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SCARPA ゾディアックテック GTX(&ゾディアック トレック LT GTX)レビュー:岩場での安定感とトレイルでの柔軟性の絶妙なバランス。「登れて・歩ける」次世代型軽量マウンテンブーツ

実際に歩いてみたことがある人ならば分かると思いますが、50リットルを超えるような大型バックパックで重い荷物を背負って歩いたり、アルプスなど高山の急な岩稜帯を通行するためには、低山向けのハイキングシューズ(ブーツ)では厳しくなってきます。

大きな理由は、柔い登山靴で重い荷物で凸凹した岩場や雪上の不安定な路面に足を置こうとすると、着地がブレたりソール(足裏)がねじれたりしてバランスを崩したり、急な岩場の細かいホールドにはつま先で立ちこめずに登りにくかったり、疲労が溜まって疲れやすかったりするからで、よほどの健脚でない限り、普通の登山者はかなり苦労するはず。

そんな高山の厳しい地形を重荷で歩いても安全・快適に、そして足へのダメージを最小限に歩くために必要なのが、靴のソールが硬く全体的に頑丈な作りの登山靴です。俗にアルパイン(ライトアルパイン)ブーツ、あるいはマウンテンブーツなんて呼ばれています。詳しい分類や選び方については以前書きましたので、よかったら参照ください。

そんなアルパインブーツは厳しい地形に対応する安定性とプロテクションに優れている一方、どうしてもその代償として、普通の靴から考えると不自然なほどの「硬さ」と「重さ」に慣れ(耐え)なければなりませんでした。岩場での安定性は欲しいけど、できることなら軽くて柔軟な、つまりは「快適で歩きやすい」ブーツがあれば良いに越したことはありません。

今回紹介するイタリアの本格登山靴専門ブランド、SCARPA(スカルパ)ゾディアックテック GTX は、まさにそのようなハードな登山者が長年求め続けている要求に応えるべく設計された軽量なアルパインブーツ。今回はその姉妹モデルであるゾディアック トレック LT GTX とともに試用させてもらうことができたので、約1ヶ月間これらのブーツで八ヶ岳、那須、中央アルプスのルートを歩いてみて感じたインプレッションをお伝えします。

SCARPA ゾディアックテック GTXの主な特徴

SCARPA ゾディアックテック GTX は、アルプスなどの厳しい高山の縦走や、テクニカルな岩稜帯を進むスクランブリングなどを想定した軽量3シーズンアルパインブーツ。高品質なイタリア・ペルワンガー®レザーを採用した堅固なアッパーは周囲にラバー補強を施し、強い摩擦や衝撃に対して高いプロテクションを発揮。独自のソックフィットXTシステムが足全体を抜群のフィット感でカバーしつつ、足首回りの自然なサポートと可動域の広さを両立。岩場でも滑りにくい粘着性の高いビブラムアウトソールと独自の「BASシステム」を搭載したミッドソールは、路面の凸凹を吸収して地面との摩擦面を最大化させながら、安定したグリップと踏み込みを実現します。もちろんGORE-TEXによる十分な防水透湿性仕様が施され、セミワンタッチアイゼンに対応。よりトレッキング向けに足首回りの保護性を強化したファブリック製のライトモデル「ゾディアック トレック LT GTX」が兄弟モデルとしてラインナップ。

おすすめポイント

  • 本格マウンテンブーツに比べて軽量ながら、険しい岩稜帯も対応するプロテクションと安定したソールを実現
  • アッパーの心地よいフィット感とホールド感
  • 足首回りの(サポート性の高さにも関わらず)抜群の動きやすさ(ゾディアックテック)
  • 足首回りの十分なサポート(ゾディアック トレック LT)
  • タフな地形でのブレーキ、踏み込み、登攀が考慮されたラグデザインのグリップ力抜群のVIBRAMソール
  • セミワンタッチクランポン対応で残雪期などもカバー(ゾディアックテック)
  • GORE-TEXによる安定の防水透湿性
  • コストパフォーマンスの高さ

気になったポイント

  • 岩場での安心感の反面、軽量ハイキングブーツのように軽い荷物で軽快に歩くための登山靴ではない
  • 足首の可動性を重視しているため本格マウンテンブーツに比べると足首の保護力は少ない(ゾディアックテック)
  • 足首の十分なサポートの反面、動かしやすさ、可動性は少ない(ゾディアック トレック LT)

主なスペックと評価

項目SCARPA ゾディアックテック GTXゾディアック トレック LT GTX
公式重量680g(#42、1/2ペア)620g(#42、1/2ペア)
アッパー
  • ペルワンガー®耐水スエード1.6~1.8mm+ファブリック
  • ソックフィットXT
  • ファブリック
  • ソックフィットXT
ミッドソール
  • 密度の異なるPUのハイブリッド構造
  • BASミッドソール
  • 密度の異なるPUのハイブリッド構造
  • BASミッドソール
アウトソールVIBRAM®ABS Precision Cramp(セミワンタッチクランポン対応)VIBRAM®ABS Precision
防水透湿GORE-TEX® Performance ComfortGORE-TEX® Performance Comfort
税込販売価格
(2024/08/19現在)
¥45,650¥42,350
Outdoor Gearzine評価
フィット感★★★★★★★★★★
重量★★★☆☆★★★★☆
グリップ★★★★☆★★★★☆
クッション性★★☆☆☆★★☆☆☆
プロテクション★★★★★★★★★☆
重荷歩行での安定性★★★★☆★★★★★
クライミング適正★★★★★★★★★☆

詳細レビュー

※今回はSCARPA ゾディアックテック GTX(以下ゾディアックテック)とその姉妹モデルであるゾディアック トレック LT GTX(以下ゾディアックトレック)両方でテスト・撮影していますが、アッパー構造や足首の構造といった一部分を除いて基本的な構造は同じであることから、説明時に特に違いを明示していない部分についてはゾディアック トレック LT GTXでの説明写真であっても、ゾディアックテック・ゾディアック トレック両方同じものとしてご理解ください。

フィット感と快適性:硬いブーツなのに柔らかな肌当たりとしっくりと足に寄り添う快適なフィット感が素晴らしい

あくまでもパッド入りのハイキング用ブーツというより堅固な登山靴であるSCARPA ゾディアックテック GTXでは、見た目のゴツさとは裏腹に、足入れしたときのスムーズさと足全体にしっくりと寄り添うフレキシブルなアッパーによる快適なフィット感にまず感心しました。その快適さの裏にあるのは、このブーツに搭載された「ソックフィットTX」システムによるアッパー構造です。これは、タンから足首の屈曲部(フレックスポイント)にかけてがソフトシェル素材の一枚生地で構成され、これによってしなやかでぴったりとしたフィット感と足首の屈曲しやすさを両立しています。

サイズ感について、事前の説明では多少狭めに作られているという話でしたが、結果的にはいつも自分がアルパインブーツで合わせているヨーロッパサイズの42でほぼ間違いありませんでした。つま先周りには足指を動かすのにちょうどいい空間が設けられており、坂を下ってもつま先が窮屈になることもなく、快適に履き続けられます。また自分の場合はこうした新しいレザーブーツを履き慣らすときによくある擦れなども発生せず、厚手のウールソックス1枚で履き始めたころから無傷で自然に足に馴染んでくれます。ただ完全に馴染ませるには(レザーという性質上)数回履きならすことが望ましいのは確かです。またちなみに自分はこの種の硬いブーツでは必ず自分のお気に入りのインソールに取り換えています。もちろんこのままでも不満はありませんでしたが、その方がより快適になるのでおすすめです。

足首の後ろのカフはゾディアックテックゾディアックトレックで違いがみられる部分です。ゾディアックテックの方はかなり低いカフを備え、柔らかく伸縮するエラスティック素材が簡易なゲイターとして機能します。ハイカットブーツというよりはミッドカットブーツのような感覚に近く、これが(後述しますが)驚きの足さばきの繊細さと可動域の広さを可能にしてくれます。他方ゾディアックトレックの方は、安全なハイキングに不可欠な足首の優れたサポートと安定性を備えた足首回りになっています(下写真)。

足首後側が低く、伸縮性の素材が当てられ簡易ゲイターになっているゾディアックテック(写真左)と、足首全体が十分なパッドでサポートされているゾディアックトレック(写真右)

これはどちらが優れているというよりも、ターゲットとする地形の違いからくる個性の違いであり、足首のサポートと安定性は多少犠牲になってでもテクニカルなルートでの軽快さを重視したいならばゾディアックテックを、より縦走など長距離トレッキングでの安定性をとるならばゾディアックトレックを、という形で選択できるようになっていると考えればよいでしょう。

またアッパーのシューレース構造は、ゾディアックテックの方は岩場を想定してよりクライミングシューズやアプローチシューズ的なデザインに近くシューレースホールが多めに配置されています(下写真左)。一方でゾディアックトレックの方はよりシューレースの隙間も、シュータンが露出した部分も広く、テックに比べて通気性が高くなっています(下写真右)。

シューレースシステムについてはどちらも上部がロック機能付きのフックを備え、締めやすく緩みにくくとうまく機能し、途中で止めて締め直すことなくブーツをしっかりと固定できました。

足首から上は標準のロック可能なアイレットを使用して、ブーツの上部と下部で異なる張力に調整可能なレースシステム。

680グラム(メンズ42サイズ)という重さは、岩場で安心して立ち込めるほど堅牢な多くの本格的なアルパインブーツに比べればかなり軽量ですが、一方で一般登山道を歩くようなトレッキングブーツ(同社でいえば「ZGトレックGTX」や「ラッシュトレックGTX」など)として考えればやや重いといえ、その「軽快に歩けるアルパインブーツ」的なハイブリッドな狙いを反映しているといえます。

耐久性:しっかりと足を守ってくれる十分なプロテクション

ペルワンガー®レザーの丈夫な素材とラバー補強の組み合わせにより、ゾディアックテックは岩稜帯の通行でも安心できる非常に丈夫なアッパーになっています。テスト中つま先のラバーや足首のシューレースフックを岩に何度か強く擦りつけましたが、それでもまだ新品同様の状態を保っており、タフで摩耗しやすい環境でも十分に耐久性があることが証明されました。

ゾディアックトレックの合成繊維のアッパーも相対的には耐久性は劣るとはいえ、今回のテストではまったく傷がつく様子もなく、耐久性に関しては日本中のどの場所でトレッキングをしても心配はないと思われます。

パフォーマンス:不安定な岩場でもブレずにしっかりと着地できる安定感と細かなホールドに立ち込める器用さが備わった真のオールラウンダー

普段はカメラ機材が加わってどうしても大きくて重いパッキングになりがちな自分がアルプスなどのテクニカルな地形を進むときには、着地時に足がブレにくく、スリップし難く、そして踏み込みもストレスなくスムーズに行えるブーツが何とも頼りになります。その意味で、ゾディアックテックゾディアックトレック、どちらにも共通して言える優れた安定性とサポート力の高さには感心させられました。

どちらにも搭載されているのが、独自のBAS(Bascula Adaptive System )ソール構造。アウトソール自体は全体的に極めて硬い構造なのに、特殊なミッドソールとの組み合わせによって一つひとつのラグ(ソールブロック)が独立してそれぞれの路面の凸凹を吸収してくれる仕組みです。このため荒れた路面であっても常に平地を歩いているかのように着地・踏み込みが安定し、足首がひねられたりバランスを崩したりしにくくなります。もちろん平坦でなだらかな地形ではあまり効果のない機能ですが、アルプスなどの厳しいルートでは最適です。

この安定性と前述した低めのカフと動かしやすい足首周りによってゾディアックテックは岩場を器用に軽快に登り下りすることができました。

また手足を使って登るような岩壁でつま先だけでホールドに立ち込んでも、硬いソールによってブーツが自分の体重を支えてくれます。

いずれにも共通しているVibram製のアウトソールは、粘着性と耐久性に優れたコンパウンドで構成され、つま先のクライミングゾーンでの繊細さ、前足部内側と後足部の衝撃吸収力、前足部外側と後足部の牽引力、そして泥抜けの良さなど、高山の厳しいルートに対応した計算されたラグパターになっています(下写真)。

一瞬だけ残雪の上でも歩いてみることができましたが、その際も特に他と比べて滑りやすいということはなく、条件が良ければ残雪でのトレッキングもまったく問題なく履いていくことができると思われます(特にゾディアックテックはセミワンタッチクランポンにも対応しているため選択肢も広い)。

ちなみにゾディアックトレックについては、ソールユニットは同様のものを使用していることもあり岩場での安定感自体は変わりませんでした。ただ足首回りの可動域が制限されている分大きな下半身の動きではやや抵抗感があったり、軽めのバックパックで軽快に歩こうとしたときにはやや足さばきのしにくさを感じてしまいました。ただ一方で、先ほども書きましたが、足首回りのサポート(安全性)と長時間歩行での疲労軽減という面ではゾディアックトレックの方が優れていることもあり、どちらがよいという話ではありません。岩稜帯での安定感をベースに、ルートや好みに合わせて選ぶことができるのは、軽量ブーツとしては決して悪いトレードオフではありません。

まとめ:アルプス縦走からスクランブリングまで、岩稜帯を重荷で軽快に歩きたくなったら真っ先に検討すべし

SCARPA ゾディアックテック GTXは、夏のアルプス縦走や、雪渓や残雪含みのルート、岩場を軽快に駆け上るスクランブリングなど、テクニカルな地形で安定性と歩きやすさを両立したいという登山家に最適なブーツ。岩場が核心部として出てくるルートなどで、アプローチシューズではさすがに軽(柔)すぎる、だけど本格的なマウンテンブーツでは重くて暑すぎる、という場合には真っ先にこのブーツを選択肢に上げていい。それぐらいにこのブーツの登攀性能と絶妙な軽さ、歩きやすさのバランスの良さは、残雪期から無雪期のあらゆる山岳アクティビティで実力を発揮してくれる汎用性の高さを兼ね備えています。

さらに他ブランドの競合モデル(例えばスポルティバの「トランゴテック」など)と比較しても手に入りやすい価格というコストパフォーマンスの高さも見逃せません。取り扱い代理店であるロストアローの修理対応は万全で、修繕やソールの張替えなど万が一の時にも安心です。残り少ない夏を、このブーツで駆け抜けてみてはいかがでしょう。

ゾディアックシリーズの2モデル、どちらを選ぶ?

どちらも今シーズンの新モデルですが、実はこのレビューを企画した時点で個人的にはどちらも魅力的で似ているため、どちらをレビューするか(どちらが自分にとって最適なのか)正直迷ってしまいいました(そこで今回は好意でどちらもテストさせてもらったという経緯)。

そこで、同じような方のために、今回テストしてあらためて分かった「ゾディアックテック GTX」と「ゾディアックトレック LT GTX」の違いとどんな人におすすめなのかについて、両方履いてみた立場からまとめてみます。

両方のブーツに共通するのはミッドソールとアウトソールの連動した独自ソールユニットによる岩稜帯での安定性・牽引力・グリップ力。アッパーの快適なフィット感などです。

それに対して可動域の広いカフや耐久性など、より岩稜帯の登攀シーンでの強みにフォーカスしたのがゾディアックテック GTX。ただ、だからといって平地が歩きにくいという分けではなく、むしろミッドカットのように可動域の広い足首によってハイクもしやすい。セミワンタッチクランポンがつけられるのも利点。ケガの心配や重い荷物での足取りについて特に不安がなければ、ゾディアックテックは残雪期含めた暖かい時期のあらゆる登山に十分使えてしまう、恐ろしい程の汎用性の高さを感じました。

一方アッパーの合成ファブリックやサポート性の高い足首周りなど、岩稜帯を含めた長時間・重荷での歩行シーンでの強みにフォーカスしたのがゾディアックトレック LT GTXです。こちらも、だからと言って岩稜帯の登攀がやりにくいという分けではないので、歩きも岩稜もどちらも十分にこなしてくれることは確かです。足を捻ったりしにくいことから安全性を最優先するならばこちらの方がむしろ快適とも言えます。ケガの心配をせず着実に歩きたい、そして重荷で必要以上にスピードを出すつもりが無い登山者であればこちらの方が安心感があり、おすすめです。

「SCARPA ゾディアックテック GTX / ゾディアック トレック LT GTX」の詳細と購入について

最新モデルの入荷情報や製品の詳細については公式通販サイトをご確認ください。なお、ロストアローの取り扱うブランドの春夏向け製品は2024年8月いっぱいまで割引キャンペーンが行われています。検討されている方はこれを逃す手はないので、ぜひとも各種オンラインショップや、地元のアウトドア専門店などをチェックしてみてはいかがでしょう。