ラインナップ比較:革新を止めない老舗ブランド、TUBBSスノーシューを履き比べてみたのでおすすめモデルを紹介するよ
引き続きスノーシュー主要ブランドの代表モデル試し履き企画。第3回はアメリカ、メイン州で100年以上続くスノーシュー業界のパイオニア、TUBBS(タブス)についてレポートします。
今回はTUBBSの幅広いラインナップのなかから人気のプラスチック製デッキ「FLEX」シリーズをピックアップ。ウォーキング~バックカントリー(以下BC)、男女別など用途・スタイルの異なる5モデルを一部メーカーからお借りして試し履きしてみました(@かぐらスキー場)。例によってここからの話しは多少スノーシューについての知識があることを前提としています。もし読んでいて分かりにくい部分がある場合には、以前スノーシューの選び方について解説・レビューした以下の記事も合わせて読んでみてください。
目次
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TUBBSスノーシューの特徴とラインナップ比較
このあといやというほど話す機能のあれこれはまず置いておいて最初に一言いわせてください。もうほんと見た目だけですが、思わず「欲しい……スゲー欲しい」となってしまうデザインのインパクトたるや!登山というよりむしろゲレンデ映えする洗練されたデッキのデザインやカラーリング、「ギア」感がハンパないバインディングやブレード(クランポン)の質感は個人的にツボりまくり。デザインだけでいえば単体としてのカッコよさはもちろん、BC系の装備と合わせるとこれ以上ないくらいしっくりくるんです。
はじめて出会ってからこのブランドについて調べるまでは「これ、スノボ系ブランドが勢いでカッコいいの作っちゃいました」的なヤツだとずっと思っていたのですが、蓋を開けてみれば1906年創業、ガチガチの老舗。つい二十数年前まで木と革レースで地味ーな雪上歩行具を作っていたメーカーが今コレですよ。現在の経営がK2グループの傘下にあるってのも影響しているかも。
いずれにせよ伝統を背負いながらも挑戦を忘れない清々しい姿勢は機能云々とは別の次元でこのブランドの魅力のひとつだと思ってます。
今回試し履きしたFLEXシリーズについて
さてようやく本題。これからお話しするFLEXシリーズとは、TUBBSの多様なラインナップのなかでも十分な耐久性と同時に適度なしなりと柔軟性を備えたプラスチック製デッキを採用したシリーズ。自然でなめらかな歩行を可能にしながら関節への負担を軽減するなど人間工学と生体力学に基づいてデザインされた「FLEX Tail」を特徴としています。これから各モデルの共通点と違いなどを中心に特徴を見ていきますが、理解しやすいように大ざっぱな指標・スペックについては以下の表で予め俯瞰しておきます。なお、TUBBSには他にもアルミフレーム製モデル等がありますが、今回の話しはそれらについて考慮されていないことを予めご理解ください。
アイテム | FLEX VRT SNOWSHOE | FLEX RDG SNOWSHOE | FLEX ESC SNOWSHOE |
---|---|---|---|
イメージ | FLEX VRT SNOWSHOE | FLEX RDG SNOWSHOE | FLEX ESC SNOWSHOE |
適したアクティビティ | バックカントリー | デイハイキング | トレイルウォーキング |
得意な地形 | 山岳 | なだらかな地形 | 平地 |
グリップ | ◎ | ◯ | ◯ |
浮力 | ◎ | ◎ | ◎ |
着脱のしやすさ | ◎ | ◯ | ◯ |
調整のしやすさ | ◎ | △ | ◎ |
固定力 | ◯ | ◯ | ◎ |
歩きやすさ | ◯ | ◯ | ◯ |
下りの楽しさ | ◯ | ◯ | ◯ |
つま先の調節 | ◎DYNAMICFIT BINDING | ◎CUSTOMWRAP BINDING | ◯QUICKFLEX BINDING |
足首ストラップ | ◎ワンタッチストラップ | △スチールピン | ◯ストラップ |
前爪 | ◎VIPER 2.0 CRAMPON | ◯ | ◯ |
ブレード・クランポン | ◎TRACTION RAILS(深) | ◯TRACTION RAILS | ◯TRACTION RAILS |
クライミングサポート | ◎(高) | ◯ | ◯ |
サイズ(cm) | 21×61(24インチ) | 21×61 | 21×61 |
重量(g) | 2040(24インチ) | 1750 | 1632 |
サイズバリエーション | 24/28インチ | 24インチ | 24インチ |
バインディング(着脱方法)の違い ~サクッと履けるBoaクロージャーが神過ぎる~
デザイン以外でももちろんTUBBSを選ぶ理由はたくさんあります。なかでも間違いなく大きな魅力のひとつが、1998年、スノボブーツ用として開発されたことに端を発する「BoaⓇクロージャーシステム」という極細ワイヤーとダイヤルによる締め具を採用したバインディングでしょう。
VRTとRDGの2モデルで採用されているこの仕組みですが、どちらも基本的な装着方法はいたって簡単。つま先をバインディングに突っ込んだらあとはダイヤルを回すだけ、力を入れる必要はまったくなし。片手でなおかつグローブを着けたままでも驚くほどスムーズかつスピーディに履くことができます。
ただ、同じBoa採用でもそれぞれに微妙な仕組みの違いがあり、若干補足が必要です。RDGのバインディングはかかとまで含めてワイヤーが連結しているため、甲のダイヤルを締めることによってかかと含めた全体を締めることができる、文字通りワンタッチでの着脱が可能な構造(下写真の真ん中)。一方VRTの場合、ダイヤルによって締めることができるのは甲部分のみで、かかと部分を固定するためには別のゴム製ストラップを締める必要があります(下写真の右)。
手間だけでいえば明らかにRDGの方が簡単ですが、RDGの場合、自分の靴に合わせてかかとのストラップの長さを予め調節しておく必要があり、この調節が硬いスチールピン2個を指でひっこ抜いて留め直すというやや面倒な設計なのがちょっと残念。さらにRDGの甲部分は若干柔軟性にも欠けるため、ブーツによっては若干の空間が気になり(個体差があるのかもしれませんが)、固定力という点でも足の甲全体を均一に圧迫して固定されるVRTの方が安心できます。
なお、VRTのかかと部分のストラップですが、引っ張るだけでちょうどいいポイントに固定できるスマートなつくりになっているため、実際のところは手間と感じるようなものでは決してなく、正直かなり使い勝手はよいです。そうした点まで含めて考えると、同じBoaでも個人的にはVRTのバインディングの方が好きです。
ちなみにBoaを採用していないESCモデルはシンプルな化繊ストラップとかかとストラップの2カ所を留める構造。着脱の手間でいえばわずかに他モデルより劣るものの(片手でダイヤルを回すだけか、両手でストラップを引っ張るかの違い)、つま先を突っ込んで締めるという仕組み自体は同じなので、スピードでいえばそれほど違いはありません。
柔軟なテープストラップはスキー・スノボブーツやアルパインブーツなどの硬い靴だけでなく、スノーブーツなどの柔らかい靴などにも合いやすいため、その点からもライトな装備で楽しみたいならば無理にBoaの2モデルよりもESCか、あるいは今回試していませんが似た構造のTREKをチョイスした方がむしろフィットしやすいのではないでしょうか。
浮力の違い ~どのモデルもデッキの構造・サイズはほぼ同じ~
浮力については下の写真で見るとおり、デッキの大きさ・形状(・材質)ともにほぼ同じですので、各モデルで実感できるほどの違いはハッキリいってありませんでした。もともとFLEXシリーズは24インチ(女性モデルは22インチ)が最小サイズ。北米大陸の平らな乾雪原・森を歩くために発展したスノーシューは元来浮力の高さには定評があり、MSRなど他メーカーで22インチあたりを使用している人からするとその違いは確かに感じられると思います。
グリップの違い ~VRTのえげつない前爪は期待以上のパフォーマンス~
次にスノーシューを裏返してブレード・クランポンなどのグリップ周りを見てみます。RDGとESCのグリップ構造は見たところも、歩いた感触もまったく同じ。一方VRTだけは縦に配置されたブレードはより細かく深く、そしてかなり前方にまで長く伸びており、さらに足先のクランポンも刃が多く、鋭くなっています。これが締まった雪の急斜面を前にした際、とにかく前爪に荷重をかけてからの安定感は抜群。さらにヒールリフト(クライミングサポート)も若干ですが高く設定されていおり、VRT=Vertical(垂直)という名のとおり、これらの特徴が傾斜の厳しい斜面を相手にするバックカントリーシーンに最適といわれる所以です。
ちなみに、平地の雪原歩きを想定したESCだけはヒールリフトが付いていないため、このモデルはあまり急斜面の登下降が多いコースを歩くには向いていませんので、その点には注意が必要です。
男性・女性モデルの違い
ポイントの最後に、今回RDGとESCの男女モデルを試すことができたので、これらの違いについてもチェックしてみました。
まず男女モデルによってサイズは明確に異なります。写真では分かりにくいかもしれませんが、男性モデルは24インチ、女性モデルは22インチ。さらに単にサイズが短くなっただけではなく、その他、デッキの形状に関しても微妙に女性モデルの方が丸みを帯びていて引っかかりにくくなっていたり、女性の靴のサイズに合わせたバインディング形状(サイズ?)になっています。女性モデルではこうした体型に合わせた構造的な調整はあるものの、一方で基本的な機能・使い勝手はまったく違いはありません。逆にいえば、小柄な男性が実際に合わせてみてしっくりくるのであれば女性モデルを使ってもいいじゃない、ということでもあります。
TUBBSスノーシューのシーン別おすすめモデル紹介
以上の特徴を踏まえた上で、TUBBSシリーズのなかでも特に使いやすかったおすすめモデルを紹介します。
スムーズな着脱と豊富な浮力・トラクションでバックカントリーにおすすめ:FLEX VRT
TUBBSがBoaクロージャーの採用をスタートさせた瞬間からジャケ買いよろしく飛びついて、早2年。秒速でがっちり固定できるBoaバインディングは、一度体験してしまうともう他のモデルには戻れなくなるほどの快適な使い心地です。新しいものに懐疑的な一部の人々からは敬遠されがちだったBoaですが、とりあえず今までワイヤーも切れたりへたったりすることはまだ一度もありません。手荒に使うのはちょっと怖いという心理的な不安はもちろんありますが。
一方、あくまでも個人の印象ですが、重量やグリップ面ではMSRにギリギリ一歩及ばず、浮力や着脱の簡単さではATLASと競り合い、歩きやすさではTSLといい勝負。こう考えると他ブランドのフラッグシップモデルと比べて圧倒的に優れている点があるかといわれれれば必ずしもこれ!という長所はないかもしれません。ただ、しかし、裏を返せば「どの要素もトップと競り合っている」という点こそがむしろこのモデルの長所であり、どんなシーンで使用するとしても最終候補に残ってくるというのがこのVRTの魅力だと思っています。浮力・グリップ・歩きやすさ・使いやすさ……すべてにおいて水準以上の隙のない性能を誇りながら、そのうえ手頃な価格設定。それでこの他を寄せつけない洗練されたデザインですから、深い雪に分け入っていこうとする登山者・BCプレイヤーにとっては後悔しようがありません。
それでもあえていうならば、比較的大振りなサイズなのでより足回りを軽量・コンパクトで行きたい場合、そして深雪よりもクラストした斜面のトラバースなど変化に富んだ厳しい斜面が頻出するルート、気温が上がり雪が締まって重たくなる季節にはより軽量なモデルやワカンの方が安心です。一方パウダーを狙った厳冬期のバックカントリーではそのオールマイティな性能の高さと扱いやすさで最大限のパフォーマンスを発揮してくれるのではないでしょうか。
雪原のスノーハイク向け、高コストパフォーマンスではじめての1足にピッタリ:FLEX ESC
TSLの紹介時にも書きましたが、スノーハイクやスノーシューに関して経験の少ない人がまず雪の付いたトレイルを探検したいというケースであれば、鋭く深いブレードや重たいバインディングは不要なわけで、よりシンプルで扱いやすい低価格のモデルが最適です。それにしても、最近ではスノーシューもいつしか高くなってしまったもので、実績のあるメーカーでは低価格といえどもなかなか手が届きにくいのが現状。そんなあなたにこのFLEX ESCは福音なわけです。
腐っても最新鋭の技術が投入されたFLEXシリーズはグリップも浮力も歩きやすさも非常に安定しており、平地ならばVRTにも負けず劣らず快適です。さらにいうと余計なパーツを簡略化した結果、重量もかなり抑えられています(1632g)。それがこの価格で手に入るとなれば、今までのエントリーモデルのなかでも群を抜いた高コストパフォーマンスであるといわざるを得ません。これを履いて美ヶ原なんか歩いてみたいなぁ。はじめてのスノーシュー体験でもし青空の下そんなことができたらそりゃもう、どんなにライトなハイカーでも雪山沼にハマること必至ですよ。