
Zamberlan「サラテ トレック GT RR RECCO」レビュー:「ドアから岩稜の頂まで」ずっと軽快に歩けたのには理由がある。テクノロジーと匠の技が融合した軽量ファストトレッキングシューズ
一般的に靴は軽くて柔らかい方が歩きやすいものですが、ただそれはあくまで「平地で荷物を背負わなければ」という話。不安定で滑りやすい岩場や急な斜面の上り下りが続く不整地でそれなりの荷物を背負ったうえで安全に歩く(止まる)のであれば、そこには不整地での十分なプロテクションと安定性が必要となってきます。
ただ、どうしても歩きやすさと岩場での安定性はトレードオフの関係になりがちで、その意味では日本のように険しい山岳が多いエリアでも軽快さを失わずに駆け抜けたいという自分のような人間にとって「穏やかなトレイルも険しい岩場も一足で変わらず快適に歩ける」靴があったとすれば、それこそ理想の一足といえます。
今回紹介するZamberlan「サラテ トレック GT RR RECCO」は、そんな一歩踏み込んだハイカーにとって理想に限りなく近いブーツのひとつになるかもしれません。
岩場での安定感と堅牢性を犠牲にすることなく歩行時の快適さを両立したというこのハイカットの軽量ファストトレッキングシューズを約1ヶ月間、低山歩きから岩稜帯、泥濘の多い樹林帯などを歩いてみましたので、さっそくレビューしていきます。
目次
Zamberlan サラテ トレック GT RR RECCOの主な特徴
Zamberlan サラテ トレック GT RR RECCOは、平地のトレイルから高山の岩稜帯まで、あらゆる地形に適応する多用途性を備えた軽量ファストトレッキングシューズ。
履くほどにしなやかになるスウェードレザーと、つま先まで伸びたシューレースで足全体をホールドするラップアラウンドフィット構造によって高いフィット感を提供。心地よい肌当たりのソフトクッション素材の足首周りは保護性と可動性の高さを両立し、起伏の激しい不整地でのスリップの危険を低減します。アウトソールには濡れた岩場等での滑りにくさで高い信頼性を誇るVIBRAM MEGAGRIPコンパウンドを採用し、つま先部分にクライミングゾーンを搭載したラグパターンによってきわどい地形でも高いブレーキ性能とグリップを実現しました。
片足500グラムを切る軽さ(EUR42サイズ)ながら、十分な堅牢性を備えたアッパー構造と、90年以上にわたって積み重ねられてきた職人技による確かな作りで、長く使い続けられる耐久性を備えています。さらにGORE-TEXライナーの高い防水透湿性に加え、今作で搭載された遭難救助システム【RECCO】によって登山でのリスクを最小限に抑えます(日本国内での遭難救助におけるRECCOシステム導入は限定的)。サラテ トレック GT RR RECCOは、アプローチシューズの器用さとトレッキングシューズの快適さを融合し、手軽なハイキングから岩場やタフな地形の通行を含めたトレッキングを軽快に楽しみたい方に最適な一足です。
おすすめポイント
- 摩擦や衝撃に対する高い耐久性
- つま先から足全体を締め上げるホールド力とフィット感に優れたアッパー構造
- 高いサポート性と動きやすさを両立した心地よい足首周り
- 濡れた岩でも滑りにくいVIBRAM MEGAGRIPコンパウンドに、つま先クライミングゾーンを設けた岩場でも安心のアウトソール
- 耐久性の高さに対して驚くほどの軽さ
- 作りの丁寧さ、品質の高さ
気になったポイント
- 地面に接するソールの面積は広くなく、歩行時の安定性という点では一般的なハイキングシューズに一歩譲る
- レザーと樹脂で覆われたアッパーは通気性に限界がある
主なスペックと評価
項目 | Zamberlan サラテ トレック GT RR RECCO |
---|---|
公式重量 | 約480g(EUR42片足標準) |
アッパー |
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ミッドソール |
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アウトソール | ヴィブラムPepe(VIBRAM MEGAGRIP) |
防水透湿 | ゴアテックス・エクステンディッドコンフォート |
ウィメンズモデル | ユニセックス |
税込販売価格 (2025/09/04現在) | 39,600円 (税込) |
Outdoor Gearzine評価 | |
フィット感&快適性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★☆☆ |
プロテクション&耐久性 | ★★★★★ |
グリップ | ★★★★★ |
クッション性 | ★★★☆☆ |
クライミング(岩場)適正 | ★★★★☆ |
詳細レビュー
プロテクション&耐久性:スウェードレザーとランドラバーの外周補強による、衝撃や摩擦にも安心の丈夫なアッパー
サラテ トレック GT RR RECCO(以下、サラテ トレック)は、ロッククライミングでトレイルから外れた壁の取り付きまでの道のりを歩くためのハイキングシューズ、いわゆる「アプローチシューズ」と呼ばれる種類に大きな意味では分類され、全体的な作りとしては同ブランド定番アプローチシューズ「サラテ」がベースとなっています。
このためまずアッパー生地を見てみると、枝などを突き刺してもちょっとやそっとでは破れない、摩擦にも強い、おまけに防水性にも優れているというハイドロブロック・スエードレザーが両サイドやシュータンなどほぼ全面に採用され、さらに靴の外周は360度、丈夫なラバーランドで覆われ、非常に堅牢な作りになっています(側面からかかと周りは発泡ラバーで軽量化)。衝撃や摩擦に対する耐久性は本格的な登山靴と比べてもまったく遜色ないといっていいでしょう。
実際にこの1ヵ月歩いてみても、傷がついたり破れたりするのを心配したことは一切なく、岩場を歩いた時に、硬くザラザラとした花崗岩に擦られ続けてもびくともしませんでした。
それにもかかわらずこのブーツの重量は片足約480gと、軽量なミッドカットのハイキングシューズと同程度の軽さを実現しているのですから驚きです。デザインや色も美しく、履き込むほどに味わいを増して馴染んでいくレザーはやはり山屋の心が揺さぶられます。
フィット感・履き心地:つま先から足全体をしっかりとホールドしてくれる優れたフィット感
アプローチシューズでは決して珍しくありませんが、このブーツもシューレースがつま先まで延びる「ラップアラウンドフィット構造」のアッパーデザインを基本としており、これによって細かなホールドと立ち込みに欠かせないしっかりとしたホールド感とフィット感を提供してくれます。ちょっとした岩場でもブレずに安定した一歩を確保できるように配慮された作りです。
そして、個人的に特に素晴らしいと思ったのは足首周り(+α)の作りのきめ細かさです。捻挫がしにくい高さまで引き上げられたハイカットの履き口は、適度な張りを保ちながらソフトなパッド入りクッション素材になっていて、柔らかく肌当たりもよく、長時間の歩行時でも快適さを保ちました。
さらに歩行時における足首の後方への可動性が確保されたアキレス腱部分のやや窪んだ形状や、前方への可動性を高めるスリットデザイン、そして甲の屈曲時の圧迫を抑えるアッパー中央部の切り込みなど、プロテクションを維持しながら、歩行時のストレスを減らすための細かな工夫がこれでもかとちりばめられています。またシューレースの上部、足首付近の孔の数は足首の屈曲を邪魔し過ぎないように少なめ、そしてフックの位置が側面からやや内側に設けられていることで引っかかりにくいといった点なども、細かすぎるお気に入りポイントです(下写真)。
その他、アッパーと繋がった一体型のシュータンは小石などの侵入を防いだり防水性を高めていますが、接続部分は通気性と伸縮性のある合成繊維になっているため、フィット感が素晴らしい(下写真)。
屈強なレザーのアッパーからは想像できない、柔らかくストレスの少ない歩きやすさは、まさにこれらの細かな調整の積み重ねの結果といえるでしょう。アプローチシューズをベースとしていながらここまで自然に気持ちよく歩けるのには、きっと誰もが驚くはず。
ただその代わりといっては何ですが、これだけ広範囲にレザーが張られてしまっていることからやはり通気性に関しては高いとは言えず、特に真夏に終日トレッキングをする場合には、靴の中の蒸れを完全に避けることはできません。
この他、ラスト形状も決して幅広に優しい足型ではなく、サイドから全体を締め上げる作りによって靴の中で指が動くような前足部の「遊び」は作りにくい設計です。緩めようと思えばある程度緩められるものの、どちらかというと「しっかりと締めて履く」ことを想定した設計なので、足指が動かせるゆとりのあるハイキングシューズが好きな人は注意が必要。いずれにせよサイズ選びでは実際に履いてフィットさせてみることが重要で、履いている最中も足のむくみ具合などが微妙に変わってきたりもするので、適宜ちょうどよいキツさに調整しながら歩くと快適さをキープできるでしょう(といっても1日に何度もあるわけではありませんが)。
パフォーマンス:優秀過ぎるグリップと防水性の高さ、長時間の行動でもヘタれにくい適度なクッション
樹林帯、雨のぬかるんだトレイル、岩稜帯などさまざまな路面を含んだ日帰りの山行を何度か試してみましたが、何よりも優れていると感じたのは頼もしいグリップ力でした。
それもそのはず、まずアウトソールに使用されているラバーのコンパウンドには、濡れた岩場での信頼性という点ではここ5年以上絶大な信頼を置いてきた「VIBRAM MEGAGRIP」を採用しています。これまでこのラバーを使用して滑りやすかった靴なんて出会ったことがないくらいにまずもって信用できる素材です。
そのうえで、アウトソールのラグ(溝)デザインも、泥はけのよさとスリップしにくさをバランスよく配置した(サラテで実績のある)ラグパターンを採用。アプローチシューズとして重要なつま先のフラットなクライミングゾーンは内側を広めにとった非対称のデザインで、より効率的に接地面との摩擦力が高められており、滑りやすそうな岩場でも期待通り大きな心配なく足を置くことができました。かかとも同じようにフラットなパーツがありますが、これは着地した際のブレーキとしてより安定感を増してくれます(下写真)。
岩稜帯を含めた不整地での高いグリップ力に加えて、絶妙な柔軟性を備えたミッドソールも、オールラウンドな歩きやすさに大きく貢献しているように感じました。ミッドソールには2種類の密度のEVAを採用し、柔らかい部分では長時間でもヘタれにくい衝撃吸収性を、硬い部分ではねじれや反りに対する十分な剛性を両立しています。
ハイキングシューズと比べれば大分硬めのソールですが、つま先立ちで体重をかければ自然に屈曲する程度の柔らかさを備えているため、アッパーの柔軟性も含めて歩きやすさは損なわれていません(下写真)。その意味では当然シャンクの入った重登山靴のような立ち込みはできませんので、重い荷物を背負った行動にはあまり向いていないように感じました。
これによって平地や緩やかなトレイルでは柔軟で歩きやすく、凸凹路面でのフラットな足場が必要な部分では踏み込みやすい面を提供してくれ、どんな路面でもシューズが適切に歩行をサポートしてくれました。足首の可動性の高さは段差の大きな岩場でもスリップを気にせず難なく足を動かすことができ、展望の開けた岩稜帯を歩くのがいつにもまして楽しくなってきます。
GORE-TEXライナーと一体型のシュータンによって防水性は足首までしっかりと確保され、沢の渡渉や残雪でも心配なし。さらに撥水性の高いレザーはある程度の水であればポロポロと弾いてくれるので、濡れや汚れを極力抑えてくれて助かります(下写真)。
まとめ:家からアルプスのピークまでずっと履いていられる「全地形型ファストトレッキングシューズ」
これまで多かれ少なかれトレードオフの関係にあった「岩場での安定性」と「トレイルでの快適性」を高い次元でバランスよく両立したZamberlan「サラテ トレック GT RR RECCO」を一言で表すならば、いわば「全地形型ファストトレッキングシューズ」とでもいうべきもので、仮にこんなカテゴリがあるとすればそのお手本のような登山靴でした。
林道歩きから高山の岩稜帯まで通して安心して歩けるグリップと快適性に加えて、軽量な作りであることもこのシューズの魅力で、家からピークに登って下りてくるまでずっと履いていられる、それほどに軽快で、日常でも違和感なく履いていられました。これぞ街歩きを含めて「全地形型」です。
ただもちろんどんな道具でも万能なものはなく、タフで歩きやすいとはいえ、本格的な長期縦走のような重荷での長時間歩行には最適とはいえません。このブーツを履くのであれば、あくまでも中容量以下のバックパックで軽快に行動するスタイルが最もシューズの魅力を引き出してくれ、旅を存分に楽しむことができるでしょう。
低山のライトなハイキングを飛び越えて、森林限界を超えたトレッキングを楽しみたい、あるいはバックカントリーの奥深くの岩壁や渓谷へのアプローチに適した「歩けるタフなシューズ」を探している人に強くおすすめしたい一足です。
Zamberlan「サラテ トレック GT RR RECCO」の詳細と購入について
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