完成のその先へ。新たな「ナノ・パフ」が手に入れた次のスタンダード
アウトドア界において「定番」と呼ばれる製品は数あれど、パタゴニアの「ナノ・パフ」ほど、長きにわたりハイカーやクライマーのユニフォームとして愛されてきたアイテムはなかなか見当たりません。
通気性に優れたアクティブインサレーションや、超軽量なダウンジャケットなど、昨今のインサレーション市場には特定の機能に特化した高機能ウェアが溢れているのに、最後にザックに放り込んでいるのは「ナノ・パフ」であることが多い、そんな人は私だけではないはずです。
すでに完成の域に達しているといっていいこのこのジャケットが、2025年さらなるアップデートを遂げました。一見すると変わらないその外見の下に、どのような進化が隠されているのか。今回は新旧モデルを実際のフィールドで着てみながら比較し、最新モデルでパタゴニアが目指す「完成のその先」を紐解いていきたいと思います。
目次
フィールドで感じた、2025年ナノ・パフ・ジャケット7つの「深化」ポイント(前作との比較)
今回のテストでは11月から12月にかけて日帰りの低山ハイキングから谷川岳での雪山登山、立山でのバックカントリースキーで着用してみました。サイズは前モデルと同じSサイズ。
細かなフィッティングの改良によるスマートなシルエットと動きやすさの両立
177cm / 64kgの自分としてはジャストなサイズで、全体的な袖丈や着丈は長すぎず短すぎずで今回もSサイズがちょうどよくフィットしました。
今回のアップデートで最も分かりやすく、そして個人的にも最もグッときたポイントは、肩と腕周りの機動性の向上でした。元々のシルエット自体、身体のラインに沿ったスリムなシルエットでしたが、ややもすると太めの方などには少しピッタリ過ぎていたかもしれません。それが新作ではスリムな外観は残しつつ、肩と肘周りがさらにややゆとりが出て動かしやすいパターンに改良されたことで、上半身の窮屈感が減り、動きやすさが確実に向上していました。
特にアームホールは従来より広くなったことで肩周りにだいぶゆとりが感じられ、レイヤリング時の脇の窮屈さも確実に解消されています。腕を上げた時の裾のずり上がりや、肘を曲げた時のツッパリ感からもさらに解放された印象です(前作でも気になるほどあったわけではないのですが)。
個人的にはそれまでの「無駄を極力省いた潔さ」も嫌いではなかったのですが、最新モデルを着てみて初めて、フィットに微妙な遊びがあることによるくつろぎやすさに気づかされました。動きを妨げない自然な着心地という点ではこちらの方がはっきりと上です。
また前作ではウエストからヒップ周りにかけて裾幅が若干広がっていましたが、新作ではこの裾幅が微妙ではありますがシュッと引き締まっています(下写真)。これが動きやすくなったのにシルエットの印象はよりスリムになった気がします。レイヤリング時の裾の収まりもよくなっています。
着心地の良さと保温性も着実に前進
関節部分のパターンの見直しによる動きやすさ・レイヤリングしやすさの進化に加えて、より快適さと保温性、そして洗練されたデザイン性をアップさせるための細やかなアップデートも見逃せません。
例えば新モデルでは襟をより高めに、長めの背面の丈をさらに長く、裾はより引き締まり、そして袖口のストレッチ素材を改良したことで、従来にも増して冷気をシャットアウトしやすくなっています。一つ一つは微細な変更ではありますが、こうした小さな工夫が積み重なることで、快適な着心地と暖かさが大きく変わってくるから不思議です(下写真)。ちなみに、それでいて重量は重くなっていないどころか、若干ですが(10グラムほど)軽くなっていました。
ルックスについても、襟や裾などの縁に沿って入っていた縫い目が無くなり、より自然なステッチになったことでますます垢抜けました。
ちなみに数ミリ程度の本当に微妙な差ですが、レンガ状のキルティング柄も大きくなっていました。言われても気づかない程度かも知れませんが、それによって全体としての縫い目の量も少なくなれば、重量は減り、縫い目部分のコールドスポットも少なくなるはずです(下写真)。
フィールドでのパフォーマンス:「ナノ・パフ」ならではの強みと魅力は健在
ナノ・パフの基本的な機能に大きな変更はなく、これまで通りこのジャケットは無雪期には非常用防寒着として、秋冬には行動中のミッドレイヤーとして幅広く使える「オールラウンドさ」という魅力は今回も健在です。
高いレベルの軽さと暖かさ、そしてサステナビリティを誇る化繊中綿「プリマロフト・ゴールド・インサレーション・エコ」と、リサイクル・ポリエステル100%のリップストップを採用した表生地の適度な耐候性によって、薄手軽量ながら氷点下の雪山でも行動着アウターとして十分なプロテクションを提供してくれました。もちろん多少の雨や雪は気にならない耐久撥水性も備わっています。
機能特化型のインサレーションにはない、どんなシーンでも応えてくれる「高い次元でのバランスの良さ」
確かに発汗の特に激しいアクティビティにはより通気性と機動性の高いアクティブインサレーションが有利かも知れませんが、新ナノ・パフはアクティブインサレーションと比較してもそん色ない動きやすさを備えつつ、適度な防風性(風を通し過ぎない)と防寒性を備えているという点では、そこまで激しく動かない、あるいは寒さが厳しい場面の行動着としてアドバンテージがあります。その意味では、発汗もマイルドでストップ&ゴーが頻繁な登山ではこちらの方が勝っています。
一方で軽さと暖かさで抜きんでた薄手ダウンジャケットと比べると、こちらは厳しい寒さでじっとしているときにも安心の十分な保温力がある分けではありません。ただ、そもそも行動中の防寒着としてはどれだけ寒い日でもこれくらいの保温力があれば十分ですし、しかもダウンなどと違って「速乾性があって蒸れにくく、濡れても暖かい」という最大のメリットはダウンにはどこまでいっても真似できません。
歩き出しには体の震えを凌ぎながら、その後汗をかいたとしても変わらず冷えを防いでくれる万能さはアクティブインサレーションやダウンジャケットにはない魅力です。
まとめ:フィールドと日常を行き来する僕の生活に寄り添ってくれる一着 = 永遠の定番
肩・肘周りのパターンの改良、そして着丈や襟・袖口など細かな部分に対する計算された微調整。スペックには表れにくいこうした見直しが加わった2025年最新モデルをテストして確信したのは、圧倒的な使い勝手の良さはそのままに、さらに研ぎ澄まされた着心地と動きやすさによるより高みへと到達した完成度の高さです。
ナノ・パフは個別の際立った役割が求められるシーンでは、確かに通気性や軽さなど特定の機能に特化したインサレーションには敵わないかも知れません。ただアウトドアという目まぐるしく環境の変化するアクティビティにおいては、何だかんだで結局こうした「全体としてのバランスの良さ」に秀でたナノ・パフが何よりも頼もしく感じられることもまた事実です。
これまで通り無雪期登山のちょうどいい防寒着を探している人、あるいは例えば「3シーズンでの非常用防寒着、秋山登山でのアウター、冬山登山やバックカントリースキーでのアウター兼中間着」という感じで、1年通じて汎用性が高く使い勝手の良い万能化繊インサレーションを探しているすべての人にとって間違いなくおすすめであると同時に、万が一これまでのモデルが若干窮屈に感じているという人がいたら、この最新作を是非とも試してみることをおすすめします。
バックパックに忍ばせて、山旅で出会うどんなシーンでもサッと素早く羽織れるナノ・パフは、これからも全登山者の味方です。
ナノ・パフ・ジャケットのおすすめポイント
- 窮屈感と無縁の適度なフィット感に、計算された立体裁断による自然な動きやすさ
- スタイリッシュであらゆるシーンにマッチするデザイン
- 暖かさの割にコンパクトにパッキング可能
- 汗や雨で濡れた状態でも落ちない保温性
- 重ね着しやすい滑らかな表生地
- 優れた耐久性
- 高いパフォーマンスにもかかわらず徹底した持続可能性への配慮
- 寒さのなかで動くあらゆる場面にマッチする究極の汎用性の高さ
ナノ・パフ・ジャケットの気になったポイント
- 「通気」や「保温」といった特定の機能に特化したインサレーションと比べると機能的に突出した部分がない
- 真冬の防寒のみを目的としたジャケットとしては保温性が足りない
ナノ・パフ・ジャケットの主なスペックと評価
| 項目 | パタゴニア ナノ・パフ・ジャケット |
|---|---|
| 実測重量 | 324g(Sサイズ) |
| カラー | Marlow Brown / Dried Vanilla / Old Growth Green / Sizzle Red / Black |
| サイズ | XS / S / M / L / XL / XXL |
| ウィメンズモデル | あり |
| バリエーション | ジャケット・フーディ・ベスト・ハイロフト |
| シェルと裏地 |
|
| インサレーション |
|
| ポケット |
|
| Outdoor Gearzine 評価 | |
| 快適性 | ★★★★★ |
| 保温性 | ★★★☆☆ |
| ムレにくさ | ★★★☆☆ |
| 動きやすさ | ★★★★☆ |
| 機能性 | ★★★★☆ |
| 重量 | ★★★★☆ |
| 耐久性 | ★★★★☆ |
| 収納性 | ★★★★★ |
| 汎用性 | ★★★★★ |
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