不思議なものでこうして毎シーズン世界中の新作を見続けていると、バックパックのたたずまいを一目見た(あるいは触った)だけで「これはアリじゃね?」という良品かどうかの判別ができるようになってきたりします(もちろんハズレることもあってそれはそれで楽しいのですが)。
Outdoor Gearzineを10年ほどやってきて身についたこの嗅覚が今シーズンにぶるっと反応した新作のひとつが、今日レビューするバックパック。アウトドア大国北欧で、バックパック作りをルーツとして創業110年を迎える名門、Haglofs(ホグロフス)の「L.I.M Airak 24(リム エアラック 24)」です。
先日行われたOutdoor Gearzineのオフラインイベント「Haglofs特集」でもフィーチャーされていましたが、果たして、中身を聞けば聞くほどその細部まで考えられた作りの丁寧さには感心せざるを得ませんでした。実際のフィールドでの実力はどうなのか?初夏の登山やファストパッキングでじっくり使ってみたので、さっそくレビューをお届けします。
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目次
Haglofs L.I.M Airak 24 バックパックの主な特徴
Haglofs L.I.M Airak 24 はトレイルを軽快に移動するための軽さと快適性、実用性をまんべんなく備えた小型バックパック。背中部分の通気性に優れたテンションメッシュ構造の背面パネルとベスト型の幅広ショルダーハーネスを組み合わせ、快適な背負い心地と行動しながら必要なアイテムにアクセスしやすい実用性の高さを提供します。このクラスには珍しいしっかりと荷重を支えられるウエストベルトは中抜きによって軽量化と通気性を高めると同時に身体の傾きに対しても安定したフィット感をキープしやすくなっています。ロールトップスタイルとサイドコンプレッションによって荷物の量に関わらず安定した圧縮が可能、ショルダーハーネスやサイドメッシュポケットをはじめ外部の収納も豊富で、行動中に必要なアイテムに素早くアクセスが可能です。フィールドでの十分な耐久性と使い勝手をクリアしながら軽さを追求した、ホグロフスらしさが息づいた軽量バックパックは、無雪期の日帰りから小屋泊まりのハイキングやテント泊ファストパッキングまでカバーします。
お気に入りポイント
- 抜群の通気性とフィット感のテンションメッシュによる快適な背負い心地
- 堅牢なフレーム構造による安定感
- 通気具合と重心位置を変更できるテンション調節機能
- 優れたフィット感やクッション性、動きやすさ、使いやすさなど細部まで作りこまれたヒップベルト
- 収納力の高いサイドのストレッチメッシュポケット
気になるポイント
- 軽量バックパックとして考えるとギリギリの軽さ
- (背面メッシュ構造全般にいえることだが)荷室がやや圧迫されパッキングしにくい
- フロントのジップポケットと伸縮性コードの使い道がやや難しい
主なスペックと評価
アイテム名 | Haglofs L.I.M Airak 24 |
---|---|
容量 | 24リットル |
実測重量 | 930 g |
素材 |
|
女性(小柄体型)向けモデル | ユニセックスモデル |
サイズ/背面長 | ワンサイズ(若干調節可能) |
背面パネル | 背面の通気調整が可能なフレーム構造の背面メッシュ |
ハイドレーションスリーブ | ◯ |
メインアクセス | ロールトップ式 |
レインカバー | × |
ポケット・アタッチメント・パーツ類 |
|
Outdoor Gearzine評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
安定性 | ★★★★☆ |
収納性 | ★★★☆☆ |
機能性(使いやすさ) | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★☆☆ |
カスタマイズ性 | ★★★☆☆ |
詳細レビュー
重量と背負い心地:単なる軽さではなく、実際の行動での体感的な軽さを重視した快適設計
このバックパックはホグロフスの中でも「L.I.Mシリーズ」といって、軽量トレッキングを想定した軽さと優れたパフォーマンスの両立を狙ったシリーズのひとつとして位置づけられています。その意味では当然まずこのモデルにも「軽さ」を期待してしまうかも知れません。
ただ、およそ24リットルで930gという重さは確かに従来の登山用バックパックとしては平均よりも軽いものの、いわゆるウルトラライト系のバックパックとしてみるとそこまで軽いとは言えず、実際に持ってみても期待ほどにはそこまで「軽い」という気はしませんでした。
ただ実際に背負ってみると、今度は逆に「そこまで重くはないな」という気がしてくるのが不思議なところ。使ってみると紛れもなく「軽くて、軽快」なバックパックなのです(とはいえもちろんランニングでも快適、とまではいいません)。
その秘密は、多少の重さを我慢してもそれを補って余りある、ハイパルスなアクティビティに最適化された背面パネルにあり、L.I.Mシリーズのコンセプトである「軽量化と優れたパフォーマンスを両立させる」ために細部まで積み上げられた多くの軽さを感じさせない工夫にありました。
背中がドライなだけでなく、より重さを感じにくくなるように一工夫施されたテンションメッシュ構造の背面
背面には外側全体を囲うようにしっかりとした軽量の中空アルミチューブが巡らされ、パックがねじれたり背面が凸凹するという心配はまったく無し。荷物を一杯に詰めると10超kg程度にはなると思いますが、その程度の重さならば背負い心地はまったく安定しており、重さは常に背中全体に荷重されます。
また背中とバックパックとの間には空間が設けられ、特に汗をかきやすい背中にあたる面がメッシュ生地の、いわゆる「テンションメッシュ構造」になっているため、暑い日でも常に背中に風を感じながら歩くことができます。大汗をかいたとしても不快感を感じる前にすぐ乾き、常にドライを保ってくれるというわけです(=低体温症になりにくく安全)。
確かにこのテンションメッシュ構造は、今でこそ快適な背負い心地を謳うバックパックでは珍しくないかもしれません。ただここからが、流石ホグロフス。このモデルでは、テンションの張力をベルトによって調節できるようになっています。こうすることで、テンションを強めれば空間がより広がって通気性が増し(下写真右)、テンションを弱めれば通気性が減る代わりにパックの重心がより背中に近づくことで安定性を高めることができる(下写真左)ようになっています。
隙間の幅を調節できるということは、重い荷物の時にはより隙間を縮めて重心を身体に引き寄せやすくなるということ。つまりテンションメッシュ構造の弱点であるパックの重心が身体から離れた後ろ目になりやすいという点をカバーできるようになっているのです。ちなみにこの調節によって背面長も若干調節できるため、男女限らず、ある程度幅広い体型に対応できるようになっていると、まさに一石二鳥といえるでしょう。
フィット感の高いベスト型のショルダーハーネスと、軽さと安定感を両立した巧みなヒップベルト
決して特別軽いわけではないのにファストパッキングなどのスピーディなハイキングでも軽快さを感じさせてくれる理由は、このショルダーハーネスとヒップベルトの作りの良さにもありました。
外観から分かるように、ショルダーハーネスは今どきの軽量バックパックでは珍しくなくなった「ベスト型」構造となっており、適度なクッションのパッドが広めに胸を包むようにフィットしてくれ、肩にかかる重みを緩和してくれます(下写真)。この幅広ハーネスと2つのスターナムストラップによって走っているときもパックのブレを最小限にとどめてくれることで、速足での移動がより快適に。左右に付いたメッシュポケットもすこぶる便利(後述)。
ヒップベルトは前に引いて締める「逆引き式」のため少ない力でしっかり締められ操作が楽。さらにベルトがV字に縫い付けられているため、幅広のヒップベルト全体にテンションをかけることができる作りになっています(下写真)。
軽さを損なわない最低限のクッション性を備えたヒップベルトは、中央が肉抜きされています。これによってヒップベルトが腰の屈曲に対してフレキシブルに追従してくれるため、激しい動きでもヒップベルトが邪魔になることがありません。通常、25リットル程度のファストパッキング向けバックパックであればヒップ・ウェストベルトは省略されることも多いのですが、これならば全然アリです。またフレキシブルといってもしっかりと荷重を支える程度には強いコシがあるので、重い荷物だった時にはちゃんとヒップベルトとして機能してくれます。
収納性と使いやすさ:シンプルで使いやすさを考えた必要十分な収納類
Airak 24の収納はおおむね素直で分かりやすい収納で構成されており、初心者でも迷うことは少ないでしょう。さらに最近の軽量バックパックのノウハウを踏まえつつ、幅広いアクティビティに通じたホグロフスならではの汎用性の高いパーツが光ります。
メイン収納
メイン収納は防水性と圧縮性に優れたロールトップ型。クルクルと丸めたら両端をそれぞれのサイドにあるバックルで留めるタイプで、パックをよりスッキリと圧縮できます。通気メッシュの背面の常として、収納エリアがシンプルな寸胴型ではなく背面が内側にえぐれた複雑な形状のため、パッキングがしやすいとはいえません。荷物をきれいに隙間なく収納するにはできるだけ小分けにするなど多少のコツと慣れが必要です。
ちなみに頂点にはロープホルダーが搭載され、コンプレッションとロープ固定などに使えます。
ミニマルながら多機能なフロント・サイドポケット
フロントには小物が入る小さなジップポケットが上部にあり、その下にはバンジーコードが取り付けられています。ジップポケットは深さもそれほどではないので、財布や日焼け止め、ハンドタオル、ジェル、地図など小さくて薄いものを入れておくのに便利。
バンジーコードはここに雨具やタオルなどを固定してもいいし、荷物が少ない時にはパックの圧縮コードとしても使えます(下写真)。ただ個人的にここだけはちょっとどちらもそれほど便利と思えるほどではなく、(ありがちといえばありがちだけど)大きなストレッチメッシュのスタッシュポケットの方が良かったのではないかと思ったりしました。
サイドのストレッチメッシュポケットは幅も深さもしっかりあるのでものがブレたり、落ちたりする心配もなく使いやすい。たとえば1リットルのナルゲンボトルもちょうどよく収納でき(下写真左)、ポケットとサイドのコンプレッションストラップを組み合わせればポールなど長物のアイテムも難なく収納可能です(下写真右)。
用途が明確で使いやすいショルダーストラップポケット
Airak 24のショルダーストラップについているポケットは左右非対称で、左胸のストレッチメッシュポケットはボトルやソフトフラスクを入れるのに便利なスタッシュタイプ(下写真)、右胸は外側縦方向にジッパーの入り口が付いたストレッチメッシュポケットで、スマートフォンを入れておくのに最適です。
取り付け位置をカスタマイズ可能な取り外し式ヒップベルトジップポケット
ヒップベルトの片方に取り付けられているのは取り外し可能なジップポケットで、ヒップベルトの左右の他、パックの内部にも同じように取り付けられるポイントがあります(下写真)。
まとめ:「L.I.M=より少ないことはより多いこと」が体現された、誰もがすぐに高い次元で軽快ハイキングを楽しめる洗練された軽量バックパック
飛び抜けて軽い道具でのファスト&ライトなハイキングは一見間口が広いようにみえて、安全快適に行うには環境や条件を整えて、ちょっとした経験と工夫が必要だったりします。そんななかでホグロフスの考える軽量哲学「L.I.M=より少ないことはより多いこと」は、決して必要以上に軽さだけを追い求めるのではなく、軽さと実用的な意味でのパフォーマンスを両立するというコンセプトが込められています。ミニマルな外観でそこそこの軽さに、アクティブな動きをサポートする背面構造、そして行動中にアクセスしやすい外部収納を搭載した本作はまさにそんな「実質的な軽快さ」をハイカーに提供してくれる満足度の高い軽量バックパックといえるでしょう。
その意味で、このバックパックがあれば難しいことを考えたり長い経験を必要とせずに誰もがすぐ高い次元でファストパッキングや軽量ハイキングを楽しむことができます。軽快なスタイルでの低山歩きから無雪期のアルプス縦走までカバーするHaglofs L.I.M Airak 24で、この夏素晴らしい景色に会いにいってみてはいかがでしょう。