインナップには低価格のモデルがいくつかありますが、なかでもこのRIDEは最低限の基本性能を備え、なおかつ軽量(305サイズなら1590g)で使いやすく、コストパフォーマンスに優れたモデルといえます。樹脂のバンドによる調節は多少硬くて不便ですが、調節自体は1回やってしまえばそう何度も繰り返すものではありません。またクランポンも前爪と6本のピンのみと最弱の部類ですが、裏を返せばショートスキー感覚で滑らせながら歩くことができます。最も手軽に雪を楽しめるモデルとして雪山ライトユーザーにイチオシです!

【おまけ】スノーシューイングに便利な機能が満載のバックパック:DRAGONFLY 10/20、15/30

最後にこの履き比べ時に一緒に使わせてもらったバックパックが思いの外、良くできていたので紹介します。さすがにスノーシューメーカーが作ったバックパック、スノーシューイングに必要な機能が満載です。サイズは10~20Lと15~30Lの2種類ありますが、どちらも共通しているのはスノーシュー(スキー・スノーボード)をフロント部分に縛り付けるストラップが配置されていること(写真右側。ストラップは使わないときには収納可)。

フロントのバックルを開閉することで、サイズを拡張したり、だぼつきなくコンパクトにすることができます。両側にはポールアタッチメント、さらにジッパー付ポケット。外部にはこの他上部と両ヒップベルトにも小さなポケットが使えます。

15/30Lモデルはさらに背面から荷物の出し入れも可能。さまざまなギアや小物に瞬時にアクセスが可能です。保温性を考えたショルダーベルトのハイドレーションチューブカバーなど、手頃な価格で手に入る積雪期用バックパックとしてはかなり完成度の高いモデルといえるのではないでしょうか。

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