世の中には「良い道具を作る」メーカーは数多くあれど、独創的なコンセプトをもった「ここでしか作らない・作れない」プロダクトを生み出すメーカーとなると、世界中を探しても、そう簡単には見つかりません。
そう思える数少ないアウトドアメーカーのひとつが、2018年に立ち上げられたばかりの新しいブランド「FIELD RECORD」です。以前、このサイトでも「トレッキングポールと組み合わせて使うアウトドアチェア」を紹介しました。
そして今日紹介するのは、個人的にずっと気になっていた同ブランドの代表的ギア。複数のタープを連結することができ、その繋げ方によって様々な形態での設営が可能という、ユニークとしか言いようのないタープ・シェルターテント「FR-shelter(FRシェルター)」です。
使うまで何がどうすごいのかまったく想像がつきませんでしたが、昨年じっくりと使わせてもらい、その唯一無二の魅力に取りつかれてしまいました。百聞は一見に如かず、さっそくこのシェルターの使い心地について見ていきましょう。
目次
詳細レビュー:FRシェルターのここがスゴい4つのポイント
FRシェルターは、10ヵ所の止水ファスナーと12ヵ所の強力なベルクロにより、タープとして又シェルターとして複数枚連結し様々な形状 空間を作ることができる連結変形型シェルターテントです。
ちまたにはULブランドの軽量シェルターも、ファミリーキャンプ向けのラグジュアリーなタープも、すでに多くの製品であふれています。それに対してこのモデルが目指すのは、シェルターのデザイナー曰く「絶景を最も快適に楽しめるもの、使い方次第で本格ハイキング向けにも、ファミリー向けにも使用できる高い汎用性を備えたもの」。それを実現するするために試行錯誤を重ねた結果がこのFRシェルターというわけです。
耐久性と重量のバランスを考慮した素材選びと国内生産による上質な縫製
素材や作りの部分をざっと見てみると、そうしたコンセプトがしっかりと反映されていることが分かります。30デニールの リップストップナイロンは、シェルターとしても、タープとしても十分な耐久性の高さを備えています。一方、ULモデルほどではない厚み、また構造上普通よりもファスナーやベルクロが配置されている部分が多いためその分若干重量感がありますが、3人収容と考えれば、1,500gという数字は決して重すぎることはないでしょう。
生地にはしっかりと撥水・防汚コーティングが施され、縫い目はすべてシーム処理済。テントはすべて国内での豊富な実績を誇る縫製工場で生産しており、各部の縫い付けをはじめとした処理の確かさはさすが。見かけだけでなく中身にもこだわりが感じられます。
1枚で本格ハイキングでも快適なシェルターとして使える
さっそく実際に公園の芝生で試し張り。今回はFRシェルター本体に加えてインナーメッシュ、グラウンドシート、ガイライン、ポール、ペグというフルセットでの設営を試させてもらいました(写真1)。ポールは130cm以上伸ばせるトレッキングポールで代用し、メッシュを省略すれば荷物は最小限になりますが、フルセットだとさすがにかさばります。
タープにもなるシェルター本体を写真2のように入口を除いて長方形に広げ、四隅をペグで固定します。ちなみにこの下にはすでにグラウンドシートが敷いてあります。
次は頂点となる部分にポールを当てがい、ベルクロで固定したら、思い切ってグッと立ち上げます(写真3)。
ここまででほぼほぼ形が見えてきました(写真4)。あとは入り口など必要な部分をペグで固定したり、ガイラインを張っていきます。
最後に四隅のたるみを絞れば、あっという間にシェルターが完成(写真5)。ガイラインなどは最低限しか張っていませんが、たるみなどもなく凛々しいルックスは個人的にかなりの好感触です。
実はこのとき、各面の地面に接した部分に一見余分と思われるたるみ?があり、正しく建てられているのか若干戸惑いました。後で確認するとこれは連結・変形時に必要な部分であるだけでなく、実は内側に巻き込んだり、外に出したりして風・雨・雪の侵入を防ぐスカートの役割を果たします。もちろん空気を循環させたい時、不要な場合は巻き上げて開けておいても大丈夫。どんな形で建てても、すべての部分を無駄なく使えるようにさまざまな配慮が行き届いています。
中に入ってみると、背も高く入口も大きく開くため圧迫感が少なく、快適性は非常に高いと感じました(写真6)。
1~2人で使うなら入口の前を前室として広く使用することができます。テント前での調理も楽々(写真7)。
ちなみにグラウンドシートがなくても十分に使えます(写真8)。
インナーメッシュを張ってみました(写真9)。こうすることで夏の大敵である虫の侵入も防ぎながら通気性を最大化できるので、山深いエリアへの遠征時には、実は非常に重要だったりします。
入口の反対面上部にはメッシュのベンチレーションがが備えられています(写真10)。雨避け・気道確保のためのツバもついているため風通しはバッチリ。内側には密閉するためのファスナーもついているため、調節も可能です。
内部のスペース(写真11)は、1人なら広々、2人が荷物も含めてちょうど、3人でも荷物などを整理して頑張れば十分寝られる広さです。
1枚張りでは、上記のような完全密閉できるシェルター的な張り方の他、ポールを3本使用してタープ的な張り方も可能(写真12)。
2枚以上で連結すればさらに大人数で使えるシェルターに
これだけでも十分”デキる”タープ・シェルターなのですが、まだまだ魅力の半分でしかなく、本領はここから、連結してさまざまな形にアレンジしての利用法も試してみました。
まずは1枚張りの時と同じように、大きな完全密閉型のシェルターを作ります。連結の仕方は、タープの所々に配置されたファスナー同士をつなぐところからはじまります(写真13)。
この状態から、二枚のタープの中央をファスナーでつないでいきます。すると、1枚の膨らんだ大きなタープが出来上がります(写真14)。
ここからは1枚の時と同じように、中央のベルクロ部分にポールを固定し、グッと立ち上げます(写真15)。
スカート部分を畳んで内側に入れ、四隅を絞って張りを調整すると、2枚を連結した大型のワンポールシェルターが完成(写真16)。
中央の入口を開けて中を見るとこんな感じ(写真17)。右半分はグラウンドシートを敷いてもよし。調理場として広々使うもよし。これだけ広ければいかようにも使えます。
相変わらず天井も高く、2枚連結なら5~6人まで寝ても余裕のある広さ(写真18)。天井にはベンチレーションも左右に配置されるため、通気性も抜群でした。もちろん中にインナーメッシュも2つ設置可能です。
工夫次第で張り方は自由自在。好きなようにアレンジできる愉しみが病みつき
普通にワンポールシェルターでも快適に使えるのですが、さまざまに配置されたファスナーのつなぎ方、タープの張り方次第で、いろいろなバリエーションが可能。例えば前後2カ所にポールを立てて、大きな日よけとして使ってみたり(写真19)。
張り方に慣れてくれば、トレッキングポールで入口を跳ね上げた、シェルターと広い前室を兼ね備えた複雑な形状パターンも簡単に設営できます(写真20)。晴れていれば明るく快適、雨が降っても作業がしやすく、風が強ければフルクローズも可能。さらに跳ね上げた部分はそのままにし、寝室側のシェルターのみをクローズすることも可能と、状況に合わせて柔軟に対応してくれます。
2枚使いになると、1枚時にはない複雑で機能的な張り方が可能となり、張る人のアイデア次第でどこまでも快適に過ごすことができるようになります(写真21)。
まとめ:「張る」こと自体を愉しむことができる唯一無二のテント
登山やキャンプで常日頃やっているテント・タープの設営という「作業」が、実はこんなにも豊かな営みだったなんて。アウトドアにのめり込み始めた時に感じていた、自らの手で自分の住処を作り上げるという、素朴な悦びを今一度思い起こさせてくれるシェルターです。
軽いテント、丈夫なテント、簡単に建てられるテント……といった「普通にいいテント」を探している人や、テント自体を立てるのが初めてというビギナーには、そのとっつきにくさやまどろっこしさから、正直あまりフィットする人は少ないかもしれません。一方、誰も持っていないユニークな(それでいて出オチではない確かな品質をもった)テントを探している人、ある程度余裕ができてアウトドアを自分の尺度でより深く愉しもうと志向し始めた人には、間違いなくここにしかない新しい刺激を与えてくれるでしょう。特に2枚以上で使用できればいうことなしです。どうやって建てたらいいかあれこれ工夫をしながら自分だけの快適スタイルを見つける愉しみは、アウトドアのもつ無限の可能性をどこまでも広げてくれます。
もちろんこのシェルターは単なる目新しさだけでなく、天候・気温・スタイル・気分に合わせて柔軟に張り方を決められる点や、大人数のパーティでもパーツを細かく分担して持ち運べる点など、他のテントにはない実用的な価値も多く備えています。森や低山、中山へのハイキングから、ゆったりとキャンプを楽しむまで、愉しみ方は人それぞれ自由自在。そんな人間の飽くなき欲望と創造性に向き合ってくれる稀有な一品です。
NEWS:2019年4月6~7日に行われるアウトドア展示会「Off the Grid 2019」に出展するようです。もしこのテントが展示されるとしたらまたとない機会。ぜひチェックしてみてください!