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トレイルも岩場も、ハイキングもトレッキングも——日本の山をこれ1足で歩き尽くせるマウンテンブーツ「キャラバン グランドキング GK-ALT」は登山靴の新しいスイートスポットを埋める【最速実践レビュー】

8月の白神山地。数日前に林道が通行止めになるほどの大雨が降った後の森は、ぬかるみでぐちゃぐちゃになっていました。水たまりと濡れた木の根と岩の混じったトレイルは足を置くのにも不安を感じる程でしたが、足元はしっかりとグリップし、危険な斜面に気をとられることなくブナの原生林に浸ることができました。

あるいは紅葉がうっすらと始まりだした9月の鳳凰三山。苔むした針葉樹林の森から尖った花崗岩とザレ場でできた稜線へと続く長い道のりでも、テントを背負った重荷の僕を前へと進め、岩をしっかりと掴み、衝撃を和らげ続けてくれました。

これは日本人が山岳を歩くための靴作りを追求し続けるブランド、キャラバン グランドキングシリーズからこの秋登場する新作登山靴「GK-ALT」の話。発売に先駆けてこの春夏シーズンいろいろなシーンで試させてもらいました。

その印象は一言でいうと「すごくいい、だけど実に不思議なブーツ」というもの。

軽快で柔らかく心地よいフィット感を備えながら、しっかりとしたサポート力があり、グリップ力も抜群。なのにしなやかで歩きやすい。どんな地形でも快適に、心安らかに歩ける。トレッキングブーツであり、ハイキングブーツでもあり、そしてアプローチシューズでもある。これまで履いてきたさまざまな山岳シューズがこの1足に詰まっていると感じられるのです。まるで靴がその都度地面に合わせてくれるかのように。そんなこれまでありそうでなかった絶妙なバランスの良さを実現した新しいトレッキングブーツを、さっそくレビューしていきます。

キャラバン グランドキング GK-ALTの主な特徴

キャラバン グランドキング GK-ALTは、緩やかなトレイルからテクニカルな岩稜帯まで、オールラウンドな地形に対応できる優れた汎用性が魅力の、耐久性とグリップ力、履き心地の良さを備えた万能トレッキングシューズ。高品質で耐久性に優れたスエードレザーを採用した堅固なアッパーはGORE-TEXライナーによる高い防水透湿性を備え、周囲にも360度ランドラバー(一部発泡樹脂シート)によって傷や衝撃からもしっかりと足を守ります。ソックライナー構造の伸縮性に富んだシュータンとつま先まで伸びたシューレースは、見た目からは想像できない高いフィット感を実現。日本人の足型に合わせたゆとりのあるラスト形状と合わせて足全体を優しく正しい位置にホールド。高いプロテクションと可動性を両立した足首周り、部位によって2種類の密度を使い分けた柔軟性と耐衝撃性を兼ね備えたミッドソール、Vibram メガグリップコンパウンドを採用しつま先にクライミングゾーンを配置したアウトソールなど、オフロードでのあらゆる地形で常に安全で快適、疲れにくい歩行をサポートします。

ライトなハイキングから岩場へのアプローチ、そしてアルプスへのトレッキングまで、幅広い山岳アクティビティを1足でこなすことができる、多様なスタイルに求められるさまざまな機能を高いレベルでバランスよく実現した一足です。

おすすめポイント

気になったポイント

主なスペックと評価

項目 キャラバン グランドキング GK-ALT
公式重量 約605g(26.0cm片足標準)
アッパー
  • 2.0~2.2mmスエードレザー/合成皮革/ポリエステルメッシュ(トーバンパー:ラバー補強)
ミッドソール
  • 高密度成形EVAミッドソール
  • インソール:高通気アーチインソール
アウトソール ヴィブラムPEPE(VIBRAM MEGAGRIP)
防水透湿 GORE-TEX
ウィメンズモデル ユニセックス
Outdoor Gearzine評価
フィット感&快適性 ★★★★★
重量 ★★★☆☆
プロテクション&耐久性 ★★★★★
グリップ ★★★★★
クッション性 ★★★☆☆
重荷歩行での歩きやすさ ★★★☆☆
クライミング(岩場)適正 ★★★★☆

詳細レビュー

フィット感・履き心地:見た目とは裏腹にしなやかで優しい履き心地。保護性と動きやすさとを両立する細かな工夫

冒頭に書いた不思議さのはじまりは、足を入れた時の思った以上の心地よさからでした。

届いて初めてこのブーツを見た時の印象は「硬い縦走用登山靴」然としたもので、当初聞いていたよりも本格的なブーツなのだなと、その時は思っていました。ただ、足を入れてみて驚いたことに、その見た目のゴツさと実際の履き心地はまったく違ったのです。

足入れのスムーズさといい、適度なゆとりのあるおおらかな足型といい、シューレースを締めた時に感じる足全体をしっくりとホールドする優しいフィット感といい、見た目で想像していたようなヘヴィな登山靴なんかではまったくなかったのです。

ソックライナー構造のシュータンが気持ちよすぎた

この絶妙な履き心地の良さの裏には、まずソックライナー型のシュータン構造にあることはすぐに分かりました。

GK-ALTのシュータンはアッパーと一体しているだけでなく、甲から足首の関節部にかけての左右が伸縮素材になっていることで、履くときは伸びて足入れがしやすく、そして足が収まった後は適度な圧力でぴったりと足にフィットし、足首の屈曲にも自然に伸縮してくれます(上写真)。シュータン同士の折り目や皺・ゴロつきなどもなく、すこぶる心地よい肌触りです。

つま先まで締め具合を調節できるアプローチシューズ・スタイルのシューレースが足全体をムラなくしっかりとホールド

GK-ALTのラストは多くの日本人の足型に優しいゆったり目の3Eラストがベース。全体として余計な締め付け感もなく、適度なゆとりが確保された優しい履き心地を提供してくれました。さらにグランドキングの他モデルと同じようにこのベースからさらに立体的にフィット感が微調整されているため、たとえばヒールカップでの踵のおさまりなんかも非常によく、歩行時に踵が浮きやすい・ズレやすいといったこともありません。

それに加えてシューレースに目をやると、アプローチシューズやクライミングシューズのようにシューレースがつま先まで延びるラップアラウンド構造になっており、これによって足全体の締め具合をきめ細かくセットし、自分の満足いくようなホールド感とフィット感が得られやすくなっていました。細かなホールドと立ち込みを必要とする岩場で繊細なスタンスを可能にするしっかりとしたホールドを可能にします。

付属のハーフインソールによって微妙な足型調整も可能

ありがたいことにこのモデルにも、他のキャラバンシューズと同じように微妙なサイズ調節を可能にする「ハーフインソール」が付属しています。これがあればたとえ足幅が狭めだったり、左右の足のサイズが異なる人だったりしても、それぞれの足に合わせて細かいフィッティング調節ができます。前にも書きましたが左右の足の大きさ・形が違う自分にとっては何ともありがたい気遣いです。

捻挫や異物の侵入を防ぎつつ、決して窮屈にならない動かしやすい足首周り

足首周りは一見すると高さもしっかりとあって、かなりの保護性の高さを感じます。実際に履いてみるとそのサポート力は想像通りで、ハリと柔らかさの共存したパッドが左右のくるぶしをカバーし、足を踏み外した時でも足首を捻ることはありませんでした。またこの高さは小石などの異物も入りにくく安全といえます。

そのうえ、歩行時の足首の動かしやすさに関しても想像以上に軽快でした。これは横方向への屈曲はしっかりとガードしながら、前後方向には歩行を妨げない伸縮素材が当てられ、甲のレザー部分にもスリットを入れて柔軟性を増したりといった細かな配慮によるもので、これが歩行時の安全性と快適さをバランスよく両立してくれました(下写真)。ただそのフレキシビリティはそこまで極端に高いわけでもなく、アクティブさよりも安心感が優先され、あくまでも「やや曲げやすい程度」に収まっています(ミドルカットモデルであれば、当然ですがもっと屈曲性は高くなり、プロテクションは低くなるでしょう)。

柔軟なパッドを、後部分にやや窪みを入れて歩きやすくした踵(左)。足を前に倒した時もフレキシビリティの高い生地によって屈曲性が確保されている(右)。

足の甲部分にも細かくスリットが入ることで屈曲時に食い込みを少しでも防ぐ工夫がなされている。

パフォーマンス:歩きやすさと安定性、岩場の強さ、優れたグリップを兼ね備えた絶妙なバランスの良さ

密度の異なる二種類のEVAが巧みにブレンドされたミッドソールが安定性と柔軟性を両立

このブーツがどんんなスタイルの登山にもしっくりくるという、いい意味での「不思議さ」は、もちろん実際に歩いていてもひしひしと感じられます。その秘密のひとつは密度の異なる二種類のEVAが巧みにブレンドされたミッドソールにありました。

登山靴は、歩きやすさだけを考えればソールは柔軟で柔らかくフカフカであるほど快適ですが、一方で柔らかすぎるソールは重みによって形が歪みやすいため安定性が低く、重い荷物や着地時の強い衝撃に対しても足がブレやすく、また岩場での細かいホールドで立ち込む際にも踏ん張りがききません。

そこでGK-ALTは密度の低い(=柔らかめ)EVAフォームを中央付近に、そして密度の高い(=硬め)フォームをつま先と踵付近に配置したハイブリッド構造にすることで、安定性と歩きやすさを兼ね備えた絶妙なバランスを目指したわけです。

前後の硬いフォームは着地時の安定性、そして岩場での立ち込みやすさを提供し、重荷での歩行や岩場での器用な登り下りを助けてくれます。一方で中央付近の柔らかめのフォームは、ソールの衝撃吸収性とフレキシビリティを高めることで、例えばアルパインブーツのように平地を歩くときにバタンバタンとぎこちない歩みになったりせず、よりハイキングシューズ的な自然な歩き方を提供することができます。

踵・つま先部分のフォームに比べて、中央部のフォームはより柔軟でクッション性が高い。

ソールの硬さは、参考までに以前レビューしたモデルとの比較でいうと、同社の重装備登山 グランドキング GK88と比べればやや柔らかめ、またファストトレッキングブーツ Zamberlan サラテ トレック GT RR RECCOと比べるとやや硬め。つまりソールだけでいえばGK-ALTGK88よりも平地の歩行に適していると同時に、サラテ トレックよりも重荷での縦走に適しているという絶妙なバランスになっていました(下写真)。

重荷でも立ち込めて、歩きやすさも損なわない柔軟性と硬さを両立したミッドソール

テストで歩いたのは樹林帯の緩やかなトレイルから森林限界を越えた岩場の稜線までさまざまでしたが、この柔軟性と安定性を兼ね備えたミッドソールによって、トレイルでは自然な歩きやすさを、稜線での岩場のアップダウンでは路面の影響を最小限にするフラットな足場を確保し、どんな場面でもブレにくく滑りにくい足場を提供してくれました。

足首にはハイカットなりの保護性が感じられますが、走ったり早足で歩いたりしない限りは可動性が妨げられるという感覚はなく、段差の大きな岩場でも自然に足を出すことができ、安心感を感じながらも自然で快適に歩くことができました。

信頼感抜群のヴィブラムPEPE(VIBRAM MEGAGRIP)アウトソールがトップクラスの滑りにくさと岩場での踏み込みやすさを提供

アウトソールに採用されているのは、以前レビューしたZamberlan サラテ トレック GT RR RECCOでも紹介した「ヴィブラムPEPE(VIBRAM MEGAGRIP)」(した写真)。

「ヴィブラムPEPE」アウトソールは、岩場や悪路での高いトラクション・ブレーキを実現しつつ、軽量性も兼ね備える。

VIBRAM MEGAGRIPはこのサイトでも何度も登場している、言わずと知れた登山・アウトドア向けのラバーコンパウンドとして絶対的な信頼性を誇ります。それを最小限の重量で最大限幅広い地形に対応するようにデザインされたのがヴィブラムPEPE

中央のハニカム構造のラグパターンは最小限の重量で最大限の多様な地形・方向でのグリップ力を、つま先部分には岩場で細かなホールドをとらえやすいクライミングゾーンを、踵にはより安定したブレーキを、両サイドにはより小石や泥を排出しやすくと、登山で出くわすあらゆる悪路に対してオールラウンドに応えることができます。

岩場での踏ん張りに効果的なクライミングゾーンが配置されたつま先(写真左)、着地時のブレーキ力を高める踵(写真右)。

これによって土や砂利から木の根やぬかるみなどのグリップが効きにくい斜面や、雨天時のトレイル、そして細かいホールドにつま先をかけて登るような岩場でも難なく体重をあずけられます。特に湿った岩混じりの急斜面でテント泊装備を背負って下った際にもさして滑ったり不安になったりせずに歩けたときには、このブーツの確かな底力を感じられた気がします。

またGORE-TEXライナーによる安心の防水透湿性と一体型のシュータンは、足首あたりまで水に浸かっても靴の中に水が入ることなく、水たまりやぬかるみに足を突っ込んでも、時折現れる沢の渡渉でもまず心配ありません。レザーには撥水処理が施されているため、多少の水や汚れはしっかりと弾いてくれていました(下写真)。

テストでは一般的な土のトレイル(左上)だけでなく、岩稜帯(右上)、ザレ場(左下)、水の中(右下)など、路面にかかわらず安定したグリップが感じられた。

プロテクション&耐久性:重荷での強い衝撃や摩擦に対しても万全のプロテクション

日本の厳しい山岳に対応することを前提として設計されたGK-ALTは、アッパーのメイン生地にしなやかで堅牢な2.0~2.2mmスエードレザーを採用し、さらに外周は360度ぐるっと分厚いラバー(一部、発泡樹脂シート)による補強が施されているため、強い衝撃に対してもダメージを軽減し、岩稜帯などの通行でも傷つかず、安心の丈夫なアッパーになっています。

耐久性の高いレザーと360度覆うラバー補強による丈夫なアッパー

テスト中つま先のラバーや足首のシューレースフックを岩に何度か強く擦りつけましたが、それでもまだ新品同様の状態を保っており、タフで摩耗しやすい環境でも十分に耐久性があることが分かります。保護性の高い生地で全体が覆われていることは通気性に関しては多少の不利があるのは致し方ないところですが、この辺からもアクティブなシーンよりもオールラウンドなシーンにフォーカスしたこのブーツのコンセプトがうかがえます。

まとめ:ロングトレイルも、アルプス縦走も。古道からトレイル、高山まで「日本を」歩き尽くせる1足

重登山靴並みのしっかりとしたプロテクションと岩場での強さを損なわずに、優れた履き心地の良さと歩きやすさ、滑りにくさを提供する「GK-ALT」は、これまで履いてきた登山靴の中でも飛び抜けて守備範囲が広い、オールラウンドに対応する一足でした。古道を気ままに歩くウォーキングシューズでありながら、トレイルをゆっくり歩くハイキングシューズでもあり、タフな地形をしっかりと歩くトレッキングシューズでもあり、登山道を離れて岩場に向かうアプローチシューズでもある。これまでにもハイブリッドな特徴を備えた登山靴は数多くありましたが、ここまで優れた履き心地の良さを実現しながら、同時にここまでの幅広さと耐久性を備えたブーツは記憶にありません。「ALT(=Alternate)」という名にふさわしく、どんなスタイルにも対応できる幅広さは驚きで、厳しくバラエティに富んだ地形が特徴の日本の山岳を歩くために最適な靴作りを追求してきたグランドキングだからこそできたといえるかもしれません。今回はハイカットモデルをテストしましたが、保護性よりも軽快さを求めるならばミッドカットモデルもおすすめで、日帰り登山や軽量な荷物での登山を中心に考えている場合はミッドカットモデルも有力な選択肢の一つとして考えてよいかと思います。

もちろんその汎用性の高さは、各分野でそれぞれに特化した専門モデルにはかなわないという弱点でもあります。アクティビティやスタイルが決まっていて、それに適した一足を探している人にとってはこれ以外の選択肢が良いかもしれませんが、広く日本の山岳を無雪期に1~2泊の短い日数まで、なるべく1足でカバーしたいとしたら、現時点でこの1足以上の適任はいないのではないでしょうか。

この絶妙なバランスを、ぜひとも実際に履いて体験してみてください。

キャラバン グランドキング GK-ALTの詳細と購入について

製品の詳細については公式通販サイトの特集ページあるいは商品詳細ページもあわせてご確認ください。

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