スノーハイキングからバックカントリーまで。素晴らしき雪山への入り口、スノーシューの賢い選び方とおすすめ5モデル
スノーシューで雪を歩けば、ちょっとだけやさしい雪山の世界が見えてくる
深い雪に閉ざされた冬山の世界は、気軽には足を踏み入れることが許されない敷居の高い世界であることは確かです。ただそれだけに苦労して訪れたときの、その日常では決して出会うことのできない圧倒的な美しさと荘厳な空気の尊さは決して忘れることのできない思い出となるに違いありません。今まで見ていた自然がさらに奥深いものに見えてくるかのような、お世辞抜きで世界の見え方が変わる感覚。そんな雪の世界を最も手軽に体験させてくれるのがこのスノーシュー・ワカンです。
スノーシューは冬の森や里山歩きはもちろん、ウィンターランニング、そしてバックカントリーにおける急斜面のハイクアップまで、雪に覆われた場所を自由に移動するさまざまなウィンターアクティビティにフィットする多彩なモデルが存在し、快適・安全に遊ぶためにはそれぞれに適したタイプのスノーシューを選ぶことが大切です。
ここではスノーシューでのアクティビティを楽しむために必要な道具の最新情報を調査し、自分の経験なども踏まえて賢い選び方としてまとめてみました。さっそく紹介していきたいと思います。
目次
はじめに:スノーシューとはどんなもので、いつどこで履くの?
スノーシューとは、踏み固められていない深い雪で覆われた地面を埋まらずに歩くための歩行器具。その歴史は遡ること数千年前に、人類が厳しい冬の大地で生活するために編み出した道具が原点であるといわれています。
スノーシューがなぜ雪上を簡単に歩くことができるのか、その仕組みを理解するためには「ボート」を思い浮かべてみるとよいでしょう。水面に浮かぶボートと同じように、スノーシューは靴の底面積を広げる構造になっています。雪上に接する広い面によって大きな「浮力」を得ることができ、これによって雪の上でも身体が沈まずに浮いていることができるのです。一般的に、荷重が大きければ大きいほど、または雪質が軽く乾いていればいるほど人は沈みやすいため、より大きな表面積のスノーシューが必要とされます。
スノーシューとワカンは別物? ~似ているようでちょっと違う~
スノーシューは中央アジアを起源としながら世界中に伝播し、各地域に適応していったといわれいてるわけですが、ここ日本でも独自の進化を遂げてきました。それが日本の雪国に伝わる民具「ワカン(カンジキ)」です。ワカンもスノーシューも同じ雪上を歩きやすくするためのものですが、西洋と日本での環境・用途が異なるため、どちらがよいとは一概に言えません。ただ、個人的な経験では日本で冬山登山のために利用する場合においては、比較的ワカンの方がアドバンテージがあります。その辺りを以下の比較表にまとめてみます(あくまでも平均的なモデルでの相対的な比較です)。
素材 | スノーシュー | ワカン |
---|---|---|
代表イメージ | ||
特徴 | 基本的に乾雪・深雪・どちらかというと平坦な場所を歩く場合に最適 | 湿雪や急峻な斜面など、複雑な地形・雪質を歩く場合に最適 |
メリット |
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デメリット |
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まとめると、地形の変化が激しく、湿った重たい雪が多い日本の登山では、昔からワカンとクランポンの組み合わせの方が何かと使いやすくて多用されてきました。ただ平地での歩きやすさや浮力の大きさなどから、パウダー狙いのバックカントリー・スノーボードでは、スノーシューを好む人が多いのも事実です。特に最近ではMSR ライトニング アッセントのように軽くて急斜面にも強いモデルが多く登場してきたという技術的進化によるところも大きいです。
どんな靴に合わせるの?
スノーシューを履くための靴は、必ずしも堅牢で保温材の入った冬用登山靴である必要はありません。
極端な話、固定さえできれば何を履いても構わないのですが、一般的には「防水透湿素材のハイキング・トレッキングブーツ」や「ウィンターブーツ」または「冬用登山靴」を履くことが多いです。ただ春~秋用のトレッキングブーツや、あまりグレードの高くない革製の登山靴で使用するには足が冷えてしまう恐れがあるため、その場合には下の画像リンクのような「オーバーシューズ」という、ブーツの上から履く防水透湿性のシューズカバーを使うとより万全です。
スノーシューを楽しむには他に何が必要なの?
一般的にスノーシューで遊ぶ時には、スキーやハイキングと同じようにポール(ストック)を使います。
ストックを使わなくても歩けないことはないですが、雪の上でバランスを崩せばすぐに転倒してしまいます。ストック無しでスノーシューをすることはまったくおすすめできません。安定して疲れずに歩くために、トレッキングポールとは違う、スノーバスケットが広い雪用のストックを準備しましょう。
また雪の上を歩くときには、ブーツの中に雪が入らないよう足から脛までを覆う「スノーゲイター(スパッツ)」を装着します。これがないと万が一深い雪にハマったとき、靴の中に冷たい雪が容赦なく入ってきてしまします。スタート前に忘れずに装着しましょう。
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最適なスノーシューを選ぶときにチェックしたい5つのポイント
ポイント1:用途や目的に適したスノーシューの種類・タイプを知る
現在のスノーシューは、用途によって大まかに3つくらいのタイプに分かれています。それぞれメリット・デメリットがあり、極力オールラウンドな比較的バランスの良いモデルはあれど、どれも完璧にカバーできる万能モデルというものはなかなかありません。まずはそれぞれのタイプのモデルの特徴を押さえておき、自分の買うべきタイプを把握しましょう。
タイプ | 平地・緩斜面向け | 山岳地形・バックカントリー向け | ランニング(レース)向け |
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代表イメージ | |||
用途 | 平地~緩斜面までを歩くのに最適化されたモデル | 急斜面の登下降を前提とした登山・バックカントリーに最適化されたモデル | 基本的に圧雪された地面で走るシーンに最適化されたモデル |
特徴 | 初心者に最適 | バックカントリーや冬山登山に最適 | 雪上ランニング・レースに最適 |
強み |
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弱み |
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ポイント2:最適な材質と大きさ・形状のフレーム(&デッキ)を選ぶ
雪質・深さに合わせた大きさかどうか?
自分に最適なタイプが分ったところで、次は各モデルの構造についてチェックしておきたいポイント、まずはフレームとデッキ部分についてです。
「フレーム」とはスノーシューを取り囲んでいる枠の部分、さらにフレームの内側に膜が張ってある場合、その部分のことを「デッキ」と呼んでいます。
ふかふかの雪の上でしっかりと浮くためには、何をおいてもフレーム全体面積の大きさ、あるいは全長が重要です。当然のことながらフレームが大きければ大きいほど浮力は大きいため、深い雪でも浮力を得られ、大柄な人や荷物の多い人でも歩きやすいといえます。ただし一方で重量は重くなります。このため、むやみやたらに大きいモデルを選べば良いという分けではありません。
メーカーによっては同じ型でも大きさ(全長)の異なるバリエーションが用意されているので、どのくらいの長さが適切なのか分らない場合には店員さんなどと相談し、「自分の体重 + 荷物」がそのスノーシューの「適合荷重」に収まるかどうか、そして使用する場所での雪の状況などを総合的に検討して選ぶのがよいでしょう。
歩くルートの地形に適した材質・形状かどうか?
そしてもうひとつ、選ぶときに注目するのはフレームの材質とエッジの形状です。
チューブタイプ
もともとスノーシューのフレームは木や竹でできていましたが、現在ほとんどがアルミ等の金属またはプラスチックに取って代わられています。木や竹、そしてアルミフレームの場合、多くは丸いチューブ状のため、大きくなっても軽さと剛性のバランスがよくソールの滑りもよいため、平らな深雪で歩きやすい一方、より急な斜面でのグリップ力は弱いというデメリットがあります(下写真)。
エッジタイプ
その他のフレーム形状には、プラスチックや角のあるアルミ板などを成型して、外周にエッジが効くように作られたモデルがあります(下の写真はプラスチック製のエッジタイプフレーム)。
主に氷河歩きが主流だったヨーロッパ系ブランドのスノーシューに多く、エッジの強いグリップ力によって斜面の上り下りやトラバース、硬い雪質での歩行に適しているという利点があります。その代わり耐久性はチューブと比較すれば弱く、またエッジが効いているため深い雪での(滑らせるような)スムーズな歩行はあまり得意な方ではありません。
ポイント3:着脱しやすく、緩みにくいバインディングを選ぶ
バインディングとはシューズをスノーシューに固定する部分をいいます。メーカーによっても、タイプによっても固定方法はさまざま。こればかりは実際に試着して試してみるのが一番早いのですが、いずれにせよここでチェックすべきポイントは以下の2点です。
ひとつは「着脱・調節が簡単かどうか」。グローブをしながらの着脱は意外と不自由なことが多く、素手ならば難なくできるものでも実際の現場では難しいということがあります。
もうひとつは「長時間歩いても緩みにくいかどうか」が重要なポイントです。こればかりは実際に長く歩かないと本当のところは分かりませんが、試履き時でも最低限、足をぐりぐり動かしてみたり、つま先を突いてみても簡単に緩まないかどうかである程度はチェックできます。スペックでしか確認できない場合でも、この2点がしっかりとしてるバインディングかどうかをできる限りきちんと確認しておくようにしましょう。
なお本格的な登山に使う想定であれば、踵に急斜面での登高を助けるヒールリフトがついているかどうかも要チェックです(下写真)。
ポイント4:用途に合わせた強さのクランポンかどうかをチェック
大きく深い爪はより急峻な斜面に必要
クランポンとは、シューズの裏にあるギザギザした爪(スパイク・エッジ・クリート)の部分のことをいいます。
多くの皆さんのご想像の通り、これは雪面にスノーシューを食い込ませ、スリップしにくくする、グリップ力を高める役割を果たし、形・大きさ・材質等によって大きく違ってきます。やはりこれも実際に雪の斜面を歩いてみないことには真の実力は分かりませんが、ここでは購入前にどのようにしてチェックすればよいかを説明します。
クランポンの強さ、何をおいてもまずは「深さ・大きさ(鋭さ)」
当然ですが、クランポンの深さ・大きさ(鋭さ)は、グリップの強さに大きく影響します。大きく鋭い爪は、より硬く急な斜面でも地面にしっかり食い込み、安全に歩くことができます。
多様な地形で安定したグリップを生み出す「爪の配置と向き」
次にクランポンがシューズ裏のどの部分にどれだけついているか、その配置と方向性をチェックします。モデルによって足のつま先部分にしかついていないものから、足裏全体、さらにはフレームの外周にまで配置されているものまでさまざまあることが分ります。もちろんここはより広範囲に、たくさんの爪が配置されているモデルを選ぶ方が、足の置き方にかかわらずグリップが効いてくれるという意味で安定感は上と考えられます。
また爪の向きについても、爪の食い込む方向性によって、単に前後方向の踏ん張りだけしか考えられていないか、それとも(斜面トラバース等を想定して)横滑りしにくく、横方向へのズレに対しても踏ん張りがきくかどうかまで考えられているかという違いが出てきます。
最後に、クランポンの構造によっては、湿雪などの重たい雪が歩いているうちに詰まってくることがあります(下写真)。特にサラサラの乾雪が多い北米系のメーカーに多いのですが、クランポン同士の間隔が密着していたり、雪の抜けが良くなさそうな配置であるモデルには注意しましょう。
ポイント5:用途によっては重量と携帯性も重要
ここまで押さえておけばもう大きく間違えることはないと思いますが、最後にそれでも万が一絞り切れない、そんな時はこの最後のチェックポイントである「重量と携帯性」を検討してみてください。
数時間の日帰りスノーハイクであれば、スタートからゴールまでスノーシューを脱ぐことはないでしょうが、もし深雪の森を抜けて稜線に出るような雪山登山となると、途中でスノーシューを脱ぎバックパックに取り付ける、そして下山時にはまた履き直すといったシーンは往々にしてあります。そうなってくると、モデルによっては意外とかさ張るスノーシューですから、バックパックに取り付けてもかさ張らず、そして持ち運んでも苦にならない軽さの方がよいに越したことはありません。今はその予定はないとしても後々になって後悔するとも限りませんので、必要な機能を備えた中でも、予算の許す限り軽量コンパクトなモデルを選ぶことをおすすめします。
目的・タイプ別おすすめスノーシュー ~スノーハイクからバックカントリーまで~
今回はどうしても最新モデルまで実物を履いてみることはできていないのですが、これまでのシリーズを履いてきた経験をベースに、2022年の目的やスタイルに合わせたおすすめモデルを見繕ってみました。
バックカントリーにおすすめのスノーシュー:MSR ライトニング アッセント
数あるスノーシューの中でも最も高価な部類に入りますが、それだけに平地から急峻な斜面、テクニカルな地形まで対応するトップクラスの歩行性能を誇ります。スノーシュー界のロールスロイスと呼ばれているとか。
まず何と言ってもフレームの外周全体が鋭いブレード状のため急斜面の縦方向にも、斜面トラバースの横方向にも圧倒的なグリップ力がすさまじい。
バインディングも超軽量かつシンプルで着脱も抜群に早い。どんな靴にもフィットしやすい。ヒールリフトももちろん付いて急斜面でも問題なし、ここまで使いやすくて、そのうえ軽量コンパクト。「登る」ことにかけてはほぼ欠点が見当たらない安全性が何よりも魅力です。この特徴は、タフな地形を登るためだけに必要なバックカントリースノーボーダーにとってピッタリ。まさにバックカントリーには最適といえますし、もちろんすべての厳しい雪山アクティビティに活躍してくれます。
オールラウンドにおすすめのスノーシュー:Atlas レンジシリーズ(MTN/BC)
北米のスノーシューメーカー ATLASのかつての主力モデルはほとんどがシンプルなアルミ製チューブ型フレームでした。それがここ数年で著しい進化を遂げています。
最新のフラッグシップモデル「レンジシリーズ」のフレーム断面は剛性・軽量性・柔軟性のバランスに優れたT型断面のアルミフレーム。フレーム外周のノコギリ刃形状と適度なしなりを生み出す構造によってグリップ力は抜群で、これまで独壇場だったMSRライトニングアッセントの有力なコンペティターとなるに十分な性能を備えています。
MTNモデルはつま先がBOAシステムによるダイヤル式バインディングのため、どんな靴に対してもすぐにジャストフィットさせ、歩いている最中も緩みにくい快適性重視タイプ。そしてBCモデルは軽量かつコンパクトな樹脂製バンドでフィットさせる、携帯性重視タイプ。どちらを選んでも、優しい雪原から複雑な地形まで幅広く対応するオールラウンドで高いパフォーマンスが期待できるスノーシューです。
初心者におすすめのスノーシュー:Atlas ヘリウム TRAIL 23
最先端のではないけど実績のある材質と構造をベースにした、用途を選ばないクセのない作り。そして細部にシンプルさと使いやすさを備え、できる限り手に取りやすい価格。そんな初心者に安心しておすすめできるのがこのAtlas ヘリウム TRAIL 23。
もちろんもっとシンプルで穏やかな地形向けのモデルはありますが、それだとヒールリフトが付いていなかったりして、ステップアップしたときに物足りなくなってしまう。その点、ヘリウム TRAILならビギナーレベルからある程度の傾斜がある地形まで案外幅広く対応してくれるため、長く使える「ちょうどよさ」がオススメ。
快適な歩き心地で雪山登山におすすめのスノーシュー:TSL SYMBIOZ hyperflex adjust
好きなんですよね、TSL。日本ではあまり売れていないようですが……。知る人ぞ知るスノーシュー大国、フランスの老舗メーカーのフラッグシップモデルは、とにかく独自構造のフレームによる抜群に快適な歩き心地が魅力。
フレームの側面に小刻みに入れられた溝と特殊なプラスチックにより、スノーシューが驚くほどしなる。シューを履いているにも関わらず、普通の靴を履いているかのような自然な歩き方が可能。最新モデルはBOAシステムを併用した着脱もフィッティングもばっちりのバインディングになって、パッキングのしにくさ以外は敵なしのパフォーマンスを実現しちゃっています。この歩きやすさ、全方位へのグリップの安全性は多様な雪質・地形での雪山登山・スノートレッキングに最適。一番のネックは果たして日本で買えるのかしら?ということ。興味のある方は販売代理店へ問い合わせてみるといいでしょう。
コストパフォーマンスでおすすめのスノーシュー:キャプテンスタッグ UX-950 CSスノーシューTYPEⅡ 22inc
怪しい中華ブランドは抜きにすると、財布にやさしいアウトドアグッズを提供してくれる国産ブランドの雄、ぼくらの鹿番長ことキャプテンスタッグは、入門モデルからキッズ向け、本格登山まで幅広いスノーシューをラインナップしています。なかでもこのUX-950は特段珍しい機能や構造でもなく、アルミチューブ型フレームにポリエチレン生地のデッキを張り付け、つま先とかかとを3点で留めるプラスチックのバインディングというベーシックな構造のスノーシューではありますが、それだけに間違いのない実力と使いやすさを備えているといえるでしょう。キャリーケースが付属していながら、ありがたい価格を実現しています。
逆にいうと多くを望むことはできません。ヒールリフトは付いていないため、平地・緩斜面向きですし、22インチというサイズは深い雪で重荷だと浮かんでいられないかもしれません。でもどうしてもコストを最小限にしなければならないなら、十分な選択肢といえるでしょう。
まとめ
スノーシューは「深雪の上を歩くもの」といった単純な考えでいると、一見どれを選んでも同じのように思えてしまいますが、意外と小さくない落とし穴が空いています。かつてハイキング向けのモデルでバックカントリーに臨んだ知人は、みんながスイスイと進んでいるなか、自分だけかなり足が埋まってしまい、ひとり体力を消耗してしまっていました。そんなこともありますので、安易に価格だけで選ばず、目的とシーンに合わせて間違いのないモデルを賢く選びたいものです。