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欧州最大のアウトドア・スポーツ用品展示会『ISPO MUNICH 2018』レポート ~物欲を刺激しまくり、未来の注目アイテムまとめ~

欧州最大の総合スポーツ用品展示会として知られる『ISPO MUNICH 2018』についに!参加してきました。

これまでOGZでは北米「Outdoor Retailer」や欧州「The Outdoor Show」といった世界のアウトドア系ギア展示会を取材してきましたが、「ISPO MUNICH」といえばそれらの展示会と比べても質・量ともにケタ違い。まさに世界中のスポーツビジネス見本市のラスボス的存在モンスター中のモンスターイベント。

今回は筆者がはじめてISPO MUNICHに参加し、5日間かけて12万歩、隅々まで歩き尽くして体験してきたイベントの様子から、そこで感じた世界のアウトドア・スポーツ産業の今を、注目アイテム紹介含めて余すところなくレポートしてみたいと思います。

目次

ISPOってどんなイベント?

40年以上前から続く国際スポーツ展示会ISPO

1970年、国際的なスポーツ用品展示会としてはじまったISPO MUNICHは当初25カ国、816社からスタート。そこから約40年の歳月を経て、2017年には2,700社を超える出展者、世界各地の出展者が120カ国からおよそ85,000人の来場者にまで達する、巨大なスポーツ用品・関連ビジネス見本市に成長していきました。

世界のありとあらゆるスポーツ用品関連ビジネスの最前線が眼の前に

地域性と季節柄、ウィンタースポーツ市場を中心とした出展がメインになってきますが、実際のところISPOは誕生してから今日まで、スポーツビジネス全体に門戸を開いてきました。

その結果、現在ではウィンタースポーツをはじめアウトドア、アクションスポーツ、チームスポーツ、ヘルス・フィットネス、ライフスタイルまで、さらにはコンシューマー向け製品に限らず素材やパーツメーカーも含めたありとあらゆる多様なスポーツ関連製品が集まる、唯一無二の幅広さと規模を誇るイベントへと成長し、今でも常に変化を続けています。

会場内では各ブランドの展示ブースの他、その年の革新的アイテムを展示した「ISPO Award」「ISPO Brandnew」エリアをはじめ、デジタル特集、サステナブル(環境対策)特集、テキスタイル特集、ウール特集エリアといった特に注目のトピックが集まったエリアも見られます。

また今年は昨年に引き続き「スポーツと女性」というテーマにも力を入れており、キーパーソンの女性アスリートや著名人によるディスカッション、女性を意識したブランディングを行っているメーカーブースをめぐるツアーなども開催されていました。

とある箇所には「求人情報」「大学などの募集要項」が貼り出され、スポーツ業界をめぐるあらゆる情報がこの場所に集まっていることを感じさせてくれます。

レクチャーやトークショーが行われるISPOアカデミーでは、デジタル化からソーシャルメディア活用、新しいブランディングのあり方などスポーツビジネスのあらゆる過程における最新の動向について、幅広い情報と洞察を提供しており、今年も300を超えるプログラムが開催されていました。

イベント会場の外に眼を向けると、ミュンヘンの街全体が期間中の1週間「スポーツウィーク」となり、多くのミュンヘンのスポーツ用品店などでワークショップ、プレゼンテーション、サイン会などのイベントも開催されています。またISPO開催前日である2018年1月27日には、東京でいうところの代々木公園のようなオリンピアパークでISPO Munich Night Runというトレイルランイベントが開催されていました。

といった感じで、ISPO MUNICHとは端的にいうならば、スポーツビジネス・産業の最先端が、そしてモノが生み出されユーザーの手もとに届くまでに関わる全ての産業を、まるっと”繋がり”として体感することができるイベントです。筆者の知る限りこんな体験は日本ではもちろん、世界を見回してもここでしか味わえません。

ISPOで出会った少し未来の注目アイテムを紹介していくよ

前置きはこのくらいにして、ここから早速数千におよぶ展示のなかからコレは!と思ったアイテムについて紹介していきます。

毎度のことながら念のため、これから紹介する製品はあくまでもそれぞれの地域市場でリリース予定のモデルを、現地での取材許可に基づき掲載しています。ここ日本でも同じように(正規に)入手できるかどうかについてはまったくの未定ですのでご注意ください。

注目アイテム紹介その1:デジタル化でよりスマートになった最新ギア編

ここ数年でいよいよ待ったなしの状況が訪れつつあるスポーツ用品の「デジタル化」の波。今回もその勢いはますます加速し、良くも悪くもスポーツビジネスのあらゆる要素のデジタル化は「やるか、やらないか」ではなく「いつやるか」という段階に進んでいます。ついこの間までコンセプチュアルなものと思っていたあんなことやこんなことが、気がつけばもうすぐそこの実用レベルにまで迫ってきている、そんな印象をもたずにいられませんでした。

O-Synce USEE

これは未来……ドイツのスタートアップ企業が開発した、ヘルメットに装着する世界初の自転車用ヘッドアップディスプレイ。通常のサイクルコンピューターで見られるような走行速度、距離などをはじめナビゲーション情報など便利な情報が小さな照射光から立体的に表示され、注意をそらすことなく確認することができます。( ISPO Award Gold)

Talking Head

こちらもドイツ発、Bluetooth接続されて電話、音楽再生、インターカムなどが利用できる世界初のスマートスキーヘルメット。単体でこのヘルメット同士でコミュニケーションもできるため、バックカントリーなどパーティーでの滑降ではめちゃくちゃ便利そうです。

LIVALL BH51M Helmetphone

ヘルメットのスマート化はもうあらゆる方面で進んでいます。こちらはハンズフリーで通話やウィンカー表示、音楽を聴くことができる自転車向けスマートヘッドホン。こういう尖ったアイテムを中国のブランドが作るということに、もはや驚きはなくなりました。(ISPO Award Product of the Year)

MY ESEL

ヤバい欲しい……地元の木材フレームを活用して作る完全カスタムメイド自転車。体型はもちろん街向け・クロス・ロードなどのフレームタイプやデザイン・カラーリングなどをチョイスして自分にフィットした1台を簡単にできてしまう。スタイリッシュなデザインもいい!(ISPO Brandnew)

FitStation powered by HP

BrooksとSuperfeet、そしてHPの共同開発による、3D脚型採取~完成品までの一貫した「オリジナルランニングシューズ製造システム」。データさえ打ち込めば数時間で自分の足型にサイジング・カラーリングされたランニングシューズが手元に。製造機は郊外のちょっと大きな量販店ならば置けてしまいそうな大きさで、数年後コレが実現する未来があるのかと思うと感慨深い。(ISPO Award Product of the Year)

ICAROS ICAROS Home

ドイツ生まれ、VRを活用したゲーム感覚で体幹を鍛えるトレーニングマシン。日本でも既に何度か紹介されていたらしいですが、自分は会場ではじめて体験してみました。自分は空を飛ぶアイアンマンのようになり、全身を使って身体を持ち上げたり、沈めたり、よじったりしながら前方の輪をくぐっていくVRゲームです。3分ほどのコースでしたが額には思いの外、汗がにじんでいて確かに体幹には良さそうだし、なにより楽しい!HPはこちら。(ISPO Award Gold)

myontec MBODY

こちらもドイツのベンチャーによる、生地に編み込まれたセンサーによって腰から膝上までの筋肉の各部位の活動内容(もちろん心拍数などのデータも含めて)をリアルタイムかつ詳細に記録するスマートスパッツ。主に本格アスリートを指導するコーチがトレーニングで選手の効率アップ・怪我防止に活用しているといいます。デモを見せてもらいましたが、眼の前でスクワットしている人の「どこの筋肉がどれだけのテンションで使われているか」が画面上のイラストに色の濃淡で表示される様子は見ていて爽快。

HYDRO_BOT

スイスのテクノロジー企業が開発した、アウターの背中(写真の水色)部分を特殊な生地に加工することで、衣服内の湿度を自動的に制御することを可能にするという「電子式湿度管理システム」。デモを見た限りですが、発汗時には内側の湿気がみるみる水滴となって外側に排出されていました。とりあえず既存のメンブレンでは見たこともない透湿スピード。逆に、穏やかな環境・状況では過度に透湿性を高めずマイルドに暖かく(涼しく)ということが可能になるそうです。

注目アイテム紹介その2:エコ・コンシャスなアイテム編

日本に居ると肌感覚的に分かりにくいところもありますが、実際のところ欧州のアウトドア・スポーツ界隈ではとんでもない勢いで環境負荷の低い素材へのシフトが進んでいます。優れたプロダクトに与えられるアワードには、今年も自然に還る素材を多く使用したモデルが多数受賞していました。

ここに来ると、現在まで続けてきた利便性と経済性だけを追い求めればよいという姿勢は徐々に見直され、自分たちが享受するフィールドを将来にわたって保つ責任を果たせるような製品を使うということが「新しい付加価値」として位置づけようという業界全体の本気が感じられます。

実際にユーザー側の意識がそれらを受け入れてくれるかどうかは、特に日本のような意識の希薄な地域にいる身としては正直なところまだ分かりません。ただこうした価値観の大転換は個々人の意識変革に頼ることはまず難しいといえ、産業全体一丸となって取り組むべきものであるともいえます。この大きな流れがどこまでつき進んでいけるのか、引き続き注目です。

Patagonia Capilene Air

リサイクルポリエステルとメリノウールをシームレスかつ独自凸凹構造に編んで作った保温性・通気性を両立させた高機能なベースレイヤー……てかこれ、実は一昨年からあるヤツ。昨年突如販売が終わったので何かと思ったのですが、今年からメリノウールの原産国が変わったり(パタゴニア→ニュージーランド)もしているので、おそらくは原料調達などで問題があたのでしょうか。(ISPO Award Gold)

VAUDE Green Core

ドイツの老舗アウトドアブランドVAUDEはここ数年は世界の中でもとりわけエコに力を入れているブランド。こちらはついに出たかという感じの、オーガニックコットンとひまし油と牛乳などすべてオーガニック素材からできた多目的バックパック。生地だけでなくジッパー・バックル・フックといったプラシチック部分も含めてすべてが土に還ります。(ISPO Award)

Bergans Stranda

環境を意識したブランドが多い北欧のアウトドアブランドから、ノルウェーBergansの最新ダウンジャケットは、表裏地には100%リサイクルポリエステル「SpinDye」を採用し、中綿ダウンには100%リサイクルされた「Re:Down」を採用するなど、とことん環境にこだわったモデル。「SpinDye」はポリエステルを生産・染色のために使用する水の量を75%、化学薬品の使用を90%、CO2排出量を25%、電力を30%削減したにもかかわらず高い品質を保つ優れた新素材。(ISPO Award Gold)

ORTOVOX ZEBRU JACKET

非常に弾力性があり、軽量で最大限の断熱を実現する良質なスイスウールを中綿として使用したインサレーションジャケット。ウールなどの獣毛断熱材はここ数年でよく目にするようになりました。それらが化繊の中綿に比べて環境に優しいことはいうまでもありません。(ISPO Award Gold)

次ページ:ISPOで出会った少し未来の注目アイテム紹介:最新ウィンターギアへ

注目アイテム紹介その3:最新ウィンターギア

スキー・スノボ・スノーハイクといった雪上でのアクティビティは何といってもこの展示会での花形です。ただ自分はスノボ全般、そしてスキーも専門的なことまではついていけないので、あくまでも個人的に欲しくなったものだけピックアップしてます。その意味ではその道の人たちにとってはやや物足りないかもしれません。

Scott Backcountry Patrol AP 30

現在アバランチエアバッグにはいくつかのシステムが標準になるべく競い合っていますが、こちらは新機構「スーパーキャパシター」内蔵の「Alpride E1」エアバッグシステムを初採用した最新アバランチエアバッグ。低温に強く-30℃~+50℃の温度で動作し、さらに500,000回以上の長寿命、20分~40分で再充電することができます。おまけにアバランチシステム込みでは軽量な2,670グラム。

POC Obex SPIN

軽量で換気性に優れ、特許出願中の衝撃吸収システムSPINパッドを搭載した汎用性の高いスノーヘルメット。その性能もさることながら、相変わらず色合いとデザインがいいですよね。(ISPO Award)

Oakley Prizm React

1枚のレンズで、こめかみ付近にある左右のボタンひとつで調光が可能な「Prizm React」テクノロジーを採用した新モデル。

KOMPERDELL CARBON-AIR FRAME 25

ありそうでなかった、軽量・高強度のカーボン素材を採用し、片足わずか600gという重量を実現したスノーシュー。

Advenate Hybrid Pro

これはナイスなアイデア商品。一見すると単なるスコップですが、実はシャフトの内部にプローブが内蔵できるようになっている伸縮式アバランチシャベルです。さらに2人用シェルターがセットになっており、スコップとプローブ、スキーポールとを組み合わせれば、即座に緊急用シェルターを設営できます。(ISPO Award Gold)

Fischer Ranger Free 130

テックビンディング対応の新モデルは130フレックス、足首可動域は55度でわずか1,500グラムと、アルペンスキーブーツの滑走性の高さをBCブーツに盛り込んだパウダー好きにはたまらない。デザインも最高、絶対高そうだけど欲しい!

Hillstrike

見たまんま、スキーとマウンテンバイクの楽しさが1つになったユニークなウィンタースポーツギア。スキー場でレンタルできるならきっとする。(ISPO Brandnew)

注目アイテム紹介その4:最新アウトドアギアその他

MAMMUT Nordwand HS Flex Hooded Jacket

GORE-TEX®なのに伸縮性のある、新しいStretch Technologyを脇周りなどに配置したハードシェルで、これまでになく自由な動きやすさを実現。アイスクライミングをはじめとした活動量の激しいアクティビティに最適化されています。それにしてもここ最近のGORE-TEX®はホントいろいろな要望に応えてくれるようになったな。(ISPO Award Gold)

Peak Performance Frost Dry Down Jacket

高級感のある表地の質感とクリーンなデザインで、なおかつ防水を実現したダウンジャケット。同じような見た目のジャケットが居並ぶ中でもやはりどこか気品漂うPeak Performanceのデザイン性の高さは相変わらず際立っていました。(ISPO Award Gold)

CEP Ortho Pronation Control Socks

ボンディングされたテープが着圧を高め足の自然な動きをサポートし、過度な動きを制御する機能性ソックス。アーチを安定させ、優れた速乾性が水疱も防止するなど長距離走行時の怪我を防止するとか。(ISPO Award Gold)

Devold of Norway Tuvegga

3Dでシームレスな縫製技術など、ベースレイヤーの高機能化は今年の展示会で最も驚いたことのひとつです。中でもこれは100%メリノウール、さらにリバーシブルで両面それぞれで異なる機能が実装されたベースレイヤー。表面Aは保温性重視、表面Bは通気性重視と、1枚で多様なアクティビティに対応してくれます。 (ISPO Award)

GORE-TEX® INFINIUM

日常生活にアウトドアのスタイルを取り入れる人々のために生まれたGORE-TEX®の新たなブランドライン。さまざまな気象条件で人体がどう呼応するかという「快適科学」の広範な知識を活用したというこのラインで驚きなのは、「防水性に限らず」より快適に過ごすための性能向上を提供するといっている点。つまりもう何でもありじゃんということか!どんなものになるのか、とりあえず様子見よう。

TECNICA Forge S

これまでスキーブーツのライナーなどでは一般的だった熱成形によるカスタマイズがついにトレッキングブーツにも。熱成形によって20分足らずでそれぞれの足に完璧にフィットした一足にフィッティングすることができる最新トレッキングブーツ。昨年夏からその存在は知っていたのですが、今回ようやく実物を見ることができました。もうじき発売開始とのことで、これは必ずレビューします。(ISPO Award Product of the Year)

Mountain Equipment Tupilak

ムダを削ぎ落としたシンプルなデザインで軽量性を実現しつつも高耐久・多機能なアルパインパック。パタゴニアのアセンジョニストをさらに軽量・高機能にした感じで非常に好感度高しです。

SOTO ストームブレイカー

数少ない日本発のメーカーSOTOからは、この春発売の新作ストーブが展示されていました。液体燃料とガスカートリッジが併用でき、風にめっぽう強い多機能モデル。今シーズンレビューするのが楽しみです。

FLSK

高い保温・保冷機能を備えながらデザイン性も高い秀逸なドイツ製ウォーターボトル。お酒や炭酸飲料なんかも入れられるスグレモノ。

まとめ

これでもかなり絞りに絞ったつもりなんですが、気がつけば欲しいものだらけになってしまい、今回はこれまでになく大量に紹介してしまいました。

最後にひとつだけ、今回もやはり少し寂しかったのは、中国をはじめヨーロッパの小さな国々からテクノロジーを駆使した新しい製品やサービスで小さいながらも世界を変えてやろうという気概に満ちたプロダクトにたくさん出会えたのに対し、世界有数の経済大国で、世界でもまれに見る豊かな自然を誇るはずのここ日本からの発信が少なすぎることでしょう。

あくまで印象でしかないので、ここで安易に”日本オワタ説”を展開しようとは毛頭思いませんが、これだけ活気があって世界に広がる市場が眼の前に広がっているというのに、何かもったいないという気持ちが強く心に残ってしまったのは確かです。

デサントやゴールドウィン、東レ、YKKといった立派な企業だけがようやく出店できるという場ではないハズなのに。実際のところ注目を集める小さなブランドとてかなり荒削りで雑な製品も多く、日本の技術力と丁寧さとセンスの良さがあれば十分目立てると思うんですけどね。

毎回ほぼ持ち出しでの海外取材ははっきりいって赤字でしかなく、これが今後も続けられるかどうかは正直未知数です。ただ行く度に新しい刺激に満ち、アウトドア(スポーツ)という産業のいろんな意味での奥深さ、そこで活き活きと挑戦する人々に触れる感動を一度知ってしまうと、それをまた体感し、伝えずにはいられないとついついまた足を運んでしまいます。アウトドア産業がこのまま多様性と活力に溢れ、自分の余力が続く限りはまだ続けていこうと思いますし、個別でレポートや取材の依頼などがあればよろこんで引き受けますのでぜひ声かけてください。それではまた次の展示会で。

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