より軽く、より日本の山で快適に使いやすくなった定番バックパッキングテント
過酷な山岳での活動に耐えられる「安全性と機能性」をどこまでも追及するその実直さから、世界中のアルピニストや冒険家たちに支持されているMSR。そのベストセラー・バックパッキングテント「HUBBA HUBBA(ハバハバ)」シリーズが今シーズン、日本の登山者向けにリニューアルしました。
そのアップデート内容を見て思わず膝を打ったのは自分だけではないはず。個人的に改善するなら「ここしかない」と思っていたまさにその部分がピンポイントで見事に進化を遂げていたものだから、この時点でテンションMAX。
今回ありがたいことにメーカーから発売前の1か月間、北アルプス奥穂高岳へのトレッキングなどで何度か使わせてもらうことができたのですが、果たして期待通り、現時点では自分にとって最もしっくりくる山岳テントといえるほど、魅力的で完成度の高い一品でした。早速そんなすべての登山愛好家におすすめしたい最新テントを実際使用したインプレッションをもとに、前モデルと比較しながら詳細にレビューしていきます。
目次
MSR ハバハバシールド 2の大まかな特徴
MSRのベストセラーバックパッキングテント、ハバハバシールド2は、厳しい自然の中での野営に必要な耐久性と快適性、軽量・コンパクトさのすべてをバランスよく兼ね備えた、ハイキングや登山に最適な山岳向けテント。
軽量で柔軟かつ強靭なイーストン社のサイクロンポールや、シームテープ無しでも耐水性が高く長もちするエクストリームシールドなど、軽量性と耐久性を両立させたオリジナルの最先端素材を採用。耐候性とセッティングしやすさを兼ね備えた左右対称で連結ハブ式の自立式構造、圧迫感の少ない広々とした快適なテント内空間など、軽量でありながら決して居住性と耐候性、機能性を犠牲にしない絶妙な工夫が各所にちりばめられています。さらに少なくなった内壁のメッシュ生地によって日本の高山での縦走により一層フィットするようになり、ますます多くの山岳愛好家にとって魅力的なテントになりました。
前モデルからどこがどう変わった?
- インナーテントのメッシュ部分が少なくなった
- 素材や細かいパーツを見直すことで、必要な耐久性を確保しつつさらに軽量に
- その他、入り口のジッパーなど細かい部分で使い勝手を改善
ここがすごい
- 上部の空間の広さや出入り口の広さ、適度な通気性など、圧倒的な居住スペースの快適さ
- 優れた居住快適性にも関わらず優れた軽量・コンパクトさ
- 見た目の美しさを損なわず優れた対候性と使いやすさを追求した機能美の高さ
- シームシーリング不要で高い耐水性と長持ちを実現したオリジナルコーティング
- 自立式・左右対称で初心者でも迷いにくい優しいセットアップ
- 最小限になったメッシュによって寒暖差の激しい日本の山岳でも無雪期なら十分使える汎用性の高さ
ここが気になる
- メッシュ部分にジッパー式のファブリックを貼ってメッシュを開閉できた方がより汎用性が高かった(重量はかさんでしまうが……)
- フロア部分の生地が薄くなった分、岩や枝などによる破損が心配な人はフットプリントとの併用が望ましい
- 価格
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
就寝人数 | 2名 |
最小重量 | 約1,300g(インナーテント・レインフライ・ポールのみの重量) |
総重量 | 約1,470g(ガイライン・ペグ・収納袋含めての重量) |
フライ素材 | 20D リップストップナイロン 耐水圧1,200mm エクストリームシールドポリウレタン& シリコンコーティング |
インナー(キャノピー)素材 | 10D ポリエステルマイクロメッシュ、20D リップストップナイロン& DWR コーティング |
インナー(フロア)素材 | 20D リップストップナイロン 耐水圧1,200mm エクストリームシールドポリウレタン&DWR コーティング |
ポール素材 | イーストンサイクロン |
サイズ | 間口213×奥行127×高さ101 cm |
ドアの数 | 2 |
収納サイズ | 46 x 11 cm |
フロア面積 | 2.7㎡ |
前室面積 | 1.4(0.7×2)㎡ |
付属品 |
|
居住快適性 | ★★★★★ |
設営・撤収の容易さ | ★★★★☆ |
耐候性 | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ ※別途フットプリントを敷けば★★★★☆ |
重量 | ★★★★☆ |
携帯性 | ★★★★☆ |
汎用性 | ★★★★★ |
詳細レビュー
外観 ~綿々と受け継がれるMossテントの機能美哲学~
自分がMSRのテントを語るうえで何よりもまず譲れないのは、そのうっとり見とれてしまうほどの色気と品のあるルックスです。今でこそ見た目のイケているテントは珍しくなくなってきたとはいえ、思い起こせばこれまで自分がテントを見て思わず「美しい」と感じたのはこのMSRハバハバが最初でした。
この何とも言えぬ美しさの裏には、MSRの現在のテント部門の前身である伝説的テントメーカー、Moss Tent Worksの存在抜きには語れません。当時重くてかさばる、組み立てが難しかったAフレームのテントに不満を感じていたファウンダーのBill Mossは、はじめてドーム型構造のテントを開発し、テントの構造を再定義しました。
「ビルはスタイルとデザインの感覚をテントにもたらしました」
かつて建築を学んだ後にMossで5年間働き、その後長くMSRでテントデザインに携わってきたテントデザイナーの 1人、Terry Breaux(2021 年に引退)がこう語るMossのテントは、キャンプ用品としてMOMA(二ューヨーク近代美術館)の永久展示に選ばれています。
ハバハバ テントは、そんなMossのテント哲学を受け継ぐテリーによってデザインされました。無駄を省いて均整のとれたシンプルなデザイン。それでいて極限に耐えうる強度と信頼性を備え、なおかつ機能性も損なわないというユーザー中心的な優れた機能美。ハバハバからはMossのテントに対する洗練された感性と、シンプル・機能的・信頼性というMSRの実直な設計原則との美しい融合を感じることができます。
収納(パッキング)しやすさ ~コンパクトさよりも柔軟性と収納のスムーズさが魅力~
収納サイズを考えるときに気をつけなければならないのは、小さく圧縮できることがすべてではないことです。圧縮して小さく押し込められる収納袋は、それ自体コンパクトにはなりますが、柔軟性の遊びが無くなりバックパックの内部でデッドスペースを生み出してしまう原因にもなりかねません。
その点、多くのMSRのテントに付属しているスタッフサックは決してパッキングした時にコンパクトになっているわけではありませんが、「出し入れのしやすさ」「パッキングの柔軟性」という意味で、広い意味でのパッキングしやすさを備え、ひそかにお気に入りです。
テント泊経験者の多くは、テントを収納する際、テント内部の空気が完全に抜けていなくて袋に入れずらかったという経験があるのではないでしょうか。ハバハバで採用されいているスタッフサックは巾着部分(入口)が大きく開いており、袋自体の大きさもある程度ゆとりをもたせたサイズになっています。この仕組みによってしっかり空気を抜いたりきっちり畳んだりしなくても、ラフに押し込むだけで簡単にテントを仕舞うことが可能(下写真最右)。荒天時などで短時間で撤収を済ませたい場面では大助かりです。ポールやペグにはそれぞれの収納袋も付いているので、全部をまとめてパッキングすることも、別々に分けて収納することも、どちらも対応してくれている点も嬉しい。
重量と耐久性 ~必要な耐久性を確保しつつより軽量に~
テントは登山装備の中でもバックパック・寝袋・マットと並んで最も重量のかさむアイテム「ビッグ4」のひとつであり、重さは誰もが気になるところでしょう。ハバハバシリーズというと、前モデルまでは競合テントなどと比べて決して「軽い方」といえるレベルではありませんでしたが、今回のアップデートによってそれは完全に覆りました。
なんと一気に300グラム近くもの軽量化に成功。スタンダードなダブルウォールの山岳テントの中でも、これで名実ともに軽いテントといえるようになったのではないでしょうか。前モデルと両方を持ち比べてみるとその違いは歴然と感じられ、その思い切った軽量化に驚かされます。以下、参考までに他の日本で人気のある山岳テントと比較してみます。
公式発表の総重量(本体+ペグ・張り綱・収納袋) | |
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MSR ハバハバシールド2 | 約1,470g |
mont-bell ステラリッジ2 | 約1,430g |
アライテント エアライズ2 | 約1,770g |
Nemo ダガーオズモ 2P | ※最小重量約 1,530g |
Sea to Summit アルトTR2プラステント | 約1,565g |
big agnes コッパースプール HV UL2EX | 約1,418g |
標準付属品の内容などが多少異なるため厳密な比較ではありませんが、それにしても優れた居住快適性にもかかわらず従来のテントにまったく引けを取らない重量を実現したことには正直驚きです。
軽量化の要因として、やはり生地厚の見直しによるところも大きいでしょう。今回インナーテントはフロア生地で「30D(デニール) → 20D」、キャノピー部で「20D&15D → 20D&10D」へと薄くなり、フライも「30D → 20D」へと薄くなりました。
前モデルに比べれば確かに耐久性は落ちているとはいえるものの、実感としては前モデルまでがどちらかというとしっかりし過ぎていたと言えなくもないので、より軽快な登山に向けたアップデートとして個人的にはプラスです。
ただ、フロア生地は20Dとなり、これまでのようにグラウンドシート(フットプリント)なしでもある程度安心、とは言えなくなりつつあるのも事実。心配な人はフットプリントで地面をカバーするのがよいと思います(メーカーに確認したところ、たとえフットプリントを足したとしても前モデルのフットプリント無しより軽いとのこと)。
ちなみに自分の場合のように「Grabber オールウェザーブランケット」をエマージェンシー用、そして必要があればグラウンドシートとしても使えるよう常に携行していれば、フットプリントの要否を気にせず、地面の状況に合わせて柔軟に対応できるのでおすすめです。
設営 ~自立式・左右対称で初心者でも迷いにくい、シンプルで設営しやすい構造~
スタンダードな自立式のドーム型山岳テントと違い、ハバハバシリーズは複数のポールがハブ構造によって連結されているため、設営は思った以上にスムーズ。まず片側の両短辺でポールを固定してから、逆側に移動し、比較的安定した状態でポールをセット(下写真①)。次にすべてのフックをポールにかけ(下写真②)、横ポールを縦ポールの上側に通して左右のグロメットにセットします(下写真③)。最後にフライシートを被せ、四隅をグロメットに固定し、張り具合を調節すれば完了(下写真④)。
一見複雑なポール構造ですが、左右対称構造のため部品の向きに気をつける必要がなく、その点は初心者にもやさしい作りです。悪天候で暗くて疲れて、という最悪な状況であっても間違える方が難しいくらいに設営は簡単でした(唯一、交差させる横ポールが縦ポールの上を通るのか、下を通るのかだけは初めて建てるときに一度だけ迷いましたが、最初だけで大きな問題にはなりません)。
ただ、実は一つ前のモデルまでは頂点に交差させる横ポールもハブで一体化していたため、手間はもっと少なかったのですが、今回の新モデルでは分離していました。恐らく構造をシンプルにすることでパーツの破損の原因を最小限にすることで安全性を高めているのではないかと考えています。また分離させたことでテントの頂点にもう一つフックが取り付けられ、天井付近のスペースをより広くすることにもなっていました(下写真)。いずれにせよ、結果的にはそこまで気になることではなく、むしろ歓迎すべき変更といえます。
ちなみにポールを固定するグロメットパーツは、前モデルに比べてより軽量化が図られています(下写真)。この辺りの細かな改善の積み重ねが大幅な軽量化につながっているのかと考えると、バカにならないものです。
フライシートにはアジャスター機能が付いているためフライシートのテンション(張り具合)を調整することが可能です。
付属のペグは、現在入手不可能ながら軽さと強度のバランスや地形を選ばない汎用性で根強い人気の「ニードルステイク」が8本。
テント内部の広さ・住み心地 ~心理的圧迫感が少なく、お互い気遣いなく快適に暮らせる心地よい空間~
ハバハバテントシリーズの真骨頂は、何といっても居住性の高さ。快適な広々空間を可能にしているのは、居住性と耐候性のベストなバランスを考えて緻密に計算されたポール構造にあります。
両端が二股に分かれたハブ構造の縦ポール、そして頂点に交差する横ポールがテントの側壁を地面から垂直に近い角度で立ち上げるため、床の広さがテントの上方まで続きます。このため同じ床面積のドーム型テントに比べて、顔付近はもちろん、全体的な圧迫感が段違いに少なく心地よい住み心地が感じられるとともに、テント内部も隅々まで有効に活用することができるのです。今のところテントのスペックではその「容積」まで計測されることはありませんが、その数値があるとしたら、かなりトップクラスになるのではないでしょうか。
もうひとつこのテントの住み心地がよいのは、左右対称のデザインによって2人が平等にこの広さを享受しやすいということでしょう。入口も長辺の両側にあるため、それぞれが気を遣うことなく楽に出入りできます。
もちろんこの対称性を崩すことによって、より軽量化ができるかもしれません(例えばテントの片側を狭くしたり、入口を1つにしたり)。その点は何を優先するかという好みの問題もあると思いますが、ユーザーが実際に利用して感じる本当の意味での快適さ・使いやすさが追求された結果としてのこのデザインは、自分にとっては見た目だけでなく実用面からみても気持ちよく感じられ、このテントを他に類をみない魅力的なものとする大きな要因の一つとなっているように感じられます。
少なくなったメッシュ生地で、北アルプスへのトレッキングでも迷いなく持ち出せる
その他、新しいハバハバシールドで一番のニュースといっていいのが、メッシュ生地の減少(ファブリック部分の増加)です。
比較的湿度が低く天候も安定している欧米でのハイキングでは、より通気性の高いメッシュ地の面積が広くなりがちですが、湿度・雨の多さ・寒暖差の激しい日本ではかえって頼りなさとなってしまい、どうしても敬遠せざるを得ないことが少なくありませんでした。それが今回のアップデートでメッシュ部分(特に上部)が大幅に減少。これまでのようにスース―と外気が通り抜ける感覚から、外が肌寒い季節でも中の空気の移動が必要最低限になり、安定した室内環境を保ってくれているのが印象的でした。
実際に北アルプスの標高3,000m、外の最低気温は5℃というテント場の状況でも、問題なく快適に寝られています。強風・低温時にどうかまではチェックできませんでしたが、フライシートがしっかりと風をシャットアウトしてくれるので、そこまで印象は変わらないはずです。
個人的な好みを言えば、せっかくなのでこの少なくなったメッシュ部分すらファブリックでジッパー開閉式にしてしまってもよかったのでは?とも思ったのですが、そうなったらなったで、きっとその分の重量増やコスト増で泣いていたかもしれません。なのでこれはこれでアリとしておきます。
なお当然ですが、メッシュ部分が減ったことで低温・雨などへのプロテクションは高まった反面、その分通気性はダウンせざるを得ません。また前モデルと比較して入口を全開したときの開き具合もやや狭くなっっており、その意味からも空気の抜けの良さに関しては前モデルの方が良かった、といってよいでしょう。真夏の低山でバリバリ使いたいと考えていた人は、一応注意です。
十分な耐候性と広い前室のフライシート
インナーテントをカバーするフライシートは、突き出した横ポールによってひさしのように張り出してくれます(下写真)。出入り口はダブルジッパー仕様で、上部だけを開けることで前室で調理する際の換気をしたり、ちょこっと頭を出してテント外の様子を確認するなど便利な使い方ができます。
これによってつくられる前室の広さは、バックパックや荷物、ブーツなどを置くのに十分のスペースが、しかも両側に確保されています(下写真)。
フライシートにはその他にも換気のためのベンチレーションが頭・足元側に1つずつ付いています。ここはベルクロ留めのつっかえ棒のようなパーツによって開閉が可能。閉めたときには見た目もスッキリで気持ちいい。
またフライシートには強風に耐えるためのガイラインを追加するポイントが4つ取り付けられており、これらをしっかりとペグダウンして暴風雨などに対する抵抗力を高めることができます。
インナーテントの壁が垂直気味であったとしても、基本的には安定した構造の自立式ドーム型テントであり、フライシートをかぶせた時の形状もしっかりと風が逃げるようになってるため、テントとフライシートをしっかりとペグダウンするだけで安定感は十分ありました。ただ、好天が続くと見込める場所・季節でない限りは、フライシートの縁から強風が吹き込んできてテントが煽られることも考えられますので、ガイラインまでしっかりセットしましょう。そこまですれば、このテントはよほどの異常気象でない限り心配することはなさそうです。
機能的かつ使いやすいテント内収納
テント内には頭側と足元側にそれぞれ大きなメッシュポケットが配置されています。しかもこのメッシュポケット、スマホをモバイルバッテリーで充電するのに使いやすいよう、隅にケーブルを通す穴が空いているなどの細かい気遣いが素敵。
さらに天井部分にもヘッドランプを置くことを想定したような小さめのメッシュポケットがあります。
さらには天井部分に細引きを通したり、カラビナを通したり、あるいは自分でネットを設置したりできるように、4点のループが取り付けられています。
まとめ:こんな人におすすめ ~今年このテントを選ばない理由が見つからない~
自分にとってこれまでのハバハバシリーズは、いくら高性能の生地や最先端のポールを採用したとしても「ビジュアルと住み心地に関しては言うことなし。だけど重くてメッシュが多すぎるためスタメンとしては使いにくい」という悩ましい評価に位置づけざるを得なかったのが実際のところでした。それが今回の「神」アップデートによって、重量問題もメッシュ・ファブリック問題も一気に解消。このことは控えめに言っても今年の個人的テント業界最大ニュースのひとつです。
軽さ、強さ、快適さ、便利さ、性能面ではどこから切っても不満になる要素がほとんど見られず、なおかつ独特の気品と色気を携えたこのテントは、きっと初心者からベテラン、縦走登山からファストパッキングまで幅広いハイカーに受け入れられるでしょう。これから満を持してバックパッキング用テントを購入しようという人が正直うらやましい。
特定のアクティビティ限定であれば別に最良の選択肢はあり得るかもしれませんが、登山・キャンプ・ファストパッキング・バイクパッキングなど、厳冬期冬山を除けばあらゆるバックカントリーを楽しむ人にとって、きっと頼もしくてくつろげる最高の住処になってくれるはずです。