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人類の羽毛への挑戦はここまで来た
patagoniaがおよそ10年の歳月をかけて新開発した、ダウンライクな化繊中綿「プルマフィル」を引っさげ、2017年満を持してリニューアルしたマイクロ・パフ・フーディ。その衝撃は今でも忘れません。
化繊なのに、まるでダウンのように軽くて、柔らかく復元力の高いロフト、羽織ってもまったくストレスの感じない肌触りと着心地のよさは「ついに人工羽毛はここまで来たか」と思わせるのに十分なクオリティを感じさせてくれました。効率的でスタイリッシュなキルティングも素晴らしかった。
ただ、不満がなかったわけでもないのです。特にその断熱性について。昨年のインサレーション比較レビューでも言及しましたが、この軽さを考えれば十分な保温力とはいえ、実際に冬の主力インサレーションとして活躍してもらうためにはあと一歩物足りない。この画期的な化繊素材の可能性をもっと見てみたい。素直にそう思ったぼくはこのとき声を大にして「あと一歩中綿を増やせば優秀な防寒アウターに」と叫んでいました。
するとどうでしょう、今年1月の展示会。願いが通じたのかどうかは分かりませんが、あのときイメージしていた通りのブツが、patagoniaブースの表玄関をデカデカと飾っているではありませんか!
それが今回レビューするプルマフィルをふんだんに封入した防寒インサレーションジャケット、マクロ・パフ・フーディです。果たして、マイクロ・パフとの違いは?総合的な実用性は?期待に胸を踊らせるなか、双方のモデルを比較しながら、実際に着用してみました。早速みていきましょう。
patagonia マクロ・パフ・フーディの大まかな特徴
ダウンのように軽くて復元力の高い化繊素材「プルマフィル」インサレーションを、耐水性と防風性を備えた軽量なリップストップ・リサイクル・ナイロンで包んだ、ダウンのように軽くて温かく、化繊中綿のように濡れても保温性を維持する画期的な防寒インサレーションジャケット。ヒップまでしっかりカバーする長めの裾とややゆとりをもったシルエットは、低温下でシェルの上に追加して羽織るのにも適しています。フィット感抜群で調節可能なフードはヘルメットにも対応。左胸の大型ポケットや、ビレイ・ループにアクセスしやすいツーウェイ・フロントジッパーなど、寒さにじっと耐えている時でも役立つ実用的な機能が細部まで考え抜かれています。一方で効率性とデザイン性を両立させたキルト構造や、動きやすさ・快適さなどの充実した基本性能の高さは、さまざまなウィンターアクティビティにフィットするポテンシャルも備えています。
おすすめポイント
- 限界まで封入された、軽量で復元力の高い化繊中綿
- 風は完全シャットアウト。多少の雨も気にならない高い耐候性
- 全体的にしっかりとした保温性を確保できるよくできたフード
- 洗濯してもまったく型くずれしないインサレーションの安定性
- 豊富なポケットやスムーズで調整しやすいツーウェイ・フロントジッパーなどの使い勝手
気になったポイント
- 期待したほど小さく圧縮できない
- ともすれば無難なシルエットとカラーリング
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
公式重量 | 434g |
実測重量 | 417g(Sサイズ実測) |
素材 |
※フェアトレード・サーティファイドの縫製を採用 |
ポケット |
|
快適性 | ★★★★☆ |
保温性 | ★★★★★ |
ムレにくさ | ★★☆☆☆ |
機動性 | ★★★★☆ |
耐候性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★☆☆ |
機能性 | ★★★★☆ |
収納性 | ★★☆☆☆ |
総合評価 | ★★★★☆ |
「マイクロ」から「マクロ」へ。何が違う? ~詳細レビュー~
タイトめのシルエットからゆったりとしたアウター向けシルエットへ
まずフィットと着心地を、先行モデルであるマイクロ・パフ・フーディ(以下、マイクロ)と比較しながら見ていきます(下写真)。どちらも一般的な日本人にとってはやや長めの袖。マイクロ(右)の方は脇や袖を絞り、裾の丈も腰辺りまでと、タイトめのシルエットである一方、マクロ・パフ(左。以下、マクロ)は上品ですが窮屈感のない、ともすればやや無難なフォルムです。このゆったり感は予想できず、羽織った瞬間、これはサイズを間違えたかと思ったほどでした。
このマクロのゆったりシルエットは、より防寒を意識した場面で使いやすいように設計されているものと思われます。例えばクライミングのビレイ中にシェルの上から羽織る、バックカントリーでハイクアップから滑降に移る際に上から羽織るなど。要はアウターとしての用途をメインに考えた作り。一方マイクロはもう少し暖かい時期(薄着)でのちょっとした防寒を意識している、あるいはミドルレイヤーとしてのレイヤリングを意識してタイトになっている、そう考えられます。
どちらが正解ということは厳密に決められる話ではありません。その意味では、もしマクロを主にミドルレイヤーとして中にレイヤリングしたいと考えるならば、ひとつ下のサイズを検討するのもありでしょう。その逆もまた然りです。
ダウンに迫る保温力と化繊の機能性を両立した画期的な中綿素材「プルマフィル」
次になんといってもこのジャケットの肝である、パタゴニアがこれまでに作った中で最も軽量で、なおかつ最も圧縮性の高い中綿「プルマフィル」を増量したことに注目です。マイクロにくらべてかさが高く(90グラム・135グラム)、量もこれまで以上にふんだんに封入したマクロ・パフは期待通り、ふっくらとハリのある中綿が心地よく、パフパフ。普通に何も知らない人がダウンと間違えるくらいの自然なロフト感です。
プルマフィルは、明かされている情報から読み解くと、ダウンとごく似た構造をもったポリエステル繊維のユニットが、何らかの形でお互い繋がって連続体となっている素材のようです。
一つひとつはダウンのような構造ゆえに復元力が高く、軽くても高い断熱性を発揮します。さらにこの特殊なポリエステルの連続を研究し尽くした結果編み出された、縫い目を最小限に抑えながらロフトを安定させ最大限にする独自のキルト構造によって、ロフトの偏りなどはほとんど見られません。
正直これには驚きました。ダウンを模倣すると、中綿は濡れたり洗濯することによってくっついてしまい、偏りが生じ、きちんと乾かして散らさないと、コールドスポットができてしまうものです。ところがこれを洗濯してみたところ、ロフトの中はまったくといっていいほど動いていませんでした。同じダウンを模した最新化繊素材であるPrimaLoft® Black Insulation ThermoPlume®では、経験上、洗濯などによってやや玉になってしまうことを考えると、ここはとても嬉しい。
表裏地には10デニールと薄く緊密なリサイクル・リップストップ・ナイロンを当てています。非常に滑らかで、肌触りは快適。厚さ的に決して耐久性が高いわけではなく、これで藪こぎをすれば無傷でいる自信はありません。ただ、そんな無茶な使い方をしなければ、今のところは特にすぐ破けるというほどの心配はありません。
豊富なポケットをはじめとした充実の細部
機能面では、マイクロとの大きな違いとして、大きく、リッチになったフード周りが挙げられます。後頭部には調節用のドローコードがついており、ヘルメットの上から被っても、頭のまま被っても最適な大きさにフィッティングできます。
フロントのジッパーは、より軽さと寒冷地での使用を考え、さらにハーネスのビレイポイントにアクセスしやすいビスロンダブルジッパーになりました(下写真左)。
ポケット類は、基本的にはマイクロ・マクロ両方ともそれほど大きくは変わりませんが、マクロのポケットはどれも大きく、グローブでの操作も視野に入れたサイズ感になっています。
左右内側の大型ドロップインポケットはマイクロにもマクロにも備わっています。スノーグローブはもちろん、スキーシール(クライミングスキン)も収納可能で便利。
マクロのみに配置された左胸のジッパーポケットは思ったよりも大型。Pixel 3aはもちろん、長財布も余裕で入ってしまいました。
ちなみに左右のハンドポケット内には裾幅の調節のためのドローコードが配置されています。
重量・収納性は?
マイクロからマクロになって、やはり重量と収納性についての魅力は減りました。ただそれでも他ブランドの同程度のクラス(ArcteryxのAtom ARなど)に比べればやや軽くてパッカブルではあります。マイクロ(下写真中)は左ポケットを裏返して収納できるパッカブルタイプですが、マクロ(下写真右)の方は標準付属のスタッフサックに収納する形。大きなスタッフサックなので見た目は大きいが、その分パッキングはしやすくなっています。
暴風が吹き荒ぶ11月の那須岳稜線をマクロ・パフ・フーディで歩いてみた
試す期間は短かったのですが、ちょうど冬型の気圧配置になるタイミングに出会うことができたので、強風で名高い那須岳の稜線で試してみようとあいなりました。日帰り40Lのバックパックに、上はベースレイヤー1枚の上にマクロ・パフを着ただけでどこまで快適かをチェックすることで、使い勝手を評価してみます。雪山とまでは行かなかったのですが、すでに稜線上ではところどころ雪が残りはじめていました。
登りはじめて、当然ですがすぐに暖かくなり、風のない樹林帯ではすぐにジッパーを全開にします。ムレやすさという点はやはりフリースやアクティブ化繊のような抜けのよい中綿と比べれば劣るといえます。ただし、化繊綿の強みとしてムレによって保温力が弱まるわけでもなく、また汗がまったく抜けないということでもないため、脱ぎたくなるほどの不快感は感じません。むしろ0度に近いこの日の気温であれば、行動中のジャケットとしてちょうどよいくらいの感覚です。トレッキングポールで上半身を大きく使っても、肩~脇~肘の見事な立体裁断によってストレスも少なく、快適に登りを楽しめます。
稜線に上がると、案の定、西側から時折立っていられなくなるほどの突風が襲ってきました。バラクラバを持っていなかったため、たまらずフードを限界まで被ります。後ろのドローコードをしっかりと頭に合わせ、アゴも深々と入れると、バラクラバのように顔の大部分をピッタリと覆ってくれ、さらに強風に煽られることもなく、このフードの優秀さが身にしみて感じられます。
この荒天下でベースレイヤーとマクロ・パフの2枚で歩いていましたが、マクロ・パフの断熱性は十分にあり、止まっていても歩いていてもじんわりと体温のぬくもりを保ってくれます。衣服内に風が吹き込んでくることもなく、防風性の高さが確認できました。ちなみに、このタイミングでマイクロ・パフに着替えてみたところ、風は防げるものの、当然のことながら相対的に冷えを感じやすく、フロントジッパーからも微妙に隙間風的な感覚があります。
DWR(耐久撥水)加工が施されたナイロンリップストップの表地は、途中から降り始めた雨とみぞれのミックスに対して数十分の間ほぼ問題なく耐えていました。そもそも多少の濡れはそこまで気にならないのが、化繊インサレーションの強みです。
また、これは想定内でしたが、雨を約1時間も放置していると縫い目だけでなく生地も徐々に染み込んできました。撥水加工は一般的なもの、特に強いわけではないので、雨が降れば早めにレインウェアなどで濡れを防ぐように対処しましょう。
まとめ:着れば着るほど手放せなくなる「ダウン並の保温効率 × 濡れに強い」これからの化繊インサレーションのベンチマーク
はじめこそ、マイクロ・パフの着心地をイメージしていたためフィット感がゆるくなじめませんでしたが、ストレスのないスタンダードなフィット感と高級シュラフのような滑らかな肌触り、そしてストレスのない動きやすさ、そしてもちろん化繊とは思えない軽さと復元力、痒いところをしっかりおさえた細かい使い勝手の良さ、そして雨や汚れの心配が要らない気軽さ、一言でまとめると「道具としての使いやすさ」が、着れば着るほど手放せなくなっていく、実用性を踏まえた丁寧な作りが魅力です。
特に日本のような湿った雪も降れば、山岳地帯の天気も変わりやすいといった環境をもった地域では、こうしたさまざまな状況でも断熱性を失わない化繊インサレーションジャケットはぴったりです。マイクロ・パフはどちらかというと雪以外のマイルドな低温下での軽量防寒着として重宝しそうですが、こちらのマクロ・パフは雪山含めたオールシーズン使える防寒着として活躍してくれそうです。
クライミングに特化した機能が多く備わっているとはいえ、基本的な防寒性能は十分にありますので、登山でのビレイパーカやテント内での保温着としてだけでなく、様々なウィンターアクティビティでの防寒ジャケットとして汎用性の高い使い方ができるでしょう。